M&Aセンターの不正会計の裏に潜む、私たちに無関係ではない問題

2月14日、M&A仲介最大手の日本M&Aセンターで過去5年間にわたって83件の不正会計が行われていたことが公表されました。大きく報道されましたので見聞きした方も多いはずです

不正会計の内容は、クロージング前の案件について契約当事者の記名(又は署名)押印部分を別の契約書類からコピー・切り貼りするなどして契約書を偽造することで契約成立を偽装、社内での売上報告時期を早めることで、前倒しに売上計上を行っていたものです。

その古典的かつ悪質な手法には驚きましたが、売上の架空計上ではなく、実在する進行中の案件について、売上目標達成のために決算時期に先食いして売上計上したわけです。

粉飾行為は言語道断ですが、今回皆さんに知っていただきたいのは、その裏に潜む、私たちにとっても決して無関係ではない別の問題です。

調査委員会による調査報告書の中から本件に関する関与者についての記載を抜粋します。

発生した不適切報告の多くのケースには、複数の関与者が存在する。
不適切報告に関する複数人関与のケースとしては、部長が不適切報告を案件担当者に指示した案件、部長又は部内関係者が売り手・買い手の各担当者と相談又は協議して明示的または黙示的な了解を与えた案件なども少なくない。これに対し、売り手・買い手のいずれかの担当者の単独行為による不適切報告は、比較的少数である(これは、M&A案件は売り手と買い手の双方の担当者が業務対応しているため、仮に、契約書の成約の事実に関する不適切報告を意図した場合においても、一方担当者だけではそれを実行し難い事情によるものと推察される)。

(下線は筆者による)

日本M&Aセンターに限らず、M&A仲介業者の多くは、売り手・買い手双方に別の担当者を付けて売買交渉の仲介を行います。言い方を変えると、売り手・買い手につく担当者は同じ仲介業者の人間です。

不正会計は、決算までにクロージングが間に合わなく、売上目標が達せられず追い込まれたごく一部の人間が最後の手段として行ったことなのでしょうが、売り手・買い手双方の担当者が同一社内にいるからこそ実行できたことは、間違いありません。

不正会計はごく一部のことでも「決算までになんとかクロージングに持ち込め」という上長からのプレッシャーが、売り手・買い手双方の担当者に対して日頃からあったであろうことは想像に難くありません。こうなると、仲介業者の決算期付近では、ベストな交渉が仲介されているとはとても思えません。

M&A仲介では、売り手・買い手双方から仲介手数料を取る、いわゆる「両手取引」が行われています。表向きはさておき、仲介業者は売り手、買い手、どちらか一方の利益の最大化を目指すのではなく、取引を成立させることを最大の目的とすることは自明の理です。

片方の当事者寄りにならない助言は理屈的には可能かもしれませんが、売り手と買い手、双方に有利になる助言は理論的に不可能です。つまり、自社側の担当者といえども100%皆さんの味方をすることがないことは明白です。

売り手にはさらなる懸念があります。

仲介業者にとって、売り手企業は今回のM&Aが最初で最後のお付き合いになる一方で、買い手企業とは複数回のお付き合いとなる可能性が高いことから買い手寄りの仲介となり、売り手にとっては不利な交渉になっても不思議ではないのです。

このように「両手取引」に問題があることは明らかですが、それでも中小企業のM&Aにおいて仲介業者は必要です。そうなると、仲介業者の都合に振り回されることなく、交渉を不利なものとしないためには、仲介業者との間に入り、100%皆さまの味方をしてくれるアドバイザーを側に付ける以外、方法はありません。

そして、その役割は本来であれば自社をよく知る顧問税理士が最も適任であるはずです。

しかし残念なことに、M&Aサポートの経験がない税理士が多く、仲介業者へ橋渡しだけして紹介手数料をもらって終わり。あとは仲介業者へ丸投げしてしまうケースが多数です。

M&Aを事業承継の出口の1つの選択肢として考えるのが当たり前になった現在、実際に出口をどう選択するかは別としても、最後の最後まで100%皆さまの味方をしてくれる顧問税理士と出会っておくことはとても重要です。

50代以降の経営者様は、ぜひ、そうした目線で税理士を選ぶことも忘れないでください。