創業者の後継問題

日本電産、永守さんの後継候補が退任との報道…。
毎度のことですが、カリスマ創業者からのバトンタッチは一大事です。

ユニクロの柳井さん、ソフトバンクGの孫さんも後継者問題についてよく取り上げられていますね。

ちなみに、現在の3人のご年齢は以下のとおり。
 ・永守さん(78歳)
 ・柳井さん(73歳)
 ・孫さん(65歳)

あまりにも高い経営目標を掲げるゆえに、この3人の経営者は「大ぼら3兄弟」と呼ばれているそうです。同じように成果を出す人材のみが後継者ということなのでしょう。

この3社の後継者問題をややこしくしているのは、3兄弟の体力が衰えても自分の手足として動く忠実で優秀な部下がそろっているという点です。今回の日本電産も大番頭の73歳の幹部が中継ぎを引き受けるとのこと。これがカリスマとして君臨しつづける仕組みでもあります。

しかし、忠実、かつ優秀であるがゆえに後継者となるような部下はおらず、3社とも外部から招聘しては失敗するという皮肉…。

自分が求めている方向性で成果が出なければクビ。
自分と方向性が異なればクビ。

自分が求めている方向性で、自分並みに成果を出したときに合格。
ですが、それは無理筋ということはご本人たちも分かっているはず。

仮に後継者が業績を伸ばせるとしたら、節目でいち早く引き継いだ場合のみ。基本的にイケイケドンドンの時期に後継するなどあり得ません。失敗も目に見えています。そのため、ここまで来くると3社の株価が低迷をつづけたタイミングでしか退任は難しいかもしれません。結果が出るかは別として、仕切り直しは後継者の専売特許ですので。

一方、中小企業は後継者問題の先送りが破滅に直結します。そもそも、自分の手足として動けるような忠実で優秀な部下はいません。いたとしても一人か二人。もちろん後継者にはなり得ません。経営者の体力の衰えがそのまま会社の急激な衰退につながります。

中小企業こそ社内昇格など夢のまた夢ですから、親族が継がないのであれば早めに外部に引き継いでもらい、存続を優先しなければなりません。3社とは異なり、事業承継の時期に会社が下降曲線を描いていたら目も当てられません。

なお、日本電産の報道と同じ時期に稲盛さんが亡くなられました。同じくカリスマと称された稲盛さんは50代半ばで京セラの社長を退任し、73歳で取締役も完全に退任されています。現KDDIを含め、創業した会社に固執することなく、道筋をつけた上で、きれいに身を引いてきました。時代が少し違うとはいえ、やはり対照的です。

稲盛さんは創業した京セラの社長を退任されても、最後はJALの会長まで引き受け、経営者として活動をつづけられたのは周知のとおり。

後継者問題を引っ張りつづける大ぼら3兄弟が引退した後、この3社の5年後、10年後がどうなっているのか見ものです。その結果によって、カリスマ創業者としての最終的な評価が下されるのでしょう。

中小企業の経営者である皆さまも、体力の限界まで事業承継問題を引っ張らず、自社が下降曲線を描く前に決着をつけてください。例外は、一代限りの会社のみです。

親族に承継するにしても、外部に譲渡するにしても、その準備に最低5年は掛かります。

そして、後継が早ければ、次の経営者人生も待っています。
創業した会社、引き継いだ会社がすべてではありません。

安全・安心の対価

原料高、エネルギー高で次々と値上げが実施され、“値上げせざるを得ない”商品・サービスが苦戦する一方、値上げされても需要が落ちない、むしろ伸びていくものもあります。

その違いは何なのか?

その一つに『安全・安心』があるということは皆さまもお気づきのはず。高くても安全・安心なものを買い求める…それが心理的なものか、物理的なものかはそれぞれですが、結局は不安の裏返しなのでしょう。

たとえば、エネルギー高不安から光熱費を抑えるための高額な商品が売れたり、環境不安から割高なSDGs的商品が売れたり、事故やあおり運転に対する不安から安全機能が充実した自動車が標準(標準価格の値上げ)になっています。

