今だからこそ重要となる与信管理

「最近、他のお客様の状況はどう?」
と聞かれることがあります。自社が膠着状態に陥っているときに、ふと隣の芝生が気になるという感じで口にされます。
自社が順調であったり、窮地に陥っている場合には、隣の芝生など気になりません。
当社のお客様は個性的な企業が多いため、業界動向や景気動向に左右されないケースが多く、比較ができないというのが難しいところ。そして、一般論をお話ししたところで新聞レベルと変わらないため、焦点を絞ってお話することが多くなります。
そのような中でお話しすることの一つに、与信管理があります。
例えば、現在は売上が増加傾向の企業数が増加しているように思えますが、このような状態が続くと、どの企業も債権額が増加していきます。
もちろん、増収・増益という好循環にあればよいのですが、増収であっても増益という企業はそれほど多くないように思われます。増益であったとしても、増収に見合った利益は出せていない。
そして、増収に応じたキャッシュを確保できているかというと、さらに怪しいと思われます。
増収であっても、債権がいち早く入金されない限り、資金繰りは改善しません。むしろ、仕入が先行するケースでは、増収により資金繰りが悪化します。状況によっては、黒字倒産が増える可能性が考えられます。
つまり、増収の企業が増えるということは、債権の貸し倒れ又は長期滞留リスクが高まっているとも言えるのです。
それでも、長期に渡る継続的な取引先であれば、すぐに異変を察知し、対応できるはず。
(とはいえ、継続的な取引先であるが故に、情が顔をのぞかせてしまう場合もありますが…)
問題は、初回又は付き合いが浅い取引先です。取引先も、取引する相手(つまり自社)を選んできています。自社に隙があると、相手に狙われてしまいます。
本来であれば、可能な限りリスクを排除するために設定された取引条件も、「まあ、今回は大丈夫か…」と崩してしまうと、崩したときに限って、何らかの問題が生じます。
「それは結果論でしょ」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、このような相手も、隙がない企業には近づきません。相手にされないことが分かっているから。
また、帝国データバンクや東京商工リサーチで信用調査をする企業も増えてきましたが、信用調査をしている企業でも、隙がある場合には引っ掛かります。実際に自分がそのような目に合うとは思っていないことでしょう。
実際、先日お話を伺ったお客様でも、数千万円の債権が期日になっても入金されないと相談を受けました。もちろん、信用調査は実施しています。
幸い、お付き合いのある弁護士がいたので、すぐにその場で電話をしてもらって対処しましたが、それで問題解決とはなりません。そのお客様だけではなく、他の取引先への支払いも同じように滞留している可能性があるからです。
このお客様は取引単価が大きいため、契約時半金、納品後半金の取引が原則です。しかし、色々理由を付けられ、そして説得され、渋々、納品後全額を受け入れてしまいました。
本来であれば、契約金を払わない言い訳をされた時点でアウトなのですが、ふとした瞬間に、売上を目の前にして、自分に言い訳をしてしまいます。ちなみに、このお客様の業績は良好で、金融機関からも優良企業とみなされています。正直、隙を見せたとしか言いようがありません。
そして、その取引相手を検索すると、「あ、ここ知っている」という企業でした。WEBサイトも見栄えが良いです。
皆さま例外なく、未知の相手には警戒されます。しかし、少しでも知っている相手ですと、「まあ、大丈夫かな…」と、原則を緩めてしまうきっかけにしてしまいます。
債権額が増加している状況で、一つでも歯車が狂えば、一気に窮地に立たされる場合があります。皆さまも、自社の債権額の推移を改めてご確認いただき、リスク要因は徹底して排除してください。消費税の増税延期という話しが出ている時点で、かなり雲行きが怪しいです。
ちなみに、予防線を張るという意味で、顧問弁護士がいらっしゃる企業には、WEBサイトの会社概要欄に、顧問弁護士を掲載することをお勧めしています。皆さまもご経験があるように、取引相手の会社概要欄は必ずチェックされます。顧問弁護士と記載があるだけでも、近寄ってこない相手もいらっしゃいますので。

増税前に押さえておきたい、今更聞けない消費税のキホン

消費税増税まで1年を切りました。前回の増税時には数多くのご相談を受けました。

しかし、多くの内容は基本的な消費税の仕組みを理解できていないことによるご相談でした。中には正しく理解しないままに、誤った対策を講じてしまった方もいるのではないでしょうか。

