中小企業の内部通報リスク

完全に匿名で、非常に簡単に、ボタン一つ脱税に関するタレコミができます。

それは国税庁のホームページに設けられている『課税・徴収漏れに関する情報の提供』制度です。

中小企業を念頭におけば、通報者は親族、社員、取引先、経営者仲間などが挙げられます。通報者は限定されるとはいえ、記録が残らないのは恐ろしい…。ちなみに以下がこれまでの情報提供例です。

  • 租税回避スキーム(節税商品特定の取引手法を利用した租税回避など)に関する情報やその組成・販売をしている者又は利用をしている者に関する情報
  • 虚偽売上金額(収益)必要経費(費用)に基づく経理等により、不当・不正に所得金額等を低く(又は還付税額を多く)申告している者およびその手口の情報
  • 事業が活況を呈するなど、申告する必要があると考えられるにもかかわらず申告をしていない者に関する情報
  • 他人名義での取引他人名義の口座等を利用した取引又は事実に基づかない契約書、領収書、請求書、納品書等の書類の作成、交付、作成依頼等(白紙領収書等の交付依頼等を含む。)を行っている者に関する情報

  • 海外で稼得した所得に係る課税を免れている者各国の税制の違い・租税条約を利用して課税を免れている者に関する情報
  • 国税を滞納しているにもかかわらず、財産を隠匿している者に関する情報
  • 上記のような者の協力者に関する情報

実態としては何ら問題はないケースでも、そのような疑念を他人に抱かせるような言動が、税務当局への通報につながる可能性があるということです。

なお、脱税のタレコミのお話から始めたのは、6月1日から、改正された内部通報制度(公益通報者保護制度)が施行されるからです。

内部通報制度を簡単に説明すると「企業不祥事が相次ぐことから、その隠蔽を暴くための内部通報を行った社員を解雇などから守り、企業も通報に対して適切に対応することを求める」ためのものです。

これが義務化されるのは従業員300人超の企業であり、ほとんどの中小企業には関係がありません(従業員300人以下は努力義務です)。

無関係とはいえ、このような制度が知られるようになると正義感に燃える社員および外部関係者が通報するという事態も考えられます。同一労働同一賃金の改正の際にも同じようなことが起きました。

「大企業であればまだしも、中小企業の社員がどこに通報するの?」

という疑念は当然です。国税庁の匿名タレコミのように誰でも簡単に通報できるものはありません。あくまで企業側に内部通報制度の整備を求めるものです。

そして、中小企業の不祥事は生死に直結するため、内部通報によって企業がつぶれてしまっては通報者自身も不利益を受けます。それゆえ、通報者が退職または関係を断つくらいの覚悟、強い恨みがなければ、中小企業において内部通報制度が使われることは稀でしょう(心当たりがある方はお気をつけを…)。

ただし、経営者としては、このような制度があることを頭の片隅に置いておく必要があります。これまでも労働基準監督署に駆け込まれた、弁護士から連絡が来たなどの話はよく耳にしましたし、この延長上に公的な制度が新たに設けられたということです。

近年ではSNSなどを通じて企業の内部事情が暴露されることが問題となっています。これに加えて、公的に通報制度が整備され、消費税や原価高に伴う価格転嫁拒否という下請けいじめの取り締まりも行われています。

繰り返しますが、中小企業において、不都合な内部事情を暴露されることは生死にかかわります。その場では事なきを得ても、一度公になった不祥事はWEB上に残り続けます。

もちろん、不祥事の隠蔽や脱税を行っている中小企業はごく一部…。それでも社員や取引先から強い恨みを買うと、事実ではないことを通報される恐れがあり、それが拡散されるリスクが生じます。情報をクローズすることが良いとは思えませんが、オープンすぎることもリスクを高めます。

