新「一筆」

調査官が「必要がある」と判断した場合に作成される『質問応答記録書』。

その作成趣旨については「調査において聴取した事項のうち重要なものについて、事実関係の正確性を期すために、その要旨を調査担当者と納税義務者等の質問応答形式等で作成するものである。」とされています。

これは平成25年6月に税務署が内部通達により、名称を『質問応答記録書』と定め、統一的な運用を開始したもので、要するに、調査の際に直接的な証拠がない場合などに、納税者の回答そのものを証拠とするために作成する書類で、業界では古くから「一筆」と言われてきたものです。

実は先日、私どもが顧問をさせていただいているお客様が、「取引先への調査に協力する」という場面において、『質問応答記録書』に出くわすこととなりました。

この『質問応答記録書』の本質がどういうものか、きちんと理解せずに署名捺印に応ずれば、取り返しのつかないことになってしまいかねません。

是非、この機会にきちんと理解しておきましょう。

さて、今回のことの成り行きはこうです。

A社に税務調査が入りましたが、調査の過程で代表者Bの個人口座に、私どもの顧問先C社から50万円の入金がある事実を調査官が掴みました。
しかし、代表者Bはこの入金を会社でも個人でも申告しておらず、かつ調査に非協力的であったため、調査官がその送金内容の確認のためにC社に協力の依頼をしてきたのです。

調査官からC社に対して協力依頼の電話が入った後すぐに、経理のDさんから私に連絡がありましたが、調査官が電話で話していた内容を聞いた時点で、ほぼ全容の推測ができましたので、事実をありのままに伝えるという形で税務署に協力してあげてくださいと伝えました。

真相は、代表者BがC社の商品を購入し、代金をA社の口座から振り込んで経費に計上したうえで、後にキャンセルし、その代金を個人口座に戻させることで、架空経費を作り上げていたというものでした。

当然、私どもの顧問先C社は、代表者Bのそんな思惑は知る由もなく、キャンセルの返金に応じただけですので、Dさんはその事実をありのままに調査官に伝えました。

ここで『質問応答記録書』の登場です。

後日、調査官はC社の経理Dさんの回答内容を『質問応答記録書』という形で文章に起こしてきたうえで、署名捺印を求めてきたのです。

当然Dさんは正直に事実を答えただけで、やましいことはありませんでしたが、初めてのことですので、戸惑うのも当然です。署名捺印に応じてよいものかと、すぐに私に連絡をくれました。

Dさんの回答内容が問題ないことは解っていましたが、万が一『質問応答記録書』に事実と違うことが書かれていたりすれば署名捺印に応じては絶対にいけません。

私はその場で調査官に電話を代わってもらい、私が内容を確認しないとDさんは署名捺印に応じられない旨を調査官に伝え、結果として電話口で『質問応答記録書』を調査官に読み上げてもらうという形で私が内容を確認しました。

記載内容は事実であることを再度Dさんに私から確認したうえで、署名捺印に応じても差し支えない旨を伝え、Dさんは署名捺印に応じました。

今回のケースでは、取引先への税務調査に対する税務署への協力ということで、内容的にも署名捺印に応じて全く問題のないケースでしたが、いつもそうとは限りません。

なぜなら『質問応答記録書』の本質はズバリ「課税するための客観的な証拠資料がない場合に、これをもって証拠資料とする」ことにあるからです。このことを理解せずに安易に協力してしまうと、それが原因で、みなさんにとって思いがけない、不利益な結果を招くことになりかねません。

仮に自社の税務調査において調査官が『質問応答記録書』を作成した場合、その記載内容が事実であり、修正申告に応じるつもりであれば、調査がスムーズに進み事業への影響も少なくなりますので署名捺印に応じるべきでしょう。

しかし、税務署の主張に納得していなかったり、記載内容や表現に事実と異なる点があれば話しは別です。

『質問応答記録書』は完成後に後日、訂正・変更の申立てをしても、訂正、変更等はできず、訂正、変更等の主張については新しい『質問応答記録書』を作成することによって対応することとされています。

つまり、一度完成した『質問応答記録書』は内容に誤りがあったとしても、削除されることはないのです。

税務署の主張に対して、十分に納得ができていない時点で、安易に『質問応答記録書』の作成、署名捺印に応じるようなことがないように、くれぐれも注意しなければなりません。

この書類はあくまで納税者の理解と協力を得て調査官が作成するものであり、みなさんが協力するか否かは任意なのです。

エー・アンド・パートナーズ税理士法人

ベストセラー多数の人気税理士岡本吏郎が主催する税理士法人。 マーケティングコンサルタントでもある岡本吏郎を中心に、東京・新潟事務所には、専門知識と実務経験の豊かなスタッフが在籍。 全国の中小企業経営者が独自ノウハウを支持。