したがって、私たち中小企業も、改めて「安全・安心は有料(付加価値)になった」という現実から自社の商品・サービスの見直しを行う必要があります。

ちなみに、安全・安心がキーワードの商品として私が思い浮かんだものはホームセキュリティ。以下は経済産業省のサイトに掲載されている市場規模の資料です。

『機械警備対象施設数の推移』

一昔前までは「お金持ちのお宅が…」というイメージがありました。しかし、近年では犯罪対策のみならず、共働き世帯の増加による子どもの見守りニーズ、高齢者の見守りニーズなどの増加で市場が伸びています。安全・安心の有料化の典型でしょう。

コロナ禍で環境整備にお金をかけて安全・安心をアピールしても、提供する商品・サービスが変わらなければ対価にはなりません。コストだけ増えて終わり。

「コロナの影響で…」、「原料高で…」と値上げについて謝罪する書面が店頭に貼られたりしていますが、多くの人はそのようなことを求めていません。目に見える具体的な安全・安心を求めているはず。

SDGsの良し悪しは人それぞれでしょうが、好まれる方々は『持続可能』のために割高を許容します。中小企業が持続可能となるためにも割高を許容されるようでなければなりません。

そして、重要なのは、仮に価値があったとしても、競合よりも中途半端に高いくらいでは安全・安心を感じにくい(むしろ不安になる)消費者も多いということです。「価格は2倍だけど、効果は3倍!」などとはっきり伝えられた方が安全・安心を感じます。

割高で高付加価値なものはニッチな市場であり、数は出ません。しかし、手間暇かけた以上のものを回収できる市場でもあります。まさに中小企業のためにあるような市場。

皆さまもお客さまに安全・安心を提供できているか、そこに付加価値はあるか、その対価を回収できているか、いま一度検討されてみてください。

ゾンビは現実を見ない

質問です。
「皆さんの会社の先月末の預金残高と借入金残高はどれくらいですか?」


帝国データバンクは先月27日、「ゾンビ企業」に関する初の調査結果を公表しました。

ゾンビ企業の定義は設立10年以上の企業で、営業利益や受取利息の合計を支払利息で割った数値である「インタレスト・カバレッジ・レシオ」が3年以上にわたって1未満の企業となっています。

  【インタレスト・カバレッジ・レシオ】
  事業利益(営業利益+受取利息+受取配当金)÷(支払利息+割引料)

要は実質的に経営がほぼ破たんしているにもかかわらず、金融機関、政府などの支援によって生きながらえている企業のことです。

帝国データバンクの調査で経営実態があることが確認できている146万6000社に当てはめて試算したところ、ゾンビ企業は2020年度時点で約16万5000社にのぼり、前年度から約1万9000社増えたそうです。全体の1割強がゾンビ企業ということになります。

コロナ過がゾンビ企業を増加させたことは明らかですが、一歩手前の予備軍を含めれば、おそらくその数は倍以上となるはずです。

しかし、ゾンビ企業とその予備軍の経営者には、その自覚があまりありません。
理由は簡単です。経営がうまくいっていない企業にかぎって、自社の状況を正しく把握していないのです。冒頭の質問に答えられない経営者が大勢います。

金融機関がお金を貸さないほどに経営が悪化すれば、普通はさすがに気がつきますが、コロナ過で国が進めた大盤振る舞いは、経営者の現実を見る目をふさいでしまいました。

行動制限で大幅に売上が減少し営業損失に陥るも、各種協力金、助成金、支援金などを受けたことで経常黒字の決算書。損失を補填するための支援金で車を購入する経営者がいます。

事業再構築補助金の登場で、補助金が出るのならば新規事業を始めたいという「補助金ありき」の設備投資の相談を何件も受けました。もちろん、補助金は大いに利用すべきです。

しかし、新規事業への取り組みには、経営者の思いと覚悟が必要です。補助金が出るならやるけど、出ないならやらないという新規事業が上手くいくとはとても思えません。仮に補助金が採択されなくてもやるんだという覚悟が絶対に必要です。

公表されている採択がおりた事業計画を見ると、疑問符がつくものが少なくありません。
補助金によって始めた事業が、さらなるゾンビを生まないことを祈るばかりです。

コロナ過は依然として続いていますが、各種支援は縮小され、コロナ融資の返済は始まりだしています。ウクライナ危機をきっかけにあらゆるものの値段が上がり、今月初めには過去最大幅での最低賃金上昇が報じられています。