増税の再延期の可能性が取りざたされていますが、そこはさておき、このタイミングで消費税の基本を理解し、直前になって慌てたり意味のない対策を取ることのないようにしましょう。

課税事業者である企業にとって、消費税の基本的な仕組みは2パターンです。

■ 原則:売上で預かった消費税から実際に仕入等で支払った消費税を差し引いて残った額を納税する

原則:【消費税の仕組み(原則課税方式)】

納税額 売上の際に預かった
消費税
(仮受消費税)

・年間売上:2億円 → 預かった消費税1600万円
・年間仕入等:1億5千万円→支払った消費税1200万円
・納税額:1600万円ー1200万円=400万円

※消費税率8%

仕入等の際に
実際に支払った消費税
(仮払消費税)

■ 例外:売上で預かった消費税から、預かった消費税にみなし仕入れ率をかけた額を差し引いて残った額を納税する

例外:【消費税の仕組み(簡易課税方式)】

納税額 売上の際に預かった
消費税
(仮受消費税)

・年間売上:4500万円 → 預かった消費税360万円
・年間仕入等(みなし仕入れ):360万円×80%
 
(小売業の場合)=288万円
・納税額:360万円ー288万円=72万円

※消費税率8%
みなし仕入れ率は業種により異なります。

みなし仕入れ率により計算された消費税
差額(雑収入)

前々期の課税売上高が5000万円以下で届出を提出している場合には、みなし仕入れ率を用いて消費税を計算することができる、例外「簡易課税制度」の適用を受けることができます。課税売上高が5000万円を超えている企業については原則課税方式になります。

大まかですが、基本的な消費税の仕組みは上記のとおりです。

さてさて、増税直前になると必ず受けるのが、「車とか、材料とか、消耗品とか、今のうちに買っておいた方がいいんだよね?」という質問です。

■ 原則課税方式の企業様への答え

「いいえ、増税前に駆け込みで購入しても、しなくても損も得もしません。ですので今必要な分だけ購入してください。」

これが基本的な答えです。

具体的に数字で見ていきましょう。

とある、4月決算の企業が3月~4月の増税時期をまたぐ2カ月の間に合計で3000万円(税抜き)の仕入をするとします。ケース(1)では増税前に仕入れた方が有利だろうと考え、2500万円分を3月に仕入れて、残りの500万円分を4月に仕入れました。
ケース(2)では、増税前後、変わらず1500万円ずつを仕入れました。

(1)増税前の3月に2500万円(税抜)を仕入れて、増税後の4月に500万円(税抜)を仕入れた場合。

【ケース(1)】

納税額 150万円 売上の際に預かった
消費税
(1600万円)

・年間売上分 → 預かった消費税1600万円
・2月までの仕入等:1億5千万円→支払った消費税1200万円
・3月仕入れの消費税:2500万円×8%=200万円
・4月仕入れの消費税:500万円×10%=50万円
・納税額:1600万円ー1200万円ー200万円−50万円
 =150万円

4月分(50万円)
3月分(200万円)
2月までの仕入等で
実際に支払った消費税
(1200万円)


(2)増税前の3月に1500万円(税抜)を仕入れて、増税後の4月に1500万円(税抜)を仕入れた場合。

【ケース(2)】

納税額 130万円 売上の際に預かった
消費税
(1600万円)

・年間売上分 → 預かった消費税1600万円
・2月までの仕入等:1億5千万円→支払った消費税1200万円
・3月仕入れの消費税:1500万円×8%=120万円
・4月仕入れの消費税:1500万円×10%=150万円
・納税額:1600万円ー1200万円ー200万円−150万円
 =130万円

4月分(150万円)
3月分(120万円)
2月までの仕入等で
実際に支払った消費税
(1200万円)

結果として(1)(2)ともにキャッシュアウトする金額が同じなのはご理解いただけたでしょうか?表にして比較してみましょう。

【ケース(1)と(2)の比較】 (単位:万円)
  預かった
消費税
(売上)
2月までに
支払った
消費税
3月に
支払った
消費税
4月に
支払った
消費税
差引納税額 3月以降の
キャッシュアウト
ケース(1) 1,600 1,200 200 50 150 400
ケース(2) 1,600 1,200 120 150 130 400
キャッシュアウトは結局同じ!

