経営分析の功罪

経営分析に幻想をいだいている経営者はたくさんいらっしゃいます。経営分析を行えば、自社が良くなるという幻想に・・・。
当然の事ですが、経営分析を行っただけでは何も変わりません。
特に、経営分析を自ら強く希望する方ほど、分析結果をお渡しした後の反応が薄いというのが現実です。そこには、経営分析をすごい魔法のように期待していたのに、フタを開けたら現実しか見えなかったというような感じさえあります。
現実が見えると、否定的な言動が多くなるというのが常なのでしょうか。しかし、経営分析による結果は、現実しか見えません・・・。
経営分析結果をお伝えしたときの経営者の反応は以下の二つに分かれます。
(1) 「へぇー」
(2) 「じゃあ、どうすればいい?」
■「へぇー」の経営者との会話
「へぇー。経営分析ってこんなものか・・・」
「そうですね。どの辺がこんなものとお考えですか?」
「これだけ見せられても、どうすればよいか分からないよね」
「例えば、貴社は限界利益率が他社に比べて低くなっております。この辺はいかがでしょうか?」
「他の企業と比較する事に意味ってあるの? やり方だって全然違うんだし・・・。ウチは大手の下請けだからどうにもならないんだよね」
とはいえ、目標経常利益率は10%だとおっしゃる。その数字も、過去の企業の経営分析から導き出されている数字ですよ・・・。
■「じゃあ、どうすればいい?」の経営者との会話
「なるほど。これがうちの分析指標だね・・・。」
「はい。いかがでしょう? 何か気になる点はございますか?」
「うーん。難しくてよく分からないが、限界利益率が他社に比べて低いのが気になるな。これを上げるにはどうすればいい?」
「一般的には、売上単価を引き上げる。仕入外注単価を引き下げる。限界利益率が高い商品の構成比率を高める。限界利益率が低い商品の構成比率を低くする。高付加価値商品を取り扱う。不採算事業から撤退する。等の方法がございます」
「君から見て、ウチは何を行うのが一番効果が高いと思う?」
このような経営者は、何を行えば良いのかをご自身で感覚的に分かっていて、なおかつ、このように聞いてきます。
さらに、“じゃあ、どうすればいい?”を何度も繰り返します。
■経営分析の現実と功罪
上記、二パターンの経営者の反応は極端なものですが、方向性としてはこのように分かれます。
繰り返しますが、経営分析は特別な結果を導き出すものではありません。単なる会計上の指標です。
ですから、会計の専門家ではない経営者にとって、経営分析指標が難しいものであるのは当然です。従って、その結果を見て、何かを思いつかなければならないと考える必要はありません。
“じゃあ、どうすればいい?”と、専門家との会話によって、ご自身の判断を行うためのヒントを引き出せばよいだけなのです。これは、社員との会話でも同じことです。
また、「経営分析って役に立つの?」と、経営分析を否定的に捉える方からご質問をいただくことがあります。
確かに、“役に立つか?”と言われれば、ケースバイケースですが、役に立たないという程のものではありません。教科書的なお手本しかない企業経営において、いわゆる通知表とも言える経営分析指標くらいしか、自社の状況を判断する材料がないのが現実だからです。
また、平均データと比較する事についての是非もあります。本来であれば、各業界の個別企業のデータを収集し、べき分布グラフにおいて、自社の業界内でのポジションを示すのが、真の意味での比較になります。

ここで勝ち負けが明確になれば比較する事の有効性も理解されるのですが、詳細な財務データが公表されている大企業と異なり、中小企業ではサンプルデータを集める事は非常に困難です。
とはいえ、平均データと比較しても意味がないと言い切れるのは、平均から大きく逸脱しているイレギュラーな企業のみです。平均付近に位置する企業は、平均を大きく超える事を目的に比較するという視点が重要と考えます。
もちろん、分析結果を基に状況判断をする事だけが正しい訳ではありません。また、経営者の直感は、良い意味で分析結果を裏切ります。ゲリラ戦略的な経営を行っている企業に、通常の経営分析指標など参考になりません。
分析指標は、使い方によっては大きな武器にもなりますが、分析指標を絶対視する事によって、自社の状況判断を誤らせる場合もあります。
あくまで手段であって、使う者、使い方によって、180度結果が異なる点において、功罪両面を併せ持つのです。
ちなみに、平均を20年、30年と続けると、いつの間にか優良企業に化けている場合があるという事実をご存じの方は多くはありません。
最後に、経営分析とは、以下の三段階で成り立っています。
(1) 収益構造や財務状況を構成比や比率で表し、自社の状態を把握する
(2) 構成費や比率で表した指標を、業界企業や同規模企業の指標と比較する
(3) 指標の比較結果から、改善する指標や全体のリバランスについて検討する
そして、当然ですが、経営分析を上手く使ったと言えるのは、三段階を経た後の改善行動をすぐに行う企業のみです。ちなみに、すぐに行動に移す経営者は、“じゃあ、どうすればいい?”の経営者の中ですら、2割しかおりません。

消費税増税の裏効果をご存じですか?

