中小企業の内部通報リスク

完全に匿名で、非常に簡単に、ボタン一つ脱税に関するタレコミができます。

それは国税庁のホームページに設けられている『課税・徴収漏れに関する情報の提供』制度です。

中小企業を念頭におけば、通報者は親族、社員、取引先、経営者仲間などが挙げられます。通報者は限定されるとはいえ、記録が残らないのは恐ろしい…。ちなみに以下がこれまでの情報提供例です。

  • 租税回避スキーム(節税商品特定の取引手法を利用した租税回避など)に関する情報やその組成・販売をしている者又は利用をしている者に関する情報
  • 虚偽売上金額(収益)必要経費(費用)に基づく経理等により、不当・不正に所得金額等を低く(又は還付税額を多く)申告している者およびその手口の情報
  • 事業が活況を呈するなど、申告する必要があると考えられるにもかかわらず申告をしていない者に関する情報
  • 他人名義での取引他人名義の口座等を利用した取引又は事実に基づかない契約書、領収書、請求書、納品書等の書類の作成、交付、作成依頼等(白紙領収書等の交付依頼等を含む。)を行っている者に関する情報

  • 海外で稼得した所得に係る課税を免れている者各国の税制の違い・租税条約を利用して課税を免れている者に関する情報
  • 国税を滞納しているにもかかわらず、財産を隠匿している者に関する情報
  • 上記のような者の協力者に関する情報

実態としては何ら問題はないケースでも、そのような疑念を他人に抱かせるような言動が、税務当局への通報につながる可能性があるということです。

なお、脱税のタレコミのお話から始めたのは、6月1日から、改正された内部通報制度(公益通報者保護制度)が施行されるからです。

内部通報制度を簡単に説明すると「企業不祥事が相次ぐことから、その隠蔽を暴くための内部通報を行った社員を解雇などから守り、企業も通報に対して適切に対応することを求める」ためのものです。

これが義務化されるのは従業員300人超の企業であり、ほとんどの中小企業には関係がありません(従業員300人以下は努力義務です)。

無関係とはいえ、このような制度が知られるようになると正義感に燃える社員および外部関係者が通報するという事態も考えられます。同一労働同一賃金の改正の際にも同じようなことが起きました。

「大企業であればまだしも、中小企業の社員がどこに通報するの?」

という疑念は当然です。国税庁の匿名タレコミのように誰でも簡単に通報できるものはありません。あくまで企業側に内部通報制度の整備を求めるものです。

そして、中小企業の不祥事は生死に直結するため、内部通報によって企業がつぶれてしまっては通報者自身も不利益を受けます。それゆえ、通報者が退職または関係を断つくらいの覚悟、強い恨みがなければ、中小企業において内部通報制度が使われることは稀でしょう(心当たりがある方はお気をつけを…)。

ただし、経営者としては、このような制度があることを頭の片隅に置いておく必要があります。これまでも労働基準監督署に駆け込まれた、弁護士から連絡が来たなどの話はよく耳にしましたし、この延長上に公的な制度が新たに設けられたということです。

近年ではSNSなどを通じて企業の内部事情が暴露されることが問題となっています。これに加えて、公的に通報制度が整備され、消費税や原価高に伴う価格転嫁拒否という下請けいじめの取り締まりも行われています。

繰り返しますが、中小企業において、不都合な内部事情を暴露されることは生死にかかわります。その場では事なきを得ても、一度公になった不祥事はWEB上に残り続けます。

もちろん、不祥事の隠蔽や脱税を行っている中小企業はごく一部…。それでも社員や取引先から強い恨みを買うと、事実ではないことを通報される恐れがあり、それが拡散されるリスクが生じます。情報をクローズすることが良いとは思えませんが、オープンすぎることもリスクを高めます。

すでに、皆さまの足元にも通報リスクが生じているかもしれません。

「タレコミは必ず起こる」

現時点で中小企業に内部通報制度の義務は無いとはいえ、今後義務が拡大されていく可能性もあります。自社には無関係な制度とは思わず、この事実から足元を見渡しましょう。

世代が違うと考え方も変わりますので、若い世代は内部通報に抵抗は無いかもしれません…。

M&Aセンターの不正会計の裏に潜む、私たちに無関係ではない問題

2月14日、M&A仲介最大手の日本M&Aセンターで過去5年間にわたって83件の不正会計が行われていたことが公表されました。大きく報道されましたので見聞きした方も多いはずです

