相次ぐ制度改正に備える

短時間労働者への社会保険の適用拡大まで、あと4カ月ほどとなりました。
既にご存じの方が多いと思いますが、改めて概要を確認しておきましょう。

今年10月から、パートやアルバイトなどの短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が従業員数101人以上の企業に拡大されます。

対象企業となる従業員数にカウントするのは厚生年金保険の適用対象者であるフルタイムの従業員と、週の労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員です。

現行では501人以上の企業が対象ですので大多数の中小企業には関係のない話しでしたが、10月以降は101人以上の企業に改正となりますので、対象企業が増えることは明らかです。

そして、問題は2年後です。2024年10月からは従業員数が51人以上の企業が対象になりますので、対象となる中小企業が一気に増えることは間違いありません。パートやアルバイトなどの短時間労働者を数多く抱える業種については、損益構造にあたえるインパクトが大きくなります。

言いたいことはたくさんあると思いますが、まずは加入対象者の洗い出しをしたうえで、増加する社会保険料を把握しましょう。厚生労働省の「社会保険適用拡大特設サイト」にある、社会保険料かんたんシミュレーターを使えば、会社負担額がどれくらい増えるのか、簡単に計算できます。

今回の改正は企業側だけでなく、対象企業に勤めるパートやアルバイトさん自身の手取り額にも少なくない影響が生じます。当然、社会保険への加入を望む方もいれば、望まない方もいるはずですので、労働時間の短縮、または延長、場合によっては正社員への転換を希望するケースなどもあるかもしれません。

いずれにしても事前に制度改正の説明をしたうえで希望する労働時間など、今後の働き方について話し合っておかなければなりません。

1年後の2023年10月からは消費税のインボイス制度も始まります。

協力先に個人事業者などを多く持つ企業で、協力先が適格請求書発行事業者に登録しない場合には支払側の税負担が増えます。杓子定規に課税事業者になることも、値下げも強制できず、負担増を許容せざるを得ないケースも多いでしょう。

火災保険も10月から全国平均で11~13%と過去最大の値上がりが待っています。ガソリン代に光熱費、食料品に日用品、あらゆる分野の料金が軒並み上がり、多くの中小企業が収益を圧迫されるなか、今まさに値上げを検討している中小企業も多いはずです。

値上げは短期間でそう何度もできるものではありません。

だからこそ、いま目の前にあるコスト上昇だけでなく、今後続く制度改正による損益構造への影響もきちんと把握したうえで、計画的に意図的に、そして慎重になりつつも、ある程度思い切った決断が必要になります。

場合によっては単なる値上げに留まらない、ビジネスモデルそのものの再構築を考えなければいけないケースもあるでしょう。

制度改正による影響は決して小さくありません。
十分な検証と検討を行い、しっかりと準備していきましょう。

事業承継について考える

先月公表された令和3年度税制改正大綱で、事業承継税制の特例措置が令和9年12月末までの適用期限をもって延長しないことが明記されました。

ご存じのように、これは中小企業の株式を贈与又は相続等で取得した場合の贈与税・相続税について100%の納税猶予が受けられる制度です。適用を受けるためには令和6年3月31日までに特例承継計画を提出しておく必要があります。

ここで制度の詳細と適用の是非について論じることはしませんが、年齢的にも事業承継は、まだまだ先のことだと思っている方にこそ考えるきっかけにしていただきたいのです。

この税制を実際に使うかどうかは別として、とりあえず納税猶予の権利を得ておくために特例承継計画を提出していただくケースには共通点があります。

お子さんがいらっしゃるものの、後継者が決まっていないことです。

時代と言っていいのだと思います。昔と違い、多くの経営者が「子供には子供の人生がある」と考え、子供には自分の好きな道を進むようにと育ててきています。

ましてや世の中の変化のスピードが信じられないほど早くなり、3年後どころか来年すら見通しづらい経営環境です。子供に事業を継がせていいのか迷う気持ちも分かります。

しかし、経営者が50代半ばほどに差し掛かり本気で事業承継について考え出すころ、事業が比較的順調であればなお、その想いには変化が現れます。

株式の問題などを含めて社員への内部承継が実現困難であることを悟り、M&Aという選択肢も視野に入れ始めるも、「できれば我が子に継いでもらいたい」そう考え始める経営者が多いのです。

