災害をきっかけにリスクへの備えを考える

先月8日から9日にかけて台風15号が関東地方を直撃しました。
過去最大級の暴風による千葉県の甚大な被害は報道等でご存知のとおりです。

その中でもゴルフ練習場のネットが強風にあおられ、鉄柱が倒れて近隣の住宅10数軒を直撃した被害は目を疑う光景で、被害に合われた近隣住宅の方に対する補償についてのゴルフ練習場側の対応などが連日報道されていました。

被害に合われた方に十分な補償がなされて欲しいと願うと同時に、職業柄どうしても気になってしまうのが、ゴルフ練習場側の賠償責任です。

ゴルフ練習場は十分な施設賠償責任保険に入っていたのだろうか・・・
保険が下りない場合、被害に合われた方への補償ができるほどの内部留保はできていたのだろうか・・・

今回のケースの場合、自然災害が原因のためゴルフ練習場に賠償責任はないと判断されれば、賠償責任保険に入っていたとしても、保険金支払いの対象にはなりませんが、自社の保険加入について見直す機会として欲しいのです。

個人法人を問わず、私たちが負うリスクには大きく2つに分けられます。

(1)については、起こる確率が比較的高めであるものの、損害額が比較的少なくてすむため、内部留保があれば、それで十分に対応できる損害になります。しかし、保険で備える場合、起こる確率が高めであるため補償額に対して保険料は高めになります。

(2)については、起こる確率は低いものの、万が一起きた際には損害額が大きく、個人や企業では負担しきれないような損害になります。しかし、保険で備える場合、起こる確率が低いため、補償額を大きくしても保険料は安く済みます。

こう分けて考えると、保険で備えるべきは(2)のタイプのリスクというのが分かるかと思いますが、意外とよく見るのが、(1)のタイプのリスクにきっちりと保険で備えている一方で、(2)のリスクに対する備えはしていないか、していたとしても補償額が少なすぎるといったケースです。

個人法人問わず、しっかりと内部留保ができているようであれば(1)のタイプのリスクについては高い保険料を支払わずとも内部留保で対応すればよいですし、その分、内部留保では対応しきれない(2)のタイプのリスクについては保険でしっかりと備えるべきです。

ただし、生命保険を含めて保険についてはリスクに対する考え方や、個人法人問わず、それぞれ財政状況や背景にあるリスクが異なるため、一概に何が正解かは言うことができません。

内部留保が少ない場合など、不足の事態による急な出費に対応できない場合は(1)のタイプのリスクについても備える必要があると言えるでしょう。

問題は、自身や、自社にはどういったリスクがあるのかを適切に評価することなく、保険代理店や税理士などに勧められるがままに保険に加入し、もしくは加入せず、不測の事態にどれだけの備えを講じているのかを把握・理解していないケースがとても多いことです。

リスクに対する考え方は保険代理店や税理士によっても異なります。お付き合いがあることも理解できますが、ぜひ複数の方の意見を聞いてみるといいでしょう。

ご自身が、自社が、必要に応じて過不足なく適切な保険に加入し、万一の際に必要な備えがきちんとできているか、これを機会に点検してみてください。

増税前、最後の確認

2014年4月以来、5年半ぶりの消費税の増税が目前です。

今回の特徴の一つに、需要の動きが極めて少ないという点が挙げられます。駆け込み需要の反動がないということは、増税以降なだらかな需要の下落が想定されるということです。

なお、効果に疑問があるとはいえ、2020年6月まで増税後の需要平準化のために消費税の還元策が行われます。そのまま7月からオリンピックが始まり、パラリンピックが終わるのが9月。

そして祭りの後、私たち中小企業はどのような環境に身を置いているのか…。予測不可能とはいえ、確実に手を打っていかなければなりません。

消費税の増税にかかわらず、近年の経営環境は中小企業にとって熾烈であり、徐々に体力を奪われてきました。現在の業績には異変が起きていない場合でも、疲弊していたり、先行きが見通せないことも多いでしょう。

この状態で増税に伴う不況感が増してくれば、一気に瓦解してもおかしくはありません。
だからこそ、今は守りを固めるのが最も重要だと繰り返しお伝えしてきました。

守りを軽視した企業は市場からの撤退を余儀なくされますので、堅守の重要性を知る皆さまはその機会を待てばよいのです。

釈迦に説法ですが、中小企業が守りのために検討すべき事項としては以下のような点が挙げられます。

 ・値上げ
 ・原価低減策
 ・人件費高騰の対策
 ・労働時間減少の対策
 ・インボイス制度の対策
 ・不要な固定費の見直し
 ・資金繰り
 ・財務管理体制の強化策
 