ゾンビ企業が倒産し、予備軍がゾンビになるケースが増えるのは、まだまだこれからです。
油断すれば誰しもが予備費になってしまう可能性があります。

さて、もう一度質問です。
「皆さんの会社の先月末の預金残高と借入金残高はどれくらいですか?」

状況は現実を正しく見ることでしか変えることができません。
即答できなかった経営者は要注意です。

中小企業の物理的な構造

前回のお話の続きです。

前回はデータのお話をさせていただきましたが、今回は物理的な構造です。
まず、この画像をご覧ください。

『シンク画像』

これが典型的な中小企業の状態であり、日々、このような感じであると思われます。

水栓から出てくる水が仕事、排水溝へ流れていく水が売上げ。
前回はこれをデータの入口・出口と表現しました。

皆さま十分ご承知のとおり、仕事の問い合せがスムーズに売上げにつながることは稀です。この画像のように、売上げへの到達を阻害する負のフィルターが何重にも積み重なっているからです。

そのため、水栓を全開にすれば水がシンク外にあふれ、あわてて閉めれば仕事も減る。どの企業もこの状態を繰り返し、自社の現状に観念すると、シンクからあふれないギリギリの水の量でやり過ごすようになります。これが縮小均衡へと続く道…。

誰しも、シンクにたまった洗い物・食べカスを片づければよいと分かっています。それでもなかなかできません。リスクを取ることを恐れない(または何も考えない)経営者が次に行うことは、シンク自体を大きくするという突貫工事です。シンクを大きくしても、片づけができなければ元通りになるということも後から気づきます。リスクだけが増え、リターンは薄い…。

つまり、皆さまの会社の構造をシンプルに表現すると、キッチンのシンクと同じ。中小企業が大きくなれない、大きくなっても利益が出ないという構造上の問題もここに集約されています。逆に言えば、洗い物・食べカスの片づけ(火消し)を優先する企業がそれほど少ないということです。

繰り返しますが、水栓から出てくる水が仕事の流れです。スムーズに流れるかどうかでスピードが変わり、排水溝に到達する量で売上げが変わり、水の透明度が利益率の高さに比例します。

シンクがきれいに片づいており、水栓から出てくる水がスムーズに排水溝に流れていけば、おのずとお金はたまります。水があふれることもなく、ムダが出ません。

経営者が決定すべきことは、水栓をどの程度「開いていくか」の方針です。

水が排水溝まで届かない、外にあふれ出そうだということであれば、売上げを捨てる覚悟で閉めなければなりません。ここで注意すべきは一度閉めた水栓を再び開けたときに仕事が戻るとは限らないということ。状況は刻一刻と変わっています。

ここまででお分かりのように、中小企業の問題は火消し作業をせずに水栓の開け閉めだけで経営を行おうとすることにあります。

中小企業でも売上高が大きくなっていく企業は水栓を大きく開いています。水を多く流します。売上高の増加に伴い規模も大きくなっていく企業は、汚れ物も食べカスも残らないようにシンクを常に整理しています。

“大きくならない”と決めた中小企業は、お客さまから「水栓をもっと開けてくれー」と言われても、頑なに維持します。

また、本来であれば、水栓を開く前に水がきれいに流れるルートをあらかじめ構築しておくのが理想です。これがいわゆる『仕組み』と言われる構造。

“ししおどし”のように一定の水がたまったら自動的に流れるような段階を組み込んでおき、都度介入しなくてもよいようにしておきます。中小企業はリソースに制限がある以上、ある程度のクッションは必要であり、水をストレートに排水溝に流せばよいという訳ではありません。そうしないと経営者がいつまでたっても現場から離れられません。

しかし、既に水栓が解放されている状態では、理想的な仕組みを構築し直すというのは現実的に無理があります。できることと言えば、片づけながら徐々に仕組みを導入していくこと。

なお、稀に見かけるのが、仕組みの見た目はきれいなのだけれども、水はいつまでたっても排水溝まで届かない…という複雑な構造になっているケースです。

中小企業の仕組みはピタゴラスイッチである必要はありません。仕組みを作るのは中小企業の経営者であり、実行するのは中小企業の社員です。レベルを合わせなければなりません。また、シンプルではない仕組みは一度破綻すると余計混乱します。