とはいえ昔と違い、この時点で子供への「洗脳」は全くできていません。
急に跡継ぎの話しをされても、子供の方は心の準備も何もできていないため、ことは簡単には進みません。無理もないことです。

もう1つの選択肢であるM&A市場はコロナ過を受けて活況です。しかし、コロナの影響を受けて業績を落としたことをきっかきに売却へと舵を切る「売り時を見誤った」企業が多く存在することもあり、市場は完全なる「買い手市場」です。

こちらが急に売りたいと思ったからと言って、その時には売れるとは限りません。
当たり前のことですが買い手にとって魅力に感じる事業・財務・タイミングでなければ買い手の手が上がることはないのです。

我が子への承継も、M&Aも決して一朝一夕にはいきません。
必要なのは経営者の覚悟と、それを受けての明確な行動による入念な準備です。

前回の税制改正大綱で見直しが明言された相続税・贈与税の一体課税については「今後、本格的な検討を進める」との記述にとどまりましたが、ここにメスが入れば事業承継計画にも少なくない影響があることは間違いありません。

思い通りに進まないことが起きるからこそ入念な準備が必要であり、それに要する期間を考えれば、事業承継は誰にとってもそれほど先のことではないはずです。

もし、本心が我が子への承継を望み覚悟を決めたなら、時代に逆らったっていいのです。

リスキリング

リスキリング(学び直し)というワードが賑わっています。

今月発表された令和4年度の税制改正大綱。かねてからの報道のとおり賃上げ税制がメインとなりました。賃上げ税制には教育訓練費も含まれます。

教育訓練費を10%以上増やせば税金を減らすという措置ですが、関連する税制は10年以上前から存在しています。しかし、中小企業において有効に使われることはありません。

それもそのはず。中小企業の教育訓練は経営者、および一部の幹部社員が中心。一般社員にはあまり使われません。そうなれば教育訓練費が大きく増減することはないからです。

では、それが悪いのか?

もちろん悪くはありません。仕事と教育はトレードオフ。新人社員ではない限り、教育に時間を割けば売上高は下がって当然。スターバックスでは店舗を数時間一斉休業して研修が実施されることがありますが、それにより失われる売上高は数十億円とも言われます。

逆に、売上高が下がらない、あるいは効果測定ができないくらいの教育訓練は“本当に有効に機能しているのか疑問”だと言わざるを得ません。売上高に直接関わらない社員についても同様です。

一人一人の社員がフル稼働することが前提で成り立っている中小企業では、休みを削ってでも仕事と研修をこなす覚悟がある層にしか、継続的な教育訓練は成り立たないと考えます。

「うちは一般社員にも十分な時間と費用を使っている」

という中小企業は、きちんと効果測定をされてみれば良いと思います。経営者も自己満足で時間とお金を使うべきではなく、トレードオフが発生していることをよく理解すべきです。なお、トレードオフが発生していないように見えるのであれば、さらに危険です。

「この研修について来れないのであれば自主退職を勧めます…」

大企業は今後も教育訓練を拡充していくでしょうが、もともと大量採用・大量退職が根底にあるため、教育訓練は合わない社員の退職を促す暗黙の仕組みとしても機能させています。

なお、「リスキリング」=「デジタル化対応」という脈絡で説明されることも多いですが、これまでのホワイトカラーを「新ホワイトカラー」or「旧ホワイトカラー」として選別し直す方法です。旧ホワイトカラーの退職を促すという意味もあるでしょう。

社員教育に時間とお金を浪費し、売上高が上がりも下がりもせず、さらには社員の新陳代謝も起こらない。みんな一緒に年齢だけ重ねていく…。その次につながらず、まるで意味がありません。

