中小企業が目指すべきDX

DXと耳にした時点で思考停止に陥り、「うちには関係ないや…」とお考えの経営者は数多いと思われます。

昨年末に発表された税制改正大綱に以下のような文言がありました。

ウィズコロナ・ポストコロナの新たな日常に対応した事業再構築を早急に進めていくためには、デジタル技術を活用した企業変革(DX)が重要であるが、これを企業ごとのレガシーシステムの温存・拡大につながらない形で進める必要がある。

コロナ禍において、日本自身がレガシーを代表するような構造にあることが露呈したのは皮肉ですが、重要なポイントはDXは手段であって目的ではないということです。

企業における目的は事業の再構築であって、DXを重要な手段として進めてくれという趣旨です。そして先月ご案内したとおり、国は事業再構築補助金という兵站の用意も進めています。

「うちには関係ないや…」とお考えの方は、DXという手段(武器です)を手に取ることすらしないのですから、負けても言い訳にできません。

なお、ご存じのように大企業であってもDXを上手く進められるとは限りません。むしろレガシーシステムと言われる厄介なものを抱え、八方ふさがりであるケースも非常に多いとのこと。

そういう意味では、大企業や中堅企業より、中小企業の方がDXを進めやすいはず。レガシーな人材はいてもレガシーなシステムなんて無いに等しく、「えーーーーい!」という割り切りの下に、せめて一年、のたうち回ることを覚悟すれば結構行けてしまいます。

では、DXは何から手を付けるのがよいのでしょうか?

もちろん社内の業務を俯瞰することから始まりますが、DXが何たるかも分かっていない段階から核心となる業務のシステムに手を付けてしまっては失敗が目に見えています。

入口があって出口がある。

出口であるバックオフィスのシステムはフロントシステムに比べてシンプルな構造であり、やることはどの企業も共通です。従って、中小企業においてはバックオフィスのDXを進めたうえで、フロントシステムにつなげて行くというのが王道ではないでしょうか。

もともとバックオフィスに割ける人員は少ないがゆえにシステムもそれに合わせた構造になっています。とくに会計、給与、販売管理が充実しており、クラウドで連携するのは当然のレベルです。

もちろんフロントシステムや経費精算もつなげられますし、とうとう請求書や領収書などの電子保存も簡単な方法で認められました(システムさえ整えれば、来年からはレシートの写真をスマホで撮ったらポイって捨てられます)。税金もインターネットバンキングにすらアクセスせずに電子納税できてしまいます。

最後の決め手が電子インボイスの推進。2023年10月から始まるインボイス制度(すべての企業に義務化される消費税の制度)に振り回されないようにするには、電子インボイスを発行できるようにするとともに、電子インボイスを受け入れられるようにしなければなりません(取引先と請求書をデジタルでやり取りし、そのデータをそのまま会計ソフトなどに取り込んで自動で登録するなどのイメージ)。

つまりパソコン一つでバックオフィスがクラウドに連携してペーパーレスで完結する環境が整いつつあり、大企業より中小企業の方が迅速に移行できるはずです。しかし、それはDXという手段を手に取るかどうかに掛かっているとも言えます。

事業再構築補助金の申請要件を充たさなくても、IT導入補助金など他にも国が兵站を用意しているのですが、DXに意識的でなければ知ることもない補助金でしょう。

コロナがあろうがなかろうが、人口減少時代においては少ない人数と少ない時間でより多くの粗利益を稼いでいかなければなりません。そういう意味でもDXは必須です。

もし皆さまの会社においてDXが進まないのであれば、誰が止めているのか?
経営者か、スタッフか、付き合いのある業者か、あるいは事業構造そのものなのか…そこもポイントです。

また、「DXだー!」と意気込んでも、各部署・各担当がシステムを勝手に入れてしまう、連携が取れないシステムをばらばらに入れてしまう等も十分起こり得ます。

DXを進めても負荷が移転しているだけで、会社全体として負荷が下がっていないということでは意味がありません。トランスフォーメーションを起こすには「つながる」ことが必要です。

なお、社内の人間が社内のありとあらゆる業務を全部把握しているのであれば、その方を中心にDXを進めれば良いと思いますが、そうでないのであれば外部からも支援していただくべきです。つながりは俯瞰できないと分かりません。

繰り返しますがDXは目的ではありません。あくまで手段であり、デジタルである必要がないものは超アナログでよいのです。

デジタルであろうがアナログであろうが、社内の業務のつながりを強化し効率化する。社内のリソースを最大限生かすためにDXを取り入れていく。そして事業の継続性のために粗利益を稼ぎまくる。

中小企業が目指すDXは、そもそも難しく考える必要はないのです。

DXをやらないと決めたのであれば、アナログで稼ぎまくる手段を考えてください。何も問題はありません。

さあ、皆さまはどちらでしょうか?

高いけど、いい

中小企業の経営戦略イコール「価格設定」。
そう言い切っていいほど重要な価格戦略には、何度も言ってきたことですが大きく分けて2つの意味があります。

当然ながら収益の確保。もう1つは顧客のスクリーニングです。

当社では昨年、新型コロナの影響で社内の懇親会等を一切行うことができなかったため、年内最後の営業日に事務所でランチをいただくことにしました。

そこで当社の女性スタッフが選んだのは麻布十番の中華屋さんからのラーメンの出前。
メニューの一部をご紹介します。

【メニューの一部】 (全て税抜価格)

タンタンメン 
1,900円
五目海鮮入り醤油味ソバ
2,900円
かに玉入り醤油味ソバ
4,000円
五目チャーハン
2,800円
焼餃子(5個) 
2,100円
天津丼
4,000円

今年は1回もみんなで食事に行っていないから、少しくらい高くてもいいよと言ったものの、この店でいいかと聞かれてホームページを見て驚きました。

一番安い麺類と餃子で税抜4,000円(笑)。ちなみにラーメンも餃子もごく普通サイズ、店の立地を考慮しても、なかなか勇気ある価格設定です。

価格に驚きながら、店の評判を調べてみるとさらに驚きます。

見る限り、個人のブログやグルメサイトなど口コミのほとんど全てが「高いけど、とても美味しい」「値段に見合う美味しさ」「至極」というようなものばかりで、「高過ぎる」といった批判的な声は見当たらないのです。

この店のラーメンが万人受けする美味しさということもあり得ますが、好みがありますので、一定数の批判的な意見は必ずあるものです。

では、なぜこの店にはそうした声が見られないのでしょうか。

おそらく、このラーメンとは思えない高価格が理由です。

ラーメンにこれだけの金額を出せるのは、価格が高いことにいちいちネットで文句など言わない層のはず。美味しくない、価格に見合わないと思えば、次はもう行かないだけ。
逆に美味しいと思えば、高くても繰り返し利用する層のはずです。

この価格設定でなければ、こうした層の顧客と出会えることはありません。
中途半端ではだめなのです。

この店の価格設定が、顧客のスクリーニングを意図してなされたものかは分かりませんが、結果として一部の優良顧客層だけを惹きつけることに成功していることは間違いないでしょう。

一方で、高価格であるとういことは、常に顧客から厳しい目で見られることになります。

この店はラーメン、チャーハン、餃子にこれだけの価格を付けることに相当なプレッシャーを感じながら、日々、質の高い仕事を続けてきたのではないでしょうか。

新型コロナで前提条件が大きく変わってしまった今、規模で勝負ができない私たち中小企業は、経営を一から考え直さなければいけません。

「高いけど、いい」

お客様に、そう言っていただける経営を、この店は実践しているのです。