この点、値上げについて誤解をされている方がいらっしゃいます。おそらく値上げを攻めの打ち手と思われているのでしょう。

中小企業の場合、値上げにより求める結果は売上高の増加ではなく、売上高の維持あるいは許容範囲内の減少にあります。

つまり、基本的に値上げは販売数の減少をもたらすものであり、販売数の減少によって自社の生産能力に余裕を持たせることにつながります。

それにより設備や人員の増強を抑制または削減することができますので、リソースを増強させる余力が無い中小企業にとっては、いまあるリソースに合わせることができます(値上げの結果、販売数の減少を補って余りある売上高の増加がもたらされれば内部留保に回せばよいだけ)。

逆にいえば、必要なリソースを揃えられないのであれば、値下げを伴う売上高の増加(販売数の激増)は、中小企業にとって最悪の打ち手ということになります。

・社員数と労働時間、支給可能人件費
・現在の設備と今後の設備投資額
・現在の現預金残高と借入可能額

この3点を考慮するだけでも、生産能力(=販売数)は目途がつきます。あとは固定費と必要な利益を決めれば、値上げをしなければならない単価を想定できます。

税理士という立場で中小企業の経営を見ていると、その多くがリソースの限界に挑戦し続けていることが分かります。当然ですが、いまそこにあるリソースの限界を突破できるのはほんの一握りであり、のちに成功物語として語られるスタートアップだけです。

リソースの限界に挑戦し続けた99%の中小企業は混迷の道を歩みます。

リソースに合った経営(身の丈にあった経営)というのは、何か諦めのようなものを想像させてしまうのかもしれませんが、自社の力だけで大きくなる会社などありません。敵失による機会を逃さない企業が新たなリソースの獲得に成功するのです。

それまで守りを固め、お金をため、いまのリソースに磨きをかけてください。

そして最後に、中小企業が最も不得意とする『継続的な』財務管理。

「うちは管理がしっかりしている」と思われている場合でも、それはあくまで現在の状況で最適化されているだけです。

売上高が変わり、人が変わり、システムが変われば今のやり方は通用しなくなります。内部留保が不十分な中小企業の財務管理に不備が出ると取り返しがつきません

遅行指標だけではなく先行指標の管理も取り入れ、異常値の早期発見により、必要な打ち手をいち早く検討していく必要があります。

いまの経営環境は「売上高が上がる=リスクが増す」という状況です。もし、増税後も売上高が上がっている場合は、十分に注意をして舵取りを行ってください。

 

流行りのフリーランスにどう対応するか

消費税増税まで、もうあとわずか。
各種経過措置に飲食料品の軽減税率、キャッシュレス決済によるポイント還元・・・

今回の改正では、ただでさえ難解で欠陥税制とまで言われる消費税が、さらに複雑な税制へと変わります。

そして中小企業経営者が今から対応策を考えておく必要があるのが2023年10月に本格実施される「インボイス制度」です。

昨今、流行りの「フリーランス」。
いわゆる個人外注ですが、クラウドワークスなどの出現により、今やフリーランスに仕事を依頼している中小企業はかなり増えています。

現在は年間売上が1000万円以下で消費税を納めていないフリーランスであっても、消費税分を請求することができますし、支払う企業側は、支払先が消費税を納めていない免税事業者であっても、支払った消費税分をきちんと納税額から差し引くことができます。

しかし、2023年にインボイス制度が始まると、これが変わります。

古物の仕入や一定額の自販機での購入など一部の例外を除いて、支払った消費税を納税額から差し引くことができるのは、適格請求書発行事業者に登録をした事業者から適格請求書(インボイス)を発行された取引に限られてしまいます。

適格請求書発行事業者に登録をするということは消費税の課税事業者になることを意味します。消費税の免税事業者はインボイスを発行することができないため、免税事業者への支払いは支払った側で消費税分を納税額から差し引くことができなくなるのです。

つまり外注先に今までと同額を支払うことを前提とした場合、支払総額は変わりませんが、消費税の仕入控除ができない代わりに、損金が増える(図の外注費:100,000→110,000)ことで利益が減少し法人税が減るということが起き得ます。

