ペイ・アズ・ユー・ウイッシュ方式の会計的思考

『2007年10月9日、イギリスのロックバンド、レディオヘッドはある実験を始めた。 10曲入りの最新アルバム「イン・レインボウズ」の値段を、各自が払いたいと思う額にしたのである。
マネージャーがこのアイディアを持ち寄ったとき「彼はおかしくなったと、僕ら全員が思ったよ。」とボーカルのトム・ヨークは正直に語っている。』
         参考文献:スマート・プライシング(ジャグモハン・ラジュー/ジョン・チャン)
数年前、レディオヘッドは「ペイ・アズ・ユー・ウイッシュ(あなたが払いたい額を払ってください)」方式で、アルバムのダウンロード販売をしました。
通常、2,500円くらいの固定価格で販売されているものを、「代金は自由です」としたわけですが、どう考えても、このような方式で販売することは非合理に思えます。
なぜならば、大多数の人が0円で購入する可能性があるからです・・・。
本書によれば、180万人以上がダウンロードをし、そのうち40%の人がお金を払い、その支払い平均額は2.26ドルだった、とのことです。
果たしてこの数字は、ビジネスとして、成功なのか?失敗なのか?
本書においては、『ペイ・アズ・ユー・ウイッシュ』方式による販売は、(次のような理由から)成功だったと結論付けられています。
■通常の価格・販売経路を使って、何層もの仲介業者を介して販売するよりも、多額の利益をバンドにもたらした。
■革新的な価格設定をしたことで、多くのメディアに取り上げられて無料で宣伝してもらうことができた。
■一流アーティストは、アルバム販売の取り分は小さいが、ライブチケット販売の取り分は大きい。 録音された音楽は、それ自体の売上よりも、ライブチケット販売を促進する手段として位置する。
つまり、メディアに取り上げられたことで無料の広告宣伝効果があり、それがライブチケット販売のフロントエンドとして十分に機能した、ということなのですが、そもそも、このような思い切った販売方式に踏み切れたものは何なのでしょうか?
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会計的に思考すれば、それは『限りなくゼロに近い変動費』ということになります。
オンラインでの販売にかかる変動費はほぼ0であるため、極端な話、1円でも売り上げになれば、それはイコール、限界利益の増加になります。
確かに、10曲を作るまでにはものすごい時間と、コストがかかります。(例えば、プロミュージシャンのスタジオ代は1時間云十万・・・!)
これらのコストは、売上を上げるために発生したコストであるため、広義な意味での変動費?と思われるかもしれませんが、今後売上が増えれば、それに伴って増加するコストではないため、変動費ではありません。
つまり、完成してしまえば、制作や開発に要したコストは“サンクコスト”であり、商品が売れようと売れまいと、既に支出したコストには何の影響もありません。
完成をゼロ地点とし、その時点での市場動向等をみて、最適な価格設定を選択することが必要であり、「投資コストを回収するためには、単価×××円で、×××セットを必ず売らなければならない!」といったような思考は、むしろ足枷になってしまいます。
もしも、市場から弾かれて全く売れないような状況に直面したときは、勇気を出して、その商品・事業から撤退することも必要になります。
「まだ投資資金を回収していないから、もっとプロモーション費用をつぎ込もう」という発想では、「買った本が役に立たない本だ」と気付いたにも関わらず、「もったいないから最後まで読もう」と思い、無駄な時間を浪費することと同じです。
話が、“サンクコスト”へとズレてきましたので、“価格と変動費”へ戻しましょう。
経営を行っていく上で、価格戦略はとても重要なものです。
価格設定を行う際には、1円か1,000,000円か、という両極端で選択するわけではなく、あくまでもグラデーションの中で、『価格×販売量』が最大値となる地点を探っていくわけです。
その下限となるものが『変動費』(変動比率)です。
例えば、出張先のビジネスホテルを探すときに、2・3日先の宿泊(つまり、宿泊日が近々)の値段が、大幅に下がっているプランを見かけます。
そのビジネスホテルだって、固定費+目標利益を、平均の限界利益率(例えば20%とする)で割り算することによって、「標準価格(例えば10,000円とする)」を算出し、普段はその金額で商売をしています。
例として、6月27日という特定の日の直前になっても、空き部屋があった場合、「標準価格が10,000円だから」といって、いつまでも予約が入らず空き部屋にするよりも、変動費2,000円以上の金額で予約が入れば、それを超える部分はすべて限界利益の増加につながるため、安売りをするわけです。
(注)価格と変動費の関係を説明するモデルとして便宜的に使用しただけであり、本来は、ブランディングや、経常的低価格への移行懸念など、他の影響を考慮したうえで、戦略を策定する必要があります。
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レディオヘッドの場合は、無料の広告宣伝効果や、ライブへのフロントエンドである、という確証があったため、このような実験に出たわけですが、それでも基盤となったものは、『限りなくゼロに近い変動費』です。
経営においては、業種・業態・商品別によって、変動費と固定費の割合は様々です。