以上、ものすごく抽象的なお話でしたが、中小企業の経営はこれだけで決まっていると言っても過言ではありません。

データでも人でも物でも、シンプルに構築し、シンプルに運用する。
それだけです。

お客様のためにお客様を減らす

東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、新型コロナの収束後も入場制限を続ける方針であるという記事が6月22日の日経新聞に掲載されていました。

コロナ過で国や県から入場制限を求められたことでチケット争奪戦が起きたものの、来園者からは「アトラクションの待ち時間がなくなり、従来より楽しめた」という声が聞こえたことが、拡大路線を続けてきた運営方針を転換する大きなきっかけになったそうです。

新型コロナ収束後もコロナ前の最大8割程度にとどめる制限を続けることでアトラクション利用前の長時間の行列を解消し、顧客満足度を高めるのが狙いです。

昨年、開業以来初の1年に2回の値上げを実行したオリエンタルランド社。
コロナ前の2018年は7,400円であったワンデーパスポート(大人)料金が昨年10月からは曜日などによって異なる7,900円、8,400円、8,900円、9,400円の4段階に改定されました。

『料金と来園者の推移』

公式カレンダーを確認すると、改定前の平日料金8,200円より安い7,900円の日はかなり限られており、改定前の休日料金8,700円よりも高い8,900円、9,400円の日が多く設定されていることが確認できます。

先日公表された2021年度の決算では来園者数は当初予測を上回るも、コロナ前の2018年のわずか37%の1205万人まで減ってしまいました。一方で、ゲスト1人当たりの売上高は14,834円にまで上がり、来園者数が6割超減少したにもかかわらず、テーマパーク事業単体で営業利益25億円を計上しています。

過去最高のゲスト1人当たり売上高を記録し、テーマパーク事業で916億円の営業利益を出した2018年度決算でさえ、その数値は11,614円です。2021年度のゲスト1人当たり売上高14,834円がいかに驚異的な水準であるかが分かります。

中期経営計画では2024年度の来園者数目標を2018年の実績3255万人の8割弱に相当する2600万人としていますが、1人当たり売上高の伸びを見れば、来園者数を2割減らしても収益は十分に確保できる計算が容易に成り立ちます。

値上げを考えた際に経営者の頭を真っ先によぎるのは、顧客離れによる売上高減少の恐怖です。しかし、当たり前のことですが、売上は【売価×販売数量】ですので、売価を上げることができれば客数は減ってもかまわないはずです。

客数が減少しても利益が減らなければ、値上げは成功。客数が減った分、生産性は確実に向上します。客数が減少すれば、値上げを受け入れて残ってくださったお客様へのサービスを今よりも充実させることができます。

値上げ後に残っていただいたお客様の多くはファン客のはずです。
オリエンタルランド社は値上げをしたうえで意図的に来園者数を減らし、利益を減らすことなく、ファンであるお客様に、より満足していただこうとしているわけです。

値上げは、既存の大切なお客様を、より大切にするために必要なこととも言えるのです。

データの木を見て森を見ず

『先行指標』『遅行指標』という経営指標の考え方があります。

因果関係がある入口(先行)と出口(遅行)について測定できる数値のことです。

会社業績で例えれば、先行指標を『問合せ数』、遅行指標を『売上高』と設定した場合に、問合せ数をタイムリーに抑えておけば先の業績がざっくり管理可能…というイメージです。

もちろん、先行指標と遅行指標の『間』には数えきれないデータ(金額、件数、人数、%など)が存在し複雑に絡み合います。それでもあえて単純化すれば、「平均契約率50%」、「平均販売単価100万円」というデータだけでも、月100件の問合せ(入口)で平均月商は5,000万円(出口)と見込みが立つわけです。

「あたりまえのことを今さら!」とツッコミが入りそうですが、経営をこのように単純化して考えられない中小企業がおそろしく多いのも事実です。

つまり、現状把握ができていません。自社のパフォーマンスデータが分かっていません。問合せ数が多ければよいとは分かっているものの、その根拠となるデータが曖昧なので先行き管理ができません。

経営者に質問しても「だいたいこのくらいかなー…」という感じで、実際のデータを分かっている方は少ないはずです。

さらに、データを集計している中小企業自体は少なくはない…という実態が問題をややこしくしています。とくにインターネットでビジネスを行っている企業がデータを活用するのは当然のことであり、たくさん集計し、たくさん保有しています。

