改めて、今後の税理士の役割とは

気が付けば、私が税理士業務に携わってから20年以上たちました。

この間、法律や使用するソフトウェアなどにさまざまな変化がありましたが、基本的な仕事の仕方は驚くほど変わっていません。

思い起こせば、私が新人のとき、はじめて担当したお客様の帳簿にだらしなさを感じ、社長夫婦にお説教をしたことがあります(自分の親と同世代でした)。

今では「生意気を言って、大変申し訳ありませんでした」という気持ちでいっぱいですが、その後、そのお客様とはより深くお話しができるようになり、頼ってもいただけました。

そして、いまでも、お客様との最初の仕事は「正確な帳簿付け」の指導から始まります。

特に現在は、各システムを連携させながら帳簿を改善していく必要があるので、落ち着くまで数年かかる場合も少なくありません。便利な反面、うまく連携させないと泥沼です。

従って、どんなに便利なツールが出てきても、私ども業界人が、中小企業のお客様と継続的に良い関係、良いお仕事をさせていただくには、以下しかないと考えております。

  • まずは正確な帳簿を付けていただく
  • 正確な帳簿から分析を行い、改善点を検討する
  • 帳簿から確認できない情報は、お客様との会話、お客様の現場を回って把握する
  • お客様に改善点を伝え、行動していただく
  • その結果を、税金として計算する
  • これらを繰り返す

ただし、作業時間自体はどんどん少なくなってきました。

正確な帳簿付けは既に会計ソフトの機能で実現し始めていますし、分析および改善点の抽出も実現可能です。電子データから帳簿を作成するようになれば、税理士が確認するよりも正確、かつ迅速です。

また、税理士しかできないと思われがちな申告書の作成(=税金の計算)は、ほとんどの中小企業のレベルでは自動作成が可能な時代が近づいています。今でも十分できると思いますが、まだそのようなシステムはリリースされていません。

自動車でいえば、「自動運転はある程度可能だけど、まだ法整備がされていないし、責任の所在があいまいなので、提供しておりません」というレベルと同じかと思われます。

仮に、申告書の作成が自動化されれば、税理士不要論が台頭してもおかしくはありません。自動作成された申告書が間違った場合には、自動車保険のように損害保険で担保できるはずです。

そのため、最終的には税理士が担ってきた大半の仕事は会計ソフトベンダーが提供できるという世界が待っています。

現在、会計ソフトベンダーは「形式上」税理士を立てて付き合っていますが、この力関係が遠からず逆転するでしょう。

あとは時間軸の問題です。

電子保存やインボイス制度、各種申請の自動化および電子化など、法律とITの親和性がさらに高まってくれば、ゲーム・チェンジです。

税理士よりも会計ソフトベンダーの力が強まってくれば、スマートフォンの機種変更のように税理士を変える時代が到来してもおかしくはありません。

税理士は、会計ソフトベンダーから紹介される業者という位置付けになるでしょう。
(実は既に始まっています)

それでも…

オーナー経営者が考えることは、会計ソフトベンダーの担当者には理解できません。AIがオーナー経営者を理解する時代がくるとも思えません。

つまり、税理士しかできない役割は、必ず残ります。

税理士は、システムもAIもアクセスできない、中小企業の核であるオーナー経営者にダイレクトにアクセスできるのが最大の強みです。

これは私が税理士であるからではなく、これまでの経験上、税理士が時代について行ける限り、相談相手として適任であるのは間違いないと確信しているからです。

ただし、皆さまは税理士に対して、貪欲に相談をぶん投げる必要があります。
淡泊な関係では何も生まれません。

皆さまも、ぜひ税理士を良き相談相手としてお使いください。

皆さまの経営が変わるはずです。

変わらないもの

皆さまご認識のとおり、銀行融資は超がつく低金利時代。
多くの銀行が業績不振に苦しむなか、業績をあげているのが広島市信用組合です。

1月19日の日本経済新聞によれば、2021年3月期の税引き後利益は41億円と6期連続で最高益を更新し、その利益水準が他県の第二地銀にも匹敵するそうです。

記事から読み取れる、成長のキーワードは3つ。

「対面」と「スピード」、「やらない仕事を決めること」です。

広島市信用組合では1人あたりが担当する法人150社、個人150人の計300顧客ほどに、預金の集金などでアポイントを入れて、最低でもそれぞれ毎月1回は会うようにしているそうです。

顔を合わせて信頼を高め、雑談の中から事業環境の変化を探り、新規融資につながる話題にアンテナを張ります。

金利は他の金融機関より0.7~0.8%ほど高いものの、融資の稟議を本部にあげたあと、3日以内に可否を判断するスピード決済を強みとしています。

投資信託や生命保険を売ることをやめ、複雑な商品説明に時間を費やさないことで、多くの訪問を可能にし、金融機関の本業である預金・貸出に特化しているのです。

記事では顧客である経営者の声も紹介しています。

「広島市信用組合の担当者は度重なる面談で「社長を見る目」を鍛えている」

コロナ過で対面での面談が難しいケースが増えていることは事実ですが、私たちは今回の経験を経て、バーチャルやリモートで十分な場面がある一方で、それらが決してリアルに取って代わるものではないことを知りました。

「仕入は他社と取り合いになるため、まとまった資金がすぐに欲しいときが多い。低い金利よりもスピードを求めている」

仕事において速さはそれだけで大きな武器になり得ます。
進化し続けるツールの登場により、たくさんの仕事を格段に早くできるようになったにも関わらず付加価値を上げられずに単価が下がり、それを補おうと量を求めることで、皮肉にも仕事の速度が奪われていく。そんな景色をあちこちで目にします。

「他の金融機関は用事がないと来ないが、広島市信用組合は用事をわざと作って会いに来る」

低金利時代で利ザヤを稼ぐことが難しいなか、金融商品を売って手に入れる手数料収入は、喉から手が出るほど欲しかったはずです。
しかし、当たり前のことですが、時間には限りがあります。「やらない仕事」を決めることで一時的に売上が下がったとしても、本来欲しい売上獲得に力を注ぐ時間が必ず確保できます。

今、世の中はこれまでにないスピードで変化を続けています。
もちろん、私たち中小企業はこうした変化に対応し続けていかなければなりません。

しかし、経営において大事なことの根底は、そう変わるものじゃない。

広島市信用組合の経営は、そんなことを教えてくれているような気がしてなりません。