M&Aセンターの不正会計の裏に潜む、私たちに無関係ではない問題

2月14日、M&A仲介最大手の日本M&Aセンターで過去5年間にわたって83件の不正会計が行われていたことが公表されました。大きく報道されましたので見聞きした方も多いはずです

不正会計の内容は、クロージング前の案件について契約当事者の記名(又は署名)押印部分を別の契約書類からコピー・切り貼りするなどして契約書を偽造することで契約成立を偽装、社内での売上報告時期を早めることで、前倒しに売上計上を行っていたものです。

その古典的かつ悪質な手法には驚きましたが、売上の架空計上ではなく、実在する進行中の案件について、売上目標達成のために決算時期に先食いして売上計上したわけです。

粉飾行為は言語道断ですが、今回皆さんに知っていただきたいのは、その裏に潜む、私たちにとっても決して無関係ではない別の問題です。

調査委員会による調査報告書の中から本件に関する関与者についての記載を抜粋します。

発生した不適切報告の多くのケースには、複数の関与者が存在する。
不適切報告に関する複数人関与のケースとしては、部長が不適切報告を案件担当者に指示した案件、部長又は部内関係者が売り手・買い手の各担当者と相談又は協議して明示的または黙示的な了解を与えた案件なども少なくない。これに対し、売り手・買い手のいずれかの担当者の単独行為による不適切報告は、比較的少数である(これは、M&A案件は売り手と買い手の双方の担当者が業務対応しているため、仮に、契約書の成約の事実に関する不適切報告を意図した場合においても、一方担当者だけではそれを実行し難い事情によるものと推察される)。

(下線は筆者による)

日本M&Aセンターに限らず、M&A仲介業者の多くは、売り手・買い手双方に別の担当者を付けて売買交渉の仲介を行います。言い方を変えると、売り手・買い手につく担当者は同じ仲介業者の人間です。

不正会計は、決算までにクロージングが間に合わなく、売上目標が達せられず追い込まれたごく一部の人間が最後の手段として行ったことなのでしょうが、売り手・買い手双方の担当者が同一社内にいるからこそ実行できたことは、間違いありません。

不正会計はごく一部のことでも「決算までになんとかクロージングに持ち込め」という上長からのプレッシャーが、売り手・買い手双方の担当者に対して日頃からあったであろうことは想像に難くありません。こうなると、仲介業者の決算期付近では、ベストな交渉が仲介されているとはとても思えません。

M&A仲介では、売り手・買い手双方から仲介手数料を取る、いわゆる「両手取引」が行われています。表向きはさておき、仲介業者は売り手、買い手、どちらか一方の利益の最大化を目指すのではなく、取引を成立させることを最大の目的とすることは自明の理です。

片方の当事者寄りにならない助言は理屈的には可能かもしれませんが、売り手と買い手、双方に有利になる助言は理論的に不可能です。つまり、自社側の担当者といえども100%皆さんの味方をすることがないことは明白です。

売り手にはさらなる懸念があります。

仲介業者にとって、売り手企業は今回のM&Aが最初で最後のお付き合いになる一方で、買い手企業とは複数回のお付き合いとなる可能性が高いことから買い手寄りの仲介となり、売り手にとっては不利な交渉になっても不思議ではないのです。

このように「両手取引」に問題があることは明らかですが、それでも中小企業のM&Aにおいて仲介業者は必要です。そうなると、仲介業者の都合に振り回されることなく、交渉を不利なものとしないためには、仲介業者との間に入り、100%皆さまの味方をしてくれるアドバイザーを側に付ける以外、方法はありません。

そして、その役割は本来であれば自社をよく知る顧問税理士が最も適任であるはずです。

しかし残念なことに、M&Aサポートの経験がない税理士が多く、仲介業者へ橋渡しだけして紹介手数料をもらって終わり。あとは仲介業者へ丸投げしてしまうケースが多数です。

M&Aを事業承継の出口の1つの選択肢として考えるのが当たり前になった現在、実際に出口をどう選択するかは別としても、最後の最後まで100%皆さまの味方をしてくれる顧問税理士と出会っておくことはとても重要です。

