どんどん複雑になる

皆さまも、ご準備はお済みではないはず。
まだ80%以上の事業者が未対応とのアンケート結果も出ております。対応している事業者というのも補助金などを使って早々にレジだけ買い替えただけでしょうから、実際、90%以上は未対応のはず。
おくれましたが、一年後の消費税増税の件です。
国から次々と対応策がアナウンスされ始めました。
税金のことから中小企業のバックオフィス(いわゆる総務や経理)まで理解している私どもとしては、「税率だけではなく、そこもかー」と頭を悩ませます。
皆さまは売上げへの影響が気になるところでしょうが、オペレーションの複雑化にも気をつけるべきでしょう。バックオフィスの混乱は、経営者が顔をしかめる原因の一つです。
大前提として、中小企業ではバックオフィスにはリソースが割かれていない…。
ここから考えはじめる必要があります。
営業面では、中小企業でも迷わず投資を行ないます。迷っている暇などありません。しかし、バックオフィスは後回し。
まずコスト負担で嫌われ、次にスタッフからの抵抗に遭い、「残業代が発生しないからいまのままでもよいか…」と現状維持をくりかえす。
効率化できた会社というのも、担当者がいきなり辞めたなど、ネガティブな事情から「もう仕方がない!」と、結果として進んでしまうケースがほとんどです。
終わってみたら「何でこんなに良くなることをいままでやらなかったんだ?」と疑問に思われる経営者もいらっしゃいますが、”そんなところにリソースは割くべきではない”という基本的スタンスが強く影響しています。
そしていつの間にか、皆さまの会社の中に手が付けられないカオスができあがります。もちろん、”コスト負担を嫌う”、”優秀なスタッフはバックオフィスに配置すべきではない”という姿勢も理解できますが、そうであるならばどうすべきか、どうあるべきかの検討が必要です。
バックオフィスの仕組みというのは、結局はその会社の性格を映します。
営業は仕組化しているのにバックオフィスは仕組化されていない。またはバックオフィスは仕組化されているのに営業は仕組化されていないということはほとんどありません。
私どもが最初に目にするのはバックオフィスですから、そこを見ればお客さまの全体の仕組化の程度の予想はつきます。
話をもとに戻すと、消費税増税の対応をきっかけにするというのもおかしな話ですが、バックオフィスの効率化は近年とくに重要です。さまざまなツールがありますが、利用の有無については同じ中小企業でも天地の差があるのです。
優秀なバックオフィスのスタッフを雇えるなど夢のような話ですから、仕組みとシステムと最小限のスタッフで回すという現実的な選択肢をいつ採用するかの問題だけです。
増税に絡んで現時点で話が出ている点をまとめると、
【軽減税率の導入】
適用する税率の判断は事業者にも求められます。対応するレジや会計ソフト、販売管理ソフトの更新も必要となり、労力とともにコストが発生します。増税前後で対応しようとするとさあ大変。
【中小事業者の小売店でのキャッシュレス決済による増税分のポイント還元】
小売りにかかわらず、どこまでキャッシュレス決済に対応するかという問題とともに、関連するハードやソフトにどこまでコストを掛けるか。そして、会計・販売管理ソフトに連携させるかまでの判断が必要になります。決済手数料で粗利が減るという問題もあります。
【デジタルマネー給与支払いの解禁】
直接的には増税と無関係ですが、増税の負担軽減をキャッシュレス決済で緩和しようという思惑がある以上、キャッシュレスとして使われやすいデジタルマネーでの給与支払い解禁も間接的な影響があります。
デジタルマネーでの給与支払いを希望するのは基本的には若い世代ですから、新卒を一斉に採用していく大企業などは当然対応してくることでしょう。一昔前までは大企業と中小企業ではお金を中心とした待遇面の違いが重要でしたが、今後はこのような手間の掛かる対応が可能なのかというインフラ面も生じます。当然ながら給与ソフトも影響します。
以上です。
本来、バックオフィスにはフロントオフィス(いわゆる営業など)を支援するという役割もありますが、それができている中小企業はごく少数です。
そういう意味でも、バックオフィスを効率化して、いち早くフロントオフィスの支援に当たっていただくというのが、全体最適です。
やっぱりフロントオフィスの増税対応が重要なのですから。