(1)のケースで3月、4月に支払った消費税は(200万円+50万円)の250万円
(2)のケースで3月、4月に支払った消費税は(120万円+150万円)の270万円

確かにこの時点では3月に、駆け込みで仕入れた(1)の方が、仕入の際に支払う消費税が20万円少なくて済んでいます。

しかし納税額はどうでしょう。
(1)150万円
(2)130万円

今度は逆に(1)の方が20万円多く国に消費税を納めることになってしまいました。

もう、お分かりいただけたと思います。

3月4月に仕入れの際に支払った消費税額と国への納税額の合計は全く同じなのです。

これは預かった消費税から支払った消費税を差し引いた残額を納税するという仕組み故の結果です。仕入の際に高い税率で多く支払っていれば、その分納税額が減り、低い税率で少なく支払っていれば、その分納税額が増えるのです。つまり、増税前にまとめて仕入れても、増税後に仕入れてもトータルでは同じ結果になるのです。

■ 免税事業者・簡易課税制度を選択している企業様・一般消費者様への答え

「はい、そうですね。もちろん日が経つと劣化するようなものは、買い過ぎに気をつけるとして、増税後も必ず使うもので、時の経過に伴って劣化するようなものでなければ、まとめ買いしておけば、その分、消費税は安くすみます」

これが同じ問いに対する答えです。

消費税の納税義務のない免税事業者や一般消費者については消費税を納税することはありませんので、消費税を多く支払うと、その分納税額が少なくなるといったことはありません。当然、低い税率の際に購入した方が、お金の流出は少なくて済むということになります。

さて、次に簡易課税を選択している企業ですが、こちらについても免税事業者と同様に、増税前に購入できるものはしておいた方が得になります。

なぜなら、例外のところで説明した簡易課税方式の場合、売上で預かった消費税から業種によって決められた、みなし仕入れ率を預かった消費税にかけた額を差し引いた額を納税するからです。つまり、実際に仕入等で消費税をいくら支払ったかは、納税額に全く関係がなく、売上で預かった消費税の額に応じて納税額が決まる計算方法だからです。

納税額に全く関係がない以上、当然、仕入等で実際に支払う消費税は少ない方が、手元に多くのお金が残るというわけです。

理解していらっしゃる方にとっては「何を今更・・・」という内容かもしれませんが、意外ときちんと理解できていない方が多い内容のため、増税を前に再確認させていただきました。1年後、実際に増税が実行されるか否かは現時点では不透明な部分もありますが、基本的な仕組みを理解して、増税前に慌てることのないようにしましょう。

 

譲渡価格から事業承継を考える

ここ1、2年、M&Aのご相談をいただく機会が増え、当社もお客様のサポートをさせていただいております。

3月はM&Aの成約が多いため、私も複数のお客様の案件でバタバタ動いておりました。
譲渡と譲受でしたら、圧倒的に譲渡のご相談が多い状況です。

会社を譲渡されようとする理由の多くは後継者問題です。ただし、近年は業界の先行きへの不安や単独企業での成長に限界を感じられ、後継者問題と相まってご検討されるお客様が増えてきました。つまり、理由は一つではありません。

長いお付き合いのお客様には、私の方からM&Aという選択肢についてお話させていただくこともあります。お客様ご自身も漠然と問題には気付いていらっしゃるものの、やはりご自分の口から「売りたい」とおっしゃるには抵抗があるようです。

そのような中で、皆さまが一番気にされるのは社員の雇用です。ただし、雇用に関しては原則維持となるため、実際には問題とはなりません。

次は譲渡価格の問題です。

おそらく、一般的な方程式で算出された譲渡価格を見せられたとき、ほとんどの方はがっくりされると思われます。

「こんなものか…」

そうなると、やはり簡単には売ることができない。このまま経営していた方が手元に残るお金は多くなる。そうお考えになります。また、M&Aの仲介業者に支払う手数料も安くはありません。

ただし、売り時を間違えると売ることも出来ず、後継者も定まらずに、時間だけが経過していくことになります。

例えば、親族ではない社員に引き継いでもらおうとしても、通常は一社員が買えるような金額ではありません。

「自分の会社はたった1億円にしかならないのか…」と思われても、1億円を出せる社員などいらっしゃらないからです。

また、私が直接担当しているお客様は私と同年代の40歳前後から50歳までの方が多いのですが、皆さまとお話していると、ご自身のお子様に事業承継したいとお考えの方はごく少数です。

