お金の増やし方について考える

なんと、目玉は『NISA』でした!

もちろん2023年度の税制改正大綱の件。経営者の皆さまに関係が深い法人税・所得税は無風とお考えいただいて結構です。

岸田首相が当初掲げた「令和版所得倍増計画」は曖昧なままですが、実際に所得を倍増するにはGDPを凄まじい勢いで上げなければならず、夢物語でした。

今度は「資産所得倍増計画」を掲げています。「貯蓄から投資へ」が合言葉ですが、これがお金について考える機会になるのであればとても良いことです。

では、早速考えてみましょう。

たとえば貯蓄1,000万円を投資、複利で運用。これを倍にするには利回り10%で8年掛かります。5%では15年、3%では24年。なかなか大変です…。

これが100万円でも1億円でも同じ期間が掛かるため、投資額が多い方が有利なのは言うまでもありません。

投資額を増やすためには貯蓄を増やす必要があり、結局は所得を増やすしかありません。なんと、所得倍増計画に戻りました!

所得を倍にする場合も理屈は同じです。年収500万円を倍にするには毎年10%の昇給で8年。5年で年収を倍にするには毎年15%の昇給が必要となり、これもなかなか大変です…。また、収入が増えても支出が増えれば、貯蓄は簡単には増えません。

最後に、これを企業経営で考えてみましょう。

内部留保1億円を倍にするには…。平均経常利益1,000万円を倍にするには…。結局は成長率に応じ、成長率が低ければ時間を掛けるしかない。すべて同じ結論です。

いわゆるスタートアップ企業は成長率20%、30%と高いレベルを求め、さらに複利効果を活かすべく資本をかき集めて投資を続けます。基本は赤字ですが、ばくちと同じですから当然のようにチップを積み上げます。外部から投資を受け、借入も保証が外れれば経営者個人としては痛くもない。ばくちを行いやすい環境も整ってきました(スタートアップへの投資に関する税制も整備されています)。良し悪しを別にすれば理屈どおりです。

いずれにしても、内部留保を目標額にまで引き上げるためには成長率と期間の掛け合わせが必要であり、期間を区切ることで必要な成長率が決まります。

「10年後に会社を10億円で譲渡したい」ということであれば、現在地から成長率で計画を立てられます。

なるほど、企業経営に置き換えてもお金について考えることは重要だということが分かります。

なお、国は学生に向けて金融教育の推進を始めています。ただし「貯蓄から投資へ」の前に「消費から貯蓄へ」の教育も改めて必要ではないでしょうか。

経営者の皆さまは、むやみに売上高を増やすよりも、ムダな費用を削った方がお金が貯まることを身をもって経験されているはず。

支出を抑えて収入を増やすからこそ、投資に回せるだけの内部留保が増えやすくなるのです。そして貸借対照表や損益計算書、その他の経営数値を用いて企業経営を正確に管理し、計画する…という当然の話に戻ります。

結局、「貯蓄から投資へ」がそのまま資産所得倍増「計画」になる訳ではありません。まず、これだけ増やしたいという具体的な目標があり、いつまでにと期限を決め、実際に行動する。あとは行動しながら目標に向かって軌道修正するしかありません。投資でも企業経営でも構造は同じです。

2023年に向けて、皆さまもお金の計画を立ててみてください。

以上、本年も『税理士セカンドオピニオン』をお読みいただき、ありがとうございました。
2023年が中小企業経営者の皆さまにとって良い年となるようお祈り申し上げます。

生前贈与

今週中にも公表される令和5年度税制改正大綱で、どうやら生前贈与加算が現在の3年から7年になりそうです。

ご存じのように、現行の生前贈与加算は「贈与を受けた日から3年以内に贈与者(あげた人)が亡くなってしまった場合には、その生前贈与はなかったものとみなされ、贈与済みの財産が相続財産に加算されて相続税の課税対象となる」制度です。

亡くなる直前で「相続税逃れ」のために行われる駆け込み贈与を防止するためのもので、この加算期間が7年になれば贈与者の死亡から遡って7年間に行った贈与が相続税の計算対象となるため、贈与による節税効果は大きく減少します。(延長する4年間に受けた贈与は総額100万円までは相続財産に加算しない案のようです。)

ただし、先に納めた贈与税は相続税から差し引くことができますので、2重に税金がかかることはありませんし、相続(遺贈)によって財産を取得しなかった者(例えば孫)への贈与が相続財産に加算されることもありません。

今回の生前贈与加算の改正案については「課税負担が重くなる期間を長くすることで、早い時期からの生前贈与を促し、子育て費用などが必要な若年層への資産移転が進みやすいようにする」ことが狙いだと説明しています。(本音は課税強化が狙いに決まっていますが)

基本的に節税だけを目的とした贈与には弊害が多いこともあって賛成しないことも多いのですが、早い時期から相続について考え備えることには賛成です。相続の準備は、なにも税金対策に限りません。

特に中小企業経営者の事業承継を考えた場合には、早くから贈与を使った対策が効果的に機能します。ものごとの結果の八割は準備で決まります。

世間のイメージとは異なり、財産がそれなりにある方の相続で揉めることは実はあまりありません。相続する側もされる側も、早い時期から対策の必要性を認識して感情の問題にも配慮しながら周到に準備を進めていくからです。

一方で「うちは揉めるほどの財産はないから」「兄弟みな仲が良いので大丈夫」と言って何も準備していない家庭ほど危うかったりします。

相続は一部のお金持ちだけの話しではありません。財産の額が少なくても必ず相続は発生します。財産も債務も誰かが引き継ぐのです。

家族の死が目の前に迫ってから初めて行われる話し合いでは、逝く側も残される側も冷静さを欠き、それぞれの想いがよりストレートに色濃く全面に出てきがちです。

人の感情はとても複雑です。差し迫った場面で行われる財産の話しには、本人はもちろん、周囲の感情も激しく揺り動かされることになります。とっくに忘れていたはずの昔の記憶もよみがえります。

家族の死を目の前にしての負の感情のぶつかり合いは、やり切れないほど悲しく切ないものです。

互いの感情に寄り添った争いのない相続とするための準備は「まだだいぶ先のことだけど・・」くらいの時期から始めてちょうどいいのです。

贈与の利用価値は節税だけに限りません。もし、個々の感情にも配慮した望ましい形で活用できるのであれば、結果として相続の際に加算の対象となってしまったとしても、それ以上の意味があるはずです。

今年も残すところあとわずか。

今年の贈与は、もうお済みですか?