くら寿司の顧客サービス

大阪に本部を構える回転ずしチェーン“くら寿司(株式会社くらコーポレーション)”。
東証一部に上場した2005年には345億円だった売上高が、2010年には707億円(利益額50億円)へ。
公開数字を見る限りは、『急成長の企業』と言っていいのではないでしょうか。
ビジネス誌等でも何度か紹介されているため、ご存知の方も多いと思いますが、くら寿司では次のような顧客サービスを行っています。
■食べた皿を、その都度、皿カウンターに投げ入れいていく
■皿を5枚入れるたびに、液晶パネルでゲームがスタート
■「当たり」が出れば、各席に設置されているガチャガチャから景品をゲットできる
このエンターテイメント、イメージできましたか?
液晶パネルを使ったゲーム、「当たり」が出たときにガチャガチャから転がってくるカプセル景品、そして、ゲームのギャンブル性(筆者の実感では約25%の当たり確率)。
もう、子供にとってはたまりません。
“子供の喜ぶ顔を見る”のが好きな模範的ファミリーであれば、5の倍数で食事を終えるよう(次フロー参照)、かなりの確率で誘導されてしまいます。
■24皿⇒25皿
「あと1皿、あなたがんばって。」(4%売上増)
■23皿⇒25皿
「私が1皿がんばるから、あなたも、もう1皿。」(8%売上増)
■22皿⇒25皿
「私が1皿、あなたも1皿。子供たちは2人で1皿がんばりなさい。」(13%売上増)
たまに、同サービスの一部(液晶パネルでのゲーム等)を借用している同業者のフォロワーを見かけますが、あまりうまくいっているとは思えません。
当社代表の岡本も著書『稼ぐ超思考法』で述べていますが、このようなアイデアを目にした時、同業者による単純な人マネではなく、他の分野の方がこのような「手法」、「構造」だけを借用し、自らの事業に生かしていく“ブリコラージュ”が有効になるのではないでしょうか。

震災後の在庫の考え方

在庫は少なく!
これが経営の鉄則でした。
しかし、震災によってこの鉄則が揺らいでいるのは皆さんもご存じの通り。
在庫を極端に圧縮し、その都度仕入れるという効率性を重視してきた結果、「売るものがない」、「作れない」という状況に陥りました。
また、“仕入先を集中して、調達コストを下げる”という、もう一つの鉄則も状況の悪化に拍車を掛けています。
5月は上場企業の3月決算の発表が相次ぎましたが、製造業に関しては生産能力の回復が不透明なため、当期の業績予想の発表を見送る企業が多くなっています。
まさに、日本経済を左右しているのは、“生産がいつ回復するのか?”という点です。
生産の回復待ちは自社ではどうにもならない事なので、今後の課題として検討すべき事項は、「在庫を増やす」、「仕入先を増やす」となります。
では、大企業の生産・物流体制の見直しが叫ばれている中、中小企業にこれが出来るのか?
まずは「在庫を増やす」という点について。
在庫をどの程度増やせば良いかという問題自体はシンプルです。
例えば、今後同じような状態に陥った場合、どの程度の時間があれば“代替品”、“代替取引先”、“代替設備”を確保出来るかに応じます。
その確保までの期間が10日なのか、1ヵ月なのか、3ヵ月なのか・・・。
その期間によって、その分の在庫を増加させればよいのです。
もちろん、在庫を増やさず、もともと扱っている品物の入荷を待つという選択肢もありますが、入荷待ちの状態に応じて売上高の減少というリスクが発生しますので、原則として余力のある企業のみが採用出来ます。
とはいえ、今回の件で、すぐさま在庫を増やすべきという結論には達しません。
なぜなら、在庫を多く抱えるという事は、お金がその分在庫に回り、資金繰りを悪化させる要因になるからです。
手元キャッシュが潤沢な企業を除き、在庫増加には別途資金手当てが必要です。
また、在庫を増やすという事は、同時に不良在庫の額も増える事を意味します。
さらに、在庫の保管費用の増加も起こります。
まさに売上高の減少を防ぐためのトレードオフの関係です。
次に、「仕入先を増やす」という点について。
これは単純に仕入先を増やせばよいというだけ。
それも、地域を分けつつ分散するのが安全です。
ただ、これは“選択と集中”というコストコントロールに重要なポイントを外すという事になりますので、すぐさま仕入額を均等に分散させるべきではありません。
その準備をしておけば十分です。
つまり、主要仕入先の所在地域から離れたエリアに別の仕入先をいくつか探し、少額の取引を始めておけばよいのです。
これであれば、主要仕入先に万が一の事態が起こっても、すぐに対応する事が可能です。
以上、突発的な事態に対しては、次の一手が事前に想定されているか否かで、初動とその後の業績に与える影響が大きく変わります。
在庫の問題も、在庫額を増加させるのが根本的な解決につながりますが、現実的に実行出来ない企業もあります。
しかし、次善の策として、仕入先の選択肢を増やすという手段を実行出来ない企業はありません。
特殊な品物で、仕入先の代替が効かないのであれば、借金をしてまでも在庫を積み上げるだけです。
今回の震災にかかわらず、原材料の値上げや、原油高により、ただでさえ企業コストは著しく上昇しています。
さらに、在庫増加によるコスト高と続けば、これを吸収するのに値上げという選択肢を排除するのは危険です。
そういう意味では、今回の震災は企業の危機管理上の重要なターニングポイントでした。
このターニングポイントで何もアクションを起こせないと、次のターニングポイントを乗り切れるのか・・・と、想像しておく必要があります。