しかし、法人税が減ることよりも、消費税の仕入控除ができなくなることで消費税の納税額が増える影響の方が大きいことは間違いなく、インボイス制度が始まった後の免税事業者との取引は企業にとって【利益が減るのに納税額が増える】という結果をもたらします。

インボイス制度開始後、私たちがこの結果を避けるために取り得るのは次の選択肢です。

  1. 免税事業者には今まで支払っていた消費税分の値下げを飲んでもらう
  2. 適格請求書を発行できない免税事業者との取引はやめる
  3. 免税事業者には適格請求書発行事業者に登録してもらい、消費税の課税事業者になってもらう

しかし、現実的には年間100万円以下~数100万円の売上しかないフリーランスの方に消費税分の値下げを強いたり、課税事業者になることを求め、消費税の申告、納税を迫るのは簡単なことではありません。

それでも私たち企業側は「利益が減るのに納税額が増える」状況を避けるために、免税事業者との取引を避ける方向に動くことは当たり前のことです。

働き方の多様性を認める社会を推し進める一方で、明らかにそれを阻害する税制。
あまりのチグハグさに腹が立ちますが、ここでそれを言ってもしかたありません。

いわゆる「生保レディ」や「ヤクルトレディ」、「クラウドワーカー」のように、たくさんのフリーランスを抱える企業は2023年10月までにどういった対応を取るのか考えなければいけません。

4年後は経営者にとって、決してまだまだ先のことなんかではありません。
4年後にインボイス制度がスタートする以上、どんなに遅くとも3年後にはどう対応するかを確定し、取引先であるフリーランスにも方針を告げてお互いに準備していかなければなりません。

3年後と言えば中期経営計画ではまさしく今、その時を見据えて準備を具体的に開始しなければいけいない時期です。

今やフリーランスの存在は欠かせないという中小企業は少なくないはずです。
インボイス制度を理解し、早めの対応を行いましょう。

経営計画、リソースからの組み立て

皆さまは経営計画を立てる際、何を根拠に数値の組み立てをされておりますでしょうか?

例えば、経営計画の作成手順でよく見かけるのは以下のような流れ。

(1)目標の売上高を決める
(2)過去の原価率から売上原価を決める(過去の粗利益率から粗利益を決める)
(3)過去の実績と新年度の見込みから経費を決める
(4)結果として経常利益が決まる

あるいは、まず(4)経常利益を決めた上で、(3)→(2)→(1)という流れで最後に売上高が決まる手順(返済額から逆算してというのもありますね)。

その結果、過去の実績と、目標という名の予測(または意欲)という根拠で経営計画が立てられていることが多いのではないかと考えます。

もちろん、何も考えずに経営をされるよりは良いことです。しかし、このように考え続けるだけでは、その先に進めないと感じる方も多いのではないでしょうか…。

そこで今回は、別視点である自社のリソースからの経営計画の組み立てについてお伝えします。

まず、話を簡単にするために受注の事例判断から考えてみます。
皆さまは一つ一つの受注を決める際は以下のような点を根拠にされているはず。

(1)受注金額
(2)その受注の結果として残る限界利益額や粗利益額
(3)今後の受注の継続性

例えば、以下のような【A】と【B】のいずれかの仕事の受注を行うとしたら、誰しも【A】を選択するかと考えます。

しかし、追加で以下の情報が与えられたらどうでしょう?

それでも粗利益が高い【A】を選択する方が多いでしょうが、非財務情報であるプロジェクト期間と投入人員数で迷われる方も出てくるかもしれません。

そこで、【A】のような仕事を受注する【X社】、【B】のような仕事を受注する【Y社】のお話だと仮定します。

【X社】は営業をせずとも取引先から【A】のような安定的な受注がありますが、【Y社】は取引先が安定せず営業活動により【B】のような仕事を受注します。受注が安定しているか否かでは雲泥の差でしょう。

最後に、【A】の仕事を2回連続で受注した【X社】と、【B】の仕事を3回連続で受注した【Y社】の1年間の業績を確認してみます。

結果として2社の限界利益は同額ですが、【Y社】は人数が少ない分人件費が抑えられ、営業利益が500万円多くなりました。

「Y社のような考え方もあるんだなと思った…」

以上は、あるお客様から【Y社】の方針が書かれた書籍について質問を受けた事例であり、このお客様は【X社】の方針と同じでした。

【Y社】は、表面上の数値から計画を立てるのではなく、今あるリソースからどのような時間(期間)の使い方を行うかの方針を決めて計画を立てているということでした(実際にはもっと綿密にリソースを分析していることでしょう)。

【Y社】にとっての弱みは取引先と原価人員数が少ないという点であり、強みは営業がいるという点です。

もちろん【Y社】が営業で受注できなかったらおしまいですが、「営業で仕事が受注できなかったら…」という恐れから、受注回数が少なくて済む、なるべく期間が長い受注【A】を選択してしまったらどうでしょう?