人はみな、いつか死に、それは明日かもしれない

私は生命保険を使った節税を、お客様に勧めることは基本的にありません。
保険で節税はできないと考えているからです。
一方で、中小企業経営者にとって生命保険を使った『万一への備え』はとても重要なものだとも考えています。
しかし、自らに万一のことがあった際に必要な金額をきちんと算定したうえで備えている中小企業経営者は、残念ながらそう多くありません。
中小企業経営者の『万一の備え』に対する考え方、ぜひ知っておいてください。
まず、あなたが死んでしまった場合に、会社はどうなるのかを考えます。
中小企業の場合、経営者が亡くなれば『その会社は終わり』というケースが少なくありません。
1つ目の試算として、今、あなたが亡くなることで会社を清算した場合に、どれだけのお金が要るかを計算します。もちろん、あなたの退職金を残された遺族に会社から支払うことも計算に入れます。
簡単に言えば、会社の資産と負債を簡易時価評価し、全ての資産負債を精算した場合に不足するキャッシュを求めるのです。
2つ目の試算は、経営者であるあなたが亡くなった場合に、後継者によって会社を存続させる場合にどれだけのお金が要るかです。今ある借入金の返済も視野に入れるべきでしょう。
会社はあなたがいなくなっても、営業を続けます。
中小企業の場合は特に経営者の存在は営業面でも大きく、直接業績に影響が出ることが少なくありませんが、もちろん影響がない企業・業種もあります。
具体的には、その影響を加味したうえで、あなたが不在となった会社が安定した営業を再開できるまでの必要運転資金を試算します。
後継者が決まっていない場合や後継者が決まっていたとしても、現時点では実力が伴っていない場合、既にいつ引き継いでも大丈夫な場合、それぞれの企業の状況によって、必要である運転資金の見積もり金額は異なってきます。
そして3つ目は、残されたあなたの家族の生活に必要なお金の試算です。
あなたの会社からもらう退職金、それに遺族年金も加味したうえで、生活費はもちろん、お子様の年齢を考慮したうえで、教育費にどれだけかかるのかも試算します。
当然、お子様が小さいほど、多くのお金を確保する必要があります。
この時、忘れてはならないのが、保険はあくまでも保険だということです。
起こらない可能性が高いけれども、起こったら困らないように備えるものです。
過度な保障は必要ありません。
お子様が既に成人して、社会人として立派に巣立っていれば、奥さまが残りの人生を不自由なく暮らせるにはいくら要るのか。それだけでいいのです。
もしかしたら今までの貯金と退職金、それに遺族年金が加われば十分かもしれません。
試算の結果、会社も家庭もこれらを内部留保によるキャッシュで既に備えることができていれば、当然、保険は必要ありません。
残念ながら、節税のために保険を勧める税理士はたくさんいるようですが、保険本来の目的に沿った、必要な保障の試算と、その確保を提案する税理士はあまり多くないようです。
『もし明日、あなたに万一のことがあった場合、会社と家庭にどれだけのお金が必要なのか』
ぜひ、試算してみてください。

