自社株の分散を定款で防ぐ

定款は、会社設立の際に必ず作成する書類で、言わば会社の憲法にあたるものです。
それにもかかわらず、多くの方が会社設立の際に司法書士にその作成を依頼し、その後は机の引き出しにしまいっぱなしで、自社の定款にどういったことが定められているかを知りません。
繰り返しになりますが、定款は自社の憲法にあたるものです。
ほんの一文が定款に記載されているだけで自社を救うことができることがあることも、あまり知られていません。
中小企業経営者の相続で必ず生じる自社株の承継問題。
その中でも相続を原因とした株式の分散という問題を、よく見聞きします。
株式は後継者が既に決まっていれば、中小企業では通常、その後継者に集めるようにします。しかし、これが必ずしも上手くいくケースばかりではありません。
後継者が決まっていない場合や株価が高すぎる場合などに、とりあえずの相続税対策として複数の子供たち(兄弟)に分散して株式を取得させているといったケースがよくあります。
また、他に目ぼしい相続財産がないために、事業を引き継ぐ意思のない兄弟の手に株式が渡ってしまっていることもあります。
そうこうしているうちに、後継者ではない株主であるその兄弟にもしものことが起こったら、どうなるでしょう。そうです、兄弟の配偶者の手に株式が渡ってしまうということが、起こり得ます。
兄弟の配偶者といえば完全に他人です。
会社としては必要以上の株式の分散は避けたいところですが、実際には様々な事情により株式が後継者以外の人間だけでなく、あろうことか他人に分散してしまうということも十分に起こり得るのです。
分散した株式は、その株主が亡くなれば相続によってさらに分散して承継され、どんなに会社にとって望ましくない人物であろうと、会社は相続人を新たな株主として扱わざるを得ません。
会社としては、望ましくない人物に株式が相続されることは、なんとしても避けたいところですが、個人株主の相続を防ぐことはできないのです。
しかし、このような最悪の事態を防ぐことのできる、実に簡単な方法があるのです。
それは、自社の定款に次の条項を定めておくことです。
(相続人等に対する株式の売り渡しの請求)
第〇条 当会社は相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、
    当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。
定款にこの定めがある場合には、相続があったことを知った日から1年以内に株主総会の特別決議を経て、会社は相続人に対して株式の売り渡しを請求することができます。
つまり、相続で望ましくない株主の手に株式が渡ってしまった際には、この条項を定めておくことで、会社の判断でこの相続人に対して株式の強制買取をすることができ、望まない株主への株式分散を防ぐことができるのです。
これは平成18年5月1日の会社法施行によって新たに作られた制度のため、それ以前に設立された会社については、定款変更をしていない限り定められていないはずです。
また、会社法施行以降に作られた法人であっても、定款作成を依頼した司法書士によっては、この条項を定めていないことも珍しくありません。
もし、自社の定款にこの条項が定められていない場合、できるだけ早急に定款変更をしてしまうことをお勧めします。
しかも、この定款変更については、設立時には必要であった公証人の認証を受ける必要もなく、変更の内容が登記事項でもないため登記申請も必要ありません。株主総会の決議を経て定款に先ほどの条項を書き加えるだけでいいのです。
当社に株式承継のご相談をいただくケースの多くは、定款にこの条項が記載されていないため、まずは定款変更をご提案させていただくことがよくあります。
繰り返しになりますが、公証人の認証も、登記も要りません。株主総会の決議を経て、ただ定款に条項を書き加えるだけでいいのです。
とりあえず今日、自社の定款を確認してみてはいかがでしょうか。