受注のために値引きを求められ、さらに期間内に仕事を終わらせるために外注費を増やさざるを得ず、利益を大きく目減りさせてしまうことが目に見えます。

そこで【Y社】は営業がいるという強み(リソース)を使って、取引先と原価人員数の弱みをカバーするための受注の仕方を選択します。そのために営業を仕掛ける取引先もポイントになるでしょう。

つまり、売上高・粗利益率・粗利益額が大きい受注が常に正解という訳ではなく、選択はリソースに応じるということになります。

リソースは、業界における立ち位置・環境、扱う商品・技術、経営者・社員特性、設備など、さまざまな領域に存在しています。

そして、今あるリソースから経営計画を立てるメリットは、自社の現状把握をとことん行うことになり、良い意味でも悪い意味でも新たな発見が出てくる点にあります。その結果、中期的な視点が明確になり、選択と集中という中小企業にとって最も成果を上げやすい状況が浮かび上がります。

なお、自社のリソースを十分に把握していないということは、自社の可能性を潰すことにもなります。そこに思いもよらぬものが隠れているかもしれませんので…。

経営計画をリソースから組み立てる手法は、数値から組み立てる経営計画に比べて難易度が高いことは間違いなく、客観性を担保するために第三者のアドバイスも必要となってきます。

それでも行う価値は十分にあるというのがリソースからの組み立てです。
ぜひ、一度お試しください。

無くなる仕事

店舗レジ業務、データ入力、電話オペレーター、電車運転士、薬剤師による調剤業務、公認会計士による監査業務、そして税理士の会計入力業務・・・

AIの発達によって今後無くなるであろうと考えられ、実際に機械に置き換え始められている仕事のほんの一部です。

5年以上前から、こうしたことが広く言われ始め、現在までの身の回りの変化を知る私たちは、自社の業界においても「無くなる仕事」があることを誰もが実感しているはすです。

しかし、どこかでこうも思っていないでしょうか。

「とはいえ、もう少し先の話だろ・・・」

国税庁は先月「税務行政の将来像」として、スマート税務行政の実現に向けた最近の取組状況をホームページで公表しました。

スマートフォン・タブレットによる電子申告や納税手段のキャッシュレス化など、利便性向上に向けて様々な取組がなされていることが確認できます。

中でも目を引いたのが、来年10月を導入予定としている「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア(年調ソフト)」の無料提供です。

具体的には以下の流れになるようです。

① 従業員が国税庁ホームページから年調ソフトをダウンロードする。
(勤務先が年調ソフトをダウンロードして従業員に配布することも可能)
② 従業員が保険会社等から入手した控除証明書等のデータを年調ソフトに取り込むことで、控除申告書の所定項目に自動入力される。
③ 従業員は内容を確認して、そのまま勤務先にオンラインで提出する。
※住宅ローン控除申告書も同様の流れで完了。

国税庁の資料を見る限り、このソフトを利用することで年末調整計算は特別な知識も必要なく、基本的に自動でできるようになり、書類保管にかかる負担もなくなります。

つまり来年の年末調整の時には、既に税理士に報酬を支払って依頼するような事務仕事ではなくなっている可能性が高いのです。

IT化による技術革新によって、将来「いなくなる」とまで言われる税理士の業務の中で、年末調整や確定申告といった業務が無くなるであろうことは平成25年にマイナンバー法が成立した時点で、ある程度予測されていたことです。

そうは言っても年末調整業務が急に無くなることはありませんでしたので、多くの税理士は「無くなるかもしれないけど、もう少し先の話しだろう」そう考え、特に手を打つことなく、変わらず年末調整業務を受けてきました。

しかし、自動で年末調整計算をしてくれるソフトを国税庁が無料で提供してくれる来年以降、年末調整業務を税理士に依頼する企業は間違いなく減少していきます。
年末調整業務による報酬を当てにし続けてきた税理士事務所の売上に与える影響は決して小さくありません。

IT・AI技術の進化によって、皆さんの業界でも必ずあるであろう「無くなる仕事」。
仮にその仕事が残ったとしても、それはAIで代行できる価格競争に巻き込まれる仕事です。