ファブレスなどで、身軽にしている、つまり固定費をあまり持たない企業もたくさんありますが、反対に、内製化すれば、(リスクを抱える分)割安になり利益は増えます。
つまりメリット・デメリットはそれぞれなのです。
それぞれなのですが、何より重要なのは、自社、または自社製品がどのタイプに属しているかを把握し、それに適した戦略をとっていくことです。
今回は、皆様の経営に生かせるであろう“価格と変動費”の事例をいくつか紹介いたしました。お役に立てれば幸いです。

罰則が最も厳しいのは印紙税!?

大手スーパー「ダイエー」が大阪国税局の税務調査を受け、2011年9月までの3年間で印紙税約3千万円の納付漏れを指摘されていたことが分かりました。
みなさんご存じのように印紙税の納付は通常、作成した契約書、領収書等の課税文書に所定の額面の収入印紙を貼り付け、印章又は署名で消印することによって行います。
「ダイエー」が税務調査で指摘された印紙税の納付漏れは、各店舗で請け負っている自転車修理の契約金額が1万~100万円の場合などに必要な収入印紙を伝票に貼っていなかったり、売上代金が3万円以上だった場合に必要な、領収書への収入印紙を貼り忘れていたといったものです。
さて、この印紙税、課税文書の作成者が印紙の貼り忘れ等により、納付すべき印紙税を納付しなかった場合、どれだけの過怠税(つまり罰金ですね。)が課せられるかご存知でしょうか。これが、とても厳しいのです。
なんと、その納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額、つまり当初に納付すべき印紙税の額の3倍に相当する過怠税が徴収されることになります。
具体的に説明しましょう。
例えば1千万円超、5千万円以下の請負に関する契約書を作成した場合には2万円の印紙税がかかります。
この印紙を貼り忘れた場合の過怠税は、納付しなかった印紙税の額2万円+その2倍に相当する金額2万円×2との合計額、6万円となります。
さあ、みなさん気が付いているでしょうか?
所得税や法人税の場合、税務調査で指摘を受けて修正や更生があった時は、本来納付すべき税額(本税)に加えて過少申告加算税等を納付することになります。
そうなんです、印紙税の場合は、本来納付すべき2万円を含む6万円全額が過怠税という扱いになるのです。
そしてこの過怠税、納付漏れ等による“罰金”ですので、その全額が法人税の損金や所得税の必要経費には算入されません。
本来、損金にできる印紙税2万円の出費で済むはずが、納付漏れにより、その3倍の6万円の出費になり、あげく6万円全額が損金不算入となるのです。
ただし、調査を受ける前に、自主的に納付していなかったことを申し出たときは過怠税は1.1倍に軽減されます。
また、「貼り付けた」印紙を所定の方法によって消印しなかった場合には、消印されていない印紙の額面に相当する金額の過怠税が徴収されることになります。
さて、この印紙税ですが、やり方によっては簡単に節税ができる税金の1つでもあります。
印紙税は発行された文書にかかる税金です。つまり取引先との契約内容をデータ上だけで合意し、契約書を発行しなければ印紙は不要です。
また、契約書をただコピーしただけのものは契約書に該当しませんので、契約書を1部作成し、そちらに印紙を貼って、そのコピーを控えとすれば印紙代は半分で済みます。
みなさんよくご存じのとおり、3万円未満の領収書に関して印紙税は非課税です。
領収書を受け取る側の了承を得られれば、1枚の領収書が3万円未満になるように複数に分けることにより節税することも可能です。
これらは、いずれもかなり地味な節税方法ですが、ちりも積もれば山となります。
最後に実務では、自社で作成・発行した文書が課税文書に該当するか否か、また課税文書に該当する場合、いくらの印紙が必要となるか、判断に迷う場合が多々あります。
その場合には事前に顧問税理士の先生、若しくは直接税務署に電話して確認しましょう。
くれぐれも勘違いによる印紙の貼付漏れによって、損金にならない3倍の過怠税を徴収されることのないようにしましょう。

クッキーはOKなのに、チョコクッキーはダメ???

