税額控除と税理士賠償訴訟

新聞紙面で連日報道されている税制改正論議。11月15日の日本経済新聞には【中小の賃上げ 減税拡充】との記事が掲載されていました。
【所得拡大促進税制】と呼ばれるこの税制、現状の税制下でも要件を満たせば、かなりの減税効果を享受することが可能です。しかし一方で、要件を満たしているにも関わらず適用を漏らし、税理士が顧問先の会社から訴えられる事案がとても多いことは世間には知られていません。
2015年度の法人税における税理士職業賠償責任保険の支払い事故原因では2位以下に圧倒的な差をつけてのダントツ1位となっているのです。
適用漏れが起こる原因としては、「そもそも税理士事務所の担当者がこの税制を知らなかった」「税制は知っていたが、うっかり適用を忘れてしまった」「適用要件の解釈ミス(計算ミス)」などが考えられます。
もちろん、こうした優遇税制の適用が受けられるのにも関わらず、その適用を漏らしてしまったケースの多くは税理士に責任があります。
しかし、もし皆さんの頭の片隅にこの税制の知識があったなら、たった一言、税理士に確認をするだけで、払う必要のない税金を支払う破目になった挙句、訴訟という多大なストレスのかかる案件に時間やお金を使うという最も不幸な事態に陥らなくて済むかもしれません。
この税制が今度の税制改正で拡充されれば、税額控除の恩恵はさらに大きくなります。
是非この機会に、この税制の概要を理解し自社を自らの手で守りましょう。
大きく要件は3つです。
(1)今期に支払った給与額が、基準事業年度(3月決算の会社は平成25年3月期)に支払った給与額より3%以上増加していること。
(2)今期に支払った給与額が前期に支払った給与額以上であること。
(3)今期の1人当たりの月平均給与が前期の1人当たりの月平均給与を超えていること。
※上記の給与には役員及びその関係者に支払ったものは含みません。
実際には、もう少し細かい要件がありますが、ここではあくまでも制度の概要をザックリと知っていただくことを目的としていますので、細かい要件や説明は省きます。
「うちの会社も使えるかも」ということに気が付いていただき、顧問税理士に確認を取るということが重要です。実際に要件を満たしているかは顧問税理士に計算してもらいましょう。
さてさて、実際の税額控除額の計算です。
(今期支払った給与額)-(基準事業年度に支払った給与額)×10%=税額控除限度額※
※ただし法人税の20%まで
現在であれば基準事業年度は3期前の事業年度になりますので、3期前より1000万円、2000万円給与支払額が増えていれば、100万円、200万円の税額控除が受けられることになります。
さて、再び税制改正論議に戻ります。現在は上記のように基準事業年度より増加した給与の10%が税額控除の限度ですが、これを2倍の20%まで引き上げることで調整に入っているとのことです。
これが決まれば、1000万円、2000万円給与支払額が増えていれば、200万円、400万円の税額控除が受けられることになります。
どうでしょうか?とても大きな税額控除だと思いませんか?
もし、この適用が漏れたら・・・大損です。
実際に適用できるか否かの細かい要件は専門家に任せておけば良いですが、自社を守るためにも、制度の概要くらいは知っておいて損はないと思います。
「そういえば、今期はだいぶ人件費が増えてるから、なんか使える税額控除があったんじゃなかったでしたっけ?」
顧問税理士へのこの一言が自社を守るのです。
※この原稿を書いたあと、12月8日に与党税制改正大綱が発表されました。
これによれば、賃上げ率が2%以上である場合には、合計で22%の税額控除を受けられるようにするとのことです。
賃上げを行う中小企業にとっては、ますます有利な税制になりそうですので、くれぐれも適用漏れのないように注意しましょう。