そして、それは「もう少し先の話し」なんかでは決してありません。

現時点では、まだ受注がある仕事から手を引くのはとても勇気のいることですが、無くなることを前提に他の収益源に注力するなどの準備をすることはできるのではないでしょうか。

税理士にとって売上の一角を担ってきた年末調整業務が、「無くなる仕事」から、
いよいよ「無くなった仕事」になろうとしている今、これを対岸の火事としてはいけません。

その時はもう目の前です。

「無くなる仕事」

皆さんは、どう向き合いますか。

オーナー経営者の内部留保問題

老後2,000万円問題。

大騒ぎにはなりましたが、あの報告書を実際に読まれた方はほとんどいらっしゃらないでしょう。あえて読んでいただく必要はありませんが、考え方としては『あたり前』といえる内容が含まれています。

金融庁はメディアや政治家を巻き込んで見事な炎上を演出しました。
結果オーライとは正にこのこと。

もともと年金だけで生活ができるとお考の方は少ないでしょうから、結局は年金の受け取りが始まる前にどれだけの資産を確保できるかが重要という話の展開になってきました。

なお、2,000万円という金額の根拠は「毎月の赤字が5万円だとしたら30年でそのくらいの取り崩しが必要だよね」という点にあります。この赤字5万円に臨時支出は含まれていませんでしたが、退職金の受け取りは考慮されています。

人生100年時代として、70歳から2,000万円の取り崩しをスタートすれば逃げ切れるということでしょうか。

それでは、オーナー経営者の方が引退される際、会社の内部留保がどの程度必要かお考えいただいておりますでしょうか?

一般的なモデルケースとしての老後2,000万円問題とオーナー経営者の内部留保問題は、規模と人格こそ違えど、本質的には同じです。

「内部留保はどのくらいが適正か?」とご質問をいただくことも多いですが、それは今後の経営を具体的にイメージできていないということになります。

「とにかく内部留保を積み上げなければ!」という意気込みも同じです。具体性のない意気込みに意味はありません。

2,000万円問題で不安に陥った方々(特に若い世代)はiDeCoやつみたてNISA等の投資に興味を持ち始めたそうですが、「2,000万円なんて貯められないよ!」とグチばかりこぼしているよりも健全な行動ではないでしょうか。

オーナー経営者がどのような行動を取るべきかも基本的には同じです。迷うほどの選択肢すらないはずです。

ただし、「内部留保がどの程度必要か?」という質問だけで答えを出すのは無理な話です。繰り返しになりますが、そもそも会社をどのように経営していきたいのか、何歳ごろの引退を考えているのか、最後は会社をどのようにしたいのか等の質問とセットになります。

「数十年後のことなど分からない…」ということであれば、10年後、5年後でも構いません。

中には、5年後、3年後だって分からないという方もいらっしゃいますが、『それは考えたくないだけ』と同じです。「仮にこうなったら」という条件で考えることならいくらでもできます。

どんなに具体的な計画を立てたとしても、それはあくまで「こういう状態になったら」という仮説に基づいています。イケイケドンドンの計画だけを立てるのも困ったものですが、イケイケドンドンと最悪の両方の計画を立てて眺めてみれば景色が変わってくるはずです。

従いまして、計画を立てられない経営者など存在しません。存在するのは、それでも計画を立てる経営者と計画を立てない経営者です。

ちなみに、内部留保を貯めてばかりの状態が良いという訳ではありません。どこかにかならず歪が生じています。それがお客様なのか、社員なのか、今後の先行きなのか…。現状を把握しつつ、将来に備えていく必要があります。

老後2,000万円問題は大炎上の末に重要性が強調されましたが、世間的に裕福だと思われがちなオーナー経営者の内部留保問題がクローズアップされることはありません。相談できるとしても税理士くらいでしょう。

それでも将来起こりうる危機的状況に備えて、守りの要である内部留保のことを考え続けなければなりません。

役員の任期、大丈夫ですか?

