なくなる?!贈与税

毎年恒例の税制改正。

コロナ禍にあって今年は税負担が増えるような大きな改正はないだろうと誰もが考える中、気になる情報が入ってきました。

今月中旬に発表予定の令和3年度税制改正大綱にむけて先月13日に行われた、政府税制調査会の会議資料に相続税・贈与税の見直しを検討する部分が含まれていることが分かったのです。

そこでは、皆さまよくご存じの年間110万円の基礎控除を利用する「暦年贈与」を繰り返す「連年贈与」を長年にわたって行うことによる税負担の減少効果が、相続のみで財産を承継する場合との比較で説明されていました。

生前贈与によって税負担を減少させることを問題視していることが明らかで、これは相続税対策の王道である「贈与税の基礎控除を利用した連年贈与」が今後、できなくなる可能性があることを意味しています。

かなり大きな改正となるでしょうから、そう簡単にメスを入れられるとは思えませんが、もし実行されれば、資産家はもちろんのこと事業承継の際に必ず自社株問題が付きまとう中小企業経営者にとっても大きなことです。

それでも今、私たちができること、すべきことに変わりはありません。

遠くない将来、連年贈与ができなくなるかもしれないことを念頭に置きながら、今できる贈与を確実に行っていくことです。

基礎控除を活用した生前贈与は地道な方法ではありますが、税制調査会が問題視するくらいですから年数を長くかけて行うほどに、その効果は実に大きなものとなります。

しかし、その地味さ故か面倒なのか、長年にわたる生前贈与対策を本当に有効活用している例は、実際はそう多くないように感じます。

コロナ禍で経済が落ち込み法人増税が難しくなる間、税制のターゲットは「持っている個人」に向かう可能性が高くなります。

今年も残すところあとわずか。

繰り返しになりますが、生前贈与は年数を長くかけるほどに効果は大きくなります。

今年の贈与はもうお済みですか?

成功体験の呪縛

イタリアンファミリーレストランチェーンの「サイゼリヤ」は今月8日、2019年9~11月期の連結決算を発表しました。

純利益が前年同期比2%増の13億円と好調に見えますが、国内の業績低迷が深刻です。

消費税増税後についても、全てのメニュー(ボトルワインなどを除く)の税込み価格を据え置き、実質2%の値下げを行ったにもかかわらず10月は客数が減少、前年同月比の売上高は9%減少しており、国内の既存店売上高は前年同期を3%下回っています。

営業利益19億円のうち8割を業績好調な上海やシンガポールなどアジアの店舗が稼いでおり、日本国内の営業利益は54%も減少してしまったのです。

サイゼリヤの売りはご存知のように「安い」ことです。

業績好調のアジア地域でも、そのことは変わらず、どの国であっても「安い」「コスパが良い」と思われる価格水準にしているようです。

しかし、気になるのはサイゼリヤの過剰なまでの低価格へのこだわりです。

創業者で代表取締役会長の正垣泰彦氏は創業以来「低価格」に強いこだわりを持ち続け、実際それでサイゼリヤを成長させてきました。

代表取締役社長の堀埜一成社長は昨年4月の決算発表の席では「サイゼリヤがメニューを値上げするときは、私が社長を辞めるときです」と言い放ち、消費税増税の際には税込み価格を維持することで実質値下げを行いました。

経営者はみな、過去の成功体験から得意な経営手法、「自分のやり方」というものを持っています。

しかし、現代のような変化の時代にあっては、こうした過去の「自分のやり方」が、場合によっては足かせになり得ることを、私たちは意識しておかなければなりません。

サイゼリヤは2017年12月から2019年12月まで既存店の既存客数の前年割れが続いていたことに加えて消費税増税による更なる客離れを恐れ、過去の成功体験に倣って「安くすれば、お客様は必ず増える」そう考えて実質値下げに踏み切ったのでしょう。