すでに、皆さまの足元にも通報リスクが生じているかもしれません。

「タレコミは必ず起こる」

現時点で中小企業に内部通報制度の義務は無いとはいえ、今後義務が拡大されていく可能性もあります。自社には無関係な制度とは思わず、この事実から足元を見渡しましょう。

世代が違うと考え方も変わりますので、若い世代は内部通報に抵抗は無いかもしれません…。

補助金事情2022

有料配信の音声で詳細をお伝えしましたが、コロナ禍以降は補助金が充実しており、補助金を機会に改善に取り組む企業が増えています。

皆さまご存じのとおり、最大の目玉は事業再構築補助金でした。

公表当初は期待値が最高潮に高まるも、詳細が明らかになると断念する企業が続出…。確かに第1回公募は厳しかったものの、その後は徐々に要件緩和が行われ、既に終了した第5回公募までの状況を確認すると、結果としては非常に申請しやすいものとなりました。

一番厳しいと言われていた売上減少要件についても、要件緩和により充たすことになった企業が多いように思われます(そもそも増収記録更新中の企業の方がまれでしょう)。

一番応募が多かった通常枠の採択率は30%台で推移。採択事業者数は35,000社を超えました。補助金の規模を考えると悪くはありません。当社がお手伝いした案件も、お客様が断念されたもの以外は全て採択されました。3月下旬からは第6回公募が始まっており、第8回まで予定されています。

もちろん、補助金を受給するためだけの事業に意味はありません。当社も相談を受けた案件を何度か却下させていただきました。持続性がある事業以外は重荷になるからです。

結局、採択された企業は良くも悪くも企画力があり、一緒に取り組んだ認定支援機関が良かったというだけ。事業遂行能力があるかどうかは別問題なので、採択されてからが勝負です。ぜひとも補助金を有意義に使って持続可能な事業に育てください。

また、今年は何といってもIT導入補助金です。

IT導入補助金といえば「ホームページ制作」を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、現在はECサイトなどのシステム系以外は認められなくなりました。

そして、IT導入補助金2022で注目されるのは『会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフトの経費の一部を補助することで、インボイス対応も見据えた企業間取引のデジタル化を推進することを目的』としているデジタル化基盤導入類型です。

以下、補助金の額と補助率をご覧ください。中小企業のバックオフィス関連としては十分過ぎます。採択率は概ね50%超ですが、バックオフィス関連でよほど下手な申請をしない限り、実質的な採択率はもっと高くなっています。

(出典:株式会社TKC)

なお、インボイス制度の開始は2023年10月からですが、制度の全容と恐ろしさを理解している中小企業はごく少数のはず。デジタル庁が電子インボイスの標準化に取り組んでおり、国がこれだけの補助金を準備しているということは、制度対応にそれだけのコストが想定されていることの裏付けです。

DX、テレワーク、そしてインボイス制度…。もちろんデジタルがすべてではありません。しかし、インボイス制度に関してはデジタルが主流になると想定されており、自社が拒否しても外部環境がそれを許さないという可能性があります。

補助金巧者というのもどうかと思いますが、獲得できるものは獲得するという姿勢も重要でしょう。そして、近年の補助金は認定支援機関などの外部アドバイザーと連携することが必須であるため、この点も見逃せません。

つまり、外部アドバイザーが話を持ってこない限り、あるいは外部アドバイザーが身近にいない限り、補助金申請ができないということになります。

事業再構築補助金、IT導入補助金ともに、相談できる先がないと当社にご連絡をいただくことがありますが、当社にかかわらず補助金目的のみでお付き合いされるのはお勧めできません。結局、継続的なお付き合いで改善していかない限り、持続性が担保されないからです。

他にも、ものづくり補助金や持続化補助金などがあります。補助金受給は一部の企業に偏っているのも事実ですので、取り組まれた経験がない皆さまにおかれましてもご検討されてみてください。

目的は補助金ではなく、補助金を機会とした改善となります。

オーナー経営者のお金の使い方

中小企業の強みはオーナー経営者です。
同時に弱みでもあります。

弱みとして挙げられるポイントの一つにお金の使い方があります。

オーナー経営者ですから、お金は好きに使えます。
事業関連性があれば、良し悪しは別としてお金を使えます。
使わないのも自由です。

そして、中小企業の事業が迷走する要因に「お金の使い方」と「利益獲得の打ち手」のズレが挙げられます。

オーナー経営者の下では、そこは惜しまずお金を投入すべきというところにお金を使わず、そこは使っても意味はないというところに惜しまずお金を使ってしまうケースが多く見受けられます。

