新国立競技場・・・ではないけれど?!

先日、お客様よりこのようなご質問がありました。

社長:社屋を建築しようと準備をしておりましたが、その計画を変更しようと思うのです。これまで支払っていた調査料・設計料・デザイン料などの処理はどうしたらいいのでしょうか。

2020年の東京五輪のメイン会場である、新国立競技場の建設計画でもスッタモンダあったのも記憶に新しいですが、果たしてどのように処理すればよいのでしょうか。

 

減価償却か?損金か?

税務の知識が多少あれば、「計画の変更前の支出は、新たな計画による建物の取得費を構成し、減価償却すべきではないか」と感覚的に思われるのではないでしょうか。

しかし、国はこの処理の考え方について、次のような見解を示しています。

・ 法人税基本通達7-3-3の2
(固定資産の取得価額に算入しないことが出来る費用の例示)

(2)
建物の建設等のために行った調査、測量、 設計、基礎工事等でその建設計画を変更したことにより不要となったものに係る費用の額

上記のように、原則、費用として処理できることを示しています。

しかし文中の「計画を変更したことにより不要となったものに係る費用の額」という部分がミソです。

「不要となった部分」・・・
すなわち、「まったく採用されなかった部分のみ費用処理が出来る」という意味として明示されているようです。

例えば、同一の建物の建築のために同時並行して、いくつのも設計案があり、それに修正を加えながら最終的な設計案が確定した場合。

この場合には、損金とされる部分は存在せず、すべての設計費が建物の取得価額を構成するものと解釈されています。

あくまで、計画の白紙撤回・当初の計画自体の変更によって、以前の設計等で採用されなかった部分に係る支出が、費用処理できるということのようです。

そうすると、新国立競技場の設計・デザイン費(報道にあった外国のデザイナーへの監修費用ですね)は、計画自体の白紙撤回ということで、すべて損金・・・。

国家の話ですから、単なる税金の無駄使い、ですね。。。

予期せぬ経済情勢の変動や、社内情勢の変動での計画変更の場合は仕方ありませんが、ご存知のように損金に出来るか出来ないかの前に、計画自体に大幅な変更を期さないような綿密な計画を立てることのほうが大切です。
損金に出来る部分は、同時に同額のお金も減ってしまっているのですから。

 

情報格差

「知らなかった。」

私たちは関連会社の会員の方からのご相談やセカンドオピニオンなどを通じて、顧問先様以外の方のお話を伺う機会が比較的多くあります。そんな時によく感じるのが「情報格差」です。

情報格差とは通常、都市部と地方間における放送・通信の情報量やサービスの可否に差があること、また、情報技術(IT) を使いこなせる者と使いこなせない者との間に格差が生じていることを指します。特に情報技術を使えていない、あるいは取り入れられる情報量が少ない人々、または放送・通信のサービスを都市部と同水準で受けられない地域および住民のことを「情報弱者」とも呼びます。

しかし税務の場合、その多くは都市部と地方間の差というよりは顧問税理士若しくは担当者、ひいては税理士事務所そのものの「知識」、「情報収集能力」の差にあるように感じます。

クラウド型会計ソフト、クラウド型マイナンバー管理ソフト、マネーフォワード、フリー、会社設立フリー、事前確定届出給与、短期前払費用、旅費規程・・・・

それぞれの説明は省きますが、例として挙げたこれらは古くからあるもの、最近のものを含め、全て税務・会計等に関するものになります。これらは少なからず経営に影響を与える内容でもあります。最近のものならまだしも、古くから行われている節税方法等については、未だに知らない人がいるのか…!?と、こちらが驚くこともしばしばです。

今回のマイナンバー制度に関しても、企業によって得ている情報にはかなりの差があるように感じます。その原因の1つは、その企業の顧問税理士や社会保険労務士によって発信している情報に差が生じてしまっていることです。

マイナンバーについては紙で管理している場合や、PCを使用したとしてもデータをそのPC上で管理している場合には、共にある程度のセキュリティ対策を講じなければなりません。しかし、クラウド型のマイナンバー管理ソフトを使用すれば、セキュリティ対策などの煩わしい面からはほぼ解放されることとなります。

