「専門家」の罪

三井住友銀行は今月15日、相続、健康相談などをワンストップで提供する高齢者支援サービスを立ち上げると発表しました。サービスは提携先の「専門家」を通じてサブスクの仕組みで提供するそうです。

日々、セカンドオピニオンなどでご相談をお受けして感じるのは、世の中には多くの「専門家」がいる一方で、その専門家が必ずしも「適切な相談相手」として機能していないという事実です。

私はここ半年で、信託銀行による遺言信託がらみの相続の相談を2件受けました。

ご存じのように遺言信託とは、信託銀行などが遺言書作成の相談から遺言書の保管、遺言書の執行まで一貫してお手伝いしてくれるサービスです。

今回、いずれのケースも残された遺言に不公平感を持つご相続人がいらっしゃり、争いに発展する一歩手前でのご相談でした。

愛するご家族に争いが生じないことを願い、良かれと思って残した遺言状。故人の遺志がつづられる付言には「兄弟仲良く」と書かれています。

しかし、過去の経緯を含め、ご家族のご事情をお聞きすると残念なことに「争いが起きてしまうことが避けられない」内容の遺言状になってしまっていました。

悔やまれるのは、初めからこのご家族をよく理解した「適切な相談相手」が力になっていたなら、容易に争いを避けられる形を作れたであろうということです。

税理士は相続税の「専門家」です。お金の「専門家」である銀行員には優秀な人がたくさんいますので税理士よりも相続税に詳しい人もいることでしょう。

しかし、いずれの「専門家」も皆さんにとって「適切な相談相手」であるかは別のお話しだということを理解していなければなりません。

相続において最も難しく、そして大切なのは皆さんの「感情」。
誤解を恐れずに言い切ってしまえば、税金なんて二の次です。

どんなに仲の良いご家族でも、ご相続に際しては必ず一人ひとり別々の感情や想いを抱いています。それはご家族がたどってきた歴史によって積み重ねられた、とてもとても複雑なもの。専門家と呼ばれる人間が専門知識だけで簡単に量れるものではありません。

複雑な事情を抱えがちな中小企業経営者のご相続をお手伝いするにあっては特に、そうした歴史をきちんと把握したうえで皆さまの感情に寄り添うことができなければ、役割を全うすることはできません。法律うんぬんよりもまず「その会社、そのご家族の専門家」でなければならないのです。

ですから私たちは、セカンドオピニオンとしてスポットでのご相談をお受けすることはあっても、直接的なご相続のお手伝いは顧問先様以外お断りしています。

中小企業経営者には「適切な相談相手」となる「自社の専門家」の存在が必要です。
簡単には見つからないかもしれませんが、諦めずに探し求めてほしいのです。

ただし、ただの「専門家」を「自社の専門家」に育てあげるには皆さんの力も必要です。
普段から密にコミュニケーションを取り、自社のことをよく知ってもらう努力を忘れずに。