来年4月からの消費税増税を前に、
中小企業者において消費税増税分を
価格に上乗せしやすくするため、大手小売業者の『消費税還元』などを
銘打った特価セールを禁止する臨時措置が話題となりました。
この臨時措置では、本来、消費者が負担すべき消費税増税分を値引き
したり、ポイント還元したりしていると解釈できる広告や宣伝を
禁止しています。
これらは中小企業の消費税増税による価格への転嫁を促進するための
対応として政府が決めたことですが、はっきり言ってありがた迷惑です。
そんな、ありがた迷惑な臨時措置ですが、一つだけ私たちにとって
とっておきの裏効果が隠れていました。
それが、『総額表示の特例措置』です。
総額表示とは、平成16年に導入された制度で、消費税を含んだ支払総額
で価格の表示することを定めた法律です。

この法律の施工前に、私は地元の商工会などで何度か講演の依頼を受け、
その度に、これは大事だと話をしていたのです、私の話し方がよくなかった
のか参加されていた皆さんはあまりピンときていませんでした(汗)
例えば、現在120円の缶ジュースは8%増税後いくらになるのでしょうか?
理論上は123円42銭です。
※120円÷1.05×1.08
ところがいうまでもなく自動販売機には1円、5円は使えません。
その結果、以前100円だった缶ジュースは、消費税が導入されたときには103円ではなく
110円となりました。
その後、消費税が3%から5%に引き上げられると、115.円ではなく、120円となりました。
それは何故か?
3%の価格アップでは事務コストすら賄えなかったからです。
これは便乗値上げではありません。
適正な利益を維持するための『価格改定』です。
ところが、価格改定の際にネックになってくるのが総額表示です。
改定後の価格に消費税増税分を乗せて表示をしなければならないため
一般の消費者に与える『割高感』は絶大です。
消費者からは、すぐに「便乗値上げだ!」と言われてしまいます。
現に、総額表示が導入されたときには、見た目で値上がりした印象が強く影響し、
一般消費者が買い物にいく機会が多いスーパーなどでは売り上げの減少が
みられました。
そのため、国は昔きめた法律を曲げる臨時措置をつくったのです。
この臨時措置によって新たに認められることとなった表示方法は
次のとおりです。

これらの表示方法は10月1日以降に解禁となります。
これによって、従来、税金によって割高感を与えていた商品等について
次のように表示することができるようになりました。

ただし、この措置を利用し税抜価格で表示した場合には、
『できるだけ速やかに』総額表示をするように努めなければならないとしています。
どの程度努めればいいのでしょうか?(笑)
皆さんはこの機会を逃していつ価格改定に手をつけますか?

意外と知らない、出向者の社会保険とその影響!?

ねえねえ、「出向者の社会保険はどうしたらいいの?」
最近よくあるご質問の1つです。
そこで、今回はこの取り扱いについて簡単にご説明します。
★ 在籍出向
通常よくある出向の形です。
書いて字のごとく、籍は出向元に置いたまま、出向先で勤務するものです。
この場合には、いわゆる労働契約が出向元と出向先の両者で成立していることになります。
よって保険関係の適用はその使用者の責任の所在や、その給与の支払形態によって変わってくることになります。
★ 労災保険は?
まず、労災保険は実際に勤務をしている場所、すなわち出向先で適用することになります。
また、もし給与に出向元からも支払われるものがあれば合算して適用します。
★ 雇用保険は?
雇用関係は、出向元か出向先のいずれかにしか成立しません。
よって、いずれかのうち生活をするため必要な主な給与を支払う側での適用になります。
ちなみに、先のような給与の合算はありません。
■保険別の適用一覧
保険種類        適用先
労災保険   →    出向先
雇用保険   →    主たる給与の支払事務所
社会保険(健保・厚生)→ 給与の支払い事務所(一定の場合には保険者を選択)
★ 社会保険は?
健康保険や厚生年金の社会保険ですが、これは直接給与を支払うほうでの適用になります。
よって、勤務先が出向先でも給与は出向元が直接支払う、そんな時は出向元で適用することになります。(あくまで「支払う」ことであり双方の給与の負担は関係ありません)
★ 出向元、出向先の2か所から直接支給される場合は?
この場合には双方に使用関係が存在しることになるので、双方の会社において被保険者となってしまいます。
そこで、保険の二重加入を避けるため保険者を「選択」して、双方からの給与を合算して保険料を決定します。要は、従業員さんがいずれかを選択して、合算給与で適用することになります。
■給与の支払元と社会保険の関係
給与の支払元              適用関係
出向元で全額を支給       →   出向元で適用
出向先で全額を支給       →   出向先で適用
出向元・出向先から双方で支給  →   従業員が選択していずれかで適用
以上のように、
・直接支払うのはどちらなのか
・主な支給はどちらなのか
・支給に関わらず、勤務するのはどちらか
などによって保険の適用が変わってくることがわかります。
これを経営者の視点からみると、
例えば社会保険の適用は経費負担の面などから・・
・出向先でしたい
・出向元でしたい
また、給与自体の負担も
・出向先でしたい
・出向元でしたい
・双方でしたい
と、様々であることが考えられます。
そうすると・・・
例えば、「社会保険は出向先で適用したいので、給与は出向先から支給しないといけないな・・」
「しかし、給与の負担は出向元からもしたいので・・・双方から給与の支給をしてしまうと、社会保険の適用は従業員の選択になってしまうから・・」
「では、負担分を出向元から出向先へ「給与負担金」として直接支払って、給与自体は出向先から本人へ支払おう」ということになるのです。
会社を複数お持ちの経営者の場合には、この辺も知っておかないと人事の際の経費負担が
思わぬ結果となることもあるのです。
さらに、実際の給与の支給とその負担の関係や金額などによっては・・・
実は法人税法上の取り扱いも異なってきます。この辺はまた次の機会にお伝えしようと思います。
最近は建設業を中心に、社会保険の加入状況の現地調査、加入状況による下請けの規制など、厳しさが増大しています。
人事が思わぬ方向にならないよう・・気を付けたいものです。
【注:上記において、概要をお伝えするために、細かい規定部分は省略していますのでご了承ください。】

