贈与のセオリーが変わる

ご存じのように昨年12月23日に与党税制改正大綱が閣議決定されたことで2023年度の税制改正の大枠が固まりました。

コロナ直前の平成31年度税制改正以降、非常に小粒な改正が続いてきましたが、コロナ過で行われてきたバラマキがついに本格的な回収の段階に移行しそうです。とはいえ、先送りされた案も多く、今回は中小企業経営に直接大きな影響を与えるような改正はそれほどありません。

個人的に最も驚いたのは贈与税の相続時精算課税制度の見直しです。
詳細はこれから詰めていくことになりますが、税制改正大綱を読む限りは、これまでの贈与のセオリーを覆すかもしれない内容になっているのです。

前提として、事前の報道で概ね明らかになっていた生前贈与加算制度の見直しから確認しておきましょう。

ご存じのように暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)で、贈与額が110万円以下ならば贈与税がかからないというしくみを用いた贈与方法を言います。110万円を超える部分に関しては贈与額に応じて贈与税がかかることになります。

亡くなる直前で「相続税逃れ」のために行われる駆け込み贈与を防止するため、見直し案では暦年贈与において、贈与を受けた日から7年以内(現行は3年以内)に贈与者(あげた人)が亡くなってしまった場合には、その生前贈与はなかったものとみなされ、贈与済みの財産が相続財産に加算されて相続税の課税対象となります。ただし、延長する4年間に受けた贈与については総額100万円までは加算されません。

『生前贈与加算』

改正後は贈与者の死亡から遡って7年間に行った贈与が相続税の計算対象となるため、贈与による節税効果が減少することは間違いありません。

次に相続時精算課税制度の概要を確認しておきましょう。

【相続時精算課税制度とは】

60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について「相続時精算課税制度」の適用を選択した場合に累計2500万円までの贈与について贈与税が非課税になり、2500万円を超える贈与については一律20%の贈与税がかかります。
制度選択した贈与者が亡くなった際には、贈与を受けた額全てが相続財産に加算されて相続税が計算されるため、基本的に節税対策には使えませんが、子や孫へ早期に財産(例:家賃収入を生む不動産など)を移したい場合に効果的です。

相続時精算課税制度については「利便性を高める」という趣旨での見直しが事前に報道されていましたが、私たち専門家が予測していたものとは大きく異なる内容でした。

現行では相続時精算課税制度を選択すると、その贈与者からの贈与については、それ以降110万円の基礎控除は使えなくなりますが、改正案では毎年110万円以下の贈与については課税されず、申告も不要になるというのです。

『相続時精算課税』

暦年贈与では相続開始前7年間の贈与が相続財産に加算されることになるのとは対照的に、相続時精算課税制度を選択すれば、驚くことに相続開始直前でも年間110万円までの贈与は相続財産に加算されない案になっています。

であれば、贈与者(あげる人)がある程度高齢になった時点や、病気などにより残された時間がそう長くないと予測された時点で相続時精算課税制度を選択するという新たなセオリーが生まれます。制度の対象となり得る子や孫が多いほど、非課税の枠が大きく使えることになります。

詳細が決まるのはこれからですので、現時点では分からない部分はありますが、節税対策としての今までの贈与のセオリーを覆す改正となりそうです。

事業承継や相続対策を必要とする中小企業経営者にとって、贈与税の改正は長期的な戦略として重要な内容ですので、詳細の行方には是非ともアンテナを張っておいてください。

今年も中小企業経営者の皆様の経営に役立つ情報を発信していきたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願い致します。

生前贈与

今週中にも公表される令和5年度税制改正大綱で、どうやら生前贈与加算が現在の3年から7年になりそうです。

ご存じのように、現行の生前贈与加算は「贈与を受けた日から3年以内に贈与者(あげた人)が亡くなってしまった場合には、その生前贈与はなかったものとみなされ、贈与済みの財産が相続財産に加算されて相続税の課税対象となる」制度です。