後出しでしかありませんが、結果を見れば、過去の成功体験による判断が実を結ぶほど単純なものではなかったことが分かります。

2%の値下げによる利益減少を、人口減少局面において客数増加で補うことが現実的でないことは、シミュレーションすれば簡単に分かることです。

既存店客数の前年割れが続いていた一方で、既存店の客単価については微増させ続けてきていただけに、値下げという手段で客数確保に走った経営判断は非常に残念です。

最後に、サイゼリヤが業績好調のシンガポール、中国に加えて業績不振の日本の人口推移を見ておきましょう。

業績好調の国と真逆の人口推移をたどる日本において、経営戦略の基本路線が以前と同じであっていいわけがありません。

変化の時代に「以前はこうだった」は御法度なのです。

これから5年、中小企業に襲い掛かること

厚生年金の加入拡大が具体的に示されました。
皆さまもご存じのとおり、2019年末時点での報道によると以下になります。

【現在の加入条件】
・従業員501人以上の企業で勤務 
・週20時間以上働く
・月収8.8万円(年収約106万円)以上
・雇用期間が1年以上
・学生でない

【今後】
従業員501人以上の企業で勤務の条件が以下に変更。
(1)2022年10月 〜 従業員101人以上
(2)2024年10月 〜 従業員 51人以上

従業員51人以上となった場合、新たに65万人が厚生年金に加入することになるそうです。また、中小企業の経営悪化を懸念して人数条件が残されていますが、本来は従業員数の条件は撤廃すべきという意見も根強く残っています。

そして、以下のケースでの厚生年金の加入者数の試算です。

・従業員21人以上 → 85万人(増差20万人)
・従業員条件撤廃 → 125万人(増差40万人)

総務省統計局の労働力調査によると、平成30年のパート・アルバイトの労働者数は約1,500万人です。そのうち30%程度は学生(15~24歳の若年層)と思われますので、学生以外(厚生年金加入対象の母数)は約1,000万人と見積もれます。

つまり、5年以内には約1,000万人のパート等のうち、厚生年金に加入しないのは60万人のみということになります。

たった6%…。

ここまで低くなると、厚生年金に加入することにならない企業は敬遠される可能性が高まるのではないでしょうか。それにより企業側が自主的に厚生年金に加入させるケースも増えるでしょう。加入条件が制度として残っても、加入するのが当然という流れができてしまいます。

もちろん、手取り維持のために厚生年金に加入したくないという方は一定数いらっしゃいます。しかし、厚生年金に加入したパート等は手取り維持のために人件費が上がる傾向が強いため、これが理解されれば加入を回避しようとは考えないはず。

そのために配偶者特別控除等、所得税の税制も整備されてきました。

例えば年収106万円の方が厚生年金に加入すると手取りが少なくなるため、これを維持しようとすれば年収は125万円以上が必要になってきます。ざっくり考えると、社会保険加入(健康保険も含め)と手取り維持のためにパート等の人件費は30%以上増加します。

ちなみに、厚生年金の加入年齢は70歳までとなっておりますが、これを75歳まで引き上げることも検討されています。65歳以上の労働者数が急激に増加していることを考えると遠からず実現するでしょう。

一昔前までは「中小企業で残業代を払うなんて…」という風潮が当然でしたが、今では「残業代は払わないと…」が主流です。

労働者から「残業代や厚生年金保険料を払えない企業なんて…」というスクリーニングが行われるということです。

そのほか、中小企業において今後適用される主な事項が以下となります。

・今後も毎年 ~ 最低賃金の引上げ
・2020年 4月 ~ 同一労働同一賃金
・2023年 4月 ~ 月60時間以上の残業について法定割増賃金率が50%
・2023年10月 ~ 消費税のインボイス制度

インボイス制度についてはフリーランス等の個人事業者への外注に関してということになりますが、以前からご説明しているとおり実質的に人件費の増加となる企業が出てきます。

以上、従業員でも外注でも個人に支払うコストは『制度的に』これからの5年間で増加します。このコストの増加が自社に与える影響がどの程度かを理解していないと致命的な状況になる恐れがあります。いきなり影響が出るわけではなく、毎年毎年真綿で首を締められるようなものです。