リスキリングは自社にとって本当に必要なものを行うべきであって、それについて来れない人は自主的に退職してもらうくらいの覚悟が必要です。血肉にならないようなリスキリングに意味はなく、中小企業にそのような余裕はありません。

広く一般社員にまで行うのであれば、社員の新陳代謝を促す仕組みとして行うべきであり、さらに上のレベルの教育訓練を施すのは自主的に学びを求めてくる社員に対してのみ。給与が爆上がりしなくとも、社員自身にとって意味ある学びの機会を与えられていると感じれば必ず付いてきます。

これがリスキリングの本来の目的だと考えます。

これができないのであれば、経営者、および一部の幹部社員のマンパワーで仕事をこなせばよいのです。

繰り返しますが、何も悪くありません。

インボイス制度に備える

2年後の令和5年10月1日から消費税のインボイス制度が始まることに先立ち、いよいよ来月から適格請求書発行事業者の登録申請手続きが開始されます。

現行の制度では外注先や仕入先が消費税の免税事業者でも課税事業者に対して支払った場合と同じ処理が可能ですが、インボイス制度が始まると登録事業者以外への支払では原則、消費税分を納税額から差し引くことができなくなります。

簡単に言えば、登録事業者になっていない外注先や仕入先に現在と同額で支払をすれば、その支払額の概ね6~8%程度、皆さんの会社の納税額が増えてしまうのです。

理屈としては、売上高が1000万円以下で消費税の免税事業者である外注先等にも登録事業者になってもらうように促し、さもなければ今後は取引しないと言えばいいだけですが、現実はそれほど単純ではありません。

地方においては特に、地元の外注先や仕入先が個人事業の消費税免税事業者で、今でも手書きの請求書・領収書でやり取りしているということが珍しくありません。

こうした事業者にも登録申請を行ってもらえばいいのですが、例えば直接の仕入先である農業を営む高齢者に対して消費税の申告納税義務を強いたうえで、仕入れの都度、適格請求書(インボイス)の発行を求めることには現実的に無理があります。

それでも2年後にはこの制度が始まってしまう以上、フリーランスなど小規模な事業者と取引がある企業は、これに備えておかなければなりません。

欠かすことのできない小規模な外注先、仕入先等が2年後に登録事業者にならなくても、今まで通り取引を続けることを前提とした場合に考えられる対応は2つです。

(1) 自社の税負担が増えてしまうことを受け入れる。
(2) 登録事業者にならない取引先には、インボイス制度開始後は消費税相当額を
  支払わないことを話しておく。(実質、値下げの交渉)

自社にとっては(2)を選択すれば、納税額が増えることはありませんが、免税事業者である取引先にとっては単純に売上・利益の減少となってしまいます。

いずれにしても、登録申請が始まるこのタイミングで取引先にそれとなく登録予定の有無について確認を取るとともに、インボイス開始後の影響を視野に入れて、今後の外注・仕入価格の改定に気を配った対応を考えておく必要があります。

業種によっては、小規模事業者との取引が不可欠であることが少なくなく、地元で共存していくためには杓子定規に登録申請を強いることも、値下げを強いることもできない場面が多々あることは想像に難くありません。

制度開始直前での交渉等は取引先との信頼関係を壊してしまいかねません。
自社に起こる影響を今から理解し、しっかりと意図を持って準備をしておきましょう。

知らないと受けられない「固定資産税ゼロ税制」

現在、一定の要件を満たす新規の設備投資に対して固定資産税が3年間ゼロとなる制度があることを、皆さんはご存じでしょうか。

設備導入に伴う固定資産税ゼロの措置を実現した市区町村(2021年3月末現在)
【中小企業庁HP】

この制度、コロナ過にありながら設備投資を行う中小企業を支援する目的で、拡充・延長がされていますので改めて制度の概要を確認し、知らなかったせいで優遇を受けられなかったなどということがないようにしましょう。

