過度の節税は経営の自由度を奪う

大企業はかわいそうなくらいに業績に追われています。
業績次第で経営陣の命運が決まるので当然です。
大企業は業績を追った上でさらに節税も狙いますが、世界中に張り巡らせた節税スキームも、各国政府の包囲網の下に急激に制約が掛かっています。社会的な視線も有りますので、過度な節税など現実的には難しいと言えます。
これに対し、オーナー企業は資金繰りさえ問題がなければ、それほど決算書の数字を気にする必要がありません。業績が悪くてもつぶれなければオーナー経営者の命運も左右されません。そのため、オーナ企業では最小限の利益を出し、あとは節税というパターンが多く見受けられます。
オーナ企業の節税は役員報酬による調整が基本ですが、社会保険や所得税の問題があるため、役員報酬以外の選択肢を探すのは当然です。そこで誰しもが思い付き、その誘惑に負けてしまうのが生命保険による節税です。
生命保険は、一度掛け始めてしまえば税金等が掛からない積立てのように扱えますが、年数が経過すればするほど止めるのが難しくなります。
いずれ業績が悪化し、生命保険料の損金計上が重荷になった場合には、解約等により今まで積立ててきた解約返戻金の利益計上が必要となります。過去の節税額が大きければ大きい程、その反動も大きくならざるを得ません。
また、オーナー企業による節税には、オーナー経営者が自由に使える費用や資産の購入も含まれます。社員が使う費用には制約を設け、オーナー経営者が使う費用は無制限…。
何事にも制約がある雇われ社長だったら「この費用を使わずに同じくらいの成果を残さなければならない」という、「この費用」も節税に含まれます。
実際、雇われ社長(大企業も中小企業も)の行動にはかなりの制約があります。しかし、成果は求められます。従って、雇われ社長の立場はかなり難しいものですが、過度の節税が行われることはありません。制約があるが故に、本来の意味での経営の自由度は広がります。
オーナー企業によるこれらの節税が結果として会社の業績を圧迫しているケースもありますし、気付かないうちに自ら経営の自由度を妨げている場合もあります。節税を借り入れで行っていることに気付いていない方もいらっしゃいます。
「この打ち手は諦めざるを得ない…」。たかだか節税のために、有効であるはずの経営の選択肢を採り得ないというのはとてももったいないことです。
例えば、近年は事業承継の選択肢にM&Aが増えてきましたが、M&Aとなれば節税のための保険は有無を言わさず解約です。高額な役員報酬も、オーナー経営者が節税のために使う費用も、本来会社にとって必要な費用かどうか、または適正な額であるかどうかを考慮した上で、会社の業績を修正します。この修正による差額が大きければ大きい程、本来であれば他の事に回せたお金がそれだけ存在するということになります。そして、その差額は、一般的には不必要な費用と「評価」されます。
つまり、オーナー企業のためのさまざまな節税は、この先もずっと好業績で、かつ、皆様が適齢期に会社を円満に後継者に引き継げるという前提の下に成り立ちます。
出口戦略とはよく言いますが、経営者の皆様が検討されていたとおりに出口を決められることなどまれです。出口は急にやってきます。
出口は急にやってきますが、過去の節税の打ち手は急には止められません。過去に行った判断は仕方ないと早めに損切りができれば問題ないのですが、「エイッ!」と損切りできる方は意外と少ないのです。
そして、いち早く損切りをされた企業から、経営の自由度を回復するのは間違いありません。この損の中には税金も含まれます。税金をいち早く支払っていくことも損切りです。皆様には、税金をより多く支払っていくことによって浮かび上がる選択肢もあるという点もご認識いただきたいです。
経営の自由度を高めるために財務規律を重視するか、オーナーの自由度を高めるためにオーナー企業のための節税を重視するか…。
いずれにしても、経営の自由度が高いほど、さまざまな打ち手を講じやすくなるのは間違いありません。皆様の身の振り方がある程度固まるまでは、納税が皆様の経営の自由度を保ちます。
もちろん、オーナー企業のための節税は当然行うべきであり、行わないことこそおかしいと思われている方が多いのは事実です。
しかし、それも選択です。
その代償は、この先における経営の自由度の喪失の可能性です。
節税もほどほどにということになります(5年間くらいの合計額を集計してみると、驚くほどの金額になることが分かるはずです)。
以上となりますが、オーナー企業による過度の節税は、方向性が明確な企業にとって有効な手段であって、方向性が定まっていない企業にとっては諸刃の剣であることをよくご理解ください。