役員報酬改定時期に自社を長期で考える

配偶者控除の見直し、ベビーシッター代の所得控除の検討などなど、給与をめぐる所得税関連の改正や議論が多くされています。平成25年分以後に上限が定められた給与所得控除については来年、再来年と漸次引下げられることが決まっています。

個人への課税が強化されている一方で法人税率が下げられていることは、もうよろしいでしょう。そのことは解っているものの、役員報酬の改定時期のたびに、「今、税率って何%でしたっけ?」と顧問税理士に聞いている方もたくさんいらっしゃるはずです。では現在、法人と個人の税率はどの程度になっているのでしょうか。比較しながら改めて確認していただきたいと思います。
まず市県民税・事業税を含めた法人税の実効税率を確認しましょう。

(図:平成27年4月1日以後に開始する事業年度)

仮に法人の所得が800万円であった場合、上記の実効税率にしたがって計算した法人税額は1,783,600円です。所得に対する法人税の比率は【22.295%】です。法人の所得が2,000万円であれば、法人税額は5,903,200円、所得に対する法人税の比率は【29.516%】です。5,000万円の所得では【32.4%】程となります。

では、続いて個人の税金を見ていきましょう。税金には当然、社会保険料も含めて考えます。ご存知のように社会保険料は企業と本人で折半します。従業員の場合は自らが負担する社会保険料だけを考えれば良いでしょう。しかし、経営者が自らの役員報酬を考える時、従業員と同じように企業が負担する社会保険料を分けて考えて良いのでしょうか。

中小企業の経営者にとっては【企業が負担する】=【経営者本人が負担する】ことと同じではないでしょうか。実際、多くの経営者はそうした感覚を持っていらっしゃいます。であれば当然、企業が負担する社会保険料も役員報酬にかかる税金の1つと捉えて考えるべきなのです。

(図:役員報酬月額に対する各種税金)

この表は役員報酬の月額に対する税金を集計したものです。各種税金合計(1)と税負担割合(1)は通常どおり、会社負担分の社会保険料は考慮していません。しかし、各種税金合計(2)と税負担割合(2)については先に述べたとおり、会社負担の社会保険料も役員報酬にかかる税金の1つと考えて税負担割合を算出しています。

どうでしょうか?一瞬目を疑った方もいるはずです。月額20万円の役員報酬ですら、その税負担率は33%を超えています。いかに社会保険料の負担が重いかが分かります。

この結果を見ると現在の税制下で、ある程度、税負担の最適化を求めた場合、役員報酬は“そこそこ”にして会社に内部留保していくのがベターではないかという至極まっとうな考えにたどり着きます。しかし、今回考えていただきたいのは、内部留保のさらにその先です。

ここでお伝えしたいことは、現在の税構造においては、来期1年間の売上云々などではなく、「長期的な視点で企業経営を捉え、その一つとして役員報酬を決めていく必要がある」ということです。つまり、長期的な視点で自社の経営スキームを組みつつ、税制の変化や自社の変化に合わせて毎年そのメンテナンスを行い、それに合わせて役員報酬を改定していくことになります。

例えば事業内容的に自分の代で解散するであろう会社の場合であれば、税負担を覚悟のうえで会社に余計なお金は残さず、早い段階から個人に財産を移転していくのも一つです。しかし、既に退職(解散)時期がそう遠くない段階であれば無理に今、高い税金を払って役員報酬で取らずとも、今から法人税法上認められる退職金の額を予測し、計画的に会社に内部留保を行い、所得税・住民税の優遇税制の恩恵を受けられ、社会保険料もかからない退職金で取ってしまうというのも非常に有効です。

長年の経営により個人の財産もしっかり蓄え終わっているようであれば、役員報酬を抑えて、会社の内部留保をより厚いものとしていき、次世代へ引き継ぐ準備をするという戦略もあるでしょう。

しかし、実際にこうした長期的な視点で物ごとに備えて役員報酬を決めている中小企業は多くありません。来年1年や目の前の数年のことだけ考えて決めているケースが圧倒的に多いのです。

個人課税の強化が現在進行形で行われ、法人税の引下げも進む現在、私たち中小企業は、経営者個人と企業の「現在のステージ」と「今後進むべきステージ」をしっかりと捉え、長期的な戦略を練っていかなければなりません。税務戦略も長期で行うべき時代なのです。
次の役員報酬改定時期には、是非じっくりと考えてみてください。