50代以降の経営者様は、ぜひ、そうした目線で税理士を選ぶことも忘れないでください。

原点に戻る

金融庁と国税庁は「節税保険」による行き過ぎた節税に歯止めをかけるためにタッグを組み、生命保険会社が設計した商品の内容を審査するほか、現場での募集実態も調べるなどして審査体制を改めるという記事が日経新聞に掲載されていました。

通達改正により、ご存じのように2019年には「全損・半損タイプ」の節税保険の販売が停止され、昨年は解約返戻金が上がる直前に法人から個人へ名義を移す「名義変更プラン」による節税策が封じ込められました。

相変わらずのイタチごっこが続くなか、さらなる抜け穴をついた商品が「まだ節税できる」と話題になっています。

2019年の通達改正後、効果のほどは別として、損金算入を目的とした場合に使える保険商品は大きく分けて2つです。

最高解約返戻率を70%超85%以下に設定した「4割損金タイプ」の定期生命保険と、1人当たり年間保険料30万円までであれば全額損金算入が可能な、最高解約返戻率が70%以下の定期法人保険と第三分野保険(医療保険・がん保険)の短期払い商品です。

これらの商品は2019年の通達改正直後から新ルールに基づく商品として法人営業の現場で提案されてきましたが、改正前と比べて損金算入インパクトが薄れてしまったことで、節税策を模索する中小企業経営者の反応はかなり鈍いものとなりました。

しかし、さらなる通達の抜け穴をついてきたのがソニー生命の変額定期保険や日本生命の長期平準定期保険です。

両社ともに定められた解約返戻金額の計算方法にしたがって、損金算入割合を判定する際の最高解約返戻率を85%以下になるように設計することで4割損金算入を実現しています。

その一方で、ソニー生命は予定利率を超えた運用を実現することで、日本生命は配当金を利用することで実際の返戻率を85%超にし、税効果を含めた実質返戻率が100%を超えてくるような仕組みにしているのです。

ソニー生命の商品は契約時に示される予定利率を用いて計算した解約返戻金額によって損金算入割合を決めてよいという通達にしたがい、日本生命の商品は配当については返戻率の計算に含めなくてよいという通達にしたがっているため、現状では合法であることは間違いありません。

出口戦略が確定しているケースでは、節税策として検討する価値はあるのかもしれません。

しかし、毎度申し上げていることですが、出口戦略が確定しているケースはかなり特殊であり、そうでないケースでは保険商品を使った節税策は単なる税の繰延でしかありません。

ましてや利益を出し続けられなければ、利益の繰延にさえならず、単に保険会社に手数料を取られるだけとなってしまいます。

全額損金算入を目的とした、年間保険料1人当たり30万円までの医療保険への加入もかなり微妙です。福利厚生として従業員の頭数だけ加入すれば、まとまった損金が作れることは事実ですが、こうした福利厚生は経営者が思うよりもはるかに従業員は有難みを感じてくれません。それならば給与をあげて欲しいと言われるのが関の山です。

抜け穴はふさがれるたびに狭くなり、通すことができたとしても効果は限定的になる一方です。今後は金融庁と国税庁が連携するとなれば、なおさらです。

経営において判断に迷い誤る時、その多くは優先すべき事項、原点を見失っていることに起因しています。

保険の目的、役割を本来の「保障」に求めるのであれば、多くの責任とリスクを抱える中小企業経営者にとって、非常に有効なツールとして助けになってくれることは今も昔も変わっていないのです。

固定か、変動か

費用の性質に、固定・変動があることはご存じのとおり。
いわゆる、固定費と変動費です。

同じように、売上高を分けて考えることができます。

私どものような税理士業界は典型的な固定性売上のビジネス。拡大に意欲的、または創業間もないというケースは別ですが、基本的に8~9割の売上高は固定しており、顧客の増減、およびスポットの仕事で変わる程度。増減が極めて緩やかということです。

「税理士は固定収入だからいいよね…」と、よく言われてはきましたが、コロナ禍の影響を受けにくい代わりに、何かをきっかけとして大きく減少すると簡単に戻すことができません。

