労災事故から改めて考える、中小企業の労働環境

電通の労災事件は、中小企業の今後の労務管理にも大きな影響を与えると思われます。
保険会社には、労災事故に伴う使用者賠償責任の保険の問い合わせも増えているとのこと。
過大な残業時間による労災事故…。
元社員あるいは現社員からの未払い残業代請求…。
国が規制を強める可能性があり、弁護士がこれを契機に未払い残業代請求を煽る可能性もあります。
『弁護士のテレビCMがニガニガしくなる時代がやってくる!』
と、当社も6年以上前に未払い残業代請求対応セミナーを開催しました。当時でもセミナーの大きな反響に驚きましたが、近年の労働時間短縮、生産性重視、配偶者控除廃止の議論などの流れから、より現実的になってきたかもしれません。
少なくとも8割以上の企業は、自社の労働環境に危機感があると思われます。ただし、これらを解消したくても、慢性的な人手不足が解決できない限り、手の打ちようがないというのが本音でしょうか。また、残業代を全て支払っていたら経営が成り立たないと思われる方も多いはず。
未払い残業代対応セミナーでも、残業代については就業規則や賃金規程の見直しなどで、ある程度の解消はできるとお伝えしましたが、労働時間短縮の根本的な解決にはなりません。
そして、結局のところ、労働時間短縮について本気で取り組んでいる中小企業はほとんど見かけません。
業務拡大、人手不足、コンプライアンス、安請け合いなどから、むしろ労働時間は伸びる一方です。これらの解消のため、大企業を中心にテレワークが叫ばれているものの、どこまで成功するかは分かりません。むしろ懐疑的な見方をされている方が多いことでしょう。
中小企業においては、そもそも経営者自らが365日勤務しているようなものなので、従業員にも長時間労働を求めがちという事実は否めません(もし、経営者が遊び歩いているのにもかかわらず、従業員の長時間労働を放置しているようであれば、その企業の寿命は長くないでしょう…)。
従って、経営とのバランスを取りながら、経営者自ら従業員の長時間労働を改善するという明確な意思を示さない限り、実現不可能です。
誰に対しても長時間労働は絶対に良くないとは言えませんが、大半の従業員については、長時間労働は基本的に是正されるべきと考えています。
それは、長時間労働が常態化した組織が、良い結果にはつながらないことを見てきているからです。さらに言えば、多くの従業員が長時間労働を行ったとしても、それで会社の業績が良くなっていることなど少ないからです。
どちらかというと、どの企業も破綻を回避するために長時間労働を行っているような気がします。そこに改善の意図は見えません。
では、どこに問題があるのかと言うと、中小企業の管理指標に「時間」という概念が取り入れられていることが圧倒的に少ないという点です。
通常、増えた仕事があれば、減らす仕事もあって然るべきであり、あるいは人を増やすか、システム導入などで効率化を図る必要があります。しかし、仕事が増える一方で減るものは少なく、システム導入を行っても、さらに作業が増えるという始末…。
このビフォーアフターを見るために、「時間」という概念が必要なわけですが、時間の管理というと、「残業時間の管理を行う」ということで終わってしまいます。
「残業を止めよう!」と号令を掛けたところで、
「仕事が終わりません!」と反発されるのが目に見えています。
そして、仕事が終わらないと言っている社員に、時間の使い方を改善するよう伝えても、それは無理な話です。
つまり、会社としての目標管理に「時間」という概念を取り入れ、チームや個人の評価の指標にも「時間」を反映させ、それこそ時間を掛けて社内に浸透させる必要があります。
本当のところは「生産性の改善!」とすると聞こえは良いのですが、「生産性って何?」となると難しくなるので、最初は単純に「時間」とした方が良いように思われます。
いずれにしても、自社の労働環境の悪化を放置しておくと、若い世代の採用や定着率に大きな支障を来すため、そろそろ手を打ち始める必要があるのではないでしょうか?
ムダな業務、ムダな会議、ムダな研修、見直す余地はいくらでもあるはずです。