合法的利益調整

「事前確定届出給与」

名称までは覚えていなくても、多くの経営者がその存在を知り、必要に応じて活用している、ごく一般的な税制。

当社の顧問先様については、かなりの方が利用されていますので、そんな風に思っていましたが、顧問先様以外のご相談対応をさせていただいていると、まだまだ驚くほど知られていないことが分かります。

この「事前確定届出給与」、上手く使えば合法的に法人の利益調整が可能です。是非とも、この機会に制度をよく理解し、活用を検討してください。

役員賞与が原則として損金算入が認められていないことは、ご存知のとおりです。なぜなら、これを認めてしまえば容易に法人の利益調整が可能になってしまうからです。

そこでこの「事前確定届出給与」の出番です。これは事前に「役員ごと」に「いつ」「いくら」を支払うということを株主総会で決議し、株主総会から1ヶ月以内に税務署に届け出ることによって損金算入を認めてもらうことができる制度です。

例えば3月決算の中小法人であれば、通常5月末に株主総会を開催することが多いかと思います。そこで、役員Aには200万円、役員Bには100万円、来年の3月25日に支給しますという内容の届出書を6月末までに税務署に提出し、損金に算入するわけです。

注意が必要なのは、「届出たとおりに支給しないと全額が損金として認められない」という点です。例えば業績が思ったほどよくなかったので、200万円と届け出た役員Aへは実際には100万円しか支給しなかったとします。すると届出どおりの支給ではありませんので、この100万円全額が損金不算入になってしまいます。くれぐれも、支給日、支給額ともに届出額と相違なくしなければなりません。

ではなぜ、税務署は事前の届出どおりに支給するのであれば、損金算入を認めるのでしょうか?それは、「あらかじめ金額と支給日が決まっているのであれば、利益調整には使えない」と考えたからでしょう。

ところがこの制度、よーく理解すると、実は思いっきり利益調整に使えてしまうのです。

先ほど届出どおりに支給しなかった場合は、損金算入が認められないと書きました。
では、全く支給しなかった場合はどうなるのでしょう?

もちろん損金不算入です。しかしよく考えてください。全く支給しなかったのですから、もともと損金はゼロ、損金不算入もクソもありません。支給しなかったことによる実害はゼロなわけです。

さてさて、もう一歩踏み込みます。

先ほどお伝えしたように、この制度は「役員ごと」にその支給日と支給額を届出るものです。このことは、例えば、役員Bには届出どおり支給して、役員Aには届出どおり支給しなかった場合、役員Aへの支給分については当然損金不算入になるものの、役員Bへの支給分に関しては、役員Aの損金不算入の影響を受けない、つまり役員Bへの支給は損金算入が認められることを意味しています。あくまでも「役員ごと」の判断なのです。
国税庁の下記の質疑応答事例でもこのことは、はっきりと回答されています。
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/hojin/11/13.htm

これがどういうことか分かりますでしょうか?

例えば役員A、役員B、役員Cの家族3人が役員を務める3月決算の○△株式会社では、当期に新規事業を立ち上げます。これが上手くいけば、そこそこの利益が見込まれますので役員報酬を増額したいところですが、上手く行かなかった場合には増益どころか、役員報酬を増額してしまうと赤字に転落しかねません。取引先や金融機関の手前もありますので、赤字決算は避けたいところです。

もちろん新規事業が上手く行くか行かないかは、ふたを開けてみなければ分かりません。
そこで私は、決算期末近くの3月25日に3人ともに100万円ずつの「事前確定届出給与」を支給する旨の届出を税務署に提出することを提案し、実際に提出します。

するとこの○△株式会社では、期末の3月25日に4つのパターンの損金計上のカードを持つことになるのです。

(1)届出どおり役員全員に事前確定届出給与を支給する→300万円の損金計上が可能
(2)役員A、Bには届出どおりに支給するが役員Cには支給しない→200万円の損金計上が可能
(3)役員Aには届出どおりに支給するが、役員B、Cには支給しない→100万円の損金計上が可能
(4)役員全員へ支給しない→損金計上ゼロ

つまり、期末ぎりぎりの3月25日の時点で新規事業の成果を見極めたうえで、その時点の業績に応じて、300万、200万、100万、0円の4パターンの損金計上を事前確定届出給与で選択できることになります。

そうです、事前確定届出給与の支給をコントロールすることで当期の損益を、ある程度コントロールできてしまうのです。

実質的な役員賞与による利益調整以外のなにものでもありません。

ただ、この手法、1点注意と準備が必要です。事前確定届出給与は株主総会の決議により決定したことですので、会社が勝手に「支給するのや-めた!」というわけにはいきません。

役員には株主総会で決定、確定された報酬(事前確定届出給与)を請求する権利があります。したがって、ただ単に支給を取り止めただけでは、理屈のうえでは源泉所得税がかかったしまうことになります。支給を受けていないのに、所得税だけかかってしまうのです。

ここはなんとしてもリスクヘッジしなければなりません。そこで利用するのが「所得税基本通達28-10」です。基本通達とは国税庁長官が部下である税務署職員に対して、法律の解釈を指示する文章です。

≪所得税基本通達28-10(給与等の受領を辞退した場合≫
給与等の支払を受けるべき者がその給与等の全部又は一部の受領を辞退した場合には、その支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退したものに限り、課税しないものとする。

そこで、この通達を利用して事前確定届出給与の支給をゼロとする場合には支給日が来る前に、その役員が会社に事前確定届出給与の支給「辞退届」を提出します。辞退届の提出を受けて、会社では臨時株主総会を開催し事前確定届出給与を支給しない旨の決議をし、議事録を作成します。これで所得税の課税から免れることができるのです。

いかがでしたでしょうか?この制度自体はご存知でも「役員ごと」の取扱いだという特徴までは理解されていない方が非常に多い制度です。是非この機会にしっかりと制度を理解しておきましょう。

事前確定届出給与、他にも色々と面白い使い方ができます。顧問税理士とよく相談して是非、活用してみてください。リスクヘッジも忘れずに。