もし、コロナ禍で税理士事務所の売上高が半減したら、最後は人員整理に踏み切らざるを得ないでしょう。雇用調整助成金でその場をしのいでも、コロナが収まればお客様が戻ってくる…というビジネスではないからです。

つまり、固定性という安定と引き換えに “復元力”がとても低い。復元力が低いにもかかわらず固定費を維持することは危険ですが、実際に固定費を半減させたら復元力は完全に失われます。固定制売上と固定費比率の高さは基本的にセットです。

ただし、例外もあり、「飲食業特化型」税理士事務所が挙げられます。
(税理士業界も特化型が流行りです)

「飲食業特化型」には明確な理由があり、それは仕事をパターン化できる楽な業種だからです。比較的規模も小さいし、複雑な税制を使う必要もありません。パートスタッフ・外注だけで回すこともできる薄利多売モデル。仕組みがあれば、雪だるま式に顧客を増やすこともできます。

そのような事務所がコロナ禍でどのようになっているのかは分かりませんが、売上高が急減していてもおかしくはありません。ただし、労働力も変動費化できているはずなので潰れることもないはず。そして、コロナが収まれば、また顧客を増やしていくでしょう。復元力は非常に高いと言えます。

つまり、固定性売上と思われるビジネスでも、得意先次第で変動性売上と化す可能性があります。当然、費用も変動費化しておくことが必要です。

売上高の変動幅が大きいということは、それだけ顧客が離れやすく、戻りやすいビジネスを行っているということが分かります。

この困難な時期、固定性売上に憧れる企業も多いとは思われますが、税理士のような独占業務を扱う専門職を除けば、固定性売上(=離れにくい顧客)は企業としての地力が求められます。地力が求められるということは簡単に売上高を増やすことが難しく、固定費比率も高くなる傾向があります。また、固定性売上の方向に舵を切ったら、簡単に止めることもできません。

結局、問題となるのは、売上高が変動することではなく、コロナ禍のような外的環境が改善しても売上高が戻らない、つまり「得意先を持っていない企業」という現実です。

この2年…。自社の売上高の源泉が、どのような顧客属性に応じているのかを気づかせてくれました。従って、この事実を踏まえず、次に向かうことは危険です。

次に日本を揺るがす外的環境の変化が起こったとき、頼みの綱が得意先ではなく、公的なセーフティーネットということであれば、コロナ禍から何も学ばなかったということになるからです。

変化

税理士業界周辺が揺れています。
ここ1~2カ月の間に顧問税理士から聞いた方も多いはずです。

「来年1月から電子帳簿保存法が改正されます」

電子帳簿保存法については、1.電子帳簿等保存、2.スキャナ保存、3.電子取引の3つに分かれ、任意適用であるスキャナ保存などについて要件が大きく緩和される一方で、義務化となる電子取引のデータ保存が大きな波紋を呼んでいます。

多くの方が既にご存じの内容かと思いますので、ごく簡単に要点だけをまとめておきます。

  • 来年、令和4年1月1日より改正
  • 電子データで受け取った請求書や領収書などのデータ(PDF等)は電子データでの保存が義務となる
  • 今までのように電子データを紙に印刷しての保存は認められない
  • データの訂正削除履歴が残るシステムで保存するなど満たすべき要件がある
  • メールで受領した請求書等のデータ、インターネットで備品等を購入した際にダウンロードした領収書、クレジットカードの利用明細書データなどが対象となる

紙で受け取った請求書や領収書は今まで通り紙で保存すればよいのですが、データで受け取ったものはデータでの保存が義務となり、取引日や取引金額、取引先で検索をかけられる状態での保存が求められています。

従業員が個人のアカウントで購入した備品や、役員個人のクレジットカード利用分なども、証票が電子データであれば全て対象となり、経費精算の際にそれらのデータを経理に集めて保存する必要がありますので、なかなか厄介な改正です。

しかも、これは所得税法、法人税法のお話しで、現行の消費税法では来年1月以降も原則、電子データで受け取った請求書等は紙に出力して保存しなければいけないというから、訳が分かりません。