皆さんが最期に自社の登記簿謄本を確認したのはいつでしょうか。

ご存知のように株式に譲渡制限を設けている通常の中小企業においては平成18年の会社法施行によって、取締役と監査役の任期を最長10年まで伸ばせるようになりました。

これにより、平成18年以降に設立された会社については最初から役員の任期を10年としていることがほとんどで、それ以前に設立された会社であっても、多くは会社法施行後に役員の任期を10年に伸ばしています。

役員の任期が満了し、そのまま役員を続ける場合には「重任」の登記が必要になります。
(有限会社は任期に制限がないため、役員に変更ない限り登記の必要はありません)
原則、取締役は2年、監査役は4年で任期満了であった任期が10年になれば、費用面においても手続き面においても非常にありがたいことなのですが、1つだけ問題があります。

それは重任登記を「忘れる」ことです。

経営者を含めて中小企業の役員が、自分の任期を気にしながら経営を行うことは通常ありません。
以前のように2年ごとであれば、まだ多少気にしていられますが、10年ともなるとまず覚えていられません。

会社のこととなると様々なことを顧問税理士に任せている方も多いと思いますが、登記は税理士業務ではないため、その任期管理を税理士に頼るのも難しい面があります。

そうなると、普段からお付き合いのある司法書士に任期管理を依頼するなり、自社で任期管理を行っていないと、任期満了による重任登記手続きが漏れてしまいがちになります。

会社法上、登記事項に変更が生じた場合、2週間以内に変更登記を申請しなければなりませんが、仮に2週間を過ぎたとしても登記申請自体は問題なくできます。

ただし問題は2週間の期限を過ぎると、過料(罰金のこと:通常、過料は1~10万円程度であることが多い)の対象となることです。

しかし、実務上は多少期限を過ぎても過料の対象となることはまれで、何年も登記期限を過ぎて登記を行っても過料の通知が来ないこともあるようです。

以前、登記の専門家である司法書士に聞いてみたことがありますが、2週間という期限があるものの、半年程度の遅れでは過料の対象にならないことの方が多く、法務局が実際にどのような基準で過料の対象を選択しているかはよく分からないとのことでした。

会社法施行から13年が経過し、既に役員が任期満了を迎えているものの、重任登記がされていない登記簿謄本を目にすることが増えてきました。

皆さんは、役員に就任されてどれくらいの年月が経ったでしょうか。

これを機に自社の登記簿謄本、チェックしてみてください。

麻薬的

芸能人の麻薬関係の報道が続いています。
興味本位の使用から常習者となった末の逮捕劇なのでしょう。

企業活動においては脱税と粉飾による報道をよく見かけますが、麻薬と同様に常習性を伴う危険なものです。

ということで、今回は麻薬的なつながりで脱税と粉飾について少し触れます。
まずは下記のイメージをご確認ください。


*利益がそのまま税金に直結するという前提です。

【脱税】
納税義務があると見なされている人が、その義務の履行を怠り、納税額の一部あるいは全部をのがれることである。 

【節税】
法(租税法)の想定する範囲で税負担を減少させる行為である。偽りその他不正な行為、すなわち犯罪的手法をもって納税を免れる脱税とは区別される。

【粉飾】
業績悪化や赤字などの、企業・組織やその経営陣にとって都合の悪い情報を外部の目から覆い隠すため、データを改竄(かいざん)したりして、見かけ上問題ないように装う(ドレッシングする)ことを表す経営・会計用語。企業会計を粉飾する粉飾決算がその代表例である。

(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

原則的処理を中心に、「例外として法律の範囲内で想定している部分」、「そもそも法律で想定していないために事件が起きるまで判断が保留されている部分(いわゆるグレーゾーン)」、「明確な法律違反」と分かれます。

最終的にブラック領域に手を出す企業も、最初に手を出すのはグレーゾーンかと思われます。そこから、ばれない(まだばれていないという状態)ことに味を占め、ブラック領域に足を踏み入れます。

ブラックである脱税は、納税を認めれば終わってしまう軽微なケースと、納税を認めても刑事事件にまで発展する重大なケースに分かれます。つまり脱税額や悪質性も考慮されるのですが、白黒はっきり決着するという意味で非常に分かりやすいといえます。

これに対して厄介なのは粉飾です。脱税の場合は最初から税務当局が関係してくることがほとんどですが、粉飾の場合はまず関係してきません。

たとえば上場企業の粉飾がばれると金融商品取引法違反ということで課徴金が課せられますが、よほどのことが無い限り刑事事件にまでは発展しないと言われています。脱税が報道される=刑事事件ですが、粉飾が報道される=刑事事件とは限らないということです。