亡くなる直前で「相続税逃れ」のために行われる駆け込み贈与を防止するためのもので、この加算期間が7年になれば贈与者の死亡から遡って7年間に行った贈与が相続税の計算対象となるため、贈与による節税効果は大きく減少します。(延長する4年間に受けた贈与は総額100万円までは相続財産に加算しない案のようです。)

ただし、先に納めた贈与税は相続税から差し引くことができますので、2重に税金がかかることはありませんし、相続(遺贈)によって財産を取得しなかった者(例えば孫)への贈与が相続財産に加算されることもありません。

今回の生前贈与加算の改正案については「課税負担が重くなる期間を長くすることで、早い時期からの生前贈与を促し、子育て費用などが必要な若年層への資産移転が進みやすいようにする」ことが狙いだと説明しています。(本音は課税強化が狙いに決まっていますが)

基本的に節税だけを目的とした贈与には弊害が多いこともあって賛成しないことも多いのですが、早い時期から相続について考え備えることには賛成です。相続の準備は、なにも税金対策に限りません。

特に中小企業経営者の事業承継を考えた場合には、早くから贈与を使った対策が効果的に機能します。ものごとの結果の八割は準備で決まります。

世間のイメージとは異なり、財産がそれなりにある方の相続で揉めることは実はあまりありません。相続する側もされる側も、早い時期から対策の必要性を認識して感情の問題にも配慮しながら周到に準備を進めていくからです。

一方で「うちは揉めるほどの財産はないから」「兄弟みな仲が良いので大丈夫」と言って何も準備していない家庭ほど危うかったりします。

相続は一部のお金持ちだけの話しではありません。財産の額が少なくても必ず相続は発生します。財産も債務も誰かが引き継ぐのです。

家族の死が目の前に迫ってから初めて行われる話し合いでは、逝く側も残される側も冷静さを欠き、それぞれの想いがよりストレートに色濃く全面に出てきがちです。

人の感情はとても複雑です。差し迫った場面で行われる財産の話しには、本人はもちろん、周囲の感情も激しく揺り動かされることになります。とっくに忘れていたはずの昔の記憶もよみがえります。

家族の死を目の前にしての負の感情のぶつかり合いは、やり切れないほど悲しく切ないものです。

互いの感情に寄り添った争いのない相続とするための準備は「まだだいぶ先のことだけど・・」くらいの時期から始めてちょうどいいのです。

贈与の利用価値は節税だけに限りません。もし、個々の感情にも配慮した望ましい形で活用できるのであれば、結果として相続の際に加算の対象となってしまったとしても、それ以上の意味があるはずです。

今年も残すところあとわずか。

今年の贈与は、もうお済みですか?

大きく変わるか?退職金税制

先月18日に開催された政府税制調査会の総会で、会社役員・従業員等の退職金への課税の際に適用される「退職所得控除」について、勤続年数を問わず一律にすべきという意見が出されたことが報道されました。

勤続年数が長い人ほど有利な現在の退職金税制が「雇用の流動化」を阻んでいる可能性や、働き方が多様化していることなどを理由としてあげていますが、なかなかの暴論と言わざるを得ません。要は課税強化、とにかく増税したい政府の思惑が透けて見えます。

ご存じのとおり、現在の退職金税制は勤続年数が長くなるほどに優遇されており、中小企業経営者にとっては、会社に内部留保を蓄えつつ、最終的には退職金税制の恩恵を受けて取るというのが1つのセオリーです。

『現在の退職金税制』

改正すべきとする論拠はツッコミどころ満載で納得がいくようなものではありませんが、
「退職金税制」については令和2年度の税制改正大綱の基本的考え方でも触れられており、遠くない将来に課税強化の方向で進んでいく可能性が高いでしょう。

そうなれば普段の役員報酬の取り方はもとより、経営の出口戦略の立て方にも影響が出ることは間違いなく、改正の度合いによってはM&Aや事業承継、退職時期を数年早めるといった判断を下すケースが出てくるかもしれません。