ここで、一つの仮説として「データをたくさん保有していれば業績がよいのか?」という点に行き着きます。

「データを制するものは…」の論調で語られる近年のデータドリブン経営。データを使えないのは〇〇だくらいの勢いです。

ですが、データはファクターの一つであり、それ自体が目的ではありません。経営に必要なデータは昔から変わっていません。

データを本当に分かっている経営者は、より少ないデータでシンプルに判断しようとします。データドリブン経営とは口にしません。

会社経営というレイヤーにおいては、業績改善の目的のためにデータが必要なのであり、頂点のデータだけでは不十分な場合に直下の関連データを細分化していくイメージです。最初から現場のデータを分析しても、会社全体の業績には直結しません。

たとえば、店長に単価を変える権限がなく、かつ売上目標を与えられているのであれば数を追うしかありません。お客さまの回転率というデータですが、回転率を上げようと思えば人手も掛かります。人手を掛けたくても人件費を増やす余裕はなく、人手を掛けてもきっと儲からない…。ジレンマです。

ここで経営判断として単価を倍、客数を半分と決めてしまえば、店長が数を追う必要はなくなります。ついでに人手も7割で済むのであれば、回転率は低い方がよいという真逆の結果です。

最近は現場の社員にもデータを使わせるケースが増えてきました。しかし、最も重要なのは経営判断です。この判断をもとに現場にデータをおろします。経営判断を伴わないと、細かいデータが乱立し、現場はデータに振り回されます。そして、データをいくらこねくり回しても業績はよくなりません。

繰り返しますが、データを生かすためには明確な目的が必要であり、目的があいまいなままデータを振りかざせば、ムダな時間とコストが掛かります。

中小企業はグローバルな大企業とは違うのです。経営者が方針を決め、その方針の実現のために必要なデータをシンプルに活用すれば十分です。

とくに中小企業は経営判断のデータと現場判断のデータを同じレイヤーで議論する傾向が強く、値上げ一つとっても、経営の問題から判断せず、現場のデータを使って検討するのです。

このメルマガでは値上げ値上げとしつこく表現していますが、それは値上げが他のデータを無効化できるほど圧倒的なインパクトがあるからです。単価決めはデータドリブンではなく、方針です。

以上、ここまではデータドリブン経営に対する苦言でした。

なお、近年では先行指標と遅行指標だけでは不安に駆られる事態も発生しています。それは、モノ不足、人材不足、コロナや戦争における『滞留』という要因です。

先行指標が好調でも、遅行指標として結果が出るまでの期間が長期化しているという現実に対応しなければなりません。そのため、『中間指標』または『滞留指標』と表現すべき指標も必要となってきています。これは入口から流れてくる指標がスムーズに出口に向かうよう折返し地点に番人を設けるという意味です。

ちなみに、先行指標、遅行指標に目標管理を考慮したものが流行りの『KPI』『KGI』とお考えいただいてよろしいかと思われます。

皆さまも目の前にデータを広げすぎていないか、口だけのデータドリブン経営になっていないか、いま一度確認されてみてください。

最低賃金が経営を変える

今月7日に閣議決定された「新しい資本主義の実行計画」の工程表に、「最低賃金についてはできる限り早期に全国加重平均が1000円以上となることを目指す」ことが明記されました。具体的には2025年度までの達成を目指すとのことです。

全国における現在の最低賃金と、全ての都道府県が1000円まで引き上げた場合の上昇率を一覧にしてみましたので確認しておきましょう。

『最低賃金一覧』

現在のところ1000円を超えているのは東京都と神奈川県のみ、最も低い高知県と沖縄県は820円です。800円台にとどまる多くの県が1000円を目指すには110~122%ほどの上昇率となることが分かります。

政府がかかげる1000円以上という目標数値は全国平均ですが、現在が930円ですので、あと3年で全ての都道府県において概ね108%ほどの賃上げが求められることになります。

私たち中小企業にとって楽な目標値でないことは確かですが、最低賃金額での募集ではなかなか人が集まらない状況は都市圏では既に何年も前から始まっており、ここ数年で地方でも似た状況になりつつあるのはご存知のとおりです。