労働者が中小企業から大企業にシフトしているのは厳然たる事実で、比較的安価な労働力で仕事を回していた中小企業にとっては、さらなる人材の流出を促されることになります。

当然ですがこの流れは変えられません。

どれほど皆さまの会社の仕事が魅力的であったとしても、収入及び福利厚生でスタートラインに立てなければ人材を確保し続けることは難しくなります。あとはそれぞれの企業がこの流れを乗り切るための収益構造を作り上げることができるかどうか。

予想どおり、消費税増税後の状況は悪化しつつあるとしか言いようがありません。中小企業にとっては経済と制度に圧迫されつつ、生き残る道をいち早く探すか、潔く撤退するかの二択です。

その分岐となる年と考えられるのが2020年となりますので、皆さま今年は十分ご注意ください。

情報格差

今月12日、2020年度与党税制改正大綱が発表されました。

今回の改正で、前回のメルマガでご紹介した合法的な課税逃れ商品「タックスシェルター」の1つである「海外不動産への投資」スキームが封じ込められることが分かりました。先月末に既に報道されていましたので、ご存知の方も多いと思います。

残念ながら、こうした節税スキームが税制改正リスクに常にさらされていることの良い例となってしまったわけです。

ここではもう、スキームの詳細は書きませんが、これは日本と海外の住宅における資産価値の違いと日本の税制(中古資産の耐用年数と損益通算)のミスマッチを利用した節税方法で所得の高い富裕層を中心に人気があった手法です。

しかし、その一方で2016年の時点で既に会計検査院から、この節税スキームの問題点についての指摘が入っていましたので、いつ税制改正が入ってもおかしくない状況であったことも確かです。

それにも関わらず某有名大手不動産会社でさえも、つい先日までホームページで大々的に節税効果を並べながらセールスを展開していましたし、節税商品として多くの業者が富裕層に提案をし続けていたわけです。

理由はただ1つ、業者が儲かるからです。

既に、このスキームに乗ってしまっている方は、対象不動産を売却することを前提にしたシミュレーションを早急に行って、その時期を判断しなければなりません。

こうなると、日本人への需要は極端に減るはずですし、2021年には、このスキームが封じ込められる予定ですので、当然その前後での売買相場は下がることが容易に想像できます。どのタイミングで手放せば傷が一番浅くて済むかという判断になるでしょう。

さて、こうしたことが起こるといつも思うのが「情報格差」です。

例えばこうした節税商品であれば、その仕組みやリスクの正しい理解、税務調査現場での取り扱いや、税制改正の動向、これで得しているのは業者ですよという本質に至るまで。

また、税制に限らず、同業他社や異業種の動向、最近の金融機関の動きや世の中の空気感など、中小企業経営者が普段から察知しておくべき情報は実に多岐にわたります。

しかし、恐ろしいのは今や巷に情報は溢れ、その多くがゴミ情報であるという事実です。

数少ないまともな情報を手にするには、その本人の取捨選択能力が求められるほどに情報が溢れてしまっているのです。

来年も目まぐるしいスピードで中小企業経営をめぐる環境は変化していきます。
税制の変化も早く、より複雑なものへと変わってきており、情報は企業の生命線と言っても過言ではありません。

私たちエー・アンド・パートナーズ税理士法人は、来年も皆さまの経営の一助になれるよう、引き続き有用な情報を提供させていただきたいと考えております。

本年も1年間、ご愛読いただき誠にありがとうございました。

来年もどうぞよろしくお願い致します。

タックスシェルター

今年6月28日の法人税基本通達の改正により、いわゆる「節税保険」と呼ばれる保険商品が封じ込められたのはご存知のとおりです。

今まで、節税と言えば、生命保険の活用が常套手段の1つでしたが、これが封じ込められたことで、もともとは中堅以上の規模の税理士事務所が業者と組んで販売していることが多かった「タックスシェルター」の販売に個人の税理士も手を出し始めるなど節税市場に変化が表れているようです。