「生活必需品については税率を低くする。」
という消費税の『軽減税率』ですが、増税の妥協案として、議論が活発になってきました。
しかしながら「生活必需品と、そうでないモノ」の区別が難しいなど、問題を含んでいるのも事実です。
諸外国の例を見ても、各国のドタバタ感が伝わってきます。

また、仮に「生活必需品と、そうでないモノ」を明確に区別できたとしても、(それで全てが解決するわけではなく)むしろ、別の角度からみた“問題”こそ重要な論点なのですが、世間ではあまり注目されておりません。
経済学者のグレゴリー・マンキューは、1990年に施行されたアメリカの奢侈税(※ヨット、自家用ジェット、毛皮など、贅沢品への課税)について、次のように述べています。
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そのような贅沢品を買うのは金持ちなので、贅沢品への課税は、金持ちに課税する論理的な方法であると考えられた。
しかし、重要と供給の作用が働きはじめると、その結果は、議会が意図したものとまったく異なってきた。
奢侈税は、金持ちよりも中流階級に、より大きな負担をかけてしまった。
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なぜ、このような結果に至ったのか、段階を追って説明します。
■アメリカの議会は、金持ちから税収を確保するため、ヨットに課税した。
■金持ちはヨットに課税されたため、ヨットを買わず、そのお金で大きな家を買ったり、バカンスを楽しんだり、巨額の財産を相続で残したりした。
■売上が下がったヨットの製造業者は、ヨットの価格を下げた。
■ヨットの製造業者は、賃金を下げることで、利益の圧迫を回避した。
つまり、賃金をカットされた労働者が、回り回って奢侈税を負担するハメになった。
金持ちのヨットに対する需要は、“弾力性が高く”、ヨットを買わなくても全然構いません。
一方、製造業者のヨットの供給は、“弾力性が低く”、ヨットが売れないからといって、簡単に業種替えをするわけにはいきません。
ましてや、労働者の転職意識は、“弾力性がさらに低く”、その日その日の生活がかかっているため、簡単に転職するわけにはいきません。
このように、弾力性の低いもの(簡単に動けないもの)が、最終的には、上からの圧力を負担することになってしまうのです・・・。
さて、話を、日本の軽減税率へ戻しましょう。
軽減税率の導入は、裏を返せば、“生活必需品以外”のモノに高税率を課すことになります。
“生活必需品以外”という括りであれば、その範囲は広いため、奢侈税や、昔の物品税ほど極端な結果にはならないでしょうが、少なからず、先程のような影響が出ることは容易に予想できます。
このように、国の思惑通りにいかない政策は他にもたくさんあり、最低賃金の引き上げや、社会保険の強制加入、人材派遣法の改正など、弱い者を助けるはずの改正が、逆に、“弾力性の低い”労働者を圧迫している事は、よく知られていることです。
しかし、国の政策を批判しているだけでは意味がありません。
経営者である皆様は、『弾力性の低いもの(簡単に動けないもの)が、圧力を負担する』という図式を理解し、これを経営へと役立てていきましょう。 