実は、粉飾は粉飾それ自体が問題ではありません。粉飾を行った結果をもって行った行為が問題となります(例えば粉飾された決算書で本来受けられない融資を受ける等)。

ただし、粉飾を行った決算書で過大な融資を引き出したとしても、その会社が潰れて金融機関に具体的な被害が出ない限り問題となることはありません。そのうえ潰れた場合には経営者は自己破産でしょうから、問題となったときには粉飾なんてどうでもよいということになってしまいます。

つまり、刑事事件にならない、そもそも問題となることが少ないという点に粉飾の怖さがあるのです。

以上を踏まえると、脱税の常習「犯」は想定できず、粉飾の常習「社」は想定ができてしまいます。

なお、粉飾をグレー領域とブラック領域に分けてみましたが、ブラック領域に足を踏み入れれば近い将来潰れること(または再起不能)は避けられないと考えます。

ということで、企業活動で一番麻薬的だと考えられるのはブラックな脱税でもブラックな粉飾でもなく、社会的な影響がほとんどないグレーの粉飾です。

特に中小企業の場合、調整してしまえば何とかなってしまうレベルの赤字(または赤字すれすれの黒字)がとても多いのです。これを調整して赤字を回避(または利益を少し増やす)するという処理は日常的に行われていると思われます。

当初からギリギリの利益を狙っているケースで、最後に調整しようとするケースも同様です。「うまく調整できた!」としか思われていないはず。

残念なことなのですが、私どもの経験上このような行為を繰り返している企業が健全な会社になることは少なく、内部留保を積み重ねることもできません。

おそらく経営者の方は問題と考えていないでしょうし、自分で自分をだましていることに気づいてもいないと思われます。

確かにグレーな粉飾などの調整で乗り切ってきたのが中小企業という事実は否定できないのですが、かつては当然だった考え方も現在の経営環境では厳しくなってきました。

ビジネスであるからには赤字は負けです。もちろん負け自体が悪いわけではなく、負けを認めないビジネスに将来が無いということは皆さまもよくご存じかと考えます。

赤字を思い切って出せない企業に、大きな黒字も訪れません。

このまま逮捕されないで済むのではないかと考える麻薬常習者のように、調整による経営をいつまでも続けられるのではないかという幻想は抱かぬよう、ブラックのみならずグレーな領域にもなるべく足を踏み入れないことをお勧めします。

これからは、より良くなっていく中小企業にしかリソースも集まってきませんので。

10連休をきっかけにトレンドを把握する

GW10連休。
私たち中小企業にとっては資金繰りや売上高に大きな影響を与える要因であり、正直、迷惑以外の何物でもなかったという企業も多いのではないでしょうか。

今回のような祝日による営業日数の増減はもちろんのこと、季節変動や天候、自然災害など、様々な要因が企業の業績に影響を与えます。

当然、こうした何らかの要因により単月では前月より売上が上がっていた(下がっていた)としても、中長期的に見て売上が増加(減少)傾向にあるとは限りません。

そこで、ぜひ覚えておいていただきたいのが「移動年計」という管理方法です。

通常、毎日の売上や毎月の売上などの管理は次のような表やグラフで管理している企業が多いのではないでしょうか。

ちなみに下記の数値は東京神保町にある、「まかない」「ただめし」「あつらえ」「さしいれ」
などのユニークな仕組みを取り入れていることで有名な定食屋さん「未来食堂」がHP上で公開している実績値です。

こうした表やグラフは前月や前年同月との比較を行ったり、目標値などの管理には便利ですが、経営で最も重要な「趨勢」を把握することができないのが欠点です。

そこで、通常の管理とは別に年計の管理で趨勢を把握していくことが重要になります。

年計とは、決算期などに縛られることなく、毎日(または毎月)1年間の売上を集計していく方法で、例えば2018年6月6日から今日、2019年6月5日までの365日の売上の合計を集計し、翌日は2018年6月7日から2019年6月6日の365日の売上合計を集計し管理していきます。

こうして毎日(毎月)1年間の売上高を集計し、季節変動や土日祝日といった特殊性を排除することで、自社のトレンドが見えてきます。

では、未来食堂の短期(1年)移動年計と長期(2年)移動年計を見てみましょう。

先ほどのグラフでは分かりませんでしたが、こうして趨勢で見ると中長期的に売上高が減少傾向にあることが明らかです。

移動年計は店舗ごと商品ごとなどに集計することも有効ですし、売上高だけに限らず、顧客数、顧客単価などについて年計で管理してもよいでしょう。
それぞれのトレンドについて要因を追いかけていくと、意外な発見があることがあり、経営判断にとても役立ちます。