不正会計の内容は、クロージング前の案件について契約当事者の記名(又は署名)押印部分を別の契約書類からコピー・切り貼りするなどして契約書を偽造することで契約成立を偽装、社内での売上報告時期を早めることで、前倒しに売上計上を行っていたものです。

その古典的かつ悪質な手法には驚きましたが、売上の架空計上ではなく、実在する進行中の案件について、売上目標達成のために決算時期に先食いして売上計上したわけです。

粉飾行為は言語道断ですが、今回皆さんに知っていただきたいのは、その裏に潜む、私たちにとっても決して無関係ではない別の問題です。

調査委員会による調査報告書の中から本件に関する関与者についての記載を抜粋します。

発生した不適切報告の多くのケースには、複数の関与者が存在する。
不適切報告に関する複数人関与のケースとしては、部長が不適切報告を案件担当者に指示した案件、部長又は部内関係者が売り手・買い手の各担当者と相談又は協議して明示的または黙示的な了解を与えた案件なども少なくない。これに対し、売り手・買い手のいずれかの担当者の単独行為による不適切報告は、比較的少数である(これは、M&A案件は売り手と買い手の双方の担当者が業務対応しているため、仮に、契約書の成約の事実に関する不適切報告を意図した場合においても、一方担当者だけではそれを実行し難い事情によるものと推察される)。

(下線は筆者による)

日本M&Aセンターに限らず、M&A仲介業者の多くは、売り手・買い手双方に別の担当者を付けて売買交渉の仲介を行います。言い方を変えると、売り手・買い手につく担当者は同じ仲介業者の人間です。

不正会計は、決算までにクロージングが間に合わなく、売上目標が達せられず追い込まれたごく一部の人間が最後の手段として行ったことなのでしょうが、売り手・買い手双方の担当者が同一社内にいるからこそ実行できたことは、間違いありません。

不正会計はごく一部のことでも「決算までになんとかクロージングに持ち込め」という上長からのプレッシャーが、売り手・買い手双方の担当者に対して日頃からあったであろうことは想像に難くありません。こうなると、仲介業者の決算期付近では、ベストな交渉が仲介されているとはとても思えません。

M&A仲介では、売り手・買い手双方から仲介手数料を取る、いわゆる「両手取引」が行われています。表向きはさておき、仲介業者は売り手、買い手、どちらか一方の利益の最大化を目指すのではなく、取引を成立させることを最大の目的とすることは自明の理です。

片方の当事者寄りにならない助言は理屈的には可能かもしれませんが、売り手と買い手、双方に有利になる助言は理論的に不可能です。つまり、自社側の担当者といえども100%皆さんの味方をすることがないことは明白です。

売り手にはさらなる懸念があります。

仲介業者にとって、売り手企業は今回のM&Aが最初で最後のお付き合いになる一方で、買い手企業とは複数回のお付き合いとなる可能性が高いことから買い手寄りの仲介となり、売り手にとっては不利な交渉になっても不思議ではないのです。

このように「両手取引」に問題があることは明らかですが、それでも中小企業のM&Aにおいて仲介業者は必要です。そうなると、仲介業者の都合に振り回されることなく、交渉を不利なものとしないためには、仲介業者との間に入り、100%皆さまの味方をしてくれるアドバイザーを側に付ける以外、方法はありません。

そして、その役割は本来であれば自社をよく知る顧問税理士が最も適任であるはずです。

しかし残念なことに、M&Aサポートの経験がない税理士が多く、仲介業者へ橋渡しだけして紹介手数料をもらって終わり。あとは仲介業者へ丸投げしてしまうケースが多数です。

M&Aを事業承継の出口の1つの選択肢として考えるのが当たり前になった現在、実際に出口をどう選択するかは別としても、最後の最後まで100%皆さまの味方をしてくれる顧問税理士と出会っておくことはとても重要です。

50代以降の経営者様は、ぜひ、そうした目線で税理士を選ぶことも忘れないでください。

補助金事情2022

有料配信の音声で詳細をお伝えしましたが、コロナ禍以降は補助金が充実しており、補助金を機会に改善に取り組む企業が増えています。

皆さまご存じのとおり、最大の目玉は事業再構築補助金でした。

公表当初は期待値が最高潮に高まるも、詳細が明らかになると断念する企業が続出…。確かに第1回公募は厳しかったものの、その後は徐々に要件緩和が行われ、既に終了した第5回公募までの状況を確認すると、結果としては非常に申請しやすいものとなりました。