バタフライ・エフェクト

「極めて小さな差がやがては無視できない大きな差となる現象」を、バタフライ・エフェクトと言うことは広く知られています。
「ある場所での蝶の羽ばたきが、そこから離れた場所の将来の天候に影響を与える」というのが由来ですが、日本では「風が吹けば桶屋が儲かる」と言った方が早いでしょうか。
あらゆる行動が一定期間を経て、予想外の結果を招きます。
テレビ事業が8年連続の赤字・・・。
液晶事業の赤字が解消されず・・・。
売るごとに赤字が出る“逆ざや”が続く・・・。
日本企業は3月決算が多く、今の時期は前期決算についての発表が相次ぎますが、ソニー、シャープ、任天堂等、日本を代表する企業の赤字が注目を集めました。
どの企業も、一世を風靡した事業が一転して足枷となり、業績を大きく崩しています。
これらの企業は今後どのように回復を模索するのでしょうか?
来年の決算発表が注目されます。
この点、岡本の『実学 中小企業のパーフェクト会計』でも、「初期条件に対する鋭敏な依存性」として別角度から触れています。
長いですが引用します。
「“初期条件に対する鋭敏な依存性”と科学の世界で呼ばれる現象は、経営の世界でも当てはまります。特に会計においては、その依存性は決定的のように思われます。」
      ~中略~
「こうして多くの中小企業と自営業者は、財務的に起きた初期の過ちを埋めることができずにあがくことになります。また、本書で提案した数値管理をもってしても、経営の回復がすぐにできることはありません。」
      ~中略~
「しかし、ここで一言申し上げます。初期の過ちを補正する方法は、この本に書いてあるもの以外にはありません。あくまでも財務的角度からの方法でしかありませんが、こうした財務アプローチなしで、戦略やマーケティングだけで回復を目指しても無理です。
くどいようですが、財務的な過ちは、どんな方法を使ってもすぐに修復することはできません。それはダイエットに似ているともいえましょう。過去に行った行為の結果が自社の目の前の財務です。一枚の貸借対照表は、一つの企業の創業期からの地層です。この地層の変革は並大抵ではありません。
これが最も重要な『見たくない現実』でしょう。」
                  『実学 中小企業のパーフェクト会計』P326~P328
最近、財務改善のご相談を受けることも多いのですが、大抵は初期の過ちを放置していたことが原因で拡大悪化しているというのが実態です。
事業年度が替わるごとにリセットされる損益計算書と違い、貸借対照表は事業年度が替わってもリセットされないため、そこにフォーカスする習慣がないのも要因です。
そして、これをカバーするのは戦略やマーケティングだという固定観念に囚われているため、財務的アプローチはおざなりにされます。
特に、中小企業は前期の結果検証を十分行わず、経営計画を作成しても「とりあえずこんな感じだな・・・」と目標ベースで新年度の開始を迎えるケースが数多く見受けられます。
このような行動を行うから、こういう結果が起こるという予測をもとに経営計画を立てられる企業は数少ないのです。
つまりは、行動計画を立てていないということになります。
ただし、行動計画を立てても、このような行動を行うから、こういう良い結果を得るはずだという期待予測を行うのは危険です。
どこで何が起こるかが分からないのがバタフライ・エフェクト。
これを少しでもコントロールしようとすれば、地道な計測と、その結果を基に補正を継続することが必要です。
上場企業は決算報告とともに新年度の施策を発表しますが、中小企業も社内で担当者に発表させるような機会を設けるのがよいのではないでしょうか?
これを経営者だけで行っていては、初動や初期条件について検証する機会が失われてしまいます。
また、失敗を初期の段階で認めなければ、何年も苦しむことになります。
今、この瞬間に何を羽ばたくか?
バタフライ・エフェクトは今もどこかで発生しています。

年収と手取り

厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、女性の憧れの職業の代表格であるCA(キャビンアテンダント)の平均年収は440万円だそうです。
この数字を見て、皆さんはどう感じたでしょうか。
「え!?そんなもんなの?」と感じた方が、おそらく多いのではないでしょうか。
皆さんご存じのように、給与からは健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税が引かれますので、年収が440万円で扶養0人の場合、通常、手取り額はざっくり350万円程度になります。
ここからが本題です。平均年収440万円のCA。
もちろん個人差はありますが、どういう訳か、年収と手取り額がほとんど変わらないCAがいらっしゃるようです。
仮に手取り額で440万円取るには、各種税金を逆算すると年収では550~600万円近くになる計算になります。
では、年収440万円で手取り額も440万円ほどのCAは、社会保険料も所得税も住民税も納めていないのでしょうか?
いえいえ、そんなことはありません。しっかり給与から徴収されています。
それでは何故、年収と手取り額の差がないなんてことが起こるのでしょうか。
答えは日当がつくからです。
CAの場合、パーディアムと呼ばれる乗務手当がつきます。航空会社によってその金額は異なるようですが、だいたい乗務時間1時間につき700円程度が平均のようです。
1日8時間の乗務で1年の約半分の180日乗務したとします。
すると700円×8時間×180日で1,008,000円の日当がつくことになります。
するとどうでしょう、年収440万円だと通常、各種税引き後の手取り額が350万円ほどであるはずが、日当を加味すると手取りが450万円となり、なんと年収を超えることとなるのです。
しかもこの日当は労働の対価ではなく、出張に伴って発生する食事代等の従業員の負担を会社が負担する性格のものであるため、給与の額面には含まれません。そう、つまり課税されないのです。
結果、年収は440万円なのに手取り額は年収550~600万円の人と変わらないという現象が起きるのです。
大企業や役所では、当たり前のように使われている日当ですが、中小企業では日当を支給している会社は少ないようです。
中小企業であっても「出張旅費規程」作成し、この規程に基づいて役員や従業員に日当を支払うのであれば、何の問題もなく会社の経費とすることができます。
繰り返しになりますが、しかももらう側に税金はかかりません。
役員であれば、従業員よりも日当を高額に設定することもできます。
日当で支給してもらう分と同程度の金額、役員報酬を下げれば、会社として経費に計上できる金額を変えずに、社長さん個人の税金を減らして、社長さん個人の手取り額を増やすことができます。
ただし、出張といっても近距離の日帰り出張に対する支給や、不相当に高額な支給は否認されてしまいますので注意が必要です。
県外などへの出張が多いにも関わらず、まだ出張旅費規程を作成していない社長さんがいらっしゃれば、是非作成して会社から日当を支給してもらいましょう。

