生きるための対策

このところ相続、贈与に関するご相談が増えています。最近特に多いのが、お付き合いのある銀行、保険代理店、証券会社などから提案される、信託、生命保険、不動産など、それぞれが扱っている商品を利用した対策に関するものです。

状況に適した商品を適切なタイミングで選択すれば効果的な対策を取れることがあるのは事実ですが、残念ながら提案の多くが、その方にとって本当に必要かつ有効であるとは思えないものばかりです。

それもそのはず、「相続税の申告が必要なくらい財産を持っている」ことだけを知っている人が、「自社が扱っている商品」を売りたくて勧めているだけですから当たり前です。

私が積極的に相続対策を勧めるのは、何も対策しなければ納税に困るケースや争いに発展するケース、1億円以上の預貯金を保有する富裕層で既にご高齢なケースなどに限られます。

理由は明快です。

平均寿命が80歳を超え、特に女性は90歳から100歳くらいまで生きることを前提に考える必要がある現在、生きている間お金の心配をしなくて済むこと、愛する子や孫たちに金銭的な負担をかけないように備えておくことのほうが、後の税金対策よりも重要だと考えているからです。

長く生きれば病気をして入院することや、施設に入ることだってあるかもしれません。いつどれだけのお金が必要な状況になるかわからないのですから、お金はいくらあっても邪魔にはなりません。優先すべきは十分な手元の預貯金確保です。

そう考えれば「特別なことはせず、お金を減らさない」ことも立派な対策なはずですが、それでは商売にならない人が、相続税対策を理由に預貯金を流動性の低い他の資産に姿を変えさせてしまいます。

人生においても経営においても選択肢が多い方が有利なこと、手元の預貯金こそが選択肢を広げてくれることは、コロナ過を経験した皆さんには言うまでもないことです。

高い手数料を支払うことになる相続対策商品や、特例的な税制を駆使して贈与を実行していく必要があるようなケースはごく一部であり、そうしたものに頼らずとも愛する子や孫への感謝の気持ちや想いを形にする手段はあります。

まずは、ご自身と配偶者が幸せに長く生きていくための対策を第一に考えていきましょう。

重点配分

東京オリンピックにて熱戦が繰り広げられていますが、日本のメダルラッシュが注目を集めています。

もちろんホームでの開催という最大のメリットはあるのでしょうが、競技強化費の重点配分も取り上げられていました。

同庁は各団体の強化策や大会成績をもとに競技団体を5段階評価。最上位のSランクは約30%、Sに次ぐAランクは約20%強化費を上積みする方針を示した。リオ五輪後の16年にまとめた「鈴木プラン」で示した選択と集中を具現化した。Sランクには柔道や体操など5競技。Aランクにはスケートボードやソフトボール、スポーツクライミングなど10競技が選ばれた。


~中略~

英国と異なるのは幅広い競技に配慮した点だ。強化費を支給しない競技もある英国と異なり、柔道や体操などの「お家芸頼み」脱却を目指す日本は、最上位の水泳と最下位のゴルフの格差を10倍以内にとどめ幅広い分配に取り組んだ。

(日本経済新聞:2021年7月30日)

重点配分は行いつつ、公平性にも配慮するというのが日本らしいですが…結果を求めるためにはリソースの重点配分が必須なことが分かります。

話は変わりますが、一年掛けて募集している事業再構築補助金。苦しんでいるが、やる気がある中小企業に重点配分しようという補助金です。しかし、採択された案件を見ても、「本気か?」というような内容が数多く見受けられます。補助金を目当てに、逆に負債を抱えたと言わざるを得ません。つまり、「その事業、絶対にやってはダメでしょ!」という案件がとても多い印象です。強みを強化するどころか、借金して不足しているものを必死に埋めようしています。

また、近年急速に進むDX。強みを強化するという観点よりも、効率化に重点が置かれているように思われます。もちろん、強みに対してDXが不要であれば別ですが、よほど俗人的なサービスでない限り、不要ということはないでしょう。

そして、DXが目的となり、その前段階の現状把握と課題設定が不明確。導入したら大混乱、想定外のことも起こって、むしろ手間が掛かっているということが少なくないはずです。

公平性や効率化より、中小企業が勝ち残るためには「強み」です。そもそも強みが分かっていなければ重点配分もできません。

何を伸ばし、何を切り捨てるのか…。選択と集中、重点配分…。
言葉としては理解していても、実際に行動に移せる方は多くありません。

スタートラインに立つ前に、そしてお金をかける前に、自らを理解して臨まなければなりません。

「その強み、むしろお金を掛ける必要すらないよ!」というケースもあるくらいですから。