制度の概要をまとめましたので表をご覧ください。

生産性向上要件を満たすことについて証明書が取得可能な設備であれば、多くの種類の設備が該当し、合計300万円以上の先端設備を稼働するために新築する事業用家屋についても対象となります。適用を受けることができれば減税額は決して小さくないことが分かります。

最大のポイントは、設備を取得する前に「先端設備導入計画」の申請・認定を受けておかなければいけないことにあります。

計画を策定・申請し認定を受けるまでには、ある程度の時間を要しますので、逆算して設備導入時期に余裕をもって手順を踏まなければなりません。
設備投資を検討した時点で、皆さんがやらなければいけないことは2つです。

  • 設備投資の検討時点で顧問税理士に共有、優遇税制の適用有無について確認・相談する
  • 対象設備について工業会等の証明書が発行されるか購入先に確認する

繰り返しになりますが、検討時点での情報共有が重要です。購入した後ではもちろんのこと、「来月、機械を購入します」でも遅いのです。

設備投資に絡む優遇税制については、5年ほど前から事前に申請・認定が必要な制度へとシフトされてきています。

そのため顧問税理士にタイムリーな情報共有ができていなければ、本来受けられるはずの優遇が受けられないということが容易に起きてしまうのです。

「設備投資、検討時点で税理士へ」

ぜひ頭に入れておいてください。

なくなる?!贈与税

毎年恒例の税制改正。

コロナ禍にあって今年は税負担が増えるような大きな改正はないだろうと誰もが考える中、気になる情報が入ってきました。

今月中旬に発表予定の令和3年度税制改正大綱にむけて先月13日に行われた、政府税制調査会の会議資料に相続税・贈与税の見直しを検討する部分が含まれていることが分かったのです。

そこでは、皆さまよくご存じの年間110万円の基礎控除を利用する「暦年贈与」を繰り返す「連年贈与」を長年にわたって行うことによる税負担の減少効果が、相続のみで財産を承継する場合との比較で説明されていました。

生前贈与によって税負担を減少させることを問題視していることが明らかで、これは相続税対策の王道である「贈与税の基礎控除を利用した連年贈与」が今後、できなくなる可能性があることを意味しています。

かなり大きな改正となるでしょうから、そう簡単にメスを入れられるとは思えませんが、もし実行されれば、資産家はもちろんのこと事業承継の際に必ず自社株問題が付きまとう中小企業経営者にとっても大きなことです。

それでも今、私たちができること、すべきことに変わりはありません。

遠くない将来、連年贈与ができなくなるかもしれないことを念頭に置きながら、今できる贈与を確実に行っていくことです。

基礎控除を活用した生前贈与は地道な方法ではありますが、税制調査会が問題視するくらいですから年数を長くかけて行うほどに、その効果は実に大きなものとなります。

しかし、その地味さ故か面倒なのか、長年にわたる生前贈与対策を本当に有効活用している例は、実際はそう多くないように感じます。

コロナ禍で経済が落ち込み法人増税が難しくなる間、税制のターゲットは「持っている個人」に向かう可能性が高くなります。

今年も残すところあとわずか。

繰り返しになりますが、生前贈与は年数を長くかけるほどに効果は大きくなります。

今年の贈与はもうお済みですか?

成功体験の呪縛

イタリアンファミリーレストランチェーンの「サイゼリヤ」は今月8日、2019年9~11月期の連結決算を発表しました。

純利益が前年同期比2%増の13億円と好調に見えますが、国内の業績低迷が深刻です。

消費税増税後についても、全てのメニュー(ボトルワインなどを除く)の税込み価格を据え置き、実質2%の値下げを行ったにもかかわらず10月は客数が減少、前年同月比の売上高は9%減少しており、国内の既存店売上高は前年同期を3%下回っています。