そうような場合の選択肢は、社員又は外部に譲渡するか、廃業又は倒産ということになります。廃業又は倒産というのは雇用の問題からも避けたいところですので、現実的には譲渡に行きついてしまいます。

そして、譲渡という場合、有利な条件で交渉を進められるのは、内部留保が分厚い会社です。
内部留保がない会社は、ほとんど価格が付きません。つまり、内部留保がない会社というのは収益性が継続的に低く、買い手からすると魅力が薄いのです。

ただし、内部留保がない理由が、中小企業特有の“経営者ご自身に内部留保を持たせている”ということであれば問題はありません。買い手からもらうべきお金を既に会社からもらっていたというだけです。しかし、会社から個人にお金を移してしまえば、やはり個人で消費してしまう方が多いというのが現実的なところです。

従って、会社にも経営者個人にも内部留保が少ない場合は、“譲渡価格が低いため”M&Aという選択肢も採用することができないこととなります。

まだ経営者として第一線で働かれている方でも、最終的には親族に会社を引き継いでいただくか、売らなければなりません。M&Aはあくまで事業承継の選択肢の一つであり、M&Aを行うにあたっての現実的な問題もありますので簡単にはいきません。

しかし、M&Aのサポートをしていて気付かされるのは、M&Aの対象として魅力がない企業というのは、やはり継続性という面で非常に問題があります。お子様に引き継いでいただく場合においても、この程度の金額しか付かない企業を引き継がせてよいのかとお悩みになられる場合もあります。しかも、その金額すら“過去の蓄積”であって、将来を約束するものではありません。

以前も、譲渡価格の低さに難色を示されたお客様に対して、「確かに金額は低いです。しかし、これが御社の市場価格です。この程度の金額しか付かないような道を選択されていたということです。実際、御社は金額が高く付く道も十分選択できたはずです。譲渡せずともまだまだやっていけますが、今のやり方を続けていたら、必ず限界は来ますよ」とお伝えさせていただいたことがあります。

非上場企業というのは、市場から企業価値を評価されるということがありません。従って、評価されることに慣れていませんので、譲渡価格が経営者ご自身の価値と錯覚される場合もあります。

しかし、「自社の市場価格はいくらなのか?」という側面から事業承継を考えるのも、客観的で非常に参考になると考えます。

価格が付かない理由が、自社の問題点となりますので…。

 

 

(山田 拓巳)

【お詫び】
4月1日に掲載させていただきました記事「社会保険料削減(案) ~その2~」にて、誤植がございましたので、訂正してお詫び申し上げます。

(訂正前)
また、今回は企業の掛金拠出を0円として説明しましたが、企業の負担額を1.5万円(最大5.5万円)とすれば、社員の掛金の枠は4.5万円となり、実質的な退職金の前払い制度に移行できます。

(訂正後)
また、今回は企業の掛金拠出を0円として説明しましたが、企業の負担額を1.5万円(最大5.5万円)とすれば、社員の掛金の枠は4万円となり、実質的な退職金の前払い制度に移行できます。

 

消費税増税時代だからこそ契約書に入れたい気の利いた一言

前回に引き続き消費税増税についてお伝えいたします。

今回は、消費税増税後にしっかりと消費税をもらうために契約書に入れていただきたい『言葉』についてです。

前回、消費税率が上がる前には国民生活への負担を軽減する目的で経過措置が設けられているという話をいたしました。

それ自体は悪いことではないのですが、その一方で経過措置の適用がない取引にもかかわらず、契約時点でお客様にしっかりとお伝えしていなかった、もしくは、曖昧にしていたために本来であればもらわなければならない消費税を貰えないというケースができてきます。

そこで、今回は『消費税増税に対応した契約書の作成方法』についてお話しいたします。

      

 

【契約書作成時の重要ポイント】

1.金額は税抜きで記載し消費税等は別途徴収することを明らかにする

例えば、『月額賃料540,000円』としてしまうと消費税分が40,000円なんだろうなという想像はつきますが、消費税率改定後には賃料改定の通知をしなければ相手もそのままでいいだろうなと思ってしまいます。