他社よりも高い給与を支払うことができなければ、優秀な人材どころか、単純な労働力の確保すら難しくなってきていることを強く認識しなければなりません。

売上を数で稼ぐことが難しい中小企業における解決策は1つ。
価格を上げて賃金の原資となる付加価値額を向上させていく以外にありません。

今後3年で最低でも賃金の108%程度の付加価値額向上ができない企業は事業を続ける資格がない。私たちはいま、政府にそう言われているのです。

しかし、値上げはそう何度もできるものではなく、最低賃金上昇に応じて毎年値上げを繰り返すわけにはいきません。

つまり、目の前のコスト上昇分だけを転嫁する値上げではダメなのです。
単なる価格の上げ下げが通用するほど簡単でも単純でもありませんが、やるからには少なくとも向こう何年は値上げしなくても大丈夫だという計算が立つかたちでの対応が必要です。

ここから先の価格戦略(値上げ戦略)が持つ意味は今まで以上に大きく、存続に関わるものであることは間違いありません。

「価格を上手に上げていくことができない中小企業は生き残れない。」

このことを強く肝に銘じておかなければなりません。

値上げの事前準備

『FLR比率』をご存じでしょうか?

  F・・・Food(原価)
  L・・・Labor(人件費)
  R・・・Rent(家賃)

飲食業でよく使われるコスト構造を表す比率です。

売上高に対して3つの費用の合計比率が〇〇%以下であれば「理想的だよね!」というもの。3つの合計で考えるのは、それぞれの費目がそのお店の特徴かつ利益の源泉につながるため、1つだけでは比較不可能だからです。

例えば以下のような感じ。

  • Fを上げて、良い食材を使い、コスパを特徴とする。
  • Lを上げて、良い人材を使い、料理の質を高め、あるいは接客の質を特徴とする。
  • Rを上げて、良い立地を使い、客数を増やす。

FLR比率が高いということは売上高が相対的に低いということであり、逆に低ければ高い利益をあげていると考えられます。

Fは変動費(比率)ですが、LとRは固定費(金額)のため、この分析は売上がある程度一定というコロナ前の経営が前提でした。売上高が激減すれば、変動費は連動しても固定費の比率が激増するからです。

近年は人件費・家賃と上がり続け、コロナ禍で少し落ち着いたところに今度は原料高、エネルギー高と続きます。人件費も再度上がり始めている。家賃は移転すれば下げることもできますが、Rを活かして集客していた店舗はRを下げてやっていけるのか…。

皆さま、頭が痛いことだと思われます。

毎度のことですが、結論からお伝えすれば、中小企業の解決策は値上げしかありません。さらに、今後継続的にコストが上がり続けることを想定すれば、値上げも継続的に行う必要があります。

コストは企業努力で下げるべきという論調もありますが、規模の追求ができない中小企業では効果は見込めません。

同じ場所、同じ人でやっている限り、F・L・Rが今後下がることはあり得ないのですから、経営を続けていく限り売上高を引き上げるしかありません。そして、数がさばけない中小企業は単価を上げるしかありません。

したがって、自社の生命線であるコストの合計比率が一線を越えたら『値上げをする』、『値上げは定期的に行う』、『次の値上げのタイミングまで耐えられる値上げ幅を検討する』と、あらかじめ決めておき、機械的な判断できるような準備をしておくことが必要であると考えます。

あくまで売上高が著しく増減しないという前提ではありますが、コロナも落ち着いてきた現在ならFLR比率のようなアプローチも運用可能かと考えます。そもそも、今後ずっと続くことなのですから、値上げのたびに悩んでいたら気持ちが持ちません!

Fは飲食業に当てはまるものですから、他業種では売上原価を用いればOKです。限界利益率が極めて高い企業であれば原価を外して問題ありません。また、来店型ではない企業であればRは基本的に不要で、代わりにA(広告宣伝費)が入ってくるかもしれません。

私どものようなBtoBの専門サービス業はLがすべてですが、当社は2番目に高い比率がS(システム・ソフトウェア・クラウド関連費。原価および原価外費用含む)で、この2費目だけで十分判断可能です。

基本的に3費目で管理すれば十分であり、業種によっては2でも問題ありません。比率が高い管理すべき費目が4つも5つもある企業は利益が出ていないと言い切れます。

特定の費目がライバル企業に比べて突出して高く、それを活かした経営を行うというのが中小企業のやり方です。そのため、全体的に高いということは特徴が無く、ただ存在しているだけの企業です。このようになっては継続企業として危うい。

