春の調査はもめにくい!?

「さあ残り3カ月!6月の決算に向かって、あとひと頑張りだ!!」
事務年度が7月~6月の税務署にとって、今はもう下期の中盤。
事業会社であれば決算に向かってスパートをかけだす、そんな時期になります。
確定申告が終わったこの後、税務署の年度末に向けて調査が活発になり出すのは間違いありませんが、春以降に行われる調査にはある特徴があり、そこをうまく利用することで調査結果を有利に運ぶことができることがあります。
知っておいて損はありません。
税務署の下期は1月から6月ですが、6月は税務署にとって年度末ですので、事務処理などに追われます。つまり下期におけるこの後の税務調査は実質6月初旬までの2ケ月程度ということになります。
そして7月は税務職員の異動の時期ですので、どんなに遅くとも6月の中旬までには調査を決着させなければならないといった事情があるのです。
さらに人事評価の事情も加わります。税務職員の異動時期が7月ということは遅くとも4月くらいには人事異動の内部調整を始めているはずです。
そうなると今くらいの時期にはすでに人事評価は終わっており、この4月から6月の調査実績は少なくとも今回の人事評価には影響がほぼないことになります。そう、この時期は調査官のモチベーションが上がりにくいのです。
つまり、この時期の調査は期間が短いうえに年度末の期限があり、モチベーションも低いため、疑義がある案件に対して、ある程度交渉に応じてくれるケースも多く、調査官が折れやすい傾向があるのです。
ここまでを踏まえて、この時期に税務署から調査の連絡が入った場合、私たちが取るべき戦略は【可能な限り調査日程を遅らせて税務署の年度末近くに誘導する】ことになります。
もし今、税務署から連絡が入った場合には何か正当な理由を見つけて5月のゴールデンウィーク明け以降や、可能ならさらに後ろにズラしてもらうのです。
こうなると税務署の年度末終了まで1カ月程度と時間がなくなるため、調査官にはなるべく調査を早めに切り上げようとする心理が働き、非違金額の大きくない重要性が低い案件については特に妥協することが多くなります。
実際、実地調査終了後、指摘事項に対する結論が出ないまま時間がたっていくと
「先生、ご存じのように、もうすぐ異動の時期でして、そろそろ終わらせたいのですが・・・」
などと調査官から切り出してきて、ある一部の修正事項に応じてくれれば、他の件については今回は目をつむって調査は終わらせるなどと言ってくるようなことが、ままあります。
これが調査官にとって時間にゆとりもあり、調査実績が欲しくモチベーションの高い上期に行われた調査であれば、そうはいきません。
税務調査は、その実施時期によって異なる税務署の内部事情が影響し、結果が異なってくることが有り得ます。
しかも税務署は通常の任意調査においては日程調整にある程度柔軟に応じてくれます。
税務署から調査の電話が入り調査の日程調整が始まった時点から、私たちと調査官の間で駆け引きは始まっているのです。

広く、薄くをアマゾンから学ぶ

アマゾンジャパンが国内の食品や日用品メーカーに対し、同社の通販サイトで販売した金額の1~5%を「協力金」として支払うよう求めているとの報道がなされました(日本経済新聞:2018年2月28日付朝刊1面)。
ヤマト運輸からの値上げ要請受け入れに続き、今度はアマゾンから仕入先への玉突き事故の様相ですが、値上げ交渉も見越したうえでアマゾンが用意周到に準備していたのは間違いありません。
何かと話題のアマゾンの次の手ですから話題にもなりますが、増えたコストをどこで回収するのかという判断は、あらゆる企業でなされるべき当然の事でもあります。
ただ、物流費のように本来一般消費者に直接転嫁してもおかしくないであろうコストであるため、仕入先に広く転嫁するというのは本来おかしなことかもしれません。
とはいえ、低コストで利便性を高めてお客を囲い込むのはアマゾンの戦略でもありますから、アマゾンと取引したい企業にとっては受け入れざるを得ないことでしょう。
そもそも、センターフィーや協力会費など名目はそれぞれですが、業界特有の慣習として自社で負担しているコストを取引先から広く薄く徴収するというのは特段珍しい事ではありません。
なお、アマゾンも、囲い込んだ一般消費者に対して最終的にはアマゾンプライム会費の値上げという形でさらにコストの回収を図ってくるはずです。
同じようにお客様から広く薄く徴収する例として、銀行が口座維持手数料を導入するという議論も出始めています。
大手スーパーなどでレジ袋が有料になったのも同じ理屈でしょう。ecoという考え方もありますが、経営側からすれば価格転嫁の良い名目になります。高級レストランなどのサービス料だってそうです。
この点、中小企業においては、増加したコストをお客様や取引先から広く薄く回収するという選択肢を放棄している企業が多いなと感じております。
「増加したコストはお客様からいただくべきものではあるが、実際にはお客様に請求ができないから我慢するしかない!」
こうお考えなのでしょうか。
お客様に対して値上げをすることができないのであれば、コストをコントロールするしかありません。
コストといっても、大まかには原価と販売管理費に分かれます。原価は取引先に条件の見直し依頼やアマゾンの協力金のように対応するしかありません。自社でコントロールすべき販売管理費を取引先に転嫁するのは本来あってはならない事ではありますが、例えば広告宣伝費のような販促費の一部負担を求めるのは”なし”ではありません。
また、最近はキャッシュレス社会が叫ばれていますが、キャッシュレス社会が進むほど、一般消費者から直接からお金をいただいている企業にとっては死活問題です。決済手数料の増加分をどこで回収していくのかも考えなければなりません。
アマゾンの協力金の事例は、コスト負担を相殺するための重要な一手です。そして、中小企業こそ、広く薄くというやり方をしたたかに行っていくべきだと考えます。
仮に、取引先1社から年間1万円(月833円!)回収としても、100社あれば100万円です。自社が苦しくなったときにやろうとしても取引先に足元を見透かされます。取引先に要請しやすいタイミングも重要です。
「取られるばかりで取りに行かない」。このような判断は度が過ぎると罪でもあります。最終的に苦しむのはお客様であり、従業員なのですから。