経営者保証が外れる?

中小企業が金融機関から融資を受ける際、切っても切れないのが経営者の個人保証…。
まだ一般的ではないため、ご存じではない方も多いと思いますが、昨年末に『経営者保証に関するガイドライン』が公表され、2月1日から適用されました。
これを簡単に説明すると、経営者の個人保証について、

  1. 法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者の個人保証を求めないこと
  2. 多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
  3. 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること

などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援することを目的とするとのことです(経済産業省webサイトより)。
→ガイドラインはこちら
“朗報!”と言いたいところですが、当然ながら、これは法律ではありません。従いまして、これを取りまとめた研究会が“経営者保証に関する中小企業、経営者及び金融機関による対応についての自主的自律的な準則”(太線強調は筆者)と自ら言うように、経営者保証の取り扱いについて大きく何かが変わるわけではありません。
「残念ながら、御社では難しいですね…」と金融機関から言われれば、「はい、そうですか…」とならざるを得ません。
ただし、金融機関もこれを無視するわけにもいかず、各行のwebサイトを見れば、「尊重し、遵守する」との文言が記載されています。
つまり、「経営者保証を外して欲しい」と言わない手はないということです。そこから金融機関との交渉は始まります。
そして、ガイドラインには、経営者保証を提供することなしに資金調達することを希望する場合には、以下のような経営状況であることが求められるとしています(長文ですが引用します)。
■法人と経営者との関係の明確な区分・分離
主たる債務者は、法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等をいう。以下同じ。)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、法人個人の一体性の解消に努める。
また、こうした整備・運用の状況について、外部専門家(公認会計士、税理士等をいう。以下同じ。)による検証を実施し、その結果を、対象債権者に適切に開示することが望ましい。
■財務基盤の強化 経営者
保証は主たる債務者の信用力を補完する手段のひとつとして機能している一面があるが、経営者保証を提供しない場合においても事業に必要な資金を円滑に調達するために、主たる債務者は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。
■財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
主たる債務者は、資産負債の状況(経営者のものを含む。)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。
なお、開示情報の信頼性の向上の観点から、外部専門家による情報の検証を行い、その検証結果と合わせた開示が望ましい。
また、開示・説明した後に、事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には、自発的に報告するなど適時適切な情報開示に努める。
中小企業において、法人と経営者の明確な分離というのが現実的には困難であるというのは金融機関も理解しています。ですから、各企業につき個別判断にならざるを得ません。ということは…、金融機関も相手を見ながら判断する場合もあるということです。
今までも、金融機関に粘り強く経営者保証を外して欲しい旨を持ち掛け、成功していた中小企業もあります。もちろん、ある程度の財務水準に達していてこその成果ではありますが、「経営者保証は外れないもの」と、そもそも交渉すらしていなければ成果は上げられません。
これは、融資は信用保証協会の保証が必要であって、プロパーでの融資は無理と決めつけているのと同じです。
「プロパーで融資を受けたい」と交渉すればよいだけであって、この程度でも中小企業ごとの対応に大きな差が出ます。これはそれ程難しいことではありません。
ガイドラインができた以上、今後は経営者保証を外すために財務状況を整備する中小企業も増えてくるでしょう。また、金融機関の選択において、経営者保証を外してくれるというのも大きな判断基準になり得ます。
では、経営者保証を外すための財務状況の整備はどうすればよいのか?
それこそ、企業ごとにやるべきことは異なるため、一概には言えませんし、金融機関ごとに基準が違うでしょうから、正解はありません。金融機関と交渉しつつ、顧問税理士とも対応を検討する必要があります。
法人と個人の税負担のバランスが大きく変化してきた以上、経営者保証なども考慮した上で節税等の対応も見直すことは、地味ですがとても重要なことです。
また、事業承継において、後継者にとっては経営者保証がネックとなる場合も見受けられますので、いずれにしても無視するには影響の大きい問題です。
ただし、経営者保証を外すにあたって、若干の利率上乗せを求められることも想定されるので、それならば経営者保証はあってもよいという方もいらっしゃるかもしれませんね。
これを機会に、今後の経営者保証について検討されてみてはいかがでしょうか?