正直、全ての中小企業が来年1月から完璧に対応できるとは思っていませんが、法改正である以上、対応しないわけにはいきません。

しかし、最近見聞きするのが「大変だから、電子帳簿保存法から逃げるべき」と語る一部の税理士などの専門家の存在です。

メールで請求書を送ってくる取引先には来年以降は紙で送るように求め、ネット通販でも紙の請求書を同梱してもらいましょうと言うのです。

法人税と消費税の取り扱いが異なるため、結果として電子取引に関しては、紙とデータ両方の保存が必要になるうえに、システム対応が追い付いていないため、現時点では大変だと感じるのは確かです。

しかし、令和5年10月からインボイス制度が開始すれば電子インボイスが普及し、中小企業であっても少し気の利いた企業であれば、請求書は電子インボイスでのやり取りに変わっていくであろうことは想像に難くありません。

そうなれば、電子インボイスなどのデータを会計ソフトに流し込むだけで基本的に仕訳は自動化され、経理作業が省力化されていくことは目に見えています。

もちろん最初は少々大変かもしれませんが、電子取引がまだまだ少ない今だからこそ、数年後の本格運用に備えて慣れるためのよい練習になると思うのです。

経費精算等についても効率化を見据えてルールを見直す良い機会になるはずです。
例えばアマゾンでの備品購入については全て法人アカウントで行うようにし、役員はコーポレートカードを作成すれば経費精算そのものを減らすまたは無くすことができ、電子データの保存は経理担当者に任せることができます。

数年以内に廃業することが決まっているなど特別な事情があれば別ですが、クレジットカード利用明細などは紙での郵送対応が有料となるなか、流れに逆らって紙での保存に固執するなど、正直あり得ません。

この1カ月、多くの会計ソフト会社がソフト利用者に対して、今回の改正要件を満たすシステムを無料か比較的安価で提供することを続々と発表しています。

そのため自社で使用している会計ソフトで提供されるサービスを利用すれば、それほど手間なく対応ができるとともに、進みゆく電子化対応への第一歩を踏みだすことができます。

変化には大きなストレスが伴います。
しかし、後退しての一時しのぎは何も生みません。

変化を恐れず、対応していきましょう。

【追記】
今月公表される2022年度税制改正大綱で、電子帳簿保存法に2年の猶予期間を設ける旨の報道が12月6日の日本経済新聞の記事でなされました。

着手金の重要性

先月、M&Aの自主規制団体「一般社団法人 M&A仲介協会」が設立されました。
(M&A仲介を主に行う上場企業5社が中心)

そもそもM&A仲介は誰でも行えます。取引の性質は不動産仲介に近いものがありますが、宅地建物取引士のような国家資格は不要です。現在、中小企業のM&A仲介業者は約370社とのこと。

当社もM&Aのお手伝いを行っておりますが、仲介業者としてではなく、M&Aを希望されるお客様のアドバイザーとしての役割です。中小企業のM&Aにおいて、アドバイザーの役割を担うのは税理士事務所(またはメインバンク)が多いのですが、半数以上の税理士事務所は仲介業者に紹介しておしまい(紹介料だけもらっておしまい)。お客様の交渉には踏み込まず、オーナーが変わっても顧問税理士としてそのまま残ることを希望します。

当社はお客様が売手としてM&Aをされる場合、譲渡後の契約解除を前提とさせていただきます。売手であるお客様のアドバイザーとして買手側とタフに交渉する以上、買手である新しいオーナーの下で顧問税理士になるなど利益相反も甚だしいと考えるからです。売手のお客様は初めての経験ですし、手慣れた仲介業者と買手のペースに乗せられて、あっという間に終わってしまいます。

M&Aは、買手(主に中堅企業、大企業)が取引を繰り返すのに対して、売手は1度きり。仲介業者が得意先である買手と癒着するとどうなるか…。自主規制と自ら名乗るくらいですから、皆さまもM&A仲介業界が抱える問題について想像が及ぶことでしょう。

皆さまの下にも、さも何かありそうな感じのDMやメールが届くのではないかと思われますが、オファーの99%は撒き餌です。くれぐれも「とうとう自分に!」とは思わないでください。

さて、それなりの規模のM&A仲介会社でM&Aを行おうとすると、着手金が必要となります。ただでさえ仲介報酬は高額だと言われている中、着手金まで払わないと動いてくれません(基本的に100万円~200万円)。

