原点に戻る

金融庁と国税庁は「節税保険」による行き過ぎた節税に歯止めをかけるためにタッグを組み、生命保険会社が設計した商品の内容を審査するほか、現場での募集実態も調べるなどして審査体制を改めるという記事が日経新聞に掲載されていました。

通達改正により、ご存じのように2019年には「全損・半損タイプ」の節税保険の販売が停止され、昨年は解約返戻金が上がる直前に法人から個人へ名義を移す「名義変更プラン」による節税策が封じ込められました。

相変わらずのイタチごっこが続くなか、さらなる抜け穴をついた商品が「まだ節税できる」と話題になっています。

2019年の通達改正後、効果のほどは別として、損金算入を目的とした場合に使える保険商品は大きく分けて2つです。

最高解約返戻率を70%超85%以下に設定した「4割損金タイプ」の定期生命保険と、1人当たり年間保険料30万円までであれば全額損金算入が可能な、最高解約返戻率が70%以下の定期法人保険と第三分野保険(医療保険・がん保険)の短期払い商品です。

これらの商品は2019年の通達改正直後から新ルールに基づく商品として法人営業の現場で提案されてきましたが、改正前と比べて損金算入インパクトが薄れてしまったことで、節税策を模索する中小企業経営者の反応はかなり鈍いものとなりました。

しかし、さらなる通達の抜け穴をついてきたのがソニー生命の変額定期保険や日本生命の長期平準定期保険です。

両社ともに定められた解約返戻金額の計算方法にしたがって、損金算入割合を判定する際の最高解約返戻率を85%以下になるように設計することで4割損金算入を実現しています。

その一方で、ソニー生命は予定利率を超えた運用を実現することで、日本生命は配当金を利用することで実際の返戻率を85%超にし、税効果を含めた実質返戻率が100%を超えてくるような仕組みにしているのです。

ソニー生命の商品は契約時に示される予定利率を用いて計算した解約返戻金額によって損金算入割合を決めてよいという通達にしたがい、日本生命の商品は配当については返戻率の計算に含めなくてよいという通達にしたがっているため、現状では合法であることは間違いありません。

出口戦略が確定しているケースでは、節税策として検討する価値はあるのかもしれません。

しかし、毎度申し上げていることですが、出口戦略が確定しているケースはかなり特殊であり、そうでないケースでは保険商品を使った節税策は単なる税の繰延でしかありません。

ましてや利益を出し続けられなければ、利益の繰延にさえならず、単に保険会社に手数料を取られるだけとなってしまいます。

全額損金算入を目的とした、年間保険料1人当たり30万円までの医療保険への加入もかなり微妙です。福利厚生として従業員の頭数だけ加入すれば、まとまった損金が作れることは事実ですが、こうした福利厚生は経営者が思うよりもはるかに従業員は有難みを感じてくれません。それならば給与をあげて欲しいと言われるのが関の山です。

抜け穴はふさがれるたびに狭くなり、通すことができたとしても効果は限定的になる一方です。今後は金融庁と国税庁が連携するとなれば、なおさらです。

経営において判断に迷い誤る時、その多くは優先すべき事項、原点を見失っていることに起因しています。

保険の目的、役割を本来の「保障」に求めるのであれば、多くの責任とリスクを抱える中小企業経営者にとって、非常に有効なツールとして助けになってくれることは今も昔も変わっていないのです。

オーナー経営者のお金の使い方

中小企業の強みはオーナー経営者です。
同時に弱みでもあります。

弱みとして挙げられるポイントの一つにお金の使い方があります。

オーナー経営者ですから、お金は好きに使えます。
事業関連性があれば、良し悪しは別としてお金を使えます。
使わないのも自由です。

そして、中小企業の事業が迷走する要因に「お金の使い方」と「利益獲得の打ち手」のズレが挙げられます。

オーナー経営者の下では、そこは惜しまずお金を投入すべきというところにお金を使わず、そこは使っても意味はないというところに惜しまずお金を使ってしまうケースが多く見受けられます。

基本的に、利益を獲得するためには必ずお金を使う必要があり、必要であれば借金してでもお金を使うべきです。ただし、お金を使っても利益の獲得が保証されているわけではありません。

