コロナが教えてくれる、見たくない現実に目を向ける

先月15日、東証一部上場のアパレル大手レナウンが、子会社によって民事再生を申し立てられました。

コロナ倒産と報じられたレナウンの財務状況を東証一部に上場した2004年当時から追ってみると、既に10年以上前から経営が成り立っていない現実と、それでもゾンビ企業として生き永らえてきてしまったレナウンの姿が鮮明に映し出されていました。

レナウンの経営破綻は最終的にコロナが引き金になったのかもしれませんが、決してコロナが原因で起こったことではありません。コロナはレナウンの事業が以前より成り立っていないことを暴いてしまったのです。

レナウンに限った話ではありません。
新型コロナウイルス感染症は、コロナ以前の経営では多くの中小企業が生き残ることができないことを暴いてしまいました。

今回のコロナの出現をポジティブに捉えるとすれば、経営・財務に直結する問題はもちろんのこと、今までやり過ごしてきた、私たちの周囲にある様々な問題を浮かび上がらせてくれたことです。

ある企業ではテレワークをきっかけに、会社からの指示、決められたルールが徹底して守られていない事実が明らかになりました。

ある企業では数字が乱高下したことで売上管理システムに重大な欠陥があることが発見されました。

ある企業では長年決断できずにいた後継者問題の一歩を進めるきっかけになりました。

自宅で過ごす時間が増えたことで、家族、夫婦の問題に直面することになった方も多いはずです。

存在には気づいてはいても、手付かずの問題。
存在に気がつかないふりをし、目をそらしてきた問題。
存在に気がついていない問題。

コロナをきっかけに浮かび上がった問題の多くはコロナ以前からあった問題のはずです。

「自社の問題点を問題点として認識できる能力」。経営者にとって重要な能力の一つです。

人は日常的に起きる何か小さなできごとの奥底に、実はどんな問題が潜んでいるかなど、いちいち考えません。

しかし、経営においてはこれがとても重要です。

些細なできごとに内包される問題の存在に気が付けるか否かは、後の勝敗を大きく分けることになります。

今回、多くの中小企業経営に甚大な被害を与えている憎きコロナは、私たちに見たくない現実に目を向けるためのヒントもたくさん与えてくれているはずです。

コロナをきっかけに自社で起こった、あらゆることに敏感になってください。

そこに潜む問題に目を向け、正面から向き合うことができるか否かが、アフターコロナを生き抜くためのカギになるかもしれません。

加速する世界

新型コロナにより自粛を余儀なくされ、活動が再開された現状というのは、以前とは異なる世界です。

たとえば飲食店の座席は間引きされて半分程度しか座れません。しかし、未来のどこかでお客様が半分しか入らないという状況が到来してもおかしくはないはず。

いまはその未来にまで一気にワープした世界を体験しています。そこから徐々に現在まで戻りつつありますが、新型コロナ以前の世界までは戻れません。

いま体験している、お客様が半分しか入らないという状況…。では今後、飲食店はテイクアウトや宅配を増やせばよいのでしょうか?

もともとお店で提供されていたものを、テイクアウトや宅配で食べても美味しいと感じないのは皆さま共通の認識のはず。その上、宅配はウーバーイーツを中心にプラットフォーマーが大きな利益を持っていきます。

味の評価は落ちるし、利益も取れない…。

そもそも新型コロナ以前、飲食店の傍ら、テイクアウトや宅配まで手掛けて儲かっていたお店はどれほどあったのか?

残念ながらほとんどありません。儲からないのに、それでも周りがやっているからやるということが常態化していました。

さらに、宅配「専業」の代表格である宅配ピザは儲かっていたのか?

残念ながら儲かっていません。
業界首位のドミノピザが何とか利益を出していたという程度です。

つまり、飲食か、テイクアウトか、宅配かではなく、上手くポジションを取れるお店のみが利益を出せるというシンプルな事実。

とても残念ですが美味しいお店が生き残るわけではありません。

新型コロナは、皆が同じようにやっていることを同じように、しかも丁寧にやっても儲からないということを改めて気付かせてくれました。

いま過分なほどに行われ、まだまだ止まない国の支援は、前年よりも売上が下がっていることを前提としています。

売上の底である当年に比べて、来年の売上が下がるのでしょうか? 売上が前年比で下がらなくなる1年後、基本的には国の支援は受けられなくなると考えてください。もし、1年後、自社の状況が改善していなければ金融機関の対応も淡泊になってきます。

そして、問題は「いま」だけではありません。

最大の敵はコロナ渦でさらに加速しそうな人口減です。ときどき災害も起こります。

ダメ押しは、早ければ3年後以降に行われると考えられる「容赦できない増税」。所得税、相続税と少しずつ上がるでしょうが、焼け石に水。本丸はやはり消費税。いつになるかは分かりませんが、当初想定していたよりもかなり早く消費税率15%以上が実現しそうです。
(もし増税を口にできない状況だったら日本経済は死んでいます)

新型コロナが無ければ、多くの企業は地獄に向かいながらも自転車をのんびりこいでいる状態でした。地獄に向かっていることに気付いていても、止めることはできませんでした。

しかし、世界は一気に加速しました。
すでに地獄に足を踏み入れています。
地獄に来てしまったからには、転がるスピードは今までの比ではありません。

いまの状態のまま、売上から経営を考えてはいけません。絶対に。

新型コロナで一つ良いことは、経営者を強制的に立ち止まらせ、自社の行く末について考える必要性を気付かせ、考える時間を与えたことです。

繰り返しますが、飲食店の例のように、周りと同じことをやってもダメなのは皆さまもお気付きのとおり。ただ、誰をお客様とすべきか?という点について明確になっている企業は驚くほど少ない(これもしつこく繰り返しています)。

「私たちのお客様は誰か?」を本当に明確にしたときに、売上の規模が決まります。もしかしたら、1億円が限界かもしれないし、100億円まで届くかもしれない。それに比べれば、新型コロナの影響により一時的に売上が下がる、上がるなんてどうでもよいことです。

あとは、明確となったお客様と出会い、継続的にお付き合いすべく仕組みを整え、競合よりも早く実行するだけ。

収益性の向上を図るというのは、技術的な部分(私どものような立場からの技術という意味)もありますが、そのほとんどはお客様を明確にするというところから始まります。

世界は加速しています。

しかし、売上をいち早く戻すことを優先する前に、考える時間があるいまこそ、一度立ち止まってください。

売上が元に戻ってしまったら、何かを変えることは逆に難しくなりますので。