消費税のジレンマ

『H26.4 ~8%、H27.10 ~10%』
の消費税増税案が浮上していますが、リスク(=景気の急激な悪化等)を懸念する反対派も多く、まだまだ調整が必要です。
そのため、政府は増税案に“景気弾力条項”なるものを盛り込みました。
“景気弾力条項”とは、(ものすごく簡単に説明すると)
「増税前の景気が良ければ増税する」
「増税前の景気が悪ければ増税を見送る」
というものです。
どうやら、そのときの景気を鑑みて、増税に踏み切るかどうか、を判断するようです。
この条項が盛り込まれたことで、大衆の購買心理に、次のようなジレンマがおこります。
※※※※※
増税前に、買いたいものを買えば得をする。(税率分)
しかし、国民全体がその心理で動き、消費指向に走れば景気が良くなる。
つまり、消費税が上がる。
※※※※※
一方、消費税が上がらないように、(つまり、景気を良くしないために)国民全体が消費を抑えれば、景気は良くならず、消費税の増税も見送られる。
しかし、もしも消費を抑えているのが自分だけで、周りが消費を続ければ、景気はよくなって消費税増税となり、増税後の価格で商品を購入するはめになる。
※※※※※

主人公を「自分」とすると、一番良いのは、自分だけが消費し、大衆が消費しないパターンです。(低税率で商品を取得することができ、かつ、増税もなし。)
逆に最悪なのは、「大衆」が消費しているにもかかわらず、「自分」が消費しなかったパターンです。(増税になり、増税後の高税率で商品を買うはめになる)
1対1で成り立っているゲーム理論でもなく、また、消費税増税による損失以上に、景気好循環によるメリットがあるかもしれませんので、もちろん、こんなに単純にはいきませんが、今後、どのように社会が動くのか、注目したいところです。
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中小企業経営においても、ゲーム理論(とりわけ『共有地の悲劇』)は、会社内のいたるところに溢れています。
「自分が得をしたいから、自分が楽をしたいから。」
そのような個人最適化の心理が集まると、共有財産の枯渇を生み、全体としての不利益、つまりは、回り回って個人の不利益になってしまいます。
■電話・・・
社内にいる人が増えれば増えるほど、誰も電話にでない。誰かが出ると思っている。
「楽をしたい」という自己の利益だけを追求すれば、電話に出ないことが、最良の選択。
全員がそのように行動すれば、「電話にでない会社」、として会社のイメージが下がり、全員の不利益になる。
■全員参加のプロジェクト・・・
「それでは次回までに、誰か、この業界の動向について調べてきてください。誰でもいいから。」
そのような制限では、誰も調べようと思わない。楽をしたいから。
全員がそのように行動すれば、一向にプロジェクトは進まず、売上げも上がらない。つまりは、全員の不利益になる。
■新入社員への仕事の依頼・・・
「××君、これ処理しておいて。」 「××君、前回頼んだ仕事まだ?」
全員が楽をするために新入社員に仕事をどんどん頼めば、新入社員はパンクして辞めてしまう。つまりは、全員の不利益になる。
このように、お互いが見つめ合って動かない事象(バレーボールのレシーバ同士がお見合いするように・・・)、また、お互いが我先にと動きすぎてぶつかっている事象、それは個人が最適化を求めるあまりに起こっている事です。
このような、社内における『共有地の悲劇』を見つけ出し、正していくのも経営者の仕事です。
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弊社には膨大な量の本があります。
フォトリーディングで、線を引きまくって読もうと思いましたが、共有財産です。
自己の最適化(より質の高い読書)のために、共有財産を毀損させては、次の人が読めません。
会社全体の知識水準が下がり、つまりは、会社が弱くなる事で、自分の不利益になってしまいます。気をつけなければ・・・。
いや? これ共有財産ではなく岡本の物か? だったら、線・・・、引いちゃおうかな・・・・・・。
・・・って、本を開くと、既に引いてあるし(怒)!!!!!

ダブルインカムが中小企業経営者のスタンダード!?