とはいえ、飲食業を例にとっても、近年はキャッシュレス決済費、グルメサイトの手数料、予約やレジのシステム費など、一つ一つは薄いものの、じわじわと体力を削られる費用の比率も増えています。

ですから、飲食業でもRは管理外と割り切れるのであれば他の費目(場合によっては複数をまとめて)と入れ替えることが考えられます。

なお、ここまで書いていまさらですが、値上げを行って売上が上がるかどうかというのは別問題。価格決定権が無い商品・サービスを売っていて値上げを行えば、数の急減の可能性があります。

結局、中小企業の努力はコスト削減よりも、価格決定権を持つ商品・サービスの開発に振り向けるべきであり、タイミングについては事前準備がすべてです。

値上げのタイミングについてはさまざまなアプローチがありますが、自社のコスト構造を監視し続けるということも選択肢の一つとお考えください。

中小企業の内部通報リスク

完全に匿名で、非常に簡単に、ボタン一つ脱税に関するタレコミができます。

それは国税庁のホームページに設けられている『課税・徴収漏れに関する情報の提供』制度です。

中小企業を念頭におけば、通報者は親族、社員、取引先、経営者仲間などが挙げられます。通報者は限定されるとはいえ、記録が残らないのは恐ろしい…。ちなみに以下がこれまでの情報提供例です。

  • 租税回避スキーム(節税商品特定の取引手法を利用した租税回避など)に関する情報やその組成・販売をしている者又は利用をしている者に関する情報
  • 虚偽売上金額(収益)必要経費(費用)に基づく経理等により、不当・不正に所得金額等を低く(又は還付税額を多く)申告している者およびその手口の情報
  • 事業が活況を呈するなど、申告する必要があると考えられるにもかかわらず申告をしていない者に関する情報
  • 他人名義での取引他人名義の口座等を利用した取引又は事実に基づかない契約書、領収書、請求書、納品書等の書類の作成、交付、作成依頼等(白紙領収書等の交付依頼等を含む。)を行っている者に関する情報

  • 海外で稼得した所得に係る課税を免れている者各国の税制の違い・租税条約を利用して課税を免れている者に関する情報
  • 国税を滞納しているにもかかわらず、財産を隠匿している者に関する情報
  • 上記のような者の協力者に関する情報

実態としては何ら問題はないケースでも、そのような疑念を他人に抱かせるような言動が、税務当局への通報につながる可能性があるということです。

なお、脱税のタレコミのお話から始めたのは、6月1日から、改正された内部通報制度(公益通報者保護制度)が施行されるからです。

内部通報制度を簡単に説明すると「企業不祥事が相次ぐことから、その隠蔽を暴くための内部通報を行った社員を解雇などから守り、企業も通報に対して適切に対応することを求める」ためのものです。

これが義務化されるのは従業員300人超の企業であり、ほとんどの中小企業には関係がありません(従業員300人以下は努力義務です)。

無関係とはいえ、このような制度が知られるようになると正義感に燃える社員および外部関係者が通報するという事態も考えられます。同一労働同一賃金の改正の際にも同じようなことが起きました。

「大企業であればまだしも、中小企業の社員がどこに通報するの?」

という疑念は当然です。国税庁の匿名タレコミのように誰でも簡単に通報できるものはありません。あくまで企業側に内部通報制度の整備を求めるものです。

そして、中小企業の不祥事は生死に直結するため、内部通報によって企業がつぶれてしまっては通報者自身も不利益を受けます。それゆえ、通報者が退職または関係を断つくらいの覚悟、強い恨みがなければ、中小企業において内部通報制度が使われることは稀でしょう(心当たりがある方はお気をつけを…)。

ただし、経営者としては、このような制度があることを頭の片隅に置いておく必要があります。これまでも労働基準監督署に駆け込まれた、弁護士から連絡が来たなどの話はよく耳にしましたし、この延長上に公的な制度が新たに設けられたということです。

近年ではSNSなどを通じて企業の内部事情が暴露されることが問題となっています。これに加えて、公的に通報制度が整備され、消費税や原価高に伴う価格転嫁拒否という下請けいじめの取り締まりも行われています。

