ハイブリッド経営のススメ!社会保険問題が中小企業の救世主となる!?

今年のはじめに日本経済新聞の一面に『厚生年金、加入逃れ阻止』の文字が大々的に掲載されました。
マイナンバーを活用し、未加入事業所を特定。効率的に未加入事業所の加入促進を行っていくという内容でした。
ある日のこと、私どものお客様のところに年金事務所の職員が、社会保険の加入要請に訪問して来ました。
その時、年金事務所の職員からこんなことを言われ厳しく指導を受けたといいます。
「法人は社会保険強制加入です。」
「社会保険に加入しない会社は本来法人を続ける資格がない!」
これを聞いて激しい怒りを覚えましたが、それと同時に「そっちがその気なら」という思いが生まれました。
そこで年金事務所の職員からの指導にもとづき、法人をやめることにしました。
正確に申し上げると、社会保険に加入できる規模の事業サイズにするということです。
簡単なシミュレーションをご覧いただきます。
仮に従業員1名と社長と奥さんがそれぞれ240万円報酬をとっている会社があったとします。
夫婦はともに役員です。
平成28年度の国民年金保険料は月額16,260円です。
年額で195,120円となります。
国民健康保険料は家族の人数にもよりますが、子供二人の標準的な家庭であれば年間40万円程度となります。
合計で、約60万円の保険料を支払っていることになります。
法人の事業規模をミニマムにし、最低限の報酬のみを法人から支払うようにします。
夫婦で月額5万円、年間60万円の報酬を設定します。
社会保険は法人と個人で保険料を折半しますが、いまはその話は考えずに単純に法人がどれだけの保険料を払うことになるのかを計算します。
一人当たり月額約2万4千円、年間で28万8千円
二人で57万6千円となります。
これによって、個人で保険料を払っている状態とほぼイコールとなります。
これだけでは面白くないのでさらに一歩話をすすめます。
役員には常勤役員と非常勤役員がいます。
常勤役員は社会保険に加入する必要がありますが、非常勤役員については加入する必要がありません。
代表取締役社長はどんなに低額な報酬であっても『常勤役員』とされますが、報酬が低い平取締役については『非常勤役員』として扱うことができます。
つまり、平取締役の妻は非常勤役員として社会保険の加入の必要がなくなります。
その結果、社会保険料は半分の約30万円でよいこととなります。
妻については『3号被保険者』となり保険料はかかりません。
ここで皆さんのこんな声が聞こえてきます。
「夫婦合わせて年収120万円じゃあ生活できないよ!」
そこはご安心ください。
法人の事業規模をミニマムにするというのは何も事業を縮小するということではありません。
縮小した分の事業を『個人事業者』として新たに事業を行うということです。
個人事業で得た収入は全て事業主の所得となり節税にならないと嫌われる傾向がありますが、社会保険に加入するしないでもめている規模であれば何ら支障はありません。
長々と話してきましたが、つまり法人と個人事業の二つを同時に行うという『ハイブリッド経営』が、中小企業のこれからの新しいスタンダードになると私は考えます。
まさにハイブリッド車がガソリンと電気を併用し燃費効率を向上させているように、中小企業は法人と個人事業を併用し効率的に経営しようということです。
ハイブリッド経営のメリットは社会保険だけではありません。
個人事業者のメリット
1.社会保険の加入義務がない
注意が必要です。
個人事業の場合でも常時5人以上の従業員が働いているのであれば、社会保険への加入が義務となります。
ただし、5人以上でも任意適用となる業種があります。
(1)農林水産業
(2)飲食業
(3)旅館・その他の宿泊所
(4)洗濯・理美容・浴場・写真等個人サービス業
(5)映画・娯楽業
(6)法律・会計士・税理士事務所等その他サービス業
2.消費税の免税制度が利用できる
消費税は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下の場合は納税の義務が免除されています。
法人は継続して事業を行っていますので、基準期間における課税売上高が1,000万円を超えていても個人事業は新規に始めますので、最初の1年間だけは必ず納税義務が免除されることとなります。
また、法人もしくは個人事業のいずれかの課税売上高を1,000万円以内におさえることによって、継続的に消費税の免税制度を利用することが可能となります。
粗利益の高い収入を法人もしくは個人事業のいずれかに残すことがポイントです。
3.消費税の簡易課税制度が利用できる
基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合には簡易課税制度を利用することができます。
粗利益の高いサービス業などは消費税を有利に計算することができます。
簡易課税から本則課税に移行したことによって消費税の納税が増えたという経験をお持ちの事業者も多いと思います。
4.税理士がいらない
法人の申告を自分で行うのはちょっと難しいです。(ほぼ無理です。)
また、税務署に聞きに行っても申告書の書き方までは教えてくれません。
「税理士さんに聞いてください!」と言われます(笑)
ところが個人事業者の場合は、確定申告時期になると必ず『無料申告会場』が設けられ、そこでは手取り足取り申告書の作成まで指導してくれます。
正直に申し上げると、会場スタッフが申告書を作成してくれているというのが実態です。
そのため、会計ソフトを使って数字だけまとめることができれば、申告にお金がかかることはありません。
法人については、税理士の顧問を継続している訳ですから、ちょっとわからないことがあれば教えてもらうことぐらいはできるのではないでしょうか?
いざとなれば税務調査の立ち合いも当然請けてくださるでしょう。
さらに言えば、法人の収入は劇的に下がることになるので、売上高を顧問報酬の基準としているという税理士事務所であれば顧問報酬の節約にもつながります。
5.インターネットバンキングが無料で利用できる
多くの金融機関のインターネットバンキングは法人のみ有料です。
ただし、毎月多くの振込みを行っている『個人事業者』についても有料とする金融機関もありますのでご注意ください。
最後になりますが、とても重要な注意点を申し上げます。
法人で既に行っていた事業を個人に移すということは法人にとって見れば『事業譲渡』です。
つまりM&Aを行うということです。
利益が出ている事業である場合には、個人から「のれん代」に相当する譲渡代金を貰う必要があります。
ただ単に法人でやっていた事業を明日から個人でという訳には行きません。
そこは顧問税理士に相談し、十分な検討計画のうえで進めてください。