基本的に、利益を獲得するためには必ずお金を使う必要があり、必要であれば借金してでもお金を使うべきです。ただし、お金を使っても利益の獲得が保証されているわけではありません。

この点について、オーナーとしての「主観」が強く影響し、経営者としての「客観」が弱まると迷走が始まります。

私の長い経験の中でも、お金の使い方が上手なオーナー経営者にはあまり出会えません。
それぞれにクセがあります。

  • 赤字が怖く、お金を使えない
  • 必要な設備投資すらも贅沢といってしまう
  • 利益獲得に比例しない過剰な設備投資を行ってしまう
  • 事業自体は素晴らしいのに、冗費の額が凄まじい
  • 自己投資と事業投資を履き違える
  • 社員待遇に甘すぎる、厳しすぎる
  • 一度始めた付き合いを止められない

知り合いの経営者が同じことをやっていれば、「バカだなー」と鼻で笑うことを平気でやってしまいます。中には心当たりがある方もいらっしゃることでしょう。

オーナー経営者のお金の使い方は中小企業の生死にかかわり、「お金の使い方」と「利益獲得の打ち手」には必ずズレが生じます。また、お金を使わないということは、利益獲得の打ち手を放棄していることでもあります。

ですから、そのズレが生じたり、お金が貯まり過ぎた場合に、それを是正できる仕組みがあり、注意を促してくれる相手がいることが重要です。

社員にも必要なお金は徹底して使わせ、ムダなお金は徹底して絞らせる。そのためにはオーナー経営者が手本となるようなお金の使い方をしなければなりません。継続企業では「貯めるが正義」が全てではありません。お金は使いながら増やしていくものです。

ウイズコロナでの事業環境にも慣れてきた2022年春。
経済が止まる期間は短くなり、お金を使う機会、使う額も増えてきます。

これからオーナー経営者の皆様は何にお金を使い、何にお金を使わないのか…。
利益獲得のために使っているのか、それとも冗費なのか…。
ズレが生じた場合に是正できるのか…。

オーナーとして誘惑は多いと思われますが、経営者として客観的な判断を行える環境に身を置いてください。

それが継続企業として成功する近道だと考えます。

 

山田 拓巳

「そういうこと言っているんじゃないんだよな・・・」

顧問税理士が言っていることに納得がいかないので、教えて欲しい。

先日、25年来の友人である経営者から久しぶりに電話をもらいました。

聞けば、工場の新設を計画していたもののコロナ禍による建築資材不足の影響で工期が遅れたことで、今期に見込んでいた経費が立たず、想定よりも多くの利益と納税が出てしまう状況とのことでした。

この局面に対しての顧問税理士のアドバイスが、「税率が上がる800万円を超える利益は出すべきではない」「退職金の備えにもなる生命保険を使って利益を800万円までに抑えるべき」というものだったそうです。

しかし、解約返戻金が最大になる時期に本当に退職するかなんて分からないし、億を超える投資を控えている状況で、長年に渡りキャッシュの流出を固定する生命保険には入りたくないと、この経営者は言います。

税金は痛いですがコストです。優遇税制などを使い削減できるところをきちんと削減すれば、あとは割り切って支払うだけ。過度に節税に囚われては経営の舵取りを誤ります。節税は経営の一部ではありますが、全てではありません。

この税理士の言うことが全て間違いだとは言いませんが、経営者は経営の問題として相談しているにも関わらず、税理士は税金の問題として考えているのですから、かみ合うわけがありません。

しかも残念なことに、この税理士、設備投資減税を受けるために必要な事前申請の案内を漏らしてしまっていました。

5年ほど前から設備投資に関する減税特例は購入前に計画書を提出し、事前に認定を受けておく必要があるものが増えています。申告期限に間に合っても、事前に認定を受けていなければダメなのです。

もちろん、設備投資を事前に知りながら申請の案内をしなかった税理士に責任があることは間違いありませんが、現在どんな税制がトレンドで、今後どういう方向に進んでいくのか、そのことが自社の経営にどういった影響を与えるのかは経営者として知っておかなければなりません。

