粉飾決算

多くの中小企業では、違法でない粉飾決算が起きてしまっています。
しかも無意識のうちに・・・
それは、税制に合わせた会計処理を行っているため、結果的に本当の利益よりも多くの利益を計上してしまっているからです。
東京高裁は昨年末、パチンコ店が、購入したパチンコ機等を事業供用年度に全額損金算入したことを認めない判断をしました。
法人税法では使用可能期間が1年未満の資産を、事業供用年度で全額損金算入することを認めています。
これを認めないということは、パチンコ機等の使用可能期間が1年未満でないという判断のもと『耐用年数に応じて減価償却しなさい。』ということです。
パチンコ店側はパチンコ機は新機種が出ると、お客さんが新機種に流れる為に使用価値は数ヶ月で低下し、中古価格も低下するため、1年未満で資産価値を失う“経済的消耗”資産であると主張しました。
これに対して東京高裁は減価償却資産の耐用年数は、使用する者の個別の状況等は考慮されないこと、パチンコ機等の中には、事業供用後3年以上使用される人気機種も少なからずあること等から使用可能期間が1年未満であるとはいえないとして、パチンコ店側の主張を棄却したものです。
今回の裁判の過程で税務当局は「使用可能期間」の意義は「効用持続期間」をいい、実際の「使用期間」を指すものではないと主張しています。
つまり税務当局は、減価償却資産の耐用年数は、実際に何年使用できるかは関係ないと言っているのです。
さらに問題は、税制で定められた耐用年数のほとんどが、実際の使用期間よりも長めに設定されていることです。
そのため、税制で定められた耐用年数に合わせて会計処理を行えば、実際の使用可能期間よりも長い期間で減価償却費として経費に落としていく事になり、その間、決算書では実際の利益よりも多くの利益が計上されることになります。
冒頭で申し上げたように、税制に合わせて会計処理を行うことにより、我々の意思とは無関係のところで無意識のうちに粉飾決算が起きてしまっているのです。
そして、実際よりも多く計算された利益に対して課された税金を支払うことになります。
税制で定められている木造レストランの耐用年数は20年。
パソコンの耐用年数は4年です。
しかし今どき何の修繕も必要とせず、20年も続くレストランがあるでしょうか?
パソコンだって2年もすれば新機種との機能差が大きくなり、我慢して3年使用するのがやっとではないでしょうか?
しかし、税制の耐用年数の非妥当性を叫んでみたところでしかたありません。
ここで重要なのは、税制が定めている耐用年数は、あくまでも税金を計算するためのものであるということです。
つまり税制が定めた基準で計算した決算書の数字は、経営には全く役に立たないことを認識する必要があるのです。
具体的には、減価償却資産の耐用年数は自社の基準で見積もった数字を使用します。
例えば借入れにより建物を購入した場合などには、返済期間よりも耐用年数が長くならないように設定します。
建物の減価償却方法は定額法です。税制基準を採用し、返済期間よりも耐用年数を長くすれば、返済によるキャッシュアウトに比べて毎期の減価償却費は少なくなり、実際に残っているキャッシュよりも多くの利益が計上されることになります。
そして、この税制基準による数字を自社の利益と理解して経営方針の決定や経営計画の策定にあたることは非常に危険です。
やがて資金繰りが厳しくなり、結果、いわゆる黒字倒産を招きかねません。
自社基準の耐用年数による減価償却費と、税制のそれとの差額は、法人税の申告書で調整すれば良いだけです。その為に法人税の別表はあるのです。
いくらか手間が増えますが、これにより少なくとも税金計算の為の基準により算出された利益を鵜呑みしたことによる起こる、誤った経営判断は減らせます。
税務申告用の決算書は全ての会社に必要ですが、そのままでは経営に役立ちません。
どうせならば、一手間加えることによって、その数字を経営に役立つものに変えてしまいましょう。