営業利益19億円のうち8割を業績好調な上海やシンガポールなどアジアの店舗が稼いでおり、日本国内の営業利益は54%も減少してしまったのです。

サイゼリヤの売りはご存知のように「安い」ことです。

業績好調のアジア地域でも、そのことは変わらず、どの国であっても「安い」「コスパが良い」と思われる価格水準にしているようです。

しかし、気になるのはサイゼリヤの過剰なまでの低価格へのこだわりです。

創業者で代表取締役会長の正垣泰彦氏は創業以来「低価格」に強いこだわりを持ち続け、実際それでサイゼリヤを成長させてきました。

代表取締役社長の堀埜一成社長は昨年4月の決算発表の席では「サイゼリヤがメニューを値上げするときは、私が社長を辞めるときです」と言い放ち、消費税増税の際には税込み価格を維持することで実質値下げを行いました。

経営者はみな、過去の成功体験から得意な経営手法、「自分のやり方」というものを持っています。

しかし、現代のような変化の時代にあっては、こうした過去の「自分のやり方」が、場合によっては足かせになり得ることを、私たちは意識しておかなければなりません。

サイゼリヤは2017年12月から2019年12月まで既存店の既存客数の前年割れが続いていたことに加えて消費税増税による更なる客離れを恐れ、過去の成功体験に倣って「安くすれば、お客様は必ず増える」そう考えて実質値下げに踏み切ったのでしょう。

後出しでしかありませんが、結果を見れば、過去の成功体験による判断が実を結ぶほど単純なものではなかったことが分かります。

2%の値下げによる利益減少を、人口減少局面において客数増加で補うことが現実的でないことは、シミュレーションすれば簡単に分かることです。

既存店客数の前年割れが続いていた一方で、既存店の客単価については微増させ続けてきていただけに、値下げという手段で客数確保に走った経営判断は非常に残念です。

最後に、サイゼリヤが業績好調のシンガポール、中国に加えて業績不振の日本の人口推移を見ておきましょう。

業績好調の国と真逆の人口推移をたどる日本において、経営戦略の基本路線が以前と同じであっていいわけがありません。

変化の時代に「以前はこうだった」は御法度なのです。

これから5年、中小企業に襲い掛かること

厚生年金の加入拡大が具体的に示されました。
皆さまもご存じのとおり、2019年末時点での報道によると以下になります。

【現在の加入条件】
・従業員501人以上の企業で勤務 
・週20時間以上働く
・月収8.8万円(年収約106万円)以上
・雇用期間が1年以上
・学生でない

【今後】
従業員501人以上の企業で勤務の条件が以下に変更。
(1)2022年10月 〜 従業員101人以上
(2)2024年10月 〜 従業員 51人以上

従業員51人以上となった場合、新たに65万人が厚生年金に加入することになるそうです。また、中小企業の経営悪化を懸念して人数条件が残されていますが、本来は従業員数の条件は撤廃すべきという意見も根強く残っています。

そして、以下のケースでの厚生年金の加入者数の試算です。

・従業員21人以上 → 85万人(増差20万人)
・従業員条件撤廃 → 125万人(増差40万人)

総務省統計局の労働力調査によると、平成30年のパート・アルバイトの労働者数は約1,500万人です。そのうち30%程度は学生(15~24歳の若年層)と思われますので、学生以外(厚生年金加入対象の母数)は約1,000万人と見積もれます。

つまり、5年以内には約1,000万人のパート等のうち、厚生年金に加入しないのは60万人のみということになります。

たった6%…。

ここまで低くなると、厚生年金に加入することにならない企業は敬遠される可能性が高まるのではないでしょうか。それにより企業側が自主的に厚生年金に加入させるケースも増えるでしょう。加入条件が制度として残っても、加入するのが当然という流れができてしまいます。

もちろん、手取り維持のために厚生年金に加入したくないという方は一定数いらっしゃいます。しかし、厚生年金に加入したパート等は手取り維持のために人件費が上がる傾向が強いため、これが理解されれば加入を回避しようとは考えないはず。

そのために配偶者特別控除等、所得税の税制も整備されてきました。

例えば年収106万円の方が厚生年金に加入すると手取りが少なくなるため、これを維持しようとすれば年収は125万円以上が必要になってきます。ざっくり考えると、社会保険加入(健康保険も含め)と手取り維持のためにパート等の人件費は30%以上増加します。