しかし、近年は仲介会社の競争が激しくなり、報酬相場が下落するとともに着手金も不要になってきました。件数を増やすためには報酬を下げ、着手金を無くすというのは一つの選択肢です。

ですが、これまでの私どもの経験から考えると、着手金無しは大いに疑問があります。着手金がなくなれば、買手・売手ともに「お試し」程度で手を出し始めます。実際、着手金を無くす業者は多いのですが、その分、破談になる確率が跳ね上がったそうです。

着手金ももらわず、報酬も下げる。それで仲介会社の質が上がる…とは誰も思わないでしょう。より無難な仲介が増え、仲介会社は買手側に寄り添っていきます。損をするのは売手だけ。

分かりやすく言えばこういうことです。

  • 報酬を下げる → 何かを省く
  • 着手金が無い → 急いで動く必要がない、責任もない

その結果、M&A後も問題が残る…。
今回はM&Aのケースでお伝えしましたが、これはどの仕事でも同じはず。

基本的にお金と質は比例します。本来、着手金(前金)をしっかりもらわないといけない仕事でも、遠慮したり、仕事を取りたいがためにもらわないケースを見かけます。

着手金は責任ですし、迅速に動きはじめるトリガーです。

「お客様の負担になるから…」

中には、このようにお考えの方がいらっしゃるかもしれませんが、その分、自らが負担を負っているはずです。それが本当に正しい取引でしょうか? 責任逃れの言い訳にしていないでしょうか?

自主規制が自己防衛になっては意味がありません。

M&A仲介業界には規制して欲しいものが数多くありますが、お金のハードルを下げることによって質を下げることだけは行って欲しくはありません。

会社はモノではないのです。
質を担保してもらうためにも、もらうべきものはもらっていただきたい。

そして、これは全ての仕事に言えることではないでしょうか。

無税の生前贈与

毎年恒例、税制改正論議が活発になる季節がやってきました。

今年の注目は、昨年の税制改正大綱で本格的な検討を進めることが明言された贈与税の暦年課税制度の見直しです。

もし仮に暦年贈与に大きなメスが入れば、中小企業経営者や資産家とそのご家族は財産の承継計画の見直しを余儀なくされてしまいますので、今後の改正動向には注意していきましょう。

そして、節税を目的とした生前贈与ができなくなる可能性がある今だからこそ、あらためて目を向けていただきたいことがあります。

それは両親の記憶を受け継いでおくこと。
「目に見えない財産」の承継、これも立派な生前贈与です。

両親の生い立ちや出会い、起業の経緯や過去の失敗談などの記憶を受け継ぎ、その生きざまを知ることは自分自身を知ることに他なりません。

しかしながら、両親と新旧経営者として対峙してきた2代目経営者の場合、両親との間に通常の親子関係とは異なる溝が生じてしまっていることが少なくなく、そうなると、よほど意識的にならないかぎりは、そうした機会を持つことができなくなってしまいます。

また、特に仲が悪くなかったとしても男同士であればなお、照れくささも手伝って両親がたどってきた歴史についてあらためて聞く機会など、なかなか持てないのが普通かもしれません。

しかし、両親がこの世を去った後では、どれだけ後悔してもこの財産だけは決して承継できないことを、きちんと認識しておいてほしいのです。

不動産や預金などの財産の承継も大切ですが、それと同じかそれ以上に「目に見えない財産」である両親の記憶の承継だって大切だと私は思います。

もし、まだ両親がご健在であるならば、ぜひたくさん話しを聞いておいてください。
きっと、ご両親は照れくさそうに、そして嬉しそうに語ってくれるはずです。
いつか必ず、あの時、聞いておいて本当に良かったと感じる時がきます。

お子さまがいらっしゃる方は、昔話をたくさん語ってあげてください。
受け継がれていく目には見えない財産が、いつか必ず我が子を助けます。

別れは明日来るかもしれないのです。

売り時の準備

各商品・サービス、不動産、会社…。

経営環境が変わり、これまで売り手有利だったものまでが買い手有利になり替わってきました。

M&Aは典型で、市場自体は活況であるものの、コロナ前からガラリと変わって今は買い手市場です。「買わせてください!」という買い手のスタンスが、「買ってあげてもいい…」に変貌を遂げます。

