適正規模とは-その1-

自社はどの程度の規模であるのが良いのか?
経営者の方がご自身に問い掛けることが多い問題ではないでしょうか。
規模という概念は抽象的になりがちですが、具体的に例を挙げれば下記のようになります。
1. 売上高はどのくらいが良いのか?
2. 社員は何人が良いのか?
3. 役員報酬はどのくらいが良いのか?
4. 借入金はどのくらいが良いのか?
5. 内部留保はどのくらいが良いのか?
もちろん、これらの質問に正解はありません。
「一般的に・・・」、「業界平均では・・・」という尺度はありますが、企業ごとに状況が異なるため、これらの尺度で納得される方は多くありません。
そして、適正な規模という問い掛けも、一つの質問では成り立たないのが現実です。
例えば、売上高5億円の企業の経営者から、「適正な社員数を知りたい」という質問があった場合、以下のような質問を返さなければなりません。
「経常利益はどのくらいで計算しますか? 役員報酬はどのくらいで計算しますか?」
なぜなら、その前提として売上高、経常利益、役員報酬等が“適正”でなければならないからです。関連要因の変数を固定しない限り、適正な社員数は求められません。
仮に、今の売上高は5億円だが通常は7億円ということになれば、適正な社員数も変わります。また、変数の基準は企業ごとに異なるので、売上高が同じ同業者でも適正な社員数は異なります。
つまり、適正な規模というものは、“この条件であれば”という仮定の下に、初めて成り立つものなのです。
“この条件であれば”という明確な基準指数は、自社の経営計画数値であることが好ましく、適正な規模というものも毎年変動し続けます。
それでも知りたい・・・。
自分の役員報酬は適正なのか?
中小企業の経営者にとって、切っても切り離せない問題が役員報酬です。業績、税金、社員とのバランス、同業他社の役員報酬等、考慮すべき事項が多いことが問題を複雑にしています。
ですから、適正な役員報酬というものが機械的に算定出来るのであれば、皆さん大喜びするでしょう・・・実際に算定結果を見るまでは。
以前、当社のWEBサイトに「適正な役員報酬」の簡易算定ソフトをアップしました。実際に算定された方はご記憶にあるかもしれませんが、おそらく想像以上に低い役員報酬が算定されたかと考えます。
もちろん、これは算定方法の一つとして提示させていただいたものですが、このようなものを参考にしつつ、企業ごとに適正と考える額を決めていくしかありません。
しかし、この役員報酬は、他の指標の適正性を検討する時と決定的に違う点があります。それは成長性と投資という視点です。
例えば、拡大路線をひた走る売上高200億円にまで成長した企業(A社)と、売上高10億円前後を維持されている企業(B社)があり、ともに役員報酬が1億円と仮定します。
このB社の役員報酬1億円は、一般的な基準では高いといえます。しかし、考慮すべきは一般的か否かではありません。B社が何を重視しているかという点です。
結論からお伝えすると、B社にとって役員報酬は変動させるべき要因であり、売上高と経常利益は維持すべき要因です。逆に、A社にとって役員報酬は維持すべき要因であり、売上高と経常利益は変動させるべき要因です。
つまり、A社は余剰利益を投資に振り向け、売上高を増大させるという方針を徹底しており、役員報酬が適正か否かという質問自体に意味がないのです。ですから、役員報酬を1億円から変更する必要性がありません。
逆に、B社は余剰利益を役員報酬で吸い上げるという方針が明確です。売上高を維持するための投資は毎年定期的に行っており、必要以上に経常利益を出す意思がないため、必要な利益を上回る部分は役員報酬に振り向けます。それが現時点で役員報酬1億円となったというだけです。
このように、役員報酬が適正か否かは、企業の方向性をどのように考えているかで、その基準が変わります。
中には、「投資するお金がないのだよ!」と騒ぐ経営者の方がいらっしゃいますが、そのような企業に限って、役員報酬を必要以上に取っているケースが見受けられます。
これなら答えは簡単です。
「貴社の経営の方向性から考えると、役員報酬の規模が適正ではありません」