タックスシェルターとは、言わば「課税逃れ商品」であり、現行法令や租税条約の予定の範囲内のものであるため、基本的には合法な「節税」に分類されるものになります。

当社にも「ぜひ顧問先様への提案に」との業者からの営業電話が、今年に入ってかなり増えました。

以前からあるものも含めて、最近よく見かけるのが、次のようなものです。

  • コインパーキング事業への投資
  • 航空機、船舶のオペレーティングリース
  • 仮想通貨のマイニングマシンへの投資
  • 海外不動産への投資
  • コインランドリー事業への投資
  • 足場レンタル事業への投資

これらは、投資対象資産を即時償却するか、税務上の中古耐用年数と実際の使用可能年数が大きく異なる点を利用して早期に償却するかした後、その資産を簿価1円で社長個人に移転する、若しくは時価が下がっていないうちに売り抜けるなどという点で概ね共通しています。

基本的には現行法令の仕組みを上手く利用しているものの、既に会計検査院から問題の指摘を受けていて、すぐにでも改正が入る可能性があるものや、解釈によっては租税回避行為として否認される可能性があるようなものも存在しています。

実際、こうした商品が租税回避行為であるとして税務調査で否認されたとの事例も聞いていますので、一見合法ではあっても、少なからずリスクがあることは必ず認識しておく必要があります。

さて、こうした商品、確かに上手くいけば節税効果があることは事実ですが、税務署からの否認リスクが仮に完全に排除できたとしても、私がお客様に勧めることはありません。

なぜなら、こうした節税商品は検討している現在と同様に数年間にわたって多額の利益が出続けることを前提としていたり、何年か後に投資した資産を高値で売却できること、その利益に退職金などの損金をぶつけることなど、不確定要素が含まれることが起きると仮定したうえで設計されていることが多いからです。

経営が予定通りにいかないことは、本来、経営者本人が誰よりも分かっているはずです。

しかも、自然災害など、まったく読めないリスクに直面する可能性が高まっている中、節税だけを目的に本業に関係しない資産に投資することは余計なリスクまで抱えることに他なりません。

そしてもう1つ、このような本業に関連しない節税だけを目的とした商品に手を出すと、得てしてその後、業績が落ちるという傾向があるからです。

もちろん根拠はありません。そうならない場合だってあります。

しかし、こうした商品に手を出したとたんに業績が下がる光景を何度見てきたか分かりません。

経営者にとって納税は痛みです。

それゆえ「節税」の2文字は経営者を大きく揺さぶり魅了しますが、出口戦略まで固まっているケースを除いて、節税商品でできるのは単なる税の繰延で、税が無くなることはありません。

健全で強固な財務は利益を出して納税することでしか築けないのです。

皆さんのところにも今日、「タックスシェルター」の営業が来るかもしれません。

働き方改革と税金

いま進められている『働き方改革』に関する流れは…

「一日・一ヶ月・一年単位では働きすぎるな。しかし、職場や仕事を変えながらでも長く働き続けろ!」と、言われているも同じということは皆さまもご存じのとおり。

つまり、「もっと生産性を上げて労働時間を削減しようね」という単純なことではなく、年金問題や少子化問題が大きく関係し、国を挙げた延命措置が行われているという感じです。

この問題と無縁なのは一部の富裕層のみ。中小企業の事業承継問題も経営者が働き続ける前提であれば延命が可能となります。

そして、自民党の税制調査会長が退職金や年金に対する課税について発言を始めました…。

近年議論が行われてきた働き方改革に伴う所得課税の見直しですが、消費税増税もひと段落し次の段階に進み始めたということです。

まず、退職金の受け取り方は三パターンあります。
 (企業の退職金制度に応じて変わります)

 ・全額を一時金
 ・全額を年金
 ・一時金と年金をミックス

退職一時金については一つの職場で長く働けば働くほど税金が少なくなるという構造にあり、年金として受け取ることもできる確定拠出年金等を一時金で受け取った場合も同様です。

