働き方改革と税金

いま進められている『働き方改革』に関する流れは…

「一日・一ヶ月・一年単位では働きすぎるな。しかし、職場や仕事を変えながらでも長く働き続けろ!」と、言われているも同じということは皆さまもご存じのとおり。

つまり、「もっと生産性を上げて労働時間を削減しようね」という単純なことではなく、年金問題や少子化問題が大きく関係し、国を挙げた延命措置が行われているという感じです。

この問題と無縁なのは一部の富裕層のみ。中小企業の事業承継問題も経営者が働き続ける前提であれば延命が可能となります。

そして、自民党の税制調査会長が退職金や年金に対する課税について発言を始めました…。

近年議論が行われてきた働き方改革に伴う所得課税の見直しですが、消費税増税もひと段落し次の段階に進み始めたということです。

まず、退職金の受け取り方は三パターンあります。
 (企業の退職金制度に応じて変わります)

 ・全額を一時金
 ・全額を年金
 ・一時金と年金をミックス

退職一時金については一つの職場で長く働けば働くほど税金が少なくなるという構造にあり、年金として受け取ることもできる確定拠出年金等を一時金で受け取った場合も同様です。

ここでおさらいですが、退職一時金の課税所得の算式は以下のとおり。
 (以下の算式に税率を掛けて税金が決まります)

(退職金 - 退職所得控除) × 1/2

【退職所得控除】 
*勤続年数が20年以下 : 40万円 × 勤続年数
*勤続年数が20年超 : 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)

これにより20年超の勤続は税金上有利になることが分かります。また、年金で受け取ると社会保険料にも影響するため、年金受け取りにした場合の運用益を無視すれば一時金で受け取るのが良いという結論です。

また、退職金を一時金で受け取る場合よりも年金で受け取る場合の方が退職後の勤労意欲は高くなると思われます。

ここでまとめると、労働市場の流動化をさらに推進し、日本国民をギリギリまで働かせたいのであれば、退職一時金における勤続20年超の優遇措置は廃止し、年金として受け取った場合との税金・社会保険料とのバランスを取ることになるかと考えます。逆に、年金として受け取った場合を優遇とするかもしれません。

さらに、いきなりの廃止はないとは思われますが、退職金として受け取ることの最大のメリットである2分の1課税がどうなるか…。

勤続5年以下の役員退職金については既に2分の1課税が廃止されています。これは法人役員や国会議員・公務員などの特定者に限定されたものですが、働き方改革と所得課税を合わせて長期的に考えれば、退職金を年金での受け取りに誘導すべく2分の1課税が廃止されてもおかしくはありません。

国は現時点ですら70歳まで働かせることを前提に年金改革を進めようとしていますし、働いて高収入を得ても年金は減額しないと言い始めています。

高齢者になっても労働収入を得てもらい、公的年金を満額受給させ、退職金も年金として受け取るよう誘導し、年金2,000万円問題もクリアという思惑を強く感じます。

しかし、中小企業は退職金制度がないケースが圧倒的多数です。そして、国が企業型確定拠出年金やiDecoの拡充を必死に行っていることを踏まえると、中小企業も何かしらの退職金制度を検討せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があります。

いずれにしても中小企業に退職一時金は合いません。制度として設けるには経営リスクが極めて高く、随時検討となれば恣意的な運用とならざるを得ないからです。昔から中小企業退職金共済制度(中退共)が存在することを考えると、中小企業こそ企業型確定拠出年金と親和性が高いと考えられます。

もちろん中退共で退職金制度を整備すること自体は問題ないのですが、中退共について大きく取り上げられることは無く、受け取る社員に認知してもらうのは難しい可能性があります。

以上、国が抜本的な年金改革に手を付けられないことが要因とは言え、中小企業も退職金=企業年金について何かしらの負担を求められていくのは間違いないと考えます。

その負担に耐えられないということになれば、中小企業で働く者同士でもその格差は拡大していきます。

『働き方改革』自体はイメージだけで先行している部分が多いのですが、これに税制が連携してくるとリアルな問題が持ち上がります。

10月から最低賃金が大幅に上がりましたが、”来年も”大幅に上がるはずです。真綿で首を締めるとは正にこのような状態のことで、『働き方改革』などという漠然としたもので知らないうちに追い込まれないよう十分に対策を検討してください。

ここからが『働き方改革』の本当のスタートかもしれません。