先月から今月にかけて、社会保険について驚くニュースが2つ入ってきました。
ひとつは、厚生労働省が年金保険料等を長期間滞納している悪質な業者に対する強制徴収の権限を国税庁へ委任したというものです。
世間的には、AIJによる厚生年金基金の損失隠しで騒いでいますが、実は、すでに破たんしている基金はほかにもたくさんあり、AIJは氷山の一角に過ぎません。
厚生年金基金は一部の大企業の問題で、わたしたちの年金とは無関係と思ってはいませんか?
年金制度についてここで詳しくお話をするつもりはありませんので、結論だけお話いたしますが、この国の年金制度はとっくに破綻しています。
おそらく私たちが今払っている年金保険料は戻ってこないでしょう。
もともと日本の年金制度は積立方式ではありませんのでそれも仕方がありません。
それでも、私が、年金保険料を支払っているのは、年金制度が国民皆年金になった段階で、年金制度は、現代における『徴兵制』だと諦めっているからです。
この国に住む以上、制度に文句を言ってもはじまりません。
すこし過激な言い方をしましたが、今回の報道が社会保険の未加入事業所に対する警告である可能性もあります。
事実、今回、厚生労働省が強制徴収を委任した案件は『1件』だけです。
「たった1件?」と思われるかもしれませんが、国税庁に強制徴収を委任するには厳しい要件があります。
その要件とは・・・
(1)2年以上の保険料等を滞納している
(2)財産を隠蔽しているおそれがある
(3)厚生年金保険料等の滞納合計額が1億円以上
(4)滞納処分等を受けたにもかかわらず,納付に誠実な意思を有すると認められない
つまり、『1億円以上の保険料を滞納しながら、開き直っている会社』ということです。
一般の中小企業が税務署から保険料の滞納について強制徴収されるようなことは、今はまだありません。
しかし、年金事務所(むかしの社会保険事務所)が年金保険料の強制徴収を強化する可能性は高いと思います。
少し前の話になりますが、国民年金保険料を滞納していた経営者の個人口座を簡単に差し押さえて来たことがありました。
以前にもどこかでお話したことがありますが、“国は本気になれば何でもできる”ということを忘れてはいけません。
もうひとつのニュースは、『年金保険料の負担を逃れるため社会保険の加入を届け出ない事業所の名前を公表する方針を政府が決めた』というものです。
この件については、今段階では報道以上の情報がありません。
新しい情報が入り次第、何らかの方法で皆さんにはお知らせをさせていただきます。
ただ、強制徴収のように、相当規模の未加入事業所だけを公表するのかどうかわかりませんが、そもそも、強制加入が前提となっているのだから『公表』なんてまどろっこしいことをせずに、国はすべての未加入事業者から強制徴収をすればすむ話です。
しかし、それをせずに公表などという方法をとるのは、国もすべての中小企業に対して、社会保険を適用した場合には、雇用が維持できないことを知っているのです。
未加入事業所のすべてが社会保険に強制加入させられるようになったら、法人の数は激減することになるでしょう。
どのような法律ができても、必ずその逃げ口に向かっていくのが、人間の本能です。
そうなれば、法人の事業目的を縮小し、表向きとしての『法人』と、実態としての『LLPや個人事業』というダブルインカムがこれからの中小企業のスタンダードとなる可能性もあります。
これから法人を設立しようと考えている方は慎重に対応してください。