もちろんITを使用した最先端を行くことが全ての企業にとってベストとは限りません。従業員がそれほど多くない会社ではマイナンバーが記載された書類を金庫に保管しておく方法でも問題ありませんし、コストと手間を考えれば、むしろそれがベターかもしれません。

しかし、こうした紙での保管を専門家に提案されているケースの中には、従業員の数が少ないわけではなく、クラウドシステムなどの選択肢を提案されているわけでもなく、単に専門家の情報収集不足により、結果として最もアナログな方法のみを提案されているといったケースが多く存在しています。

マイナンバーへの対応に限らず、選択肢が少ないことは経営の幅を狭めます。他の選択肢も知っていて敢えてそれを選ぶことと、他の選択肢を知らないが故にそれを選んでしまっていることでは大きな違いがあります。

IT・AI・IOTといった技術は日々驚くべき速度で進化を遂げており、経営に大きな影響を与えています。ITが商売を変え、商売が税制を変え、税制が商売を変える時代なのです。

たくさんのことが来年は今年と同じではなくなっている現代。情報収集、発信能力が高い専門家と付き合うことが自社の情報力を高め、経営の幅を広げる手段の1つとなる得ることは言うまでもありません。逆を言えば情報収集、情報発信能力の低い専門家しか周りにいなければ、いつの間にか自社が「情報弱者」になってしまう危険性があります。

今回のマイナンバー制度の導入にあたって御社の顧問税理士・社会保険労務士は充分な情報を提供してくれたでしょうか。
「情報収集、情報発信能力」。
専門家を選ぶ際は、是非こういった視点も加えてみてください。

 

社員を鍛える補助金?

皆さま、『ものづくり補助金』というのはご存知ですか?

経済産業省管轄の補助金で、「国内外のニーズに対応したサービスやものづくりの新事業を創出するため、認定支援機関と連携して、革新的な設備投資やサービス開発・試作品の開発を行う中小企業を支援します。」という目的の下に、最大1,000万円を補助(補助率:3分の2)してくれるものです。

詳しくはこちら>>ミラサポ 未来の企業★応援サイト『ものづくり補助金』

27年中に採択された、26年度補正予算の第一次、第二次公募の結果は下記のとおり。

【第一次公募】申請:17,128件 ⇒ 採択:7,253件(採択率:42.3%)
【第二次公募】申請:13,350件 ⇒ 採択:5,881件(採択率:44.1%)

最大1,000万円の補助金が出るのに、こんなに採択率が高いのか?と驚かれる方も多いのではないかと思われます。

ただし、『ものづくり補助金』の存在を知ってチャレンジしようと思われる企業は申請数の数倍はあるでしょうし、申請書の作成中に断念された企業も申請数の二倍は下らないと思われます。

実は、この申請書を提出レベルに持っていくのは結構大変な作業です。

私も、第一次公募の際にお客様から依頼がありお手伝いしました。申請額は700万円ほど。
結果としては採択されたのですが、「あぁ、大変だったな…」と(苦笑)。

新しいサービスの創出ということでお客様と一緒に申請書を作り上げましたが、最初の「補助金をもらうための」という目的から、このサービスを実際にリリースするための企画書を作成するということに目的が変わってきました。その企画書を補助金の申請書のフォーマットに当てはめたというイメージです。

お客様も、「実際にこれが採択されなくても、この申請書の作成過程でサービスの企画ができあがったので良かった。これをそのままパンフレットにもできる。」とおっしゃっていました。

中小企業においては、企画をプレゼンして採用してもらうようなビジネスをしている企業を除き、サービスや商品の企画書を社外で審査してもらうという機会は滅多にありません。

もちろん、『ものづくり補助金』の場合は審査が公的機関なので、民間企業とは少し基準が違うかもしれませんが、民間企業で採用されるレベルの企画書であれば、少なくとも申請レベルまでは持っていけます。申請レベルに持っていければ、採択率は4割越え。

また、『ものづくり補助金』の申請書は、経営計画や財務、組織体制や人員まで盛り込む必要があるため、トータルで考える訓練にもなります。

会社全体の経営計画を作るのは、なかなか骨の折れる作業です。また、中小企業では経営者や幹部以外が計画や企画に携わる機会は少ないと言えます。

しかし、『ものづくり補助金』であれば、社員に任せて企画書を検討させることができ、社内の活性化にもつながるのではないかと考えます。申請書と言っても、数十ページも必要な訳ではなく、重要な部分は10ページ前後あれば十分です。