退職金税制だけではありません。税制調査会では相続税・贈与税の一体課税についても議論がなされており、次の税制改正で生前贈与加算が現在の3年から、それ以上の年数に延ばされる可能性が高くなってきました。

もちろん事業承継も相続対策も税金面の有利不利だけで動いてはいけませんが、場合によっては無視できないほどに税負担が異なってくることも事実です。

事業承継、特に中小企業の親族内承継にあっては相続対策も相まって、一朝一夕にはいきませんので、どれだけ早くから周到に準備を進めていけるかがカギになります。

準備万端とまではいかなくても方向性を定めてある程度の準備が進んでいれば、改正内容に応じた臨機応変な計画のマイナーチェンジが可能ですが、まるで進んでいないとなると、お手上げです。

中小企業経営者の多くが50代半ばに差し掛かるころから、本気で事業承継について考え出しますが、昔と違って子どもに仕事を継がせる前提で準備を進めてきている方は少数です。

私も3人の子を持つ親です。我が子には自分の好きな道を歩んで欲しいと考える気持ちはとてもよく理解できます。しかし実際に多くの経営者が、その時が近づくと思うのです。
「やはり、できれば我が子に継いで欲しい」。

時代など気にする必要はありません。もしも事業を継いで欲しいという想いが少しでもあるのであれば、できるだけ早くにその想いを伝え、我が子にもその選択肢を認識してもらいつつ、互いに必要な準備をしていくべきです。

その結果、仮に我が子への承継がないことがはっきりしたのであれば、別の方向での準備を始めていけばいいのです。
日本電産の永森氏が先月の決算発表で「後継者問題が10年遅れたことは最大のミス」と語っていたことが印象に残ります。

事業承継計画や相続対策に影響を及ぼすであろう税制改正論議が進んでいます。
どれだけ準備をしても事業承継が全て思い通りに進むことはありません。
だからこそ入念な準備が必要なのです。

扶養から外れてしまうので休ませてください問題

中小企業の採用市場は厳しさが増す一方。
他社より多少待遇を良くしたくらいでは、応募すらないという状況が当たり前になってきました。

こうなると、募集は常にかけつつも今いる社員でどう戦っていくかが重要になるわけですが、これから年末にかけて多くの中小企業で巻き起こるのが、パート・アルバイト従業員の「扶養から外れてしまうので休ませてください」問題です。

しかし、話しを聞いてみると現在の制度の内容を正しく理解しておらず、なんとなく「103万円の壁」にこだわっているケースがいまだに少なくなくありません。

ここ数年の改正で複雑さが増しているせいで、理解することを諦めた結果、知識が更新されることなく「103万円の壁」の印象だけが、なんとなく残り続けているのです。

ではまず、「収入の壁」から整理していきましょう。
最もよくある「ご主人の扶養の範囲内で働きたい妻」のケースで考えていきます。
壁は大きく6つです。

『収入の壁の整理』

結論から申し上げると、重要な壁は社会保険の加入が絡む「106万円の壁」と「130万円の壁」2つだけです。

皆さんの会社が従業員数101人以上であれば今月からの改正で「106万円の壁」がパート・アルバイト従業員に立ちはだかることになりますが、従業員数100人以下の企業を経営する読者が多いと思われますので、今回は「130万円の壁」を用いて、夫の年収が400万円の場合の影響額を具体的に見てみることにしましょう。

『世帯収入影響額表』

いまだよく耳にする「103万円の壁」ですが、ここを超えても収入が増えれば手取りも増えるため、気にする必要がないことが理解できるはずです。130万円の壁を超えなければ、税金はかかっても妻の手取り額は増え続け、夫も変わらず配偶者控除が受けられますので、働いた分だけ世帯としての手取り額が順調に増加していくことが分かります。

一方で妻の年収が130万円の壁を超えると、夫の社会保険の扶養から外れることで妻自身が社会保険に入る必要が出てくるため、手取り額が大きく減ってしまいます。妻の手取り額を回復させ、世帯の手取り額を再び増加させるには150万円を超えて稼がなければなりません。