急ぐ必要がなければ「こっちからお断り!」となるのですが、いつ業績が回復するか分からない状況では、日々企業価値が減少する可能性があります。

また、残される社員のことを考えると、なるべく良い状態で良い相手にという判断が入らざるを得ません。

私どもがこれまでお手伝いした中では、企業価値がピーク時から半分程度になったケースがありました。ピーク時に譲渡を見送られたのは「残される社員のことを考えて…」という経営者の温情です。しかし、結果として譲渡せざるを得なくなり、社員は影響を受けないよう配慮されたものの、経営者の取り分は半分になりました。

売り時というものがありますが、売り時を掴むのはとても難しいことです。「よし、売ろう!」と思っても、それがピークかどうかは別問題であり、経営環境、社員や取引先などからも大きな影響を受けます。

「売る準備をしておく」と言葉にすると、あまり良い印象を受けないかもしれませんが、事業承継が前提であれば会社は必ず売られます。親族に贈与・相続させるにしても0円(税金は別として)で株式を売ったことになります。それが他人(知人または社員、並びにM&A)だから金銭の授受が発生するというだけ。

誰に売るにしても、その会社には常に時価が付いています。これは相続税評価額のことではなく、客観的な評価額です。

そして、今後の経営環境を考えると、株式を親族に贈与・相続させることを前提とした評価(相続税評価)ではなく、株式を他人に譲渡することを前提とした評価(時価評価)で考えていく必要があります。

だからといって、M&Aを勧めるという訳ではありません。しかし、親族による承継の比率は年々下がっており、M&Aすらさせてもらえない状態の会社が圧倒的に多いのが現状です。もし、皆さまが自社を廃業させたくないのであれば、長期的な計画を持って、誰かに売れる価値を持った会社にしておくことが経営者としての役割ということになります。

他人が欲しがるほどの会社であれば、親族も承継したくなるでしょう。他人が興味を示さないような会社を、親族に承継させるのが良いのか…とも言えます。

つまり、誰かが買いたくなるような会社にするためには準備が必要であり、価値を高めておくほど買い手が多くつきます。親族が手を上げれば1番手の買い手候補です。

なお、中小企業の時価は上場企業と異なり、過去と現在が全てです。スタートアップのような将来性を考慮されると考えてはいけません。つまり、時間を掛けて価値を上げていくだけです。

財務、人材、設備、技術、権利関係、取引先…。
整備すべきものはたくさんあります。

一般的な中小企業であれば、経営者が50歳前後から10年程掛けて、売る準備をするのが良いのではないかと考えております。60歳になったら売るという訳ではなく、その時に売る準備が整っているのであれば、そこからさらに10年経営するのは難しくないからです。じっくり時間を掛けてタイミングを見計らい、親族承継やM&Aという選択肢で売り時を掴みます。

もちろん、3年、5年でも形は作れるでしょう。しかし、企業価値がいきなり跳ね上がるなんて夢を見てはいけません。10年掛けて、コツコツ企業価値を高めていく取り組みが、結果として事業承継の成功率を高めます。

計画を立てながら経営をするのは苦手だという経営者は多いですが、事業承継は経営者の最後の仕事です。サラリーマンの退職とは訳が違います。これを計画せずして行うなど考えられません。

経営者は誰しも最後に会社を売るのです。
誰に売るかは考えず、売り時に価値を最大化できるよう計画的に準備を進めてください。
準備を進めるとともに、覚悟も決めてください。

価値の高い、魅力ある会社になれば、自ずと後継者が現れます。
それが結果として、親族・社員・取引先にも喜ばれることになります。

最後はどうなるかは誰にも分かりません。ですが、誰もが継ぎたいという会社にしておくことは誰にとっても損はないはずです。

限界利益率のトレードオフ

一部の業界、一部の企業を除き、売上高が上がりにくい状況が続いています。
一時的な事象ではなく、継続的な事象であることも間違いありません。

パイの奪い合いに勝てるのであれば別ですが、そうでない場合の業績改善の選択肢は限界利益率の増加と固定費の減少のみです。

これまで繰り返しお伝えしてきたように、限界利益率を上げるには以下の3パターンしかありません。

  • 変動費を変えずに売上高を上げる(値上げ)
  • 売上高を変えずに変動費を下げる(原価低減)
  • 売上高を上げて変動費を下げる(値上げ&原価低減)