個人的には、補助金を受け取るために何かをするというのはあまり好きではありませんが、社員にやらせてみるという視点で『ものづくり補助金』に取り組むというのは、中小企業にとってはイベントのようなものなので、是非お勧めしたいです。ただ、これを経営者が全部やってしまうと、今までと何も変わりません…。

採択されなくてもリスクは何もありませんし、再チャレンジも可能です。補助金はもらえたらラッキーくらいに考えることができます。

「うちの社員は、今後のことについて改善や提案をしてくることがなくて…」とお嘆きになられている経営者の方であれば、「やってみろ!」と丸投げしてしまうのもよいかもしれませんね。

26年補正予算の第一次公募開始は27年の2月であったため、来年もその頃に開始されると思われます。ご検討される中小企業は今からご準備を!

 

“マイナンバーで脱税者を一網打尽”はホントか?<年末調整・扶養家族編>

前回に引き続き、マイナンバー制度の導入によって税金にどのような影響があるのかをお話しいたします。

今回は年末調整や確定申告で問題となる『扶養控除』についてです。

会社で年末調整をしている役員や従業員の方で年末調整を行って、しばらく経って税務署から『扶養控除等の控除誤りの是正のお知らせ』という文書が届いたことはありませんか?

確定申告をされている方の場合には、『確定申告についてのお尋ね』という文書になります。

文書を見てみると従業員の名前が書いてあり、続けて奥様のお名前が書いてあります。
さらに『扶養控除』、『所得超過』と書かれており、奥様の収入が多いため扶養控除が受けられなかったことが推察できる内容となっています。

すでにご承知のとおり、扶養控除とは納税者に一定額以上の所得がない家族(扶養親族といいます)がいる場合に、一定の金額の所得控除が受けられる制度です。

つまり、扶養親族が多ければ多いほど控除額が多くなり税金は安くなります。

ただし、扶養親族となるためにはいくつかの要件があります。

その一つが『年間の合計所得金額が38万円以下』というものであり、収入が給与のみの場合は年収103万円以下がこの要件に該当します。

この扶養控除を受けるための方法は2つあります。
一つはお勤めの会社に『扶養控除等申告書』を提出する方法。
もう一つはご自分で『確定申告書』を提出する方法です。

仮に『扶養控除等申告書』や『確定申告書』を提出する段階で扶養親族として奥様を申告したとしても、パートやアルバイトで103万円超の収入がある場合には税務署から是正の連絡が来ます。

何故、税務署に奥様の収入がわかったのかと言うと、前回お話ししました『給与支払報告書』がご主人と同じ市町村に提出されているためです。

奥様の勤め先から給与支払報告書が提出され、そこに記載された住所・生年月日から家族であることを確認します。

市町村では扶養親族として申告された家族に103万超の収入がある場合、一定期間ごとに所轄の税務署に連絡することになっています。

その連絡を受けた税務署は、勤め先の会社に対して扶養是正のお知らせを送っているのです。

ところが、この手続きの流れではすべての扶養控除の適用誤りを見つけることはできませんでした。

例えば、大学生のお子様が県外でアルバイトをして、103万円超の収入がある場合です。
お子様の居住地が県外の場合、アルバイト先からの給与支払報告書は住所地の市町村に提出されます。

県外に引っ越す段階で、住民登録を移している場合には、移転先の市町村に対して所得の『照会』を行うことで扶養の誤りを確認しています。

問題となるのは住民登録を移さずに、県外で収入がある場合です。
この場合には両親の住民登録がされている市町村では、どこの市町村に対して照会をかけていいのかわからないため、多くの場合は扶養の是正がされません。

しかし、マイナンバー制度によって全国どこにいても個人番号で照会をできる仕組みが整理されると、従来は発覚しなかった扶養控除の誤りが見つかるようになると考えられています。

今までのように県外に出ている子供のアルバイトだからと、たかをくくっていると痛い思いをするようになるかもしれません。