しかし、小難しく専門的な説明をする情報があふれる一方で、経営者が本当に知りたい、本質をついたものはなかなか見当たりません。

今年も税制改正解説音声と言いながら、税制改正の話しをあまりしない音声『中小企業経営2022』の販売を開始しました。

私たちは音声で税制の細かい話しはしていません。
そうしたものは世の中にたくさんありますし、税制の大枠をとらえることで時代の流れをつかみ、本質を知ったうえで、自社の課題に経営者としてどう向き合っていくのかが重要だと考えているからです。

コロナ過もついに3年目、変化の速度は増しています。
課題に目をつぶり先送りにすれば、山積みになり、後は崩れ落ちるだけです。

興味がある方はぜひお聞きください。

変わらないもの

皆さまご認識のとおり、銀行融資は超がつく低金利時代。
多くの銀行が業績不振に苦しむなか、業績をあげているのが広島市信用組合です。

1月19日の日本経済新聞によれば、2021年3月期の税引き後利益は41億円と6期連続で最高益を更新し、その利益水準が他県の第二地銀にも匹敵するそうです。

記事から読み取れる、成長のキーワードは3つ。

「対面」と「スピード」、「やらない仕事を決めること」です。

広島市信用組合では1人あたりが担当する法人150社、個人150人の計300顧客ほどに、預金の集金などでアポイントを入れて、最低でもそれぞれ毎月1回は会うようにしているそうです。

顔を合わせて信頼を高め、雑談の中から事業環境の変化を探り、新規融資につながる話題にアンテナを張ります。

金利は他の金融機関より0.7~0.8%ほど高いものの、融資の稟議を本部にあげたあと、3日以内に可否を判断するスピード決済を強みとしています。

投資信託や生命保険を売ることをやめ、複雑な商品説明に時間を費やさないことで、多くの訪問を可能にし、金融機関の本業である預金・貸出に特化しているのです。

記事では顧客である経営者の声も紹介しています。

「広島市信用組合の担当者は度重なる面談で「社長を見る目」を鍛えている」

コロナ過で対面での面談が難しいケースが増えていることは事実ですが、私たちは今回の経験を経て、バーチャルやリモートで十分な場面がある一方で、それらが決してリアルに取って代わるものではないことを知りました。

「仕入は他社と取り合いになるため、まとまった資金がすぐに欲しいときが多い。低い金利よりもスピードを求めている」

仕事において速さはそれだけで大きな武器になり得ます。
進化し続けるツールの登場により、たくさんの仕事を格段に早くできるようになったにも関わらず付加価値を上げられずに単価が下がり、それを補おうと量を求めることで、皮肉にも仕事の速度が奪われていく。そんな景色をあちこちで目にします。

「他の金融機関は用事がないと来ないが、広島市信用組合は用事をわざと作って会いに来る」

低金利時代で利ザヤを稼ぐことが難しいなか、金融商品を売って手に入れる手数料収入は、喉から手が出るほど欲しかったはずです。
しかし、当たり前のことですが、時間には限りがあります。「やらない仕事」を決めることで一時的に売上が下がったとしても、本来欲しい売上獲得に力を注ぐ時間が必ず確保できます。

今、世の中はこれまでにないスピードで変化を続けています。
もちろん、私たち中小企業はこうした変化に対応し続けていかなければなりません。

しかし、経営において大事なことの根底は、そう変わるものじゃない。

広島市信用組合の経営は、そんなことを教えてくれているような気がしてなりません。

お客様を選ぶ

新橋で居酒屋を経営する女将が出版した本を紹介するネット記事を読みました。
コメント欄は大荒れ、さながら大炎上です。このお店に行ったことがあるなしに関わらず、その多くが、このお店の姿勢を批判するものでした。

しかし、私は全く別の感想を持ちました。
「うまいことスクリーニングしたなぁ」

本も買って読んでみました(藤嶋由香『一緒に飲みたくない客は断れ!』ポプラ社)が、著者の女将が言うところの「非常識な居酒屋経営術」は、至ってまとも。まずはこのお店の基本的な考え方の一部をご紹介します。

