副作用

「相続税対策にお孫さんを養子にしませんか?」

専門家から、こんな提案を受けたことのある方、たくさんいらっしゃるはずです。
手続きは簡単、実親との親子間関係もそのまま、もともと名字が同じなら養子縁組によって孫の名前が変わることもありません。それで相続税の対策になるならと、実親も前向きに検討するケースが多いようです。しかし、未成年の孫を養子にする場合には、少し注意が必要です。

ご存知のように未成年者には「親権者」がいます。通常は実父母が親権を持っています。離婚裁判などで親権を争う話などを聞く機会がありますので、比較的よく知られた法律用語です。

もうピンと来ましたでしょうか?
そう、「未成年者である養子の親権は誰にあるのか」です。

実は未成年者を養子にした場合、その親権は実親から養親に移ってしまいます。
つまり法律上、実父母には実の子に対する「親権」が無くなってしまうのです。

相続税法上、実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人までを養子とすることで法定相続人の数に含めることができます。そして相続人が増えることにより相続税法上、次のような効果が生まれます。

  • 相続税の基礎控除(非課税枠)が増える。※1人当たり600万円
  • 生命保険金の非課税枠が増える。※1人当たり500万円
  • 退職金の非課税枠が増える。※1人当たり500万円

孫養子の相続税は20%割り増しになるというデメリットもありますが、通常は上記のメリットの方が大きく作用しますので、手続きも簡単な「孫養子」は一般的な相続対策として幅広く知られ、利用されています。

しかし、しかしです。前述のように、養子となった未成年の孫の親権は養親に移ってしまいます。
さて、実の親の心情として、実の子の親権を持たないというのは、どうなのでしょうか・・・
私は3人の娘(未成年)の親です。あくまで私の個人的な意見ですが、仮に私の親が資産家で、娘を私の両親の養子とすることで、相続税を減らせたとしても我が子の親権が自分にないという状況には大きな違和感を得ます。親権が私になくても、何かなければ特に問題は起きないかもしれません。しかし、それでもやはり私の子の親権は私が持っていたいです。

もちろん、相続税対策としてはとても有効ですし、考え方は人それぞれです。こうしたことを、ご理解のうえで未成年の子を両親の養子にするのであれば問題ありません。
しかし問題なのは、この養子と親権の話、意外と知らない方が多いのです。

専門家に勧められ、我が子を両親の養子にすることに同意したが、後から自分には親権がないことを知ってショックを受ける・・・こんなことは避けなければいけません。

もちろん何も起きないまま、子(孫)が成人すれば親権の話は関係なくなります。
しかし、逆に養子となった子(孫)が未成年の間に養親(祖父母)が亡くなってしまった場合でも、その親権は実父母には戻りません。この場合には家庭裁判所で後見人を選任しなければならないのです。

繰り返しになりますが、孫を養子にすることは相続税対策として有効であることは事実です。しかし、養子縁組のような法律行為を行おうとする場合、どのような法律効果をもたらすのかをよく理解したうえで実行していただきたいのです。

もちろんお金は大切です。しかし、それ以上に大切なこともあります。こうしたことは、一人ひとりの価値観によるところが大きい問題ですので、正解は人それぞれです。
相続税に限らず、節税効果を期待する行為の裏側には副作用のようなデメリットが発生することが少なくありません。メリットもデメリットも過不足なく分かり易く説明してくれる、頼れる専門家を味方につけ、みなさんにとって最適と考えられる選択をしていきましょう。