この点について、オーナーとしての「主観」が強く影響し、経営者としての「客観」が弱まると迷走が始まります。

私の長い経験の中でも、お金の使い方が上手なオーナー経営者にはあまり出会えません。
それぞれにクセがあります。

  • 赤字が怖く、お金を使えない
  • 必要な設備投資すらも贅沢といってしまう
  • 利益獲得に比例しない過剰な設備投資を行ってしまう
  • 事業自体は素晴らしいのに、冗費の額が凄まじい
  • 自己投資と事業投資を履き違える
  • 社員待遇に甘すぎる、厳しすぎる
  • 一度始めた付き合いを止められない

知り合いの経営者が同じことをやっていれば、「バカだなー」と鼻で笑うことを平気でやってしまいます。中には心当たりがある方もいらっしゃることでしょう。

オーナー経営者のお金の使い方は中小企業の生死にかかわり、「お金の使い方」と「利益獲得の打ち手」には必ずズレが生じます。また、お金を使わないということは、利益獲得の打ち手を放棄していることでもあります。

ですから、そのズレが生じたり、お金が貯まり過ぎた場合に、それを是正できる仕組みがあり、注意を促してくれる相手がいることが重要です。

社員にも必要なお金は徹底して使わせ、ムダなお金は徹底して絞らせる。そのためにはオーナー経営者が手本となるようなお金の使い方をしなければなりません。継続企業では「貯めるが正義」が全てではありません。お金は使いながら増やしていくものです。

ウイズコロナでの事業環境にも慣れてきた2022年春。
経済が止まる期間は短くなり、お金を使う機会、使う額も増えてきます。

これからオーナー経営者の皆様は何にお金を使い、何にお金を使わないのか…。
利益獲得のために使っているのか、それとも冗費なのか…。
ズレが生じた場合に是正できるのか…。

オーナーとして誘惑は多いと思われますが、経営者として客観的な判断を行える環境に身を置いてください。

それが継続企業として成功する近道だと考えます。

 

山田 拓巳

「そういうこと言っているんじゃないんだよな・・・」

顧問税理士が言っていることに納得がいかないので、教えて欲しい。

先日、25年来の友人である経営者から久しぶりに電話をもらいました。

聞けば、工場の新設を計画していたもののコロナ禍による建築資材不足の影響で工期が遅れたことで、今期に見込んでいた経費が立たず、想定よりも多くの利益と納税が出てしまう状況とのことでした。

この局面に対しての顧問税理士のアドバイスが、「税率が上がる800万円を超える利益は出すべきではない」「退職金の備えにもなる生命保険を使って利益を800万円までに抑えるべき」というものだったそうです。

しかし、解約返戻金が最大になる時期に本当に退職するかなんて分からないし、億を超える投資を控えている状況で、長年に渡りキャッシュの流出を固定する生命保険には入りたくないと、この経営者は言います。

税金は痛いですがコストです。優遇税制などを使い削減できるところをきちんと削減すれば、あとは割り切って支払うだけ。過度に節税に囚われては経営の舵取りを誤ります。節税は経営の一部ではありますが、全てではありません。

この税理士の言うことが全て間違いだとは言いませんが、経営者は経営の問題として相談しているにも関わらず、税理士は税金の問題として考えているのですから、かみ合うわけがありません。

しかも残念なことに、この税理士、設備投資減税を受けるために必要な事前申請の案内を漏らしてしまっていました。

5年ほど前から設備投資に関する減税特例は購入前に計画書を提出し、事前に認定を受けておく必要があるものが増えています。申告期限に間に合っても、事前に認定を受けていなければダメなのです。

もちろん、設備投資を事前に知りながら申請の案内をしなかった税理士に責任があることは間違いありませんが、現在どんな税制がトレンドで、今後どういう方向に進んでいくのか、そのことが自社の経営にどういった影響を与えるのかは経営者として知っておかなければなりません。

しかし、小難しく専門的な説明をする情報があふれる一方で、経営者が本当に知りたい、本質をついたものはなかなか見当たりません。

今年も税制改正解説音声と言いながら、税制改正の話しをあまりしない音声『中小企業経営2022』の販売を開始しました。

私たちは音声で税制の細かい話しはしていません。
そうしたものは世の中にたくさんありますし、税制の大枠をとらえることで時代の流れをつかみ、本質を知ったうえで、自社の課題に経営者としてどう向き合っていくのかが重要だと考えているからです。

コロナ過もついに3年目、変化の速度は増しています。
課題に目をつぶり先送りにすれば、山積みになり、後は崩れ落ちるだけです。

興味がある方はぜひお聞きください。