ここでおさらいですが、退職一時金の課税所得の算式は以下のとおり。
 (以下の算式に税率を掛けて税金が決まります)

(退職金 - 退職所得控除) × 1/2

【退職所得控除】 
*勤続年数が20年以下 : 40万円 × 勤続年数
*勤続年数が20年超 : 800万円 + 70万円 × (勤続年数 - 20年)

これにより20年超の勤続は税金上有利になることが分かります。また、年金で受け取ると社会保険料にも影響するため、年金受け取りにした場合の運用益を無視すれば一時金で受け取るのが良いという結論です。

また、退職金を一時金で受け取る場合よりも年金で受け取る場合の方が退職後の勤労意欲は高くなると思われます。

ここでまとめると、労働市場の流動化をさらに推進し、日本国民をギリギリまで働かせたいのであれば、退職一時金における勤続20年超の優遇措置は廃止し、年金として受け取った場合との税金・社会保険料とのバランスを取ることになるかと考えます。逆に、年金として受け取った場合を優遇とするかもしれません。

さらに、いきなりの廃止はないとは思われますが、退職金として受け取ることの最大のメリットである2分の1課税がどうなるか…。

勤続5年以下の役員退職金については既に2分の1課税が廃止されています。これは法人役員や国会議員・公務員などの特定者に限定されたものですが、働き方改革と所得課税を合わせて長期的に考えれば、退職金を年金での受け取りに誘導すべく2分の1課税が廃止されてもおかしくはありません。

国は現時点ですら70歳まで働かせることを前提に年金改革を進めようとしていますし、働いて高収入を得ても年金は減額しないと言い始めています。

高齢者になっても労働収入を得てもらい、公的年金を満額受給させ、退職金も年金として受け取るよう誘導し、年金2,000万円問題もクリアという思惑を強く感じます。

しかし、中小企業は退職金制度がないケースが圧倒的多数です。そして、国が企業型確定拠出年金やiDecoの拡充を必死に行っていることを踏まえると、中小企業も何かしらの退職金制度を検討せざるを得ない状況に追い込まれる可能性があります。

いずれにしても中小企業に退職一時金は合いません。制度として設けるには経営リスクが極めて高く、随時検討となれば恣意的な運用とならざるを得ないからです。昔から中小企業退職金共済制度(中退共)が存在することを考えると、中小企業こそ企業型確定拠出年金と親和性が高いと考えられます。

もちろん中退共で退職金制度を整備すること自体は問題ないのですが、中退共について大きく取り上げられることは無く、受け取る社員に認知してもらうのは難しい可能性があります。

以上、国が抜本的な年金改革に手を付けられないことが要因とは言え、中小企業も退職金=企業年金について何かしらの負担を求められていくのは間違いないと考えます。

その負担に耐えられないということになれば、中小企業で働く者同士でもその格差は拡大していきます。

『働き方改革』自体はイメージだけで先行している部分が多いのですが、これに税制が連携してくるとリアルな問題が持ち上がります。

10月から最低賃金が大幅に上がりましたが、”来年も”大幅に上がるはずです。真綿で首を締めるとは正にこのような状態のことで、『働き方改革』などという漠然としたもので知らないうちに追い込まれないよう十分に対策を検討してください。

ここからが『働き方改革』の本当のスタートかもしれません。

流行りのフリーランスにどう対応するか

消費税増税まで、もうあとわずか。
各種経過措置に飲食料品の軽減税率、キャッシュレス決済によるポイント還元・・・

今回の改正では、ただでさえ難解で欠陥税制とまで言われる消費税が、さらに複雑な税制へと変わります。

そして中小企業経営者が今から対応策を考えておく必要があるのが2023年10月に本格実施される「インボイス制度」です。

昨今、流行りの「フリーランス」。
いわゆる個人外注ですが、クラウドワークスなどの出現により、今やフリーランスに仕事を依頼している中小企業はかなり増えています。

現在は年間売上が1000万円以下で消費税を納めていないフリーランスであっても、消費税分を請求することができますし、支払う企業側は、支払先が消費税を納めていない免税事業者であっても、支払った消費税分をきちんと納税額から差し引くことができます。