妻の年収によって、ご主人が勤めている会社から配偶者手当をもらえなくなることがありますので、「配偶者手当の壁」も注意する必要がありますが、そもそも配偶者手当自体が廃止されている企業が増えたため、「ご主人の扶養の範囲内で働きたい妻」の多くが気にすべきは「130万円の壁」だけということになります。

経営者からの要望で、このことを顧問先のパートさんに丁寧に説明してあげると、それならばもう少し働きたいといった反応が返ってくることを私は何度も経験しています。

採用が困難を極めるなか、今あるパート・アルバイトの戦力はとても貴重です。
そして、あらゆる物の値段が上がるなか、扶養の範囲で少しでも家計を助けたい人が大勢いるはずです。

社内の知識を正しく更新し、しっかりと共有していきましょう。

相次ぐ制度改正に備える

短時間労働者への社会保険の適用拡大まで、あと4カ月ほどとなりました。
既にご存じの方が多いと思いますが、改めて概要を確認しておきましょう。

今年10月から、パートやアルバイトなどの短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が従業員数101人以上の企業に拡大されます。

対象企業となる従業員数にカウントするのは厚生年金保険の適用対象者であるフルタイムの従業員と、週の労働時間がフルタイムの4分の3以上の従業員です。

現行では501人以上の企業が対象ですので大多数の中小企業には関係のない話しでしたが、10月以降は101人以上の企業に改正となりますので、対象企業が増えることは明らかです。

そして、問題は2年後です。2024年10月からは従業員数が51人以上の企業が対象になりますので、対象となる中小企業が一気に増えることは間違いありません。パートやアルバイトなどの短時間労働者を数多く抱える業種については、損益構造にあたえるインパクトが大きくなります。

言いたいことはたくさんあると思いますが、まずは加入対象者の洗い出しをしたうえで、増加する社会保険料を把握しましょう。厚生労働省の「社会保険適用拡大特設サイト」にある、社会保険料かんたんシミュレーターを使えば、会社負担額がどれくらい増えるのか、簡単に計算できます。

今回の改正は企業側だけでなく、対象企業に勤めるパートやアルバイトさん自身の手取り額にも少なくない影響が生じます。当然、社会保険への加入を望む方もいれば、望まない方もいるはずですので、労働時間の短縮、または延長、場合によっては正社員への転換を希望するケースなどもあるかもしれません。

いずれにしても事前に制度改正の説明をしたうえで希望する労働時間など、今後の働き方について話し合っておかなければなりません。

1年後の2023年10月からは消費税のインボイス制度も始まります。

協力先に個人事業者などを多く持つ企業で、協力先が適格請求書発行事業者に登録しない場合には支払側の税負担が増えます。杓子定規に課税事業者になることも、値下げも強制できず、負担増を許容せざるを得ないケースも多いでしょう。

火災保険も10月から全国平均で11~13%と過去最大の値上がりが待っています。ガソリン代に光熱費、食料品に日用品、あらゆる分野の料金が軒並み上がり、多くの中小企業が収益を圧迫されるなか、今まさに値上げを検討している中小企業も多いはずです。

値上げは短期間でそう何度もできるものではありません。

だからこそ、いま目の前にあるコスト上昇だけでなく、今後続く制度改正による損益構造への影響もきちんと把握したうえで、計画的に意図的に、そして慎重になりつつも、ある程度思い切った決断が必要になります。

場合によっては単なる値上げに留まらない、ビジネスモデルそのものの再構築を考えなければいけないケースもあるでしょう。

制度改正による影響は決して小さくありません。
十分な検証と検討を行い、しっかりと準備していきましょう。

事業承継について考える

先月公表された令和3年度税制改正大綱で、事業承継税制の特例措置が令和9年12月末までの適用期限をもって延長しないことが明記されました。

ご存じのように、これは中小企業の株式を贈与又は相続等で取得した場合の贈与税・相続税について100%の納税猶予が受けられる制度です。適用を受けるためには令和6年3月31日までに特例承継計画を提出しておく必要があります。