ちなみに、厚生年金の加入年齢は70歳までとなっておりますが、これを75歳まで引き上げることも検討されています。65歳以上の労働者数が急激に増加していることを考えると遠からず実現するでしょう。

一昔前までは「中小企業で残業代を払うなんて…」という風潮が当然でしたが、今では「残業代は払わないと…」が主流です。

労働者から「残業代や厚生年金保険料を払えない企業なんて…」というスクリーニングが行われるということです。

そのほか、中小企業において今後適用される主な事項が以下となります。

・今後も毎年 ~ 最低賃金の引上げ
・2020年 4月 ~ 同一労働同一賃金
・2023年 4月 ~ 月60時間以上の残業について法定割増賃金率が50%
・2023年10月 ~ 消費税のインボイス制度

インボイス制度についてはフリーランス等の個人事業者への外注に関してということになりますが、以前からご説明しているとおり実質的に人件費の増加となる企業が出てきます。

以上、従業員でも外注でも個人に支払うコストは『制度的に』これからの5年間で増加します。このコストの増加が自社に与える影響がどの程度かを理解していないと致命的な状況になる恐れがあります。いきなり影響が出るわけではなく、毎年毎年真綿で首を締められるようなものです。

労働者が中小企業から大企業にシフトしているのは厳然たる事実で、比較的安価な労働力で仕事を回していた中小企業にとっては、さらなる人材の流出を促されることになります。

当然ですがこの流れは変えられません。

どれほど皆さまの会社の仕事が魅力的であったとしても、収入及び福利厚生でスタートラインに立てなければ人材を確保し続けることは難しくなります。あとはそれぞれの企業がこの流れを乗り切るための収益構造を作り上げることができるかどうか。

予想どおり、消費税増税後の状況は悪化しつつあるとしか言いようがありません。中小企業にとっては経済と制度に圧迫されつつ、生き残る道をいち早く探すか、潔く撤退するかの二択です。

その分岐となる年と考えられるのが2020年となりますので、皆さま今年は十分ご注意ください。

情報格差

今月12日、2020年度与党税制改正大綱が発表されました。

今回の改正で、前回のメルマガでご紹介した合法的な課税逃れ商品「タックスシェルター」の1つである「海外不動産への投資」スキームが封じ込められることが分かりました。先月末に既に報道されていましたので、ご存知の方も多いと思います。

残念ながら、こうした節税スキームが税制改正リスクに常にさらされていることの良い例となってしまったわけです。

ここではもう、スキームの詳細は書きませんが、これは日本と海外の住宅における資産価値の違いと日本の税制(中古資産の耐用年数と損益通算)のミスマッチを利用した節税方法で所得の高い富裕層を中心に人気があった手法です。

しかし、その一方で2016年の時点で既に会計検査院から、この節税スキームの問題点についての指摘が入っていましたので、いつ税制改正が入ってもおかしくない状況であったことも確かです。

それにも関わらず某有名大手不動産会社でさえも、つい先日までホームページで大々的に節税効果を並べながらセールスを展開していましたし、節税商品として多くの業者が富裕層に提案をし続けていたわけです。

理由はただ1つ、業者が儲かるからです。

既に、このスキームに乗ってしまっている方は、対象不動産を売却することを前提にしたシミュレーションを早急に行って、その時期を判断しなければなりません。

こうなると、日本人への需要は極端に減るはずですし、2021年には、このスキームが封じ込められる予定ですので、当然その前後での売買相場は下がることが容易に想像できます。どのタイミングで手放せば傷が一番浅くて済むかという判断になるでしょう。