移動年計、ぜひ一度集計してみてください。
きっと何か新たな発見があるはずです。        

金融機関にとっての優先順位

AI融資。

中国では日常的に使われているとの記事をよく見かけますが、日本でも事業化に向けて動きが活発になりつつあります。

AI融資は個人情報や取引履歴を用いて、従来の融資とは比べ物にならないくらいのスピード感で実行されるのが特徴です。アプリやWEB上で完結することも大きなメリットと言えます。

日本でもアマゾンやリクルートなど、自社のプラットフォームを使う取引先に対する融資が開始されて数年が経過しています。

このような融資が今後加速し、一般的になるのは間違いありません。情報を随時提供する(あるいは強制的に提供させられる)ことにより、タイムリーに融資が行われることになります。

現在実現しているAI融資は個人や小規模事業者が中心であり融資額もまだまだ少額ですが、AI融資をいつでも受けられるように自社の体制を整えていくということが重要になります。IT化という言葉自体が古臭くなりましたが、そのIT化すらできていない中小企業は注意が必要です。

なお、小規模事業者以外の中小企業(一回の融資で数千万円から1億円を超える融資を受ける規模)はAI融資などの動きについて静観していればよいのかというと…実はそうでもありません。

皆さまも報道でよく見聞きされるかと思いますが、金融機関のリストラが加速しています。支店の統廃合や人員整理が盛んに行われているため、一昔前に比べて金融機関の動きが非常に鈍くなっているのです。

金融機関側にとって優先順位が低い取引先(つまりパッとしない中小企業)については、やる気も経験も少ない担当者が付いたりします。

実際、金融機関の部長クラスに直接確認しても、率直にその事実を認めます。

「手が回らないんです…」

つまり、中小企業はいざというときに迅速に金融機関から融資を受けられるよう、自社の優先順位を上げてもらうことを意識しておく必要がでてきました。

この点につき、AI融資とは別の動きがあります。

たとえば、私どもも所属しているTKCグループが提供している「TKCモニタリング情報サービス」。

これは、税理士がお客様からの依頼に基づき、法人税の電子申告直後に、融資審査、格付けのために金融機関に対して決算書や申告書、月次試算表等のデータを提供する無償のクラウドサービスです。

これまで金融機関は、取引先の中小企業を直接訪問するなどして、決算書や月次試算表などのコピーを入手していました。しかし当サービスを利用すれば、そうした労力を掛けることなく、タイムリーに取引先企業の財務状況を知ることができ、その決算書等のデータは税理士から直接送られてくるため信頼性の高いものになると謳っています。

例を挙げると…。

3月決算法人の申告が5月末に行われ、その決算書等を皆さまが受け取るのが6月上旬頃だとします。その後に金融機関の担当者が ” 紙 ” の決算書等を持ち帰り、決算書情報をデータとして入力。分析を行ったうえで担当者が提案を検討し、再度皆さまの会社を訪問するのが6月下旬から7月上旬。

というのがこれまでの一般的な流れかと思われます。

これが上記のようなサービスを利用すると、金融機関側は5月末に決算書等をデータでそのまま受け取ることができ、皆さまの会社を訪れるタイミングも、” 紙 “ の決算書等を受け取るケースより一ヶ月ほど早まってもおかしくはありません。

仮に、皆さまの会社の業績がパッとせず、金融機関の担当者が乗り気ではなかったとしても、いち早く情報が揃った皆さまの会社から訪問することになるのは当然のことでしょう。

そして、例として挙げたTKCだけではなく、日本IBMが全国の金融機関や会計ソフトメーカー等と組んで、決算書等のデータをプラットフォーム上で提供するシステムの開発を進めています。このサービスの開始目標は2020年とのこと。

紙で受け取る決算書とデータで受け取る決算書…。どの業界よりもフィンテックに積極的であり、そのためのリストラを進める金融機関にとってどちらが好ましいのか、言うまでもありません。

もちろん決算書が良い(格付けが高い)中小企業が有利な条件で融資を受けられるのは間違いありませんが、より早く融資を受けるという意味では外部環境に大きな変化が起こっています。

また、金融機関にとっては、業績がパッとしなくてもタイムリーにデータの提供を受けている中小企業の方が安心できますし、実際に融資条件の優遇を始めています。

今後の融資環境については、皆さまの会社の状態だけではなく、金融機関側の都合も大きく影響してくるということを理解しておいていただければと考えます。

自社や税理士のIT化次第で融資に影響があるというのも時代ですね。