しかし、2023年にインボイス制度が始まると、これが変わります。

古物の仕入や一定額の自販機での購入など一部の例外を除いて、支払った消費税を納税額から差し引くことができるのは、適格請求書発行事業者に登録をした事業者から適格請求書(インボイス)を発行された取引に限られてしまいます。

適格請求書発行事業者に登録をするということは消費税の課税事業者になることを意味します。消費税の免税事業者はインボイスを発行することができないため、免税事業者への支払いは支払った側で消費税分を納税額から差し引くことができなくなるのです。

つまり外注先に今までと同額を支払うことを前提とした場合、支払総額は変わりませんが、消費税の仕入控除ができない代わりに、損金が増える(図の外注費:100,000→110,000)ことで利益が減少し法人税が減るということが起き得ます。

しかし、法人税が減ることよりも、消費税の仕入控除ができなくなることで消費税の納税額が増える影響の方が大きいことは間違いなく、インボイス制度が始まった後の免税事業者との取引は企業にとって【利益が減るのに納税額が増える】という結果をもたらします。

インボイス制度開始後、私たちがこの結果を避けるために取り得るのは次の選択肢です。

  1. 免税事業者には今まで支払っていた消費税分の値下げを飲んでもらう
  2. 適格請求書を発行できない免税事業者との取引はやめる
  3. 免税事業者には適格請求書発行事業者に登録してもらい、消費税の課税事業者になってもらう

しかし、現実的には年間100万円以下~数100万円の売上しかないフリーランスの方に消費税分の値下げを強いたり、課税事業者になることを求め、消費税の申告、納税を迫るのは簡単なことではありません。

それでも私たち企業側は「利益が減るのに納税額が増える」状況を避けるために、免税事業者との取引を避ける方向に動くことは当たり前のことです。

働き方の多様性を認める社会を推し進める一方で、明らかにそれを阻害する税制。
あまりのチグハグさに腹が立ちますが、ここでそれを言ってもしかたありません。

いわゆる「生保レディ」や「ヤクルトレディ」、「クラウドワーカー」のように、たくさんのフリーランスを抱える企業は2023年10月までにどういった対応を取るのか考えなければいけません。

4年後は経営者にとって、決してまだまだ先のことなんかではありません。
4年後にインボイス制度がスタートする以上、どんなに遅くとも3年後にはどう対応するかを確定し、取引先であるフリーランスにも方針を告げてお互いに準備していかなければなりません。

3年後と言えば中期経営計画ではまさしく今、その時を見据えて準備を具体的に開始しなければいけいない時期です。

今やフリーランスの存在は欠かせないという中小企業は少なくないはずです。
インボイス制度を理解し、早めの対応を行いましょう。

節税保険の新ルール

法人向けの節税保険にメスが入ったことは、このメルマガでもお伝えさせて頂きました。

あれから2ヵ月、国税庁が4月11日に公表した改正(案)によって、既契約への遡及適用はしないことが明らかになると同時に、中途解約時の『返戻率』に応じて異なる損金算入割合を適用する新ルールを示しました。