さて、こうしたことが起こるといつも思うのが「情報格差」です。

例えばこうした節税商品であれば、その仕組みやリスクの正しい理解、税務調査現場での取り扱いや、税制改正の動向、これで得しているのは業者ですよという本質に至るまで。

また、税制に限らず、同業他社や異業種の動向、最近の金融機関の動きや世の中の空気感など、中小企業経営者が普段から察知しておくべき情報は実に多岐にわたります。

しかし、恐ろしいのは今や巷に情報は溢れ、その多くがゴミ情報であるという事実です。

数少ないまともな情報を手にするには、その本人の取捨選択能力が求められるほどに情報が溢れてしまっているのです。

来年も目まぐるしいスピードで中小企業経営をめぐる環境は変化していきます。
税制の変化も早く、より複雑なものへと変わってきており、情報は企業の生命線と言っても過言ではありません。

私たちエー・アンド・パートナーズ税理士法人は、来年も皆さまの経営の一助になれるよう、引き続き有用な情報を提供させていただきたいと考えております。

本年も1年間、ご愛読いただき誠にありがとうございました。

来年もどうぞよろしくお願い致します。

タックスシェルター

今年6月28日の法人税基本通達の改正により、いわゆる「節税保険」と呼ばれる保険商品が封じ込められたのはご存知のとおりです。

今まで、節税と言えば、生命保険の活用が常套手段の1つでしたが、これが封じ込められたことで、もともとは中堅以上の規模の税理士事務所が業者と組んで販売していることが多かった「タックスシェルター」の販売に個人の税理士も手を出し始めるなど節税市場に変化が表れているようです。

タックスシェルターとは、言わば「課税逃れ商品」であり、現行法令や租税条約の予定の範囲内のものであるため、基本的には合法な「節税」に分類されるものになります。

当社にも「ぜひ顧問先様への提案に」との業者からの営業電話が、今年に入ってかなり増えました。

以前からあるものも含めて、最近よく見かけるのが、次のようなものです。

  • コインパーキング事業への投資
  • 航空機、船舶のオペレーティングリース
  • 仮想通貨のマイニングマシンへの投資
  • 海外不動産への投資
  • コインランドリー事業への投資
  • 足場レンタル事業への投資

これらは、投資対象資産を即時償却するか、税務上の中古耐用年数と実際の使用可能年数が大きく異なる点を利用して早期に償却するかした後、その資産を簿価1円で社長個人に移転する、若しくは時価が下がっていないうちに売り抜けるなどという点で概ね共通しています。

基本的には現行法令の仕組みを上手く利用しているものの、既に会計検査院から問題の指摘を受けていて、すぐにでも改正が入る可能性があるものや、解釈によっては租税回避行為として否認される可能性があるようなものも存在しています。

実際、こうした商品が租税回避行為であるとして税務調査で否認されたとの事例も聞いていますので、一見合法ではあっても、少なからずリスクがあることは必ず認識しておく必要があります。

さて、こうした商品、確かに上手くいけば節税効果があることは事実ですが、税務署からの否認リスクが仮に完全に排除できたとしても、私がお客様に勧めることはありません。

なぜなら、こうした節税商品は検討している現在と同様に数年間にわたって多額の利益が出続けることを前提としていたり、何年か後に投資した資産を高値で売却できること、その利益に退職金などの損金をぶつけることなど、不確定要素が含まれることが起きると仮定したうえで設計されていることが多いからです。

経営が予定通りにいかないことは、本来、経営者本人が誰よりも分かっているはずです。

しかも、自然災害など、まったく読めないリスクに直面する可能性が高まっている中、節税だけを目的に本業に関係しない資産に投資することは余計なリスクまで抱えることに他なりません。

そしてもう1つ、このような本業に関連しない節税だけを目的とした商品に手を出すと、得てしてその後、業績が落ちるという傾向があるからです。

もちろん根拠はありません。そうならない場合だってあります。

しかし、こうした商品に手を出したとたんに業績が下がる光景を何度見てきたか分かりません。

経営者にとって納税は痛みです。

それゆえ「節税」の2文字は経営者を大きく揺さぶり魅了しますが、出口戦略まで固まっているケースを除いて、節税商品でできるのは単なる税の繰延で、税が無くなることはありません。

健全で強固な財務は利益を出して納税することでしか築けないのです。

皆さんのところにも今日、「タックスシェルター」の営業が来るかもしれません。