ここで制度の詳細と適用の是非について論じることはしませんが、年齢的にも事業承継は、まだまだ先のことだと思っている方にこそ考えるきっかけにしていただきたいのです。

この税制を実際に使うかどうかは別として、とりあえず納税猶予の権利を得ておくために特例承継計画を提出していただくケースには共通点があります。

お子さんがいらっしゃるものの、後継者が決まっていないことです。

時代と言っていいのだと思います。昔と違い、多くの経営者が「子供には子供の人生がある」と考え、子供には自分の好きな道を進むようにと育ててきています。

ましてや世の中の変化のスピードが信じられないほど早くなり、3年後どころか来年すら見通しづらい経営環境です。子供に事業を継がせていいのか迷う気持ちも分かります。

しかし、経営者が50代半ばほどに差し掛かり本気で事業承継について考え出すころ、事業が比較的順調であればなお、その想いには変化が現れます。

株式の問題などを含めて社員への内部承継が実現困難であることを悟り、M&Aという選択肢も視野に入れ始めるも、「できれば我が子に継いでもらいたい」そう考え始める経営者が多いのです。

とはいえ昔と違い、この時点で子供への「洗脳」は全くできていません。
急に跡継ぎの話しをされても、子供の方は心の準備も何もできていないため、ことは簡単には進みません。無理もないことです。

もう1つの選択肢であるM&A市場はコロナ過を受けて活況です。しかし、コロナの影響を受けて業績を落としたことをきっかきに売却へと舵を切る「売り時を見誤った」企業が多く存在することもあり、市場は完全なる「買い手市場」です。

こちらが急に売りたいと思ったからと言って、その時には売れるとは限りません。
当たり前のことですが買い手にとって魅力に感じる事業・財務・タイミングでなければ買い手の手が上がることはないのです。

我が子への承継も、M&Aも決して一朝一夕にはいきません。
必要なのは経営者の覚悟と、それを受けての明確な行動による入念な準備です。

前回の税制改正大綱で見直しが明言された相続税・贈与税の一体課税については「今後、本格的な検討を進める」との記述にとどまりましたが、ここにメスが入れば事業承継計画にも少なくない影響があることは間違いありません。

思い通りに進まないことが起きるからこそ入念な準備が必要であり、それに要する期間を考えれば、事業承継は誰にとってもそれほど先のことではないはずです。

もし、本心が我が子への承継を望み覚悟を決めたなら、時代に逆らったっていいのです。

リスキリング

リスキリング(学び直し)というワードが賑わっています。

今月発表された令和4年度の税制改正大綱。かねてからの報道のとおり賃上げ税制がメインとなりました。賃上げ税制には教育訓練費も含まれます。

教育訓練費を10%以上増やせば税金を減らすという措置ですが、関連する税制は10年以上前から存在しています。しかし、中小企業において有効に使われることはありません。

それもそのはず。中小企業の教育訓練は経営者、および一部の幹部社員が中心。一般社員にはあまり使われません。そうなれば教育訓練費が大きく増減することはないからです。

では、それが悪いのか?

もちろん悪くはありません。仕事と教育はトレードオフ。新人社員ではない限り、教育に時間を割けば売上高は下がって当然。スターバックスでは店舗を数時間一斉休業して研修が実施されることがありますが、それにより失われる売上高は数十億円とも言われます。

逆に、売上高が下がらない、あるいは効果測定ができないくらいの教育訓練は“本当に有効に機能しているのか疑問”だと言わざるを得ません。売上高に直接関わらない社員についても同様です。

一人一人の社員がフル稼働することが前提で成り立っている中小企業では、休みを削ってでも仕事と研修をこなす覚悟がある層にしか、継続的な教育訓練は成り立たないと考えます。

「うちは一般社員にも十分な時間と費用を使っている」

という中小企業は、きちんと効果測定をされてみれば良いと思います。経営者も自己満足で時間とお金を使うべきではなく、トレードオフが発生していることをよく理解すべきです。なお、トレードオフが発生していないように見えるのであれば、さらに危険です。