  • 居酒屋という心のやすらぎの場を提供するために、お店ではまず「お客様を選ぶ」
  • お店を本当に愛してくれる少数のファンさえいれば、多くのお客様を集める必要はない
  • その数は100人でよく、100人であれば顔や名前、いつもどんな料理を食べるのか分かり、お客様が満足するサービスができる
  • 良質なお客様を大切にし、大切なお客様だけを選び、もっと幸せにする

そして、お店が実行しているのが次のことです。

  • 本当に美味しいものを、心も寄り添えるサービスとともに適切な価格で提供する
  • 安売りはしない
  • 基本的に2軒目以降のお客様、おなかいっぱいのお客様にはご遠慮いただく
  • 4名テーブルは2名でなく4名で利用いただき、5名だけど空席を待つなら4名席でいいというお客様をお通しして回転を高める
  • 2時間制を徹底する

口コミなどを見ていると、ご利用いただく時間、テーブル人数の徹底ぶりや価格に関して少なくない不満がつづられている一方で、味に対する評価は高く、常連客を中心とした多くのファンがいることも分かります。

女将は言い切ります。
「ご理解いただけないお客様には二度と来店していただかなくて結構だと思っています。」

居酒屋で飲食する全ての人をお客様だとは考えていないことを公言してしまったこのお店には、結果として以前にも増して多くのアンチが存在しています。もちろん、そのこと自体は嬉しいことではないでしょう。

しかし、お店が歓迎しないお客様は、これまでよりもさらに来なくなり、スクリーニングは大成功なはずです。

きっと、今日もこのお店に来店するのは、その方針を理解し「他の居酒屋より少し高いお金を払って、他では食べられない正真正銘の朝締めの肉をたくさん食べて飲んで2時間でパッと帰りたい」ファンの皆さま、お店にとって良質かつ大切なお客様です。

安売り⇒質の良くないお客様が増える⇒スタッフが疲弊する⇒利益が出ない⇒お客様をもっと増やそうと安売り⇒質の良くないお客様がさらに増える⇒スタッフがさらに疲弊する⇒・・・

このありがちな無限ループから抜け出すには、まずは自社にとっての「お客様の定義と選別」ができていなければなりません。

一方でお客様を選ぶには経営者はもちろん、スタッフにも覚悟が必要です。

私が通勤で毎日前を通る、この居酒屋さん。今夜も常連と思しきお客様で一杯です。

「賃上げ」の中身

政治の混迷をよそに、例年どおり税制改正の議論が進んでいます。
岸田首相が発言を繰り返しているのは、期待が高い「賃上げ」…の税制。

人件費関連の法人税制は10年近く続いていますが、これらは景気の拡大期には有り難いものの、停滞期では恩恵を受けにくいものです。

税率についても言えますが、近年の税制は大企業向けのメニューが拡充されてきました。中小企業が大事と口にはされますが、政府にとって頼りになるのは大企業であることは間違いありません。まだ詳細は分かりませんが、改正されるであろう賃上げ税制についても大企業に対するアメが狙いだと思われます。

そもそも人件費の税制は、原則として給与総額を増やす必要があり、インパクトがあるのは新たな雇用です。

例えば、給与総額1億円の会社が3%の賃上げをすれば300万円の増加ですが、社員を1人増やしても300万円以上は増加するはず。

既存社員の給与はできるだけ上げたいのだけれども、「現実問題としては人手を増やしたい」というのが経営者の本音。

賃上げと人数の増加を両立できる中小企業には頑張っていただきたいのですが、このように多くの中小企業にとってはトレードオフです。

売上高が「単価」×「数」であるように、給与も「単価」×「数」。
これまでも、数は無理せず、単価のコントロールが鉄則という点を繰り返しお伝えしてきましたが、これは給与についても同じです。

単価でもある「1人当たり付加価値」という指標は一般的になってきましたが、「1人当たり人件費」はまだまだ重視されていません。

「1人当たり付加価値」を増やしていきたいのであれば、「1人当たり人件費」も当然増やしていくべきです(役員報酬は別扱い)。この二つの指標にギャップが出始めると社員の離職にもつながります。