繰り返しますが、中小企業において、不都合な内部事情を暴露されることは生死にかかわります。その場では事なきを得ても、一度公になった不祥事はWEB上に残り続けます。

もちろん、不祥事の隠蔽や脱税を行っている中小企業はごく一部…。それでも社員や取引先から強い恨みを買うと、事実ではないことを通報される恐れがあり、それが拡散されるリスクが生じます。情報をクローズすることが良いとは思えませんが、オープンすぎることもリスクを高めます。

すでに、皆さまの足元にも通報リスクが生じているかもしれません。

「タレコミは必ず起こる」

現時点で中小企業に内部通報制度の義務は無いとはいえ、今後義務が拡大されていく可能性もあります。自社には無関係な制度とは思わず、この事実から足元を見渡しましょう。

世代が違うと考え方も変わりますので、若い世代は内部通報に抵抗は無いかもしれません…。

補助金事情2022

有料配信の音声で詳細をお伝えしましたが、コロナ禍以降は補助金が充実しており、補助金を機会に改善に取り組む企業が増えています。

皆さまご存じのとおり、最大の目玉は事業再構築補助金でした。

公表当初は期待値が最高潮に高まるも、詳細が明らかになると断念する企業が続出…。確かに第1回公募は厳しかったものの、その後は徐々に要件緩和が行われ、既に終了した第5回公募までの状況を確認すると、結果としては非常に申請しやすいものとなりました。

一番厳しいと言われていた売上減少要件についても、要件緩和により充たすことになった企業が多いように思われます(そもそも増収記録更新中の企業の方がまれでしょう)。

一番応募が多かった通常枠の採択率は30%台で推移。採択事業者数は35,000社を超えました。補助金の規模を考えると悪くはありません。当社がお手伝いした案件も、お客様が断念されたもの以外は全て採択されました。3月下旬からは第6回公募が始まっており、第8回まで予定されています。

もちろん、補助金を受給するためだけの事業に意味はありません。当社も相談を受けた案件を何度か却下させていただきました。持続性がある事業以外は重荷になるからです。

結局、採択された企業は良くも悪くも企画力があり、一緒に取り組んだ認定支援機関が良かったというだけ。事業遂行能力があるかどうかは別問題なので、採択されてからが勝負です。ぜひとも補助金を有意義に使って持続可能な事業に育てください。

また、今年は何といってもIT導入補助金です。

IT導入補助金といえば「ホームページ制作」を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、現在はECサイトなどのシステム系以外は認められなくなりました。

そして、IT導入補助金2022で注目されるのは『会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフトの経費の一部を補助することで、インボイス対応も見据えた企業間取引のデジタル化を推進することを目的』としているデジタル化基盤導入類型です。

以下、補助金の額と補助率をご覧ください。中小企業のバックオフィス関連としては十分過ぎます。採択率は概ね50%超ですが、バックオフィス関連でよほど下手な申請をしない限り、実質的な採択率はもっと高くなっています。

(出典:株式会社TKC)

なお、インボイス制度の開始は2023年10月からですが、制度の全容と恐ろしさを理解している中小企業はごく少数のはず。デジタル庁が電子インボイスの標準化に取り組んでおり、国がこれだけの補助金を準備しているということは、制度対応にそれだけのコストが想定されていることの裏付けです。

DX、テレワーク、そしてインボイス制度…。もちろんデジタルがすべてではありません。しかし、インボイス制度に関してはデジタルが主流になると想定されており、自社が拒否しても外部環境がそれを許さないという可能性があります。

補助金巧者というのもどうかと思いますが、獲得できるものは獲得するという姿勢も重要でしょう。そして、近年の補助金は認定支援機関などの外部アドバイザーと連携することが必須であるため、この点も見逃せません。

つまり、外部アドバイザーが話を持ってこない限り、あるいは外部アドバイザーが身近にいない限り、補助金申請ができないということになります。

事業再構築補助金、IT導入補助金ともに、相談できる先がないと当社にご連絡をいただくことがありますが、当社にかかわらず補助金目的のみでお付き合いされるのはお勧めできません。結局、継続的なお付き合いで改善していかない限り、持続性が担保されないからです。

他にも、ものづくり補助金や持続化補助金などがあります。補助金受給は一部の企業に偏っているのも事実ですので、取り組まれた経験がない皆さまにおかれましてもご検討されてみてください。

目的は補助金ではなく、補助金を機会とした改善となります。