「この研修について来れないのであれば自主退職を勧めます…」

大企業は今後も教育訓練を拡充していくでしょうが、もともと大量採用・大量退職が根底にあるため、教育訓練は合わない社員の退職を促す暗黙の仕組みとしても機能させています。

なお、「リスキリング」=「デジタル化対応」という脈絡で説明されることも多いですが、これまでのホワイトカラーを「新ホワイトカラー」or「旧ホワイトカラー」として選別し直す方法です。旧ホワイトカラーの退職を促すという意味もあるでしょう。

社員教育に時間とお金を浪費し、売上高が上がりも下がりもせず、さらには社員の新陳代謝も起こらない。みんな一緒に年齢だけ重ねていく…。その次につながらず、まるで意味がありません。

リスキリングは自社にとって本当に必要なものを行うべきであって、それについて来れない人は自主的に退職してもらうくらいの覚悟が必要です。血肉にならないようなリスキリングに意味はなく、中小企業にそのような余裕はありません。

広く一般社員にまで行うのであれば、社員の新陳代謝を促す仕組みとして行うべきであり、さらに上のレベルの教育訓練を施すのは自主的に学びを求めてくる社員に対してのみ。給与が爆上がりしなくとも、社員自身にとって意味ある学びの機会を与えられていると感じれば必ず付いてきます。

これがリスキリングの本来の目的だと考えます。

これができないのであれば、経営者、および一部の幹部社員のマンパワーで仕事をこなせばよいのです。

繰り返しますが、何も悪くありません。

インボイス制度に備える

2年後の令和5年10月1日から消費税のインボイス制度が始まることに先立ち、いよいよ来月から適格請求書発行事業者の登録申請手続きが開始されます。

現行の制度では外注先や仕入先が消費税の免税事業者でも課税事業者に対して支払った場合と同じ処理が可能ですが、インボイス制度が始まると登録事業者以外への支払では原則、消費税分を納税額から差し引くことができなくなります。

簡単に言えば、登録事業者になっていない外注先や仕入先に現在と同額で支払をすれば、その支払額の概ね6~8%程度、皆さんの会社の納税額が増えてしまうのです。

理屈としては、売上高が1000万円以下で消費税の免税事業者である外注先等にも登録事業者になってもらうように促し、さもなければ今後は取引しないと言えばいいだけですが、現実はそれほど単純ではありません。

地方においては特に、地元の外注先や仕入先が個人事業の消費税免税事業者で、今でも手書きの請求書・領収書でやり取りしているということが珍しくありません。

こうした事業者にも登録申請を行ってもらえばいいのですが、例えば直接の仕入先である農業を営む高齢者に対して消費税の申告納税義務を強いたうえで、仕入れの都度、適格請求書(インボイス)の発行を求めることには現実的に無理があります。

それでも2年後にはこの制度が始まってしまう以上、フリーランスなど小規模な事業者と取引がある企業は、これに備えておかなければなりません。

欠かすことのできない小規模な外注先、仕入先等が2年後に登録事業者にならなくても、今まで通り取引を続けることを前提とした場合に考えられる対応は2つです。

(1) 自社の税負担が増えてしまうことを受け入れる。
(2) 登録事業者にならない取引先には、インボイス制度開始後は消費税相当額を
  支払わないことを話しておく。(実質、値下げの交渉)

自社にとっては(2)を選択すれば、納税額が増えることはありませんが、免税事業者である取引先にとっては単純に売上・利益の減少となってしまいます。

いずれにしても、登録申請が始まるこのタイミングで取引先にそれとなく登録予定の有無について確認を取るとともに、インボイス開始後の影響を視野に入れて、今後の外注・仕入価格の改定に気を配った対応を考えておく必要があります。

業種によっては、小規模事業者との取引が不可欠であることが少なくなく、地元で共存していくためには杓子定規に登録申請を強いることも、値下げを強いることもできない場面が多々あることは想像に難くありません。

