損益分岐点売上高、再考

最近、損益分岐点売上高についての言及をよく見かけます。

コロナ禍で売上高が減少している中、今後もそう簡単には回復しないとなると当然かもしれません。

「経営は売上高ではないのだよ!」と頭で分かっていても、誰もが売上高から考えてしまう。そして「せめて赤字は回避したい!」となると、分かりやすい指標でもあります。

【損益分岐点売上高】

    計算式 : 固定費 ÷ 限界利益率

《例 示》

  • 固定費   1億円/年
  • 限界利益率 50%
  • 損益分岐点売上高 ⇒ 2億円

もし皆さまの会社の手元資金が潤沢で、じっくりと収益性を上げていくという余裕があれば、損益分岐点売上高から考えるのもよいでしょう。

しかし、手元資金に不安があるのであれば「収支分岐点売上高」で考える必要があり、その場合は「ざっくりとした資金繰り」も考慮できます。

【収支分岐点売上高】

    計算式 : (固定費 + 借入金返済額) ÷ 限界利益率

《例 示》

  • 固定費     1億円/年
  • 借入金返済額 1千万円/年
  • 限界利益率  50%
  • 収支分岐点売上高 ⇒ 2億2千万円

厳密にいえば、固定費にはお金の支出が伴わない減価償却費があったり、税金や分割払いなど借入金の返済以外にも費用外支出はありますが、通常はこの計算式で十分だと考えます。

しかしどうでしょう…例示では借入金返済額を考慮しただけで分岐点となる売上高が10%増えました。つまり、資金繰りも含めた経営全体で考えるのであれば、損益分岐点売上高に意味はありません。

そして、現在売上高が激減している新型コロナ直撃業種を除けば、経済活動停滞に伴う平均的な売上高減少割合は10〜20%程度と仮定できます。

仮に今まで収支分岐点にあった企業の売上高が今後20%減少すると、その限界利益に相当する現預金を失います。

(2億2千万円 ✕ 20%) ✕ 50% = 2,200万円

この会社が新型コロナの制度融資で5,000万円を借り入れ、3年間の返済猶予を行ったとしても、売上高が元に戻らない限り3年持たずに現預金がコロナ前を下回る…。

当然ですが、返済猶予が終了する3年後には収支分岐点が上がり、借り換え、借り換え…と永遠に収支が均衡しないかもしれません。

もちろん1年で収支を均衡させる必要はありませんが、長期にわたるのであれば根本的な対処を早める必要があります。金融機関が3年後に手を差し伸べてくれると考えてはいけないというのは今までお伝えしてきたとおり。

たとえば収支を均衡させていくため、売上高以外の要素での改善を行おうとすると…

【前提】

  • 収支分岐点売上高から20%減 ⇒ 1億7,600万円

【これを限界利益率だけで補填してみる】

  • 必要となる限界利益率は62.5%(50%から12.5%の増加が必要)

【これを固定費だけで補填してみる】

  • 掛けられる固定費は7,800万円(1億円から22%の減少が必要)

皆さまの会社ではどちらが改善しやすいでしょうか?

もちろん現実解としては2つの組み合わせです。1年だと確かに難しいのですが、3年あれば何とでもなる数字であることは数多くの事例を見てきました。

そこで、2~3年前に過去最高の売上高を計上したお客様が何社かありましたので現状を確認してみます。数字を丸めていますが、以下の増減比率は実際の数字です。この7月までの年計データのため新型コロナの影響も大きく受けております。

【A社】 売上高10億円企業

  • 売 上 高 ⇒ 3年前に比べて10%減少
  • 限界利益率 ⇒ 3年前に比べて 2%増加
  • 固 定 費 ⇒ 3年前に比べて17%減少

【B社】 売上高2億円企業

  • 売 上 高 ⇒ 2年前に比べて35%減少
  • 限界利益率 ⇒ 2年前に比べて 8%増加
  • 固 定 費 ⇒ 2年前に比べて 3%減少

ケースバイケースですが、基本的にはサイズが大きめの企業ほど固定費を下げる余地が大きく、サイズが小さめの企業ほど限界利益率を上げやすいことが分かります。

限界利益率の増加と固定費の削減は売上高がピークに達した時から取り組んでいた結果です。皆さまも経験があるのではないかと思うのですが、売上高のピーク時は本来危うい状態にあります。当然利益も出るのですが、勢いがある故に荒っぽく過剰さが伴っているので、損益分岐点売上高も上昇しています。

したがって、売上高がピークに迎えたときこそ収益性の改善に取り組まなければなりません。これを怠ると「預金残高 ≦ 借入金残高」という状況が延々と続いてしまいます。この2社も次の段階に進むために「売上高は現状が限界」とみなしてその時点での課題解決に動き始めました。

幸いこの2社は新型コロナ以前に収支分岐点売上高が大幅に下がっておりましたので、現在も赤字に陥らず、収支分岐点売上高もクリアしています。

そして当然ですが、収支分岐点売上高が下がれば資金繰りは格段に楽になります。金融機関もその努力を買います。

また、最大の恩恵は稼働率の減少です。収支分岐点売上高が下がって、稼働率も下がる。過剰さが消えた状態で増加する売上高はまさに利益と資金の源泉です。

ちなみに、収支を均衡させるために既存の借り入れもすべて返済猶予を行うという選択肢もあります。ですが、これは問題の先延ばしだということは皆さまもご存じのとおり。

もちろん、いまを乗り切るために1年限定というのはアリですが、これに慣れると他の改善が遅れてしまいます。

以上、損益分岐点売上高の言及を見かけても「なるほど」で終わらさず、先の先まで思考を進めて今後に備えてください。

エー・アンド・パートナーズ税理士法人

ベストセラー多数の人気税理士岡本吏郎が主催する税理士法人。 マーケティングコンサルタントでもある岡本吏郎を中心に、東京・新潟事務所には、専門知識と実務経験の豊かなスタッフが在籍。 全国の中小企業経営者が独自ノウハウを支持。