不正または搾取が絡む取引の危険性

不動産投資関連において、『かぼちゃの馬車』のサブリース家賃の不払い問題から端を発し、スルガ銀行の不正融資、さらにはアパート開発・管理会社であるTATERUでも融資資料の改ざんが発覚しました。
これらの一連の問題は、規模が大きく組織的であったために大きく取り上げられましたが、不正資料の作成、不正融資などは中小企業の取引でも少なくはありません。
資金繰りに困る企業が行う粉飾などは、会計の考え方次第でいくらでも調整可能ですし、金融機関もそれを分かった上で融資を行っています。結局、お互いが暗黙の了解で取引している場合は公になる可能性が低いと言えます。
しかし、取引の一方のみが不正を行っている場合は話が別です。
不正を行っている側は意図的な行為であり、もう一方は不正を行っていないものの、自分が受け取れるであろう利益を期待して、仮に不審な点があっても「大丈夫だよな…」と目をつぶってしまいます。
そして、不正を自ら行わなかった側が後になってだまされたと訴えるのがこれらの問題点です。不正には加担しなくとも、当初から疑念があった点については、ほとんどの方や企業が認めることでしょう。
では、このように最初から意図的に不正行為を行っている会社、または資金繰りに困った末に詐欺的な行為に手を染める会社を見破ることはできないのでしょうか。
あるいは、不正や詐欺が行われていなくても、「この会社の経営は大丈夫か?」という点について判断することはできないのでしょうか。
基本的にこの答えは簡単で、その会社と実際に取引をしようと試みれば判明します。そして、取引を試みる際の判断基準は以下のようなものがあります。
【取引相手が極端に売上やお金を欲しがっていないか?】
もちろん、どの企業も売上やお金は欲しいものです。しかし、「そこまでするか?」という言動が透けて見えると危険です。カボチャの馬車やTATERUの融資資料の改ざんなどは典型です。特にハイリターンの取引を簡単に実行できるような提案の場合はアウト。その取引は誰にとってメリットがあるのか、誰が一番利益を得るのかについて十分に注意をする必要があります。
【商品またはサービス品質、スタッフの接客レベルに問題はないか?】
これは購入または契約直前まで進み、具体的に商品やサービスを確認して初めて分かるものですが、「この品質で取引して大丈夫か?」と疑念が生じる場合には極めて危険性が高いです。末期状態の企業の品質レベルはとにかく低い。かぼちゃの馬車が問題となった後に、実際の物件の構造が取り上げられていましたが、現物を見て契約した方がどの程度いたのかについて疑問があります。
【取引過程で、本来であれば出てこないであろう幹部クラスが出てきていないか?】
これがある意味一番分かりやすいかもしれませんが、挨拶程度ではなく、幹部クラスが契約の後押しや状況の説明などを始めると、危険度が高いかもしれません。特に取引後の支払について幹部クラスが説明を行うような場合は、資金繰りが赤信号の可能性が高まります。
以上、簡単に説明するとこのようなものが挙げられますが、帝国データバンクや東京商工リサーチで取引相手の財務データを取得するという手もあります。しかし、机上のデータだけでは判断しきれませんし、データが古い場合は現時点での参考にはなりません。
例えば、多額の資金運用を行うファンドマネージャーは、投資先の会社を訪問して経営状況を確認しますが、一般人を装って現場では実際どうなのかを調査することもあるようです。上記のような判断基準を見極めるためでもあるでしょう。
私も、お付き合いがあるお客様の商売を知る一番の方法は、自らのお金でお客様の商品を購入したり、サービスを受けたりすることだと考えておりますので、実際に実行しています。
それにより気付いたことをお客様にフィードバックさせていただくこともありますし、問題点があれば一緒に改善案を検討いたします。お客様の商売が、取引相手から不信感を抱かれているようであれば目も当てられません。
結局、リスクの高い取引の典型は、取引相手に犠牲を強いて、自分の利益を確保しようという意図が透けて見える搾取の構造です。
皆さまの周りでも、自分だけ安全な場所で利益を得て、相手だけが苦しんでいるケースを目にしたことがあるのではないでしょうか。もし、自社のお客様が苦しんでいるようであれば自ら危険性を高めている可能性があります。
このような取引は不正や搾取の温床となり、必ず一方または双方が破たんします。そして、不正や搾取の温床に第三者(例えばスルガ銀行など)まで絡んでくると、さらに被害が大きくなります。
かぼちゃの馬車やTATERUのように不動産投資という高額な取引だからリスクが高いと言ってしまうことはできますが、一般的な取引や金銭の貸し借りでも問題点は同じです。
繰り返しますが、不正や詐欺、不信感を与える取引、資金回収について危険性が高い取引の特徴は、お金を支払う側の利益が高く見えるという点にあります。そして、お金を受け取る側のリスクが極めて低いと想定できる点です。
ニュース等で事件を目にすると、「こんな取引をする人がいるんだな…」と思われる方が多いと思いますが、自らが当事者となっている場合は、その危険性に気付きにくいものです。
自社が被害者になる危険性は避けなければなりませんが、知らないうちに自社が加害者になっている可能性こそ絶対に排除しなければなりません。
社員が勝手にやったなどという言い訳をしたところで、問題が発覚した瞬間、中小企業程度の財務力では一瞬に消し飛んでしまうのですから…。