正直に申し上げれば、「向こうが言ってくるまで(自分からは)黙っていよう」というのが一般的ではないでしょうか。

そこで、契約金額は税抜きで記載し消費税等は別途徴収することを明らかにするため次のように記載しましょう。

<記載例>

月額○○円(消費税別)
金額○○円(税抜、別途消費税)

2.消費税等の税率改訂に対応する条項を盛り込む

取引の態様ごとに契約書に盛り込むべき条項の記載例をご紹介いたします。
なお、請負工事に関する経過措置の説明については前回のメールマガジンをご参照ください。

<記載例>
(1) 経過措置の適用を受ける請負工事

第○条 消費税等の取扱いについて

消費税等は上記請負金額とは別に徴収する。
本契約は改定消費税法附則5条3項の規定によって、契約物の引渡日が消費税率改定日後であっても消費税率を契約日における消費税率により計算する。
なお、平成28年10月1日以後に何らかの理由で請負金額を増額した場合で、かつ、契約物の引渡日が消費税率改定日以後となった場合においては、その増額分に係る消費税率は改定後の消費税率により徴収するものとする。

(2) 指定日以後に契約した請負工事

消費税等は上記請負金額とは別に徴収する。
なお、消費税率については当該契約物の引渡日における税率によるものとする。

(3) 不動産等の賃貸借契約

不動産等の資産の賃貸借契約についても指定日前に契約した一定の契約については経過措置の適用がありますが、その用件の一つに『対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこと』というものがあります。

対価の額の変更を求めることができる旨の定めがないこととは、契約書において賃料改定の条項がないことをいい、次のような条項がない場合をいいます。

賃料については、公租公課の変動、諸般の経済情勢の変化、近隣の賃料比較等により、当事者間で協議の上改定することができる。

つまり、一般的な不動産等の賃貸借契約においてはこの条項が入っているため経過措置は適用はありません。

したがって不動産等の賃貸借契約においては次の文言を入れてください。

本契約は消費税経過措置の適用はない。
なお、契約期間の中途において消費税率の改定が行われた場合には、賃貸人からの通知の有無にかかわらず、消費税率改定後の賃料に係る消費税等については改定後の税率により計算するものとする。

(4) 一括受領の長期の保守契約、メンテナンス契約等の役務提供契約

契約が3年間や5年間など長期にわたる契約で、月ごとに役務提供が完了する場合において、施行日以後における保守料金に係る消費税については、新税率が適用されます。

なお、施行日前に一括して契約期間に係る保守料金を受け取っている場合であっても、施行日以後に係る部分は新税率となることから、施行日以後の保守料金について10%と8%の差額である2%部分を追加徴収しないと本体価格を値引したことになるので注意が必要です。

契約期間が1年間で、その1年分の保守料金を一括して収受している場合において、事業者が継続して当該対価を収受した時に収益計上しているときは、施行日前までに収受し収益計上したものについては旧税率を適用することとなります。

ただし、『中途解約をした場合には未経過期間分の保守料を返還する』旨の条項がある場合には、裏を返すと時の経過に応じた保守料金等が決められていることになるため、施行日以後の期間における保守料金に係る消費税は新税率が適用されますので注意してください。

月ごとに売上計上している企業が多いことから考えると次のような記載をすべきです。

消費税は上記保守料金とは別に徴収する。
なお、本契約は消費税経過措置の適用はないため契約締結後において消費税法の改定により消費税率が改定された場合には、契約時に領収した消費税額との差額を追加徴収するものとする。

すべての契約に共通して言えることは、『消費税率は変わるものだ』ということを前提に契約に臨むということです。

消費税率は必ずまた改定されます。

税金に関する条項をしっかりと盛り込んで思わぬ損失を被らないよう気を付けてください。

 

社会保険料削減(案) ~その2~

それでは、前回に引き続き、社会保険料の削減(案)をお伝えいたします。

【その2】ある意味、加入者全員の社会保険料が下がる

前回お伝えしたのは、かなりイレギュラーな案でしたが、今回は国が推し進める制度をお伝えいたします。

それは、「確定拠出年金制度」です。

「確定拠出年金制度」を簡単にお伝えすると、従来からの退職一時金制度に替えて、退職金を年金で受け取ることを認める制度です(もちろん、併用することも考えられます)。

退職一時金制度は、企業が従業員の将来の退職に備えて積み立てていかなければならないものであり、業績の浮き沈みによっては重い負担になります。さらに将来の退職金のための引当金は経費に算入されないため、お金だけ準備しておかなければなりません。