一番厳しいと言われていた売上減少要件についても、要件緩和により充たすことになった企業が多いように思われます(そもそも増収記録更新中の企業の方がまれでしょう)。

一番応募が多かった通常枠の採択率は30%台で推移。採択事業者数は35,000社を超えました。補助金の規模を考えると悪くはありません。当社がお手伝いした案件も、お客様が断念されたもの以外は全て採択されました。3月下旬からは第6回公募が始まっており、第8回まで予定されています。

もちろん、補助金を受給するためだけの事業に意味はありません。当社も相談を受けた案件を何度か却下させていただきました。持続性がある事業以外は重荷になるからです。

結局、採択された企業は良くも悪くも企画力があり、一緒に取り組んだ認定支援機関が良かったというだけ。事業遂行能力があるかどうかは別問題なので、採択されてからが勝負です。ぜひとも補助金を有意義に使って持続可能な事業に育てください。

また、今年は何といってもIT導入補助金です。

IT導入補助金といえば「ホームページ制作」を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、現在はECサイトなどのシステム系以外は認められなくなりました。

そして、IT導入補助金2022で注目されるのは『会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフトの経費の一部を補助することで、インボイス対応も見据えた企業間取引のデジタル化を推進することを目的』としているデジタル化基盤導入類型です。

以下、補助金の額と補助率をご覧ください。中小企業のバックオフィス関連としては十分過ぎます。採択率は概ね50%超ですが、バックオフィス関連でよほど下手な申請をしない限り、実質的な採択率はもっと高くなっています。

(出典:株式会社TKC)

なお、インボイス制度の開始は2023年10月からですが、制度の全容と恐ろしさを理解している中小企業はごく少数のはず。デジタル庁が電子インボイスの標準化に取り組んでおり、国がこれだけの補助金を準備しているということは、制度対応にそれだけのコストが想定されていることの裏付けです。

DX、テレワーク、そしてインボイス制度…。もちろんデジタルがすべてではありません。しかし、インボイス制度に関してはデジタルが主流になると想定されており、自社が拒否しても外部環境がそれを許さないという可能性があります。

補助金巧者というのもどうかと思いますが、獲得できるものは獲得するという姿勢も重要でしょう。そして、近年の補助金は認定支援機関などの外部アドバイザーと連携することが必須であるため、この点も見逃せません。

つまり、外部アドバイザーが話を持ってこない限り、あるいは外部アドバイザーが身近にいない限り、補助金申請ができないということになります。

事業再構築補助金、IT導入補助金ともに、相談できる先がないと当社にご連絡をいただくことがありますが、当社にかかわらず補助金目的のみでお付き合いされるのはお勧めできません。結局、継続的なお付き合いで改善していかない限り、持続性が担保されないからです。

他にも、ものづくり補助金や持続化補助金などがあります。補助金受給は一部の企業に偏っているのも事実ですので、取り組まれた経験がない皆さまにおかれましてもご検討されてみてください。

目的は補助金ではなく、補助金を機会とした改善となります。

原点に戻る

金融庁と国税庁は「節税保険」による行き過ぎた節税に歯止めをかけるためにタッグを組み、生命保険会社が設計した商品の内容を審査するほか、現場での募集実態も調べるなどして審査体制を改めるという記事が日経新聞に掲載されていました。

通達改正により、ご存じのように2019年には「全損・半損タイプ」の節税保険の販売が停止され、昨年は解約返戻金が上がる直前に法人から個人へ名義を移す「名義変更プラン」による節税策が封じ込められました。

相変わらずのイタチごっこが続くなか、さらなる抜け穴をついた商品が「まだ節税できる」と話題になっています。

2019年の通達改正後、効果のほどは別として、損金算入を目的とした場合に使える保険商品は大きく分けて2つです。

最高解約返戻率を70%超85%以下に設定した「4割損金タイプ」の定期生命保険と、1人当たり年間保険料30万円までであれば全額損金算入が可能な、最高解約返戻率が70%以下の定期法人保険と第三分野保険(医療保険・がん保険)の短期払い商品です。

これらの商品は2019年の通達改正直後から新ルールに基づく商品として法人営業の現場で提案されてきましたが、改正前と比べて損金算入インパクトが薄れてしまったことで、節税策を模索する中小企業経営者の反応はかなり鈍いものとなりました。