5月10日まで意見公募(パブリックコメント)を行ってから、早ければ6月にも新ルールが適用されます。

見直し案は、段階的に損金算入割合が変化する、複雑なものになりますが、イメージしやすいように、無理やり簡便的にまとめてみました。

基本的に保険期間の経過に応じて損金算入割合が変化していきます。

ピーク時の返戻率が50%以下の商品については全額損金になりますが、ピーク時の返戻率が高いほど当初保険料の損金算入割合が低く制限されていることが分かります。

そして、保険期間の経過に合わせて損金算入割合が上がっていくことになり、最終的には前半で資産計上した部分も取崩して損金に算入していきます。

理屈はこうです。

時の経過に伴い年齢を重ねるほどに死亡リスクは高まりますので、本来であれば保険料は時の経過に応じて高くなるはずです。

しかし、実際の定期保険では保険料が一定です。これは保険期間の前半に後半分の保険料を前払いしていることに他なりません。

つまり、保険期間前半に支払う前払い保険料相当額を資産計上させ、保険期間の経過に応じて損金算入を認めるという考えに基づいているのです。

次に新ルールに基づいて、保険料を1000万円支払った時点で返戻率がピークに達し、解約した場合のシミュレーションを、こちらも簡単にしてみました。

損金算入割合が制限されることで、返戻率のピーク時に解約したとしても、キャッシュアウトの方が当然に大きくなってしまいました。
仮に解約時に何かしらの損金をぶつけて出口対策を施したとしても、③以外はキャッシュ・フローがプラスに転じることはありませんし、③は出口対策を取れればキャッシュ・フローがプラスになるといっても、その効果は少額です。

パブリックコメントを受けて、多少の調整が入ることはあり得ますが、基本的には改正(案)に沿った改正がなされるはずです。
今後、生命保険各社が新商品で抜け道探しをする可能性は高いですが、節税だけを目的にした生命保険への加入は、現状では基本的に選択肢としてなくなることになります。

節税保険には加入していても、経営者に万一のことがあった場合の必要保障額を算定したうえで、不足資金を保険で手当てし、数年おきに会社や経営者個人の状況に応じて見直しをかけるといった作業を行っている中小企業は少ないのが実情です。

今回の改正で、生命保険は本来の役割に立ち返ることになります。
生命保険に限らず損害保険もそうですが、会社の成長などに応じて絶対に随時見直しが必要です。

会社の現状に全く合わない保険に保険料を支払い続けているといったことが本当に少なくありません。
今回の改正をきっかけに、ぜひ自社の保険の総点検をしてみてください。

またまた節税保険です

既にご存知の方も多いでしょうが、法人向けの節税保険にメスが入りました。
具体的に取扱いが変わるのはまだ先ですが、2月13日に国税庁から見直しの意向を受けてから生命保険各社が順次販売を停止し、2月末にはほぼ全てが停止されました。
(最終的には問題がないであろう商品も販売停止中です)
平成20年に逓増定期保険、平成24年はガン保険と節税保険が封じられてきましたが、平成最後のタイミングでダメ押しという感じです。
今回は平成29年4月に日本生命が販売開始した節税保険を皮切りに、各社入り乱れてのブームが到来しました。それも約2年で終焉を迎えたことになります。
当社と付き合いがある総合保険代理店の担当からこの保険の説明を聞いた時、「普通に考えたらこの商品は無しだよね…」と返答した記憶があります。
それは商品としてお客様側のメリットを感じなかったからです。ですから商品の存在自体もお客様にはお伝えしませんでした。時間のムダだからです。
しかし、実際には全国で売れまくっていました…。結局、どのような商品性の保険であれ『節税効果』を強くうたえば契約してしまう経営者が相当数いらっしゃるという事実に変わりはありません。
ちなみに、この節税保険に対して最初に疑問を投げかけたのは国税庁ではなく金融庁です。
金融庁といえば、昨年退任した森前金融庁長官の時代から金融機関に対して『顧客本位』を強く求めています。
その金融庁が生命保険会社の監督官庁でもありますから、その商品及び売り方が『顧客本位』なのかどうかに疑問を持ったのでしょう。
お客様が節税できて喜べば顧客本位なのかというと、当然そうではないと私も考えます。素人であるお客様はその商品の本当の性質は理解できません。実際、節税保険に加入した後に生じたマイナスの経済効果を知らされることもありません。お客様の最初の満足度は高いのですが、その後が問題なのです…。
もちろん節税効果のある保険自体が悪いという訳ではありません。あくまで商品性が良く、その上で節税効果も見込めるのが経営者にとって良い保険のはず。
しかし、「この保険ですが、保険料の全額が損金に算入できます…」から説明が始まる保険の本来の商品性が良いはずはありません。そもそもの目的が節税好きの経営者に契約してもらうために開発された商品なのですから(顧客ニーズと一致はしていますね)。
この手の保険を売りまくって稼いだ関係者も多いことでしょう。その原資はお客様が支払った保険料から捻出されています。最終的には効果が無い(つまり損をする)であろう商品を売っておいて顧客本位とは口が裂けても言えないでしょう。売る側も本当の節税の意味を理解していない以上、無理もないことではありますが…。
このメールマガジンで繰り返しお伝えしているように、節税保険で実質的に経済効果(節税効果ではなく)を得られるケースは、限りなく少ないのです。
節税効果を得たい経営者と保険を知り尽くしている税理士が適切なタイミングを見計らい、そしてその効果を最大限発揮できる保険商品が存在することによってのみ、保険による節税が可能になるのです。節税とはあくまで税率の違いを利用したテクニックです。節税保険に加入したから節税ができるわけではありません。
結局、何事もやり過ぎると規制がかかります。そのために商品性の良い保険までつぶれてしまっては元も子もありません。
国税庁が生命保険料の損金性の取り扱いを明確にした後、生命保険各社は経営者保険のラインナップを見直すでしょうが、経営者にとって本当に必要な保険は残って欲しいものです。
なお、既契約はそのままの取り扱いで行けるでしょうが、ご契約されている方はどのタイミングが損切りとして適切なのかも十分にご検討ください。