制度開始直前での交渉等は取引先との信頼関係を壊してしまいかねません。
自社に起こる影響を今から理解し、しっかりと意図を持って準備をしておきましょう。

知らないと受けられない「固定資産税ゼロ税制」

現在、一定の要件を満たす新規の設備投資に対して固定資産税が3年間ゼロとなる制度があることを、皆さんはご存じでしょうか。

設備導入に伴う固定資産税ゼロの措置を実現した市区町村(2021年3月末現在)
【中小企業庁HP】

この制度、コロナ過にありながら設備投資を行う中小企業を支援する目的で、拡充・延長がされていますので改めて制度の概要を確認し、知らなかったせいで優遇を受けられなかったなどということがないようにしましょう。

制度の概要をまとめましたので表をご覧ください。

生産性向上要件を満たすことについて証明書が取得可能な設備であれば、多くの種類の設備が該当し、合計300万円以上の先端設備を稼働するために新築する事業用家屋についても対象となります。適用を受けることができれば減税額は決して小さくないことが分かります。

最大のポイントは、設備を取得する前に「先端設備導入計画」の申請・認定を受けておかなければいけないことにあります。

計画を策定・申請し認定を受けるまでには、ある程度の時間を要しますので、逆算して設備導入時期に余裕をもって手順を踏まなければなりません。
設備投資を検討した時点で、皆さんがやらなければいけないことは2つです。

  • 設備投資の検討時点で顧問税理士に共有、優遇税制の適用有無について確認・相談する
  • 対象設備について工業会等の証明書が発行されるか購入先に確認する

繰り返しになりますが、検討時点での情報共有が重要です。購入した後ではもちろんのこと、「来月、機械を購入します」でも遅いのです。

設備投資に絡む優遇税制については、5年ほど前から事前に申請・認定が必要な制度へとシフトされてきています。

そのため顧問税理士にタイムリーな情報共有ができていなければ、本来受けられるはずの優遇が受けられないということが容易に起きてしまうのです。

「設備投資、検討時点で税理士へ」

ぜひ頭に入れておいてください。

なくなる?!贈与税

毎年恒例の税制改正。

コロナ禍にあって今年は税負担が増えるような大きな改正はないだろうと誰もが考える中、気になる情報が入ってきました。

今月中旬に発表予定の令和3年度税制改正大綱にむけて先月13日に行われた、政府税制調査会の会議資料に相続税・贈与税の見直しを検討する部分が含まれていることが分かったのです。

そこでは、皆さまよくご存じの年間110万円の基礎控除を利用する「暦年贈与」を繰り返す「連年贈与」を長年にわたって行うことによる税負担の減少効果が、相続のみで財産を承継する場合との比較で説明されていました。

生前贈与によって税負担を減少させることを問題視していることが明らかで、これは相続税対策の王道である「贈与税の基礎控除を利用した連年贈与」が今後、できなくなる可能性があることを意味しています。

かなり大きな改正となるでしょうから、そう簡単にメスを入れられるとは思えませんが、もし実行されれば、資産家はもちろんのこと事業承継の際に必ず自社株問題が付きまとう中小企業経営者にとっても大きなことです。

それでも今、私たちができること、すべきことに変わりはありません。

遠くない将来、連年贈与ができなくなるかもしれないことを念頭に置きながら、今できる贈与を確実に行っていくことです。

基礎控除を活用した生前贈与は地道な方法ではありますが、税制調査会が問題視するくらいですから年数を長くかけて行うほどに、その効果は実に大きなものとなります。

しかし、その地味さ故か面倒なのか、長年にわたる生前贈与対策を本当に有効活用している例は、実際はそう多くないように感じます。

コロナ禍で経済が落ち込み法人増税が難しくなる間、税制のターゲットは「持っている個人」に向かう可能性が高くなります。

今年も残すところあとわずか。

繰り返しになりますが、生前贈与は年数を長くかけるほどに効果は大きくなります。

今年の贈与はもうお済みですか?