節税と準備

「法律に反しない範囲なら最大限にメリットを追求する」
5月29日の日経新聞に日本IBMの税務訴訟についての記事が掲載されていました。冒頭は、今回の訴訟について語ったIBM関係者の言葉として掲載されていたものです。
この記事は日本IBMという大企業の税務訴訟について書かれたものですが、その内容は、私達中小企業にとっても、非常に参考になるものでしたのでご紹介させていただきます。
5月9日、約4千億円の申告漏れを指摘された日本IBMと国税局が争った裁判で、東京地裁はIBM勝訴の判決を出しました。(国側は今回の判決を不服として控訴しています。)その内容は、持株会社を通じて行った自社株売買で、持株会社に譲渡損として発生した赤字を、連結納税制度を使って自社の黒字と相殺、納税額を約1200億円圧縮したというものでした。
国税側は「会社側の行為に経済合理性はなく、制度を乱用している」と主張しました。これに対してIBM側は「グループ再編のためであり、譲渡損を作り出す意図もなかった」と反論しています。ちなみにこの手法は現在では法改正で使えなくなっており(IBMの取引は法改正前に行われています)、専門家の間でも国税側の勝利を予想する声が多かったようです。
ではなぜ、専門家の予想に反してIBMは勝訴することができたのでしょうか。記事を読むとそこには、大きく分けて2つの理由があったことがわかります。
(1)IBMは、はじめから訴訟を見据え、税務調査開始前に日本屈指の税務弁護士に依頼し、弁護士立会いという先手を打って、調査手続きに違法な部分がないかチェックしてきた
(2)国税側に提出する証拠を厳選した
つまり、IBM側は今回の取引について、国税が異議を唱えることを予め想定し、訴訟に耐えられるように、事前にしっかり準備を整えていたということです。
おそらくIBM側は、今回の取引について、経済合理性を裏付けるような証拠を積極的に残すと同時に、「経済合理性がなく、制度を乱用している」と判断されかねないような証拠はできるだけ残さないようにしたのではないのでしょうか。そしてさらに、経済合理性を裏付けるために積極的に残した証拠の中でも、事前に厳選したものを国税に証拠として提出したのでしょう。
そうした入念な事前準備が功を奏したのでしょう。判決では「不合理とまでは断定できない」「事業上の目的がないとも言いがたい」など、国税側の主張を退ける言葉が続いています。この判決を受けて税務訴訟で有名な弁護士は「租税回避を裏付ける証拠が不足していたのが国税側の敗因」と指摘しています。
経営において最大のコストの1つである「税金」。当然、違法な節税手段は言語道断です。
しかし、コストである以上、私達は税金を合法な範囲で、できるかぎり削減する努力をしなければなりません。それは、まさしく冒頭のIBM関係者の言葉の通りです。
「法律に反しない範囲なら最大限にメリットを追求する」
これはとても大事なことです。
しかし、納税者の取引について、税務当局が違法ではなくても“租税回避行為”(形式的には合法だが、経済合理性のない異常な形式による取引を行うことで、税金の支払いを逃れる行為)であると認定すれば課税されてしまう恐れがあります。
重要なのは、税務署から指摘される恐れがあるような取引を行った際には、そのことを認識し、実際に指摘された時には、「どう主張するのか」を明確にしておき、主張を裏付ける「客観的な証拠を予め残しておく」ことです。
「法律に反しない範囲で節税メリットを最大限に享受するために、万全の準備をする」
言葉にすると当たり前すぎのように感じますが、当たり前のことがとても重要なのです。