単純化して考えれば、会社全体の利益との関連性は以下のとおり。

年収の高い上場企業ランキングをご確認いただくと、最上位層は比較的少人数、かつ歩合給の企業が中心です。上記で言えば、典型的な(A)で、当然一人一人の仕事は大変なはず。

社員数の増加は、売上高の増加が必須になります。拡大期においては数も重要になりますが、単価はおざなりにされやすいのも事実。そして、社員数が増えれば増えるほど、そして若い社員を採用すればするほど、1人当たり人件費は下がって行きます。

1人当たり人件費は、短期的には下がった方が利益を出しやすくなりますが、長期的には生産性を悪化させる可能性があります。

これが伸び悩んだり、下落傾向が続くと、優秀な方が辞めていく場合もあります。もちろん、メリハリを付ければよいのですが、人数が増えるとそこまでメンテナンスが追いつきません。典型的な中小企業のジレンマであり、伸び悩む要因です。

「いや、それでも人数が足りないから仕方がないんだよ」

本当にそうでしょうか?

副業、副業と言われる世の中です。皆さまの主観的な印象よりも社員に余力がある可能性があります。つまり、「給与を上げてくれるならもっと仕事をしますよ」という社員は意外に多いはず。

「給与が上がれば仕事をする? そういう意識自体がありえない…」

そのとおりです。
それでも、それが、現実です。

1人に2人分の仕事を割り振るのは困難ですが、10人に11人分の仕事を割り振るのはそれほど難しい訳ではありません。

世間的なトレンドは、労働時間を減らし、休みを増やし、給与も福利厚生も増やすことのようですが、そんなことは、今それができる企業にやらせておけばよいのです。永遠に続く訳はなく、必ず限界が来ます。

仕事量と給与はトレードオフ。やってもらった分を払う。もっと仕事をしてもらいたいのであれば給与も上げればよく、社員の意識が受動的か能動的かは関係ありません。労働時間は仕事量を増やしながら仕組みで改善して行くしかありません。

これが、中小企業の「賃上げ」の本当の中身ではないでしょうか。

もし、社員が馬車馬のように働いているのに、それでも儲けが出ないのであれば、それは経営者の責任です。

中小企業の原理原則は、今も昔も変わりはありません。

縮む

セブン&アイ・ホールディングスは今月10日の第2四半期決算発表にて、2022年度末までに傘下の百貨店と総合スーパー事業の人員の2割に当たる、同社過去最大の3千人を削減すると発表しました。

インターネット通販の普及や慢性的な人手不足などで小売業の苦境が鮮明になる現在、収益力が低下している、そごう川口店など百貨店5店を閉鎖することにしたようです。

店舗閉鎖による人員削減を実行することから、業績が振るわないのかと思いきや、2019年3~8月期の連結決算は、売上高に当たる営業収益こそ1%減の3兆3132億円ですが、営業利益は3%増の2051億円、純利益は9%増の1106億円と、第2四半期としては過去最高を記録しています。

セブンアンドアイというと、セブンイレブンを稼ぎ頭に毎年出店を増やし拡大し続けているイメージがあるかと思いますが、注目したいのは、その利益です。

拡大路線の企業の多くが売上高を伸ばす一方で利益を下げてきたなか、セブンアンドアイはここ9年間、売上高が前年を下回ることがあっても、営業利益、経常利益が前年を下回ったことがありません。

そのセブンアンドアイが実行する今回のリストラは、利益最大化のために「戦略的に縮む」(出典:未来の年表 -人口減少日本でこれから起きること- 講談社現代新書 河合雅司著)ことに他なりません。