粉飾決算

多くの中小企業では、違法でない粉飾決算が起きてしまっています。
しかも無意識のうちに・・・
それは、税制に合わせた会計処理を行っているため、結果的に本当の利益よりも多くの利益を計上してしまっているからです。
東京高裁は昨年末、パチンコ店が、購入したパチンコ機等を事業供用年度に全額損金算入したことを認めない判断をしました。
法人税法では使用可能期間が1年未満の資産を、事業供用年度で全額損金算入することを認めています。
これを認めないということは、パチンコ機等の使用可能期間が1年未満でないという判断のもと『耐用年数に応じて減価償却しなさい。』ということです。
パチンコ店側はパチンコ機は新機種が出ると、お客さんが新機種に流れる為に使用価値は数ヶ月で低下し、中古価格も低下するため、1年未満で資産価値を失う“経済的消耗”資産であると主張しました。
これに対して東京高裁は減価償却資産の耐用年数は、使用する者の個別の状況等は考慮されないこと、パチンコ機等の中には、事業供用後3年以上使用される人気機種も少なからずあること等から使用可能期間が1年未満であるとはいえないとして、パチンコ店側の主張を棄却したものです。
今回の裁判の過程で税務当局は「使用可能期間」の意義は「効用持続期間」をいい、実際の「使用期間」を指すものではないと主張しています。
つまり税務当局は、減価償却資産の耐用年数は、実際に何年使用できるかは関係ないと言っているのです。
さらに問題は、税制で定められた耐用年数のほとんどが、実際の使用期間よりも長めに設定されていることです。
そのため、税制で定められた耐用年数に合わせて会計処理を行えば、実際の使用可能期間よりも長い期間で減価償却費として経費に落としていく事になり、その間、決算書では実際の利益よりも多くの利益が計上されることになります。
冒頭で申し上げたように、税制に合わせて会計処理を行うことにより、我々の意思とは無関係のところで無意識のうちに粉飾決算が起きてしまっているのです。
そして、実際よりも多く計算された利益に対して課された税金を支払うことになります。
税制で定められている木造レストランの耐用年数は20年。
パソコンの耐用年数は4年です。
しかし今どき何の修繕も必要とせず、20年も続くレストランがあるでしょうか?
パソコンだって2年もすれば新機種との機能差が大きくなり、我慢して3年使用するのがやっとではないでしょうか?
しかし、税制の耐用年数の非妥当性を叫んでみたところでしかたありません。
ここで重要なのは、税制が定めている耐用年数は、あくまでも税金を計算するためのものであるということです。
つまり税制が定めた基準で計算した決算書の数字は、経営には全く役に立たないことを認識する必要があるのです。
具体的には、減価償却資産の耐用年数は自社の基準で見積もった数字を使用します。
例えば借入れにより建物を購入した場合などには、返済期間よりも耐用年数が長くならないように設定します。
建物の減価償却方法は定額法です。税制基準を採用し、返済期間よりも耐用年数を長くすれば、返済によるキャッシュアウトに比べて毎期の減価償却費は少なくなり、実際に残っているキャッシュよりも多くの利益が計上されることになります。
そして、この税制基準による数字を自社の利益と理解して経営方針の決定や経営計画の策定にあたることは非常に危険です。
やがて資金繰りが厳しくなり、結果、いわゆる黒字倒産を招きかねません。
自社基準の耐用年数による減価償却費と、税制のそれとの差額は、法人税の申告書で調整すれば良いだけです。その為に法人税の別表はあるのです。
いくらか手間が増えますが、これにより少なくとも税金計算の為の基準により算出された利益を鵜呑みしたことによる起こる、誤った経営判断は減らせます。
税務申告用の決算書は全ての会社に必要ですが、そのままでは経営に役立ちません。
どうせならば、一手間加えることによって、その数字を経営に役立つものに変えてしまいましょう。

増税の夜明け、税理士バブルの幕開け

27年1月。
増税が予定されている税金があります。
ちなみに、消費税ではありません。
23年の税制改正では廃案となり、24年の税制改正では政局優先のために見送りとなる。
そう、相続税です。
実際に27年1月からの増税が実現するかは現時点で不明ですが、25年、26年、27年の税制改正と3回の機会があります。
政権が変わっても、財務省が基本路線として決めている増税のため、既にカウントダウンが始まっている点では消費税と変わりません。
相続税の発生が予定されている方、準備は進めていらっしゃいますか?
というのも、相続税ほど“取り扱い注意”の税金も珍しいのです。
毎月源泉徴収される給与所得税や住民税、年に一回ある法人税や個人確定申告所得税とは異なり、多い方でも一生に2回程度の経験(つまり両親からの相続)。
そのため、対策が後回しにされる税金の筆頭格です。
そして、実際に相続税を突き付けられたときに驚くというのがお決まりのパターン。
また、税理士によって相続税の額が変わりやすいというのも特徴です。
「あなたの会社の法人税を取り戻します!」
という税理士はもともと見かけませんが、
「あなたの相続税を取り戻します!」
という税理士が多いという事実はあまり知られていません。
それだけ専門性が高い税金であり、どの税理士にも気軽に頼んでよいものではありません。
そうであるにもかかわらず、『大相続税時代』の夜明けは間近に迫っています。
過払い利息返還請求バブルに踊った弁護士や司法書士を羨んでいた税理士が、手ぐすね引いて待ち構えているのが『大相続税時代』。
しかも、相続税に弱い税理士ほど、「増税」に期待しています・・・。
普段扱わない仕事の売上げが見込めますから。
では、どうするのがよいのか?
相続税は、まず相続が発生した時点で勝負の半分が決まり、税理士を選択した時点で残りの半分が決まります。
つまり、相続が発生する前に各財産に対する基本方針を決めて対策を行い、税理士は事前に選択しておくというスタンスが必要です。
それでもご心配であれば、複数の税理士にセカンドオピニオンを依頼するというのも有効です。
結局は『事前準備』という一言につきてしまいますが、これ以外ないのです。
先程、相続税の還付ビジネスがあるとお伝えしましたが、還付で取り戻せても30%から50%近くを成功報酬で取られてしまいます。
事前に準備しておけば、税金も成功報酬もムダに取られる必要がありません。
それが相続税という税金の世界です。
とはいえ、27年から増税が“予定”されている相続税に対して、なぜ今このようなことをお伝えするのか?
それは、増税が決まってからの事前準備と今からの事前準備では、相続税の額も変わってくるから。
これもシンプルな結論です。
また、相続財産の中でも特に注意をしなければならないのが、『不動産』と『中小企業の自社株』になります。
理由は、皆さんお察しのとおり以下の二つです。
・換金が困難
・評価額が専門家によって変わりやすい
逆を言うと、事前対策を行うべきなのもこれらの資産ということになります。
当法人では、セカンドオピニオンで相続に対してのご相談も承っておりますが、あくまで自らご相談いただいた方々に対してのみにしか、この事実をお伝えできません。
とはいえ、このまま増税を待っていてよいのかというジレンマもありました・・・。
そこで、ひとまず当法人では、近年相談が多い中小企業の自社株について、専門窓口を設けることにします。
もし気になるようであれば、お申込みください。
事前対策の第一歩です。
https://www.aaps.jp/ltr/assessment.html
来るべき『大相続税時代』・・・。
電車の中吊りに、『相続税申告 1万円から!』、『過払い相続税の還付請求を行います!』という文字が並ぶような、税理士がそのような形で収益を上げるような時代を目にしたくはありません。
そうなってしまっては、税理士が専門家という時代は終わるということですから。

