タックスシェルター

今年6月28日の法人税基本通達の改正により、いわゆる「節税保険」と呼ばれる保険商品が封じ込められたのはご存知のとおりです。

今まで、節税と言えば、生命保険の活用が常套手段の1つでしたが、これが封じ込められたことで、もともとは中堅以上の規模の税理士事務所が業者と組んで販売していることが多かった「タックスシェルター」の販売に個人の税理士も手を出し始めるなど節税市場に変化が表れているようです。

タックスシェルターとは、言わば「課税逃れ商品」であり、現行法令や租税条約の予定の範囲内のものであるため、基本的には合法な「節税」に分類されるものになります。

当社にも「ぜひ顧問先様への提案に」との業者からの営業電話が、今年に入ってかなり増えました。

以前からあるものも含めて、最近よく見かけるのが、次のようなものです。

  • コインパーキング事業への投資
  • 航空機、船舶のオペレーティングリース
  • 仮想通貨のマイニングマシンへの投資
  • 海外不動産への投資
  • コインランドリー事業への投資
  • 足場レンタル事業への投資

これらは、投資対象資産を即時償却するか、税務上の中古耐用年数と実際の使用可能年数が大きく異なる点を利用して早期に償却するかした後、その資産を簿価1円で社長個人に移転する、若しくは時価が下がっていないうちに売り抜けるなどという点で概ね共通しています。

基本的には現行法令の仕組みを上手く利用しているものの、既に会計検査院から問題の指摘を受けていて、すぐにでも改正が入る可能性があるものや、解釈によっては租税回避行為として否認される可能性があるようなものも存在しています。

実際、こうした商品が租税回避行為であるとして税務調査で否認されたとの事例も聞いていますので、一見合法ではあっても、少なからずリスクがあることは必ず認識しておく必要があります。

さて、こうした商品、確かに上手くいけば節税効果があることは事実ですが、税務署からの否認リスクが仮に完全に排除できたとしても、私がお客様に勧めることはありません。

なぜなら、こうした節税商品は検討している現在と同様に数年間にわたって多額の利益が出続けることを前提としていたり、何年か後に投資した資産を高値で売却できること、その利益に退職金などの損金をぶつけることなど、不確定要素が含まれることが起きると仮定したうえで設計されていることが多いからです。

経営が予定通りにいかないことは、本来、経営者本人が誰よりも分かっているはずです。

しかも、自然災害など、まったく読めないリスクに直面する可能性が高まっている中、節税だけを目的に本業に関係しない資産に投資することは余計なリスクまで抱えることに他なりません。

そしてもう1つ、このような本業に関連しない節税だけを目的とした商品に手を出すと、得てしてその後、業績が落ちるという傾向があるからです。

もちろん根拠はありません。そうならない場合だってあります。

しかし、こうした商品に手を出したとたんに業績が下がる光景を何度見てきたか分かりません。

経営者にとって納税は痛みです。

それゆえ「節税」の2文字は経営者を大きく揺さぶり魅了しますが、出口戦略まで固まっているケースを除いて、節税商品でできるのは単なる税の繰延で、税が無くなることはありません。

健全で強固な財務は利益を出して納税することでしか築けないのです。

皆さんのところにも今日、「タックスシェルター」の営業が来るかもしれません。

運が悪かったで済ますべきか…。

9月、10月と続いた台風大雨被害…。
私も千葉在住のため、その被害を目の当たりにしました。

昨年も西日本を中心に大きな被害があり、皆さまにおかれましても、今後は経済環境のみならず、自然災害も考慮すべきと強く感じていらっしゃることと思われます。

また、長年経営をされていれば、突然の事件により大きな被害を受けてしまうことがあります。

そのような中でも、すぐに立ち直れる企業と、立ち直れない企業に分かれてしまいます。
そこにはどのような差があるのでしょうか?

もちろん大震災のように取り返しがつかない被害もあります。今年の台風でも致命的な被害がありました。

しかし、被害を防ぐ術がなかった一部の企業を除き、被害があったとしてもほとんどの企業は間接的であるはず。

「今月は5,000万円の売上の見込んでいた。しかし台風被害の影響で2,500万円になってしまった。だから当期は赤字だ。運が悪かった…」

仮に年商が5億円であれば2,500万円の減収は5%にあたります。粗利率が40%であれば粗利益で1,000万円。

台風被害の影響でも固定費が変わらないのであれば、この会社が予定していた最終利益は1,000万円以下、経常利益率2%以下。

5%の減収…。

常識的に考えても、通常あり得る変動幅です。

つまり、こういう企業は一回何か事件が起こったらすぐに赤字になってしまう体質の企業ということになります。今回はたまたま台風被害だったというだけ。

しかし、現代のような不確実性の高い経営環境において、何も起こらない年があると想定する方が間違っています。

例えば、消費税の増税などは何年も前から決まっていました。増税後に景気が良くなると考えていた方はほとんどいなかったはず。それでも増税に向けて何も準備をしてこなかった企業は腐るほどあります。

「増税の影響が想定以上に大きかったために売上の見込みから5%下がった。だから当期は赤字だ。仕方がない…」

このような経営者は何が起こっても同じように赤字の理由を述べるでしょう。予測できても予測できなくても、何に対しても準備を行っていません。

「減収の見込みを立てていたら、これは準備になるのではないか?」

その減収の見込み幅はどの程度だったのでしょうか。10~20%でも足りません。そのくらいは十分あり得るからです。最低でも30%、できれば50%下がったらどうなるのか?というところから検討を始める必要があります。

「さすがに50%はやり過ぎでしょ…」

と、お考えの方も多いかと思われますが、誰しも自社が被災するとは想定されていないでしょうし、仕事が出来ない状態になるとはお考えではないでしょう。実際に被災したら50%減少では済まない可能性があります。

従って、被災でも事件でも予測し得ない事象が発生した場合に、「当社はどうなるのか?」という想定ができているかどうかという点が、すぐに立ち直れる企業とそうでない企業の差になって現れます。

そして、自らに対する問いかけとして、「売上が半分になったらどうなるのか?」というところから始めると、本当に自社が危機を乗り越えられるかどうかが分かります。逆に言えば、そのレベルでないと、すべて現状の延長線上で対処しようとしてしまいます。

「売上が半分になったら…」という問いかけから戦略的に売上を下げている企業は、質の悪い売上を捨て始めます。実際、売上を下げると判断した企業ほど利益が上がるというケースを多数見てきました。

このような企業は質の悪い売上が下がり、質の良い売上が上がり始めるので、結果として現状維持か増収となり利益率が上がります。外部からは質の悪い売り上げを捨てたことは分かりません。

準備ができていない企業にはババ(捨てられた売上)が回ってくる確率が高まり、ババかもしれないと感じていても何かと理由を付けてそのカードをひきたくなってしまいます。さらに、ババを捨てることもできなくなります。

すべては準備です。ネガティブに考える必要があるということではなく、売上が半分になったらどうなるか?というところからスタートすると、準備の質が変わるということです。

地震、台風、大雨、火事、病気、取引先倒産、関係悪化、社員の退職…。
事件は毎年起きます。

赤字の原因を事件のせいにせず、準備により黒字の原因を作っていただければと考えます。