中小企業の労働生産性を上げるには

「日本の労働生産性は低い!」そう言われ続けています。

労働生産性とは効率を指します。つまり、日本の労働者は効率が悪い働き方をしているという訳です。

日本における就業者1人当たりの労働生産性は832万円、就業1時間当たりの労働生産性は4,718円。1人当たりではOECD加盟35カ国中22位、1時間当たりでは19位。主要先進7カ国では最下位ということ。

これが日本の労働生産性が低いと言われる根拠となっています(公益財団法人 日本生産性本部 『労働生産性の国際比較 2016年版』から引用。いずれも2015年、GDP基準改定後データより)。

当然、このデータだけで何が判断できるという訳ではありません。その国の産業構造にもよりますし、サービス残業など、表面的には隠されたデータもあるでしょう。

それでも考えざるを得ないのは、中小企業の労働生産性の実態です。

上記の数値はGDPを使用していますが、各企業の労働生産性は就業者1人当たりの付加価値(粗利益)とします。1時間当たりの労働生産性も同様です。

つまり、1人当たりの労働生産性は、自社の粗利益(人件費は除く)を従業員数で割れば算出できます。この指標は国の労働生産性と異なり、現実です。

業種や規模、ビジネスモデルにもよりますが、皆さまの会社の1人当たりの労働生産性が上記の832万円より低いと厳しい状況と考えます。

ちなみに、日本の1人当たりの労働生産性832万円を1時間当たりの労働生産性4,718円で割ると、用いられている労働時間は1人当たり1,763時間となります。

1日8時間労働で年間240日働いたとすると1,920時間(年間休日125日)。

正社員で年間1,920時間の労働というのは少ないと思いますので、月30時間の残業と仮定すると年間2,280時間。仮に1人当たりの付加価値832万円を基準にすると、1時間当たりの労働生産性は3,649円です。4,718円からは1,000円以上さがりました。

「だから何なのだ?」というのはその通りです。意味がありません。労働生産性など気にならなければ無視すればよいのです。

とはいえ、日本や各企業の労働生産性も、データを計測して判断していかなければ事実は分かりません。そして、ほとんどの中小企業の経営者は利益を上げ、かつ、効率も上げたいと考えているはずです。

労働生産性は効率を示すとお伝えしましたが、効率が上がって残業時間が減ったとしても、それ以上に利益が減ったら意味がありません。

単純に考えると、アウトプットである粗利益を上げるには、インプットである労働時間を増やさなければなりません。トレードオフの関係です。

しかし、いま世間で言われていることは、粗利益を上げて労働時間を減らす(あるいは増やさない)ことです。

純粋にトレードオフの関係で言えば、これは困難と言わざるを得ません。

労働時間については、厳密に業務内容を見直せば労働時間の1割以上はカットできると思われます。幻想ではなく、実際に無駄な業務を行っているからです。ほとんどの企業は労働時間削減のための業務内容の見直しを行っていません。

ただし、労働時間を1割カットしたところで、1人当たり粗利益は増加しません。1時間当たりの粗利益は増加するので、効率が良くなったという程度です。

極端に言えば、粗利益を追うのであれば労働時間は犠牲にしなければなりません。

第三の道としては、1人当たり粗利益も、1時間当たり粗利益も同時に上げるという点に尽きます。この解決策は粗利益を飛躍的に増加させるという点になりますが、その手法の一つは皆さまもよくご存じのように値上げです。

値上げを行えば(数が大幅に減少しなければという前提ですが)、他の要因は変わらずとも、労働生産性は上がります。

最近の風潮として、労働生産性を上げようとする場合には労働時間の削減が注目されます。電通事件後の各界の言動がその最たる例です。しかし、これだけを真に受けて労働時間を削減すると大変です。トレードオフの関係です。

本来あるべき労働時間の削減とは、労働時間を削減しても問題がない従業員は徹底して削減する。労働時間と粗利益に強い相関関係がある従業員については、直接業務により集中させるよう見直しを行うという点をよく理解すべきです。

粗利益と相関関係が強い労働時間に必要なのは、削減ではなく、増加です。

稼げる従業員と稼げない従業員は明確に分かれています。稼いでいる従業員の労働時間を一律に削減をしようというのは、自殺行為に等しいのではないでしょうか。唯一可能なのは、稼いでいる社員の労働時間のうち、誰でもできる業務を稼げない従業員にやってもらうことです。

労働時間の削減ばかりに注目して、利益が減少してしまえば、企業の存続自体が危うくなります。

では、労働時間を削減できない従業員についてはどうすべきかという点については難しいところです。当然ですが、それは給与で報いるなり、本人に意思確認すべきです。本人が無理といえば、相関関係が崩れてしまうため、他の選択肢を模索する他ありません。

なお、労働生産性が低い企業というのは、扱う商品の価格帯の幅が大きいように思います。

高い商品から低い商品まで売ろうとしている。そのため、数が出る低い価格帯の商品を多く扱う従業員の労働生産性が極めて低く、高い商品を多く扱う従業員の労働生産性が高いというような感じです。

このような企業の労働生産性というのは、従業員というよりも企業側の問題です。

これに対して、例えば幅の狭い価格帯の商品を売っている企業は、その従業員の成果がダイレクトに労働生産性に直結します。

また、直接業務(営業や製造)と間接業務(総務経理)の従業員の比率も大きく影響します。

労働生産性を上げるといっても、それぞれ企業の構造次第です。そして、自社の実際のデータを把握せずして、労働生産性を上げる施策を実行するなどあり得ません。繰り返しますが、自殺行為です。

逆に、データなど無くとも、値上げをすれば結果として労働生産性は上がるのです。

今後も生産性、生産性という声が様々なところから聞こえてくるかもしれませんが、下手な対応を行うと大変な目に会う可能性があるということは頭の片隅においていただければと考えます。

エー・アンド・パートナーズ税理士法人

ベストセラー多数の人気税理士岡本吏郎が主催する税理士法人。 マーケティングコンサルタントでもある岡本吏郎を中心に、東京・新潟事務所には、専門知識と実務経験の豊かなスタッフが在籍。 全国の中小企業経営者が独自ノウハウを支持。