これを1つの商品に置き換えると分かりやすく、その場合は数量もセットで考えることになります。例えば、販売単価を上げるのは経営者の意思決定一つでできますが、販売数量が下がる可能性があります。従って、実際には意思決定ができない経営者がほとんど。

販売単価にかかわらず販売数量が変わらないのであれば、品質に応じた販売単価を設定すべきです。圧倒的に多く見受けられるのは、品質よりも単価が低いケース。“良いものを安く”という日本企業特有の傾向であり、最近ではこの点について取り上げられることも多くなりました。消費税率が海外主要国よりも低いのは同様の理屈です。

しかし、値上げではなく原価低減であれば販売数量が下がらない…それができるのであればどこもやりたいことでしょう。原価低減は以下の選択肢が主になります。

  • 材料費の単価低減
  • 材料費のロス削減
  • 外注費の単価低減
  • 外注費の内製化

単価低減で考えられる方法は「仕入先の変更・集中」「大量仕入・期間仕入量の約定」。仕入を外注と置き換えても同じです。

ただし、原価低減にもトレードオフがあります。以下、ワークマンの記事です(日本経済新聞電子版2021年8月6日付)。

『PBの粗利益率は40%程度でNBに比べて3~4ポイント高い。ニーズも素早く反映できる小売りには都合の良い商品で21年3月末の商品数は1700と2年で7割も増えた。

ただ、PBは価格を抑えるために委託先に大量発注する必要があり、「段ボール1箱単位で注文できるNBより在庫が膨らみやすい」(同社)。21年6月時点のPB商品数は1年前から1割削減した。19年秋冬に前年比約2倍生産し過剰在庫を抱えたため、21年秋冬商品の生産量は前年比10%増に抑える。』

ご存じのように、ワークマンは低価格・高機能のPB商品の大量投入でブームを迎えました。利益率の高いPB商品を生み出すためには大量仕入れが必要であり、それにより過剰在庫・在庫破棄の危険性が高まります。

原価低減の一つ、「外注費の内製化」も同様で、社内人員に置き換えれば確かに限界利益率は高まるのですが、上手く内製化できなければ固定費の負担増で終わってしまいます。

逆に言えば、トレードオフで起こりうるデメリットを折り込んで対策していければ改善の連鎖が続きます。

なお、ワークマンはこの状況を踏まえて、現在では在庫問題が改善されつつあるとのこと。需要予測システムの導入等も進んでいるようですが、システムの導入で在庫管理を適正水準に保つため、多大な投資が必要になるはず。これもトレードオフ。

この需要予測システムが上手く機能するのかは分かりませんが、この流れでDXが進められている限りは理にかなっていると考えます。

「この作業が大変だからシステム化しよう」、「古くなったシステムを入れ替えよう」は本来の意味でのDXではありません。DXはメリットだけではないため、トレードオフの連鎖の一つとして捉えなければなりません。

絶え間ない改善の連鎖で有名なのはトヨタですが、中小企業の悪いところは一つの改善で止めてしまうことです。改善がトレードオフである限り、連鎖を止めることの方が危険です。

以上、今回は限界利益率のお話から展開しましたが、会計データは“全ての出口”です。

出口から遡って改善の糸口を探るのは有効ですので、トレードオフの連鎖で改善点を導き出してみてください。

その結果、売上高まで上がることは、よくあることです。

生きるための対策

このところ相続、贈与に関するご相談が増えています。最近特に多いのが、お付き合いのある銀行、保険代理店、証券会社などから提案される、信託、生命保険、不動産など、それぞれが扱っている商品を利用した対策に関するものです。

状況に適した商品を適切なタイミングで選択すれば効果的な対策を取れることがあるのは事実ですが、残念ながら提案の多くが、その方にとって本当に必要かつ有効であるとは思えないものばかりです。