私たち中小企業にとってこそ重要なのが、この「戦略的に縮む」という考えです。

進み行く人口減社会においても利益を維持若しくは最大化していくためには、過去の成功体験を捨てて「戦略的に縮む」ことが求められるタイミングが必ずやって来ます。

ただし、私がお伝えしたいのは、単に事業規模を縮小しましょうということではありません。

重要なのは自社のリソースに合わせて、捨てるものは捨て「戦略的に一時的に縮む」という思考を持つことです。

思うように利益が伸びていかない場合、多くの経営者はまず売上を増やそうと考えてしまいますが、それよりも収益構造を見直す必要があるケースがほとんどです。

そして、収益構造を見直し、変えようとした場合、多くのケースでは、いったん売上高を下げる必要が生じてきます。

なぜならば、収益構造を変えるには多くの場合、売上高の中身を変える必要があり、売上高の中身を変えるためには、今ある売上をいったん捨てる必要があるからです。

今までの売上を維持しながら、売上の中身を変えていくことは並大抵ではなく、リソースが限られる中小企業でそれを行えば、まずもって現場が混乱・疲弊してしまい、中途半端な改革になるか、既存顧客からも新規顧客からも信頼を失ってしまい本当に縮んでしまって終わりです。

もちろん今ある目の前の売上をいったん捨てることは、とても勇気のいることですが、人口減少によって今まで以上にリソースが不足する中小企業が収益構造を変えていくには、その勇気が必要なのです。

間もなく消費税増税から1ヶ月が過ぎようとしています。
キャッシュレス決済によるポイント還元などもあってか、今のところ目立って消費が落ち込んでいる感じはありませんが、その分じわじわと景気が後退していく可能性が高い気がします。

人口減少社会に合わせて縮むことは、決して後ろ向きな選択ではありません。

「戦略的に縮む」

ぜひ、この発想を頭に入れておいてください。

経営計画、リソースからの組み立て

皆さまは経営計画を立てる際、何を根拠に数値の組み立てをされておりますでしょうか?

例えば、経営計画の作成手順でよく見かけるのは以下のような流れ。

(1)目標の売上高を決める
(2)過去の原価率から売上原価を決める(過去の粗利益率から粗利益を決める)
(3)過去の実績と新年度の見込みから経費を決める
(4)結果として経常利益が決まる

あるいは、まず(4)経常利益を決めた上で、(3)→(2)→(1)という流れで最後に売上高が決まる手順(返済額から逆算してというのもありますね)。

その結果、過去の実績と、目標という名の予測(または意欲)という根拠で経営計画が立てられていることが多いのではないかと考えます。

もちろん、何も考えずに経営をされるよりは良いことです。しかし、このように考え続けるだけでは、その先に進めないと感じる方も多いのではないでしょうか…。

そこで今回は、別視点である自社のリソースからの経営計画の組み立てについてお伝えします。

まず、話を簡単にするために受注の事例判断から考えてみます。
皆さまは一つ一つの受注を決める際は以下のような点を根拠にされているはず。

(1)受注金額
(2)その受注の結果として残る限界利益額や粗利益額
(3)今後の受注の継続性

例えば、以下のような【A】と【B】のいずれかの仕事の受注を行うとしたら、誰しも【A】を選択するかと考えます。

しかし、追加で以下の情報が与えられたらどうでしょう?

それでも粗利益が高い【A】を選択する方が多いでしょうが、非財務情報であるプロジェクト期間と投入人員数で迷われる方も出てくるかもしれません。

そこで、【A】のような仕事を受注する【X社】、【B】のような仕事を受注する【Y社】のお話だと仮定します。

【X社】は営業をせずとも取引先から【A】のような安定的な受注がありますが、【Y社】は取引先が安定せず営業活動により【B】のような仕事を受注します。受注が安定しているか否かでは雲泥の差でしょう。

最後に、【A】の仕事を2回連続で受注した【X社】と、【B】の仕事を3回連続で受注した【Y社】の1年間の業績を確認してみます。

結果として2社の限界利益は同額ですが、【Y社】は人数が少ない分人件費が抑えられ、営業利益が500万円多くなりました。

「Y社のような考え方もあるんだなと思った…」

以上は、あるお客様から【Y社】の方針が書かれた書籍について質問を受けた事例であり、このお客様は【X社】の方針と同じでした。

【Y社】は、表面上の数値から計画を立てるのではなく、今あるリソースからどのような時間(期間)の使い方を行うかの方針を決めて計画を立てているということでした(実際にはもっと綿密にリソースを分析していることでしょう)。

【Y社】にとっての弱みは取引先と原価人員数が少ないという点であり、強みは営業がいるという点です。

もちろん【Y社】が営業で受注できなかったらおしまいですが、「営業で仕事が受注できなかったら…」という恐れから、受注回数が少なくて済む、なるべく期間が長い受注【A】を選択してしまったらどうでしょう?