逆選択とリストラ

『有期契約社員が同じ職場で5年を超えて働いた場合、本人が希望したら、正社員にしなければならない。』
このような改正案が盛り込まれた労働契約法が閣議決定されたことを受けて、経済評論家である池田信夫氏は自身のブログにおいて次のように語っています。
「これがどういう結果をもたらすかは中学生でもわかるだろう。企業は契約労働者を4年11か月で雇い止めするだけだ。」
政府は、このような改正をすることで、社会的立場の弱い契約社員が減って正社員が増え、“皆が安心して暮らせる社会の構築”を意図しているはずですが、おそらく結果は異なったものとなるでしょう。
5年経ったら正社員として雇用しなければならない(=人件費の増加を招く)ため、同氏の指摘するとおり、企業は4年11か月で雇い止めをし、契約社員はまた1から職を探さなければならなくなる・・・。
つまり、政府が意図する“皆が安心して暮らせる社会”とは、真逆の社会が構築されてしまうことになります。
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このように、主宰者の求めていることとは真逆の結果を生み出す代表的な例として、『保険業界における逆選択』が挙げられます。
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保険会社××生命は、(適正な利益を確保するために)保険料を引き上げました。
健康体のAさんは、そんなに高い保険料を払ってまで保険に入る必要がないため、××生命の保険を解約します。
残るのは高い保険料を払っても元がとれると考えている不健康体のBさんと、超不健康体のCさんです。
××生命は不健康体の人だけが契約者として残ったため、保険金を支払う事由が増えることに備え、(適正な利益を確保するために)また保険料を引き上げます。
不健康体のBさんは、「そんなに保険料が上がるなら・・・」と思い、××生命の保険を解約します。
その結果、最後に残るのは超不健康体のCさんです。
当然ながらCさんは、保険金支払い事由の発生する可能性が最も高い、××生命にとっては招かざる客です。
つまり、保険会社は、適正な利益を確保しようとすることで(=従業員の生活を守る、社会に貢献する)、最も集めたくない客だけを集めてしまう、というジレンマに陥ってしまうのです。
(現在は、加入時の告知や医師の診断等で保険料が調整されるため、かなり是正されてきています。)
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経営者である皆さんは、このような社会的仕組みを理解し、経営へと応用していかなければなりません。
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○△株式会社のCEOである甲さんは、利益を確保するために、人件費を抑えることにしました。
甲さんは、特定の人をリストラすると恨まれそうで怖かったため、皆の給料を一律10%カットしました。
「み、みんなで、痛みに耐えて、不況を乗り切ろう・・・!」
優秀な社員である乙さん、丙さんは、給料カットに腹を立てて退職しました。
乙さん、丙さんは優秀な社員であるため、再就職先も引く手数多。
退職することになんの躊躇もありませんでした。
優秀な社員を失った○△株式会社は、売り上げが急降下・・・。人件費を抑えたにも関わらず、大赤字へと転落してしまいました。
自らの経営判断が意図せざる結果を招いたことで、甲さんは大変後悔しました。
「一律10%カットなどせずに、勇気を出して、問題のある社員からリストラすればよかった・・・」
このようにして、○△株式会社からは辞めて欲しくない優秀な社員が去り、他に行くあてのない(=痛みに耐えるしかない)社員だけが居座り続ける結果となってしまいました。
これはもちろんフィクションです。
しかしながら、このように手法を一つ間違えると、集めたいモノが集まらず、逆に、集めたくないモノが集まることになってしまいますので注意しましょう。