通達は法律ではない!

税金。私達は何を根拠に税金を納めなければならないのでしょうか。
ほぼ100%の人がこう答えるのではないでしょうか。「法律」
競馬の払戻金を一切申告せず、約5億7千万円を脱税したとして所得税法違反罪に問われている元会社員男性の判決が5月23日にありました。大きく報道されていましたので競馬ファン以外の方でも、ご存知の方が多いのではないのでしょうか。
長年競馬をやっていらっしゃる方でも、意外と知らない方が多いのですが、会社員の場合、給与以外の所得が20万円を超えると確定申告する必要があり、競馬の払戻金もその対象です。この元会社員の男性は競馬による所得、つまり収入から経費を差し引いた額が20万円を超えていましたので、申告して納税する必要があったのです。
この男性は競馬の所得を申告していませんでしたので、有罪になるのは仕方ありません。
しかし、今回の裁判で大きく議論の対象となった点は別にあります。それは「所得区分」の問題です。
所得税法では、個人の所得は「給与所得」「事業所得」など10種類に分けられており、どの所得区分に当てはまるかで所得の計算方法が異なります。馬券の払戻金については、“一応”「一時所得」とされています。
ここでは計算方法等の詳細は省きますが、今回のケースが検察側が主張するように「一時所得」であるとすると、認められる経費は当り馬券代だけになり、結果として脱税額は5億7千万円となります。
しかし、今回の大阪地裁が出した判決では、「一時所得」ではなく、男性の馬券購入を“営利を目的とする継続的行為”としてFX取引や先物取引と同じ「雑所得」に当ると判断しました。「雑所得」であれば、外れ馬券代や男性が開発した独自の競馬予想システムの運営コストなども含めて必要経費として認められます。その為、脱税額は約5200万円と結論づけられました。
うん?だって競馬の払戻金って「一時所得」決まっているんじゃないの?
そんな疑問がわいてきませんか?
実は競馬の払戻金は「一時所得」であるなどという事は法律には一切書かれていないのです。ですので先程、馬券の払戻金は“一応”「一時所得」とされている。と書いたのです。
法律に記載がないのに、どうして競馬の払戻金は「一時所得」とされているのか。実は「所得税法基本通達」というものに、その記載があるのです。
≪所得税法基本通達34-1(一時所得の例示)≫
次に掲げるようなものに係る所得は、一時所得に該当する。
(2) 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等
この「通達」、「法律」ではありません。
分かり易く言うと国税庁長官が部下である税務署職員に対して法律について「こう解釈しなさい」と命令する文章なのです。
つまり、「通達」は言わば“内部の決まりごと”のようなものであって本来、法的拘束力は一切ないはずなのです。しかし、税務署は通達に従って税務行政を執行しますので、結果として事実上、限りなく法律に近い拘束力を持ってしまっているのです。
また、通達の前文にはこのようにも書かれています。
≪所得税法基本通達 前文より抜粋≫
この通達の具体的な適用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るよう努められたい。
つまり今回のケースのように「馬券収入=一時所得」と杓子定規に判断してはいけません、様々な事象を勘案して、総合的に判断しなさい、と書かれているのです。
日本では実質的に通達が法律に近い効力を持ってしまっている事も事実ですが、通達による判断がひっくり返った今回の裁判を通して、通達はあくまで通達であって法的効力は無いということが分かります。
とはいえ、通達に記載がある以上、税務署側は必ず通達に沿った解釈、取扱いを行いますので、納税者が通達に反した解釈をすることは、それなりのリスクを覚悟しなければなりません。しかし、様々なケースがある税務において、通達に沿って解釈する事が必ずしも正しい判断であるとは言えず、通達に反した納税者の主張が認められる可能性があるということも事実です。
通達を根拠に課税されそうになっても簡単に諦めてはいけません。
しつこいようですが、「通達」は「法律」ではないのです。
ちなみにこの事件、先日、検察側が控訴しましたので、判断が更にひっくり返る可能性もあります。今後の判断も気になるところです。