受注のために値引きを求められ、さらに期間内に仕事を終わらせるために外注費を増やさざるを得ず、利益を大きく目減りさせてしまうことが目に見えます。

そこで【Y社】は営業がいるという強み(リソース)を使って、取引先と原価人員数の弱みをカバーするための受注の仕方を選択します。そのために営業を仕掛ける取引先もポイントになるでしょう。

つまり、売上高・粗利益率・粗利益額が大きい受注が常に正解という訳ではなく、選択はリソースに応じるということになります。

リソースは、業界における立ち位置・環境、扱う商品・技術、経営者・社員特性、設備など、さまざまな領域に存在しています。

そして、今あるリソースから経営計画を立てるメリットは、自社の現状把握をとことん行うことになり、良い意味でも悪い意味でも新たな発見が出てくる点にあります。その結果、中期的な視点が明確になり、選択と集中という中小企業にとって最も成果を上げやすい状況が浮かび上がります。

なお、自社のリソースを十分に把握していないということは、自社の可能性を潰すことにもなります。そこに思いもよらぬものが隠れているかもしれませんので…。

経営計画をリソースから組み立てる手法は、数値から組み立てる経営計画に比べて難易度が高いことは間違いなく、客観性を担保するために第三者のアドバイスも必要となってきます。

それでも行う価値は十分にあるというのがリソースからの組み立てです。
ぜひ、一度お試しください。

10連休をきっかけにトレンドを把握する

GW10連休。
私たち中小企業にとっては資金繰りや売上高に大きな影響を与える要因であり、正直、迷惑以外の何物でもなかったという企業も多いのではないでしょうか。

今回のような祝日による営業日数の増減はもちろんのこと、季節変動や天候、自然災害など、様々な要因が企業の業績に影響を与えます。

当然、こうした何らかの要因により単月では前月より売上が上がっていた(下がっていた)としても、中長期的に見て売上が増加(減少)傾向にあるとは限りません。

そこで、ぜひ覚えておいていただきたいのが「移動年計」という管理方法です。

通常、毎日の売上や毎月の売上などの管理は次のような表やグラフで管理している企業が多いのではないでしょうか。

ちなみに下記の数値は東京神保町にある、「まかない」「ただめし」「あつらえ」「さしいれ」
などのユニークな仕組みを取り入れていることで有名な定食屋さん「未来食堂」がHP上で公開している実績値です。

こうした表やグラフは前月や前年同月との比較を行ったり、目標値などの管理には便利ですが、経営で最も重要な「趨勢」を把握することができないのが欠点です。

そこで、通常の管理とは別に年計の管理で趨勢を把握していくことが重要になります。

年計とは、決算期などに縛られることなく、毎日(または毎月)1年間の売上を集計していく方法で、例えば2018年6月6日から今日、2019年6月5日までの365日の売上の合計を集計し、翌日は2018年6月7日から2019年6月6日の365日の売上合計を集計し管理していきます。

こうして毎日(毎月)1年間の売上高を集計し、季節変動や土日祝日といった特殊性を排除することで、自社のトレンドが見えてきます。

では、未来食堂の短期(1年)移動年計と長期(2年)移動年計を見てみましょう。

先ほどのグラフでは分かりませんでしたが、こうして趨勢で見ると中長期的に売上高が減少傾向にあることが明らかです。

移動年計は店舗ごと商品ごとなどに集計することも有効ですし、売上高だけに限らず、顧客数、顧客単価などについて年計で管理してもよいでしょう。
それぞれのトレンドについて要因を追いかけていくと、意外な発見があることがあり、経営判断にとても役立ちます。

移動年計、ぜひ一度集計してみてください。
きっと何か新たな発見があるはずです。