税制改正、異常なし。ただし…

12月14日、税制改正大綱が発表されました。
これは来年改正される予定の税制の内容を与党がまとめたものです。

まれに大改正が行われたり、隠し玉が入っている場合があるため、私どもの業界は発表と同時に目をとおします。

そして、今年の内容はというと「この場でお伝えすべきものは皆無!」と言ってよいほど、何もありませんでした…。

これまで散々報道されてきた、消費税増税対策が盛り込まれているだけです。これならば皆さまに新聞をお読みいただいた方が早い!

さて、これに先立つ11月28日。

消費税率の引上げに伴う価格設定について(ガイドライン)』なるものが公表されました。

要約すると「増税に合わせてこういう表現をして消費者を煽るな。だけどこういう表現はOKだよ」等のガイドラインです。

そして、この中で、便乗値上げについて以下のような記載がありました。

また、従来、消費税率の引上げを理由として、それ以上の値上げを行うことは「便乗値上げ」として抑制を求めてきましたが、これは消費税率引上げ前に需要に応じて値上げを行うなど経営判断に基づく自由な価格設定を行うことを何ら妨げるものではありません。

 

あくまで間接的な表現ではありますが、便乗値上げについて『容認』しています。

皆さまの中にも、本来は値上げをしないとやっていられないという状況であるにもかかわらず、便乗値上げとの指摘をおそれて耐え忍んでいるケースがあるのではないでしょうか。

そもそも便乗の批判をおそれて、その結果企業がつぶれてしまっては元も子もないのです。政府もそれを懸念しているのでしょう。

したがいまして、政府は「消費者対策は国がやるので、価格設定については企業がきちんと経営判断を行ってくださいね」と言っているわけです。

つまり、皆さまにとって注目すべきは消費者対策である税制改正の内容ではなく、事業者対策であるこのガイドラインの趣旨ではないでしょうか。

原材料費や人件費の高騰など、いくらでも値上げの根拠はあるでしょう。ただし、仮に根拠がなくとも、今の価格で経営が成り立たないのであれば、値上げか事業縮小かのいずれかを選択しなければなりません。値上げを行った上での事業縮小も重要な選択肢です。

ちなみに、ガイドラインの中で、このような記載もあります。

『⼤企業においても、消費税率引上げ後、⾃らの経営資源を活⽤して値引きなど⾃由に価格設定を⾏うことに何ら制約はありません。』

大企業は値引きOKだよとあえて記載していることを考えると、値上げについての言及は中小企業向けのメッセージであると読み取れます。

さあ、増税前に値上げをするのか、増税後に値上げに追い込まれるのか。準備を含めても残された時間は多くありません。

年末年始に掛けて、よーく自社の事業構造を見直してはいかがでしょうか。