これに比べて、「確定拠出年金制度」は、掛金を随時外部拠出することになるため、将来に備えてお金を準備するのではなく、いま経費に算入することができます。受け取る従業員側にとっても、企業が倒産しても掛金は既に確定している権利であるため確実に受け取れます。

また、日本の全企業に締める中小企業の割合は99%超であり、中小企業において最も一般的と思われる「中小企業退職金共済制度」の加入者数は約330万人。

これに対して、「確定拠出年金制度」の加入者数は、2015年3月時点で500万人を超えています。
上場企業を中心に、退職一時金制度からの移行が進んでいるからです。

このことから、今後は最もメジャーな退職金制度となってゆくと考えられています。

しかし、今回は「確定拠出年金制度」について説明する内容ではないため、制度についての詳細は下記に譲ります。

>> 厚生労働省HP『確定拠出年金制度の概要』

それでは、確定拠出年金制度が、なぜ社会保険料の削減につながるのか?

今回は、最も社会保険料が削減される可能性がある制度設計にて、導入による変化をお伝えいたします。

確定拠出年金掛金は、掛金の上限が月額55,000円まで認められています(他の企業年金に加入している場合は27,500円)。ちなみに、中小企業退職金共済は月額3万円が限度です。

そして、確定拠出年金掛金の「選択制」を導入した場合、掛金を拠出するのは社員自身となります。
掛金の拠出は給与内にて行うため、現在の給与の内訳を変更することになります。

例えば、月額30万円の給与の場合、従来通りの給与が24.5万円、確定拠出年金の枠として5.5万円の合計30万円となります。

つまり、企業としては企業負担の掛金の拠出無しに、社員の給与に確定拠出年金の枠を設定できるのです。この場合、社員から掛金を預り、拠出することになります。

そして、上記のケースで、社員が確定拠出年金の掛金として1.5万円を積み立てるとどうなるのか?

下記をご確認ください。

(シミュレーション表)

シミュレーション表なので詳細に過ぎる部分がありますが、上記のケースでは、社員が毎月1.5万円の確定拠出年金の掛金を積み立てると、年間3.4万円の社会保険料が削減されます(社員本人と企業負担の双方が削減対象となりますので、合計6.8万円)。

なぜ、社会保険料が下がるのかと言うと、確定拠出年金掛金は給与としてはみなされないため、社会保険料の算定対象外となり、社会保険の等級が下がる可能性があるからです。

さらに、上記のケースで5.5万円を掛金として拠出すると、社会保険料の削減効果は年間10.3万円(両者で20.6万円)となります。

さらにさらに、社会保険のみならず税金も下がるため、個人の節税商品として最強とも言われています。仮に10年の間、給与、社会保険料及び税金が変わらなかったとして、掛金1.5万円を拠出し続ければ、この社員は48.6万円の節税が可能となるのです。

簡単に説明すると、確定拠出年金制度導入に伴う社会保険料の削減案は以上となります(簡単ではないと思われますが…)。

当然、一人当たり削減額×社員数となりますので、社員が多い企業ほど削減効果が上がります。ただし、今回説明した制度において、社員が掛金を拠出するかどうかは任意です。制度を導入しても、企業は掛金の拠出を強制出来ません(せめてお願いでしょうか)。

とはいえ、社員にとっても、手取り後のお金を貯金するより圧倒的に有利なのは間違いありません。この辺の理解が進めば利用者が増加する可能性があります。

また、今回は企業の掛金拠出を0円として説明しましたが、企業の負担額を1.5万円(最大5.5万円)とすれば、社員の掛金の枠は4万円となり、実質的な退職金の前払い制度に移行できます。役員も社員同様に参加可能です。

確定拠出年金制度の導入は、確かにハードルが高いです。しかし、使い方によっては、中小企業においてネックの退職金制度の導入と社会保険料の削減に効果を発揮します。

中小企業においても導入が少しずつ進んでいるようですので、一度ご検討いただくのもよろしいかもしれません。

以上、二回にわたり、社会保険の削減(案)をお伝えいたしました。