税制改正が株価を大きく変える

平成29年度税制改正大綱に取引相場のない株式の評価方法の見直しが盛り込まれていたことは、皆さま既にご存じかと思います。
税制改正大綱発表から約半年、パブリックコメント制度(意見公募手続制度)を経て、国税庁は5月15日に取引相場のない株式等の見直しを盛り込んだ「財産評価基本通達の一部改正」を公表しました。
これにより平成29年1月1日以後に相続や贈与などで非上場株式を取得した場合の、その株式の評価方法が変わることになりました。
私は、今回の改正を受けて早速お客様のA社で評価の比較検討を行ってみることにしましたが、その影響は思っていたよりも大きなものでした。
改正の内容を簡単に説明しておきますと、まず計算に用いる自社と事業内容が類似している上場会社の株価について、上場会社の株価の急激な変動を受けづらくするため、2年間の平均株価が加わることになりました。
また、自社と事業内容が類似している上場会社の3つの批准要素である1株当たりの配当金額、利益金額、簿価純資産価額の比重が1:3:1から1:1:1へと変わり利益金額の要素が下がることになりました。
さらには、評価方法に影響を与える会社区分(大会社・中会社・小会社)の判定基準も変わり、株価が下がりやすい大会社及び中会社の適用範囲が拡大されました。
これらの改正が株価に与える影響については個々の会社の状況によって異なりますが、どの企業にも少なからず影響があることだけは間違いありません。
では、私が比較検討をおこなったA社についてお話しします。
平成28年の8月時点での株価が、1株50,000円ほどであったA社について、まずは、改正後の計算方法で平成29年2月時点での株価を算定してみることにしました。
本来は類似業種批准方式に用いる数字などについては評価時期である平成29年2月のものを使用しますが、まずは前回評価(平成28年8月)の数字を使って計算し、純粋に改正による影響がどれほどのものなのかを知ろうとしました。
すると、A社の株価は7500円ほど下がり、1株42,500円ほどとなりました。これは非常に大きな影響と言えます。
計算に使用する数字は1株50,000円と算定された前回と同じですので、今回の計算方法の改正でこれだけ下がったのです。
A社の株式総数は6,000株ですので、なんと会社全体に与える株価の影響は
△4,500万円です。
ただし、これはあくまでも改正の影響だけを知るために行った架空の前提による比較計算ですので、実際にはこの評価額は使用できません。
次に、類似業種批准方式に用いる数字などは評価時期である平成29年2月時点のものを使用し、正しく平成29年2月時点の株価を計算することにしました。
結果、株価は前回評価の約50,000円から、なんと約13,000円下がって1株当たり約37,000円の株価となりました。
先ほど申し上げたように、A社の株式数は6,000株ですので、なんとなんと株式総数全体に与える株価の影響は△7,800万円です。
これは計算方法の改正に加え、A社の事業内容が類似している上場会社の株価が昨年よりも100円ほども下がっていることが大きく影響していますが、純資産価額の計算に使ったA社の決算数値は前回評価と同じです。
つまり、わずか半年、評価時期をずらしただけで株価が勝手に7800万円も下がったのです。
もちろんこの結果を受けて私は、次の決算を待たず、このタイミングで株式の贈与を行うことを提案させていただきました。
繰り返しになりますが、今回の改正が株価に与える影響については個々の会社の状況によって異なりますし、類似業種の株価の影響もありますので、株価が下がる企業もあれば上がってしまう企業もあります。
事業承継を睨んで、株の異動を行っている企業は、改正後の評価方法によって早めに株価評価をおこなってみることをお勧めします。さもなければ、株価移動の好機を逃してしまうことになってしまうかもしれません。
中小企業にとって株式の承継は経営にも相続にも大きな影響がある超重要事項です。
毎年のように株価評価を行っている企業も、そうでない企業も、改正後の評価方法によって株価評価を行い、今回の改正が与える自社の株価への影響をいち早く把握し、来たるべき事業承継に早め早めに備えていきましょう。