それもそのはず、「相続税の申告が必要なくらい財産を持っている」ことだけを知っている人が、「自社が扱っている商品」を売りたくて勧めているだけですから当たり前です。

私が積極的に相続対策を勧めるのは、何も対策しなければ納税に困るケースや争いに発展するケース、1億円以上の預貯金を保有する富裕層で既にご高齢なケースなどに限られます。

理由は明快です。

平均寿命が80歳を超え、特に女性は90歳から100歳くらいまで生きることを前提に考える必要がある現在、生きている間お金の心配をしなくて済むこと、愛する子や孫たちに金銭的な負担をかけないように備えておくことのほうが、後の税金対策よりも重要だと考えているからです。

長く生きれば病気をして入院することや、施設に入ることだってあるかもしれません。いつどれだけのお金が必要な状況になるかわからないのですから、お金はいくらあっても邪魔にはなりません。優先すべきは十分な手元の預貯金確保です。

そう考えれば「特別なことはせず、お金を減らさない」ことも立派な対策なはずですが、それでは商売にならない人が、相続税対策を理由に預貯金を流動性の低い他の資産に姿を変えさせてしまいます。

人生においても経営においても選択肢が多い方が有利なこと、手元の預貯金こそが選択肢を広げてくれることは、コロナ過を経験した皆さんには言うまでもないことです。

高い手数料を支払うことになる相続対策商品や、特例的な税制を駆使して贈与を実行していく必要があるようなケースはごく一部であり、そうしたものに頼らずとも愛する子や孫への感謝の気持ちや想いを形にする手段はあります。

まずは、ご自身と配偶者が幸せに長く生きていくための対策を第一に考えていきましょう。

重点配分

東京オリンピックにて熱戦が繰り広げられていますが、日本のメダルラッシュが注目を集めています。

もちろんホームでの開催という最大のメリットはあるのでしょうが、競技強化費の重点配分も取り上げられていました。

同庁は各団体の強化策や大会成績をもとに競技団体を5段階評価。最上位のSランクは約30%、Sに次ぐAランクは約20%強化費を上積みする方針を示した。リオ五輪後の16年にまとめた「鈴木プラン」で示した選択と集中を具現化した。Sランクには柔道や体操など5競技。Aランクにはスケートボードやソフトボール、スポーツクライミングなど10競技が選ばれた。


~中略~

英国と異なるのは幅広い競技に配慮した点だ。強化費を支給しない競技もある英国と異なり、柔道や体操などの「お家芸頼み」脱却を目指す日本は、最上位の水泳と最下位のゴルフの格差を10倍以内にとどめ幅広い分配に取り組んだ。

(日本経済新聞:2021年7月30日)

重点配分は行いつつ、公平性にも配慮するというのが日本らしいですが…結果を求めるためにはリソースの重点配分が必須なことが分かります。

話は変わりますが、一年掛けて募集している事業再構築補助金。苦しんでいるが、やる気がある中小企業に重点配分しようという補助金です。しかし、採択された案件を見ても、「本気か?」というような内容が数多く見受けられます。補助金を目当てに、逆に負債を抱えたと言わざるを得ません。つまり、「その事業、絶対にやってはダメでしょ!」という案件がとても多い印象です。強みを強化するどころか、借金して不足しているものを必死に埋めようしています。

また、近年急速に進むDX。強みを強化するという観点よりも、効率化に重点が置かれているように思われます。もちろん、強みに対してDXが不要であれば別ですが、よほど俗人的なサービスでない限り、不要ということはないでしょう。

そして、DXが目的となり、その前段階の現状把握と課題設定が不明確。導入したら大混乱、想定外のことも起こって、むしろ手間が掛かっているということが少なくないはずです。

公平性や効率化より、中小企業が勝ち残るためには「強み」です。そもそも強みが分かっていなければ重点配分もできません。

何を伸ばし、何を切り捨てるのか…。選択と集中、重点配分…。
言葉としては理解していても、実際に行動に移せる方は多くありません。

スタートラインに立つ前に、そしてお金をかける前に、自らを理解して臨まなければなりません。

「その強み、むしろお金を掛ける必要すらないよ!」というケースもあるくらいですから。