オーナー経営者の内部留保問題

老後2,000万円問題。

大騒ぎにはなりましたが、あの報告書を実際に読まれた方はほとんどいらっしゃらないでしょう。あえて読んでいただく必要はありませんが、考え方としては『あたり前』といえる内容が含まれています。

金融庁はメディアや政治家を巻き込んで見事な炎上を演出しました。
結果オーライとは正にこのこと。

もともと年金だけで生活ができるとお考の方は少ないでしょうから、結局は年金の受け取りが始まる前にどれだけの資産を確保できるかが重要という話の展開になってきました。

なお、2,000万円という金額の根拠は「毎月の赤字が5万円だとしたら30年でそのくらいの取り崩しが必要だよね」という点にあります。この赤字5万円に臨時支出は含まれていませんでしたが、退職金の受け取りは考慮されています。

人生100年時代として、70歳から2,000万円の取り崩しをスタートすれば逃げ切れるということでしょうか。

それでは、オーナー経営者の方が引退される際、会社の内部留保がどの程度必要かお考えいただいておりますでしょうか?

一般的なモデルケースとしての老後2,000万円問題とオーナー経営者の内部留保問題は、規模と人格こそ違えど、本質的には同じです。

「内部留保はどのくらいが適正か?」とご質問をいただくことも多いですが、それは今後の経営を具体的にイメージできていないということになります。

「とにかく内部留保を積み上げなければ!」という意気込みも同じです。具体性のない意気込みに意味はありません。

2,000万円問題で不安に陥った方々(特に若い世代)はiDeCoやつみたてNISA等の投資に興味を持ち始めたそうですが、「2,000万円なんて貯められないよ!」とグチばかりこぼしているよりも健全な行動ではないでしょうか。

オーナー経営者がどのような行動を取るべきかも基本的には同じです。迷うほどの選択肢すらないはずです。

ただし、「内部留保がどの程度必要か?」という質問だけで答えを出すのは無理な話です。繰り返しになりますが、そもそも会社をどのように経営していきたいのか、何歳ごろの引退を考えているのか、最後は会社をどのようにしたいのか等の質問とセットになります。

「数十年後のことなど分からない…」ということであれば、10年後、5年後でも構いません。

中には、5年後、3年後だって分からないという方もいらっしゃいますが、『それは考えたくないだけ』と同じです。「仮にこうなったら」という条件で考えることならいくらでもできます。

どんなに具体的な計画を立てたとしても、それはあくまで「こういう状態になったら」という仮説に基づいています。イケイケドンドンの計画だけを立てるのも困ったものですが、イケイケドンドンと最悪の両方の計画を立てて眺めてみれば景色が変わってくるはずです。

従いまして、計画を立てられない経営者など存在しません。存在するのは、それでも計画を立てる経営者と計画を立てない経営者です。

ちなみに、内部留保を貯めてばかりの状態が良いという訳ではありません。どこかにかならず歪が生じています。それがお客様なのか、社員なのか、今後の先行きなのか…。現状を把握しつつ、将来に備えていく必要があります。

老後2,000万円問題は大炎上の末に重要性が強調されましたが、世間的に裕福だと思われがちなオーナー経営者の内部留保問題がクローズアップされることはありません。相談できるとしても税理士くらいでしょう。

それでも将来起こりうる危機的状況に備えて、守りの要である内部留保のことを考え続けなければなりません。

役員の任期、大丈夫ですか?

皆さんが最期に自社の登記簿謄本を確認したのはいつでしょうか。

ご存知のように株式に譲渡制限を設けている通常の中小企業においては平成18年の会社法施行によって、取締役と監査役の任期を最長10年まで伸ばせるようになりました。

これにより、平成18年以降に設立された会社については最初から役員の任期を10年としていることがほとんどで、それ以前に設立された会社であっても、多くは会社法施行後に役員の任期を10年に伸ばしています。

役員の任期が満了し、そのまま役員を続ける場合には「重任」の登記が必要になります。
(有限会社は任期に制限がないため、役員に変更ない限り登記の必要はありません)
原則、取締役は2年、監査役は4年で任期満了であった任期が10年になれば、費用面においても手続き面においても非常にありがたいことなのですが、1つだけ問題があります。

それは重任登記を「忘れる」ことです。

経営者を含めて中小企業の役員が、自分の任期を気にしながら経営を行うことは通常ありません。
以前のように2年ごとであれば、まだ多少気にしていられますが、10年ともなるとまず覚えていられません。

会社のこととなると様々なことを顧問税理士に任せている方も多いと思いますが、登記は税理士業務ではないため、その任期管理を税理士に頼るのも難しい面があります。

そうなると、普段からお付き合いのある司法書士に任期管理を依頼するなり、自社で任期管理を行っていないと、任期満了による重任登記手続きが漏れてしまいがちになります。

会社法上、登記事項に変更が生じた場合、2週間以内に変更登記を申請しなければなりませんが、仮に2週間を過ぎたとしても登記申請自体は問題なくできます。

ただし問題は2週間の期限を過ぎると、過料(罰金のこと:通常、過料は1~10万円程度であることが多い)の対象となることです。

しかし、実務上は多少期限を過ぎても過料の対象となることはまれで、何年も登記期限を過ぎて登記を行っても過料の通知が来ないこともあるようです。

以前、登記の専門家である司法書士に聞いてみたことがありますが、2週間という期限があるものの、半年程度の遅れでは過料の対象にならないことの方が多く、法務局が実際にどのような基準で過料の対象を選択しているかはよく分からないとのことでした。

会社法施行から13年が経過し、既に役員が任期満了を迎えているものの、重任登記がされていない登記簿謄本を目にすることが増えてきました。

皆さんは、役員に就任されてどれくらいの年月が経ったでしょうか。

これを機に自社の登記簿謄本、チェックしてみてください。