しかし、さらなる通達の抜け穴をついてきたのがソニー生命の変額定期保険や日本生命の長期平準定期保険です。

両社ともに定められた解約返戻金額の計算方法にしたがって、損金算入割合を判定する際の最高解約返戻率を85%以下になるように設計することで4割損金算入を実現しています。

その一方で、ソニー生命は予定利率を超えた運用を実現することで、日本生命は配当金を利用することで実際の返戻率を85%超にし、税効果を含めた実質返戻率が100%を超えてくるような仕組みにしているのです。

ソニー生命の商品は契約時に示される予定利率を用いて計算した解約返戻金額によって損金算入割合を決めてよいという通達にしたがい、日本生命の商品は配当については返戻率の計算に含めなくてよいという通達にしたがっているため、現状では合法であることは間違いありません。

出口戦略が確定しているケースでは、節税策として検討する価値はあるのかもしれません。

しかし、毎度申し上げていることですが、出口戦略が確定しているケースはかなり特殊であり、そうでないケースでは保険商品を使った節税策は単なる税の繰延でしかありません。

ましてや利益を出し続けられなければ、利益の繰延にさえならず、単に保険会社に手数料を取られるだけとなってしまいます。

全額損金算入を目的とした、年間保険料1人当たり30万円までの医療保険への加入もかなり微妙です。福利厚生として従業員の頭数だけ加入すれば、まとまった損金が作れることは事実ですが、こうした福利厚生は経営者が思うよりもはるかに従業員は有難みを感じてくれません。それならば給与をあげて欲しいと言われるのが関の山です。

抜け穴はふさがれるたびに狭くなり、通すことができたとしても効果は限定的になる一方です。今後は金融庁と国税庁が連携するとなれば、なおさらです。

経営において判断に迷い誤る時、その多くは優先すべき事項、原点を見失っていることに起因しています。

保険の目的、役割を本来の「保障」に求めるのであれば、多くの責任とリスクを抱える中小企業経営者にとって、非常に有効なツールとして助けになってくれることは今も昔も変わっていないのです。

オーナー経営者のお金の使い方

中小企業の強みはオーナー経営者です。
同時に弱みでもあります。

弱みとして挙げられるポイントの一つにお金の使い方があります。

オーナー経営者ですから、お金は好きに使えます。
事業関連性があれば、良し悪しは別としてお金を使えます。
使わないのも自由です。

そして、中小企業の事業が迷走する要因に「お金の使い方」と「利益獲得の打ち手」のズレが挙げられます。

オーナー経営者の下では、そこは惜しまずお金を投入すべきというところにお金を使わず、そこは使っても意味はないというところに惜しまずお金を使ってしまうケースが多く見受けられます。

基本的に、利益を獲得するためには必ずお金を使う必要があり、必要であれば借金してでもお金を使うべきです。ただし、お金を使っても利益の獲得が保証されているわけではありません。

この点について、オーナーとしての「主観」が強く影響し、経営者としての「客観」が弱まると迷走が始まります。

私の長い経験の中でも、お金の使い方が上手なオーナー経営者にはあまり出会えません。
それぞれにクセがあります。

  • 赤字が怖く、お金を使えない
  • 必要な設備投資すらも贅沢といってしまう
  • 利益獲得に比例しない過剰な設備投資を行ってしまう
  • 事業自体は素晴らしいのに、冗費の額が凄まじい
  • 自己投資と事業投資を履き違える
  • 社員待遇に甘すぎる、厳しすぎる
  • 一度始めた付き合いを止められない

知り合いの経営者が同じことをやっていれば、「バカだなー」と鼻で笑うことを平気でやってしまいます。中には心当たりがある方もいらっしゃることでしょう。

オーナー経営者のお金の使い方は中小企業の生死にかかわり、「お金の使い方」と「利益獲得の打ち手」には必ずズレが生じます。また、お金を使わないということは、利益獲得の打ち手を放棄していることでもあります。

ですから、そのズレが生じたり、お金が貯まり過ぎた場合に、それを是正できる仕組みがあり、注意を促してくれる相手がいることが重要です。

社員にも必要なお金は徹底して使わせ、ムダなお金は徹底して絞らせる。そのためにはオーナー経営者が手本となるようなお金の使い方をしなければなりません。継続企業では「貯めるが正義」が全てではありません。お金は使いながら増やしていくものです。

ウイズコロナでの事業環境にも慣れてきた2022年春。
経済が止まる期間は短くなり、お金を使う機会、使う額も増えてきます。

これからオーナー経営者の