消費税還付案、隠された意図~財務省のホントの狙いは!?~

財務省は消費税率が2017年4月に10%に引き上げられるのに伴い、一部の商品の税率を低く抑える『軽減税率』の導入にあたって、軽減税率対象品目の2%を還付する仕組みを先月提案しました。かなり話題になりましたので、多くの方がご存知かと思います。

では、その財務省案について、仕組みをざっと確認しておきましょう。

私たち消費者は、買い物の時点では軽減税率対象食品にも通常税率にあたる10%の消費税を支払います。それと同時に、私たちはマイナンバーの個人番号カードを店頭のカード読み取り機にかざします。仮に軽減後の税率が8%であれば、消費税2%分の「還付ポイント」が個人番号カードのICチップを経由して政府の「還付ポイント蓄積センター」に送られ、個人がパソコンからなどで請求することにより、口座に還付されるというものです。

この財務省案、公表されるやいなや反対意見が続出していますが、小さな商店など小売りの現場の隅々にまでカード読み取り機を行き渡らせる必要があることや、パソコンに不慣れな高齢者はどうするのかなど、多くの課題を解決する必要があるものの、個人的にはなかなか良いアイデアだと感じました。

しかし、冷静になって制度の仕組みをよーく考えるとこの還付案、もしかすると別のところに財務省の意図が隠されているのかもしれない、ということに気が付きます。

それは“小売店の売上高の捕捉”です。

皆さんは「クロヨン(9・6・4)」という言葉をご存知でしょうか。これは本来課税対象とされるべき所得の内、税務署がどの程度の割合を把握しているかを示す数値である“捕捉率”に関する業種間格差に対する不公平感を表す言葉です。

この捕捉率が、給与所得者は約9割、自営業者は約6割、農業、林業、水産業従事者は約4割であると1960年代後半頃から言われています。もちろん現在はここまで低い捕捉率ではなく、クロヨンという言葉自体、既にかなり時代錯誤の感がありますが、税務署が個人商店など自営業者の所得を正確に捕捉することに苦労している事実は、現在も変わりません。財務省の中には小売店などの売上高を正確に捕捉できないため、数千億円~数兆円の課税漏れがあるとの見方があるそうです。

さてさて、そこでこの財務省案です。そうです、この財務省案が導入されれば、カード読み取り機から、その店での買い物履歴が税務署に送られます。つまり税務署はその店の売上高を容易に捕捉することが可能となるわけです。

財務省は税務署に届く情報は軽減税額だけで、何を買ったかなどの買い物履歴は把握できないと強調しているようです。しかし、財務省の言葉をそのまま鵜呑みにする気にはなれません。この制度が導入されれば、小売店が税務申告する以前に「税務署は既に売上高を把握している」と考えるべきです。

マイナンバー制度もいよいよ番号通知が始まっています。マイナンバー制度が始まることで政府による個人情報の管理が強まることは明らかです。消費税の軽減税率導入にあたり、今回の財務省案が導入されるかはわかりませんが、今後マイナンバーを使っての様々な徴税強化策が実施されていくことは想像に難くありません。今まで一部の業種・業界で当たり前のように行われてきた税金を回避する手段も、今後は間違いなく通用しなくなるでしょう。

企業も個人も、所得や財産は税務署に容易に把握される時代です。早いうちから“合法的・戦略的に税金をコントロールする”という思考に切り替え、頼れる専門家を味方につけるのが、最も賢い選択ではないでしょうか。

この原稿を書いた後、10月13日に政府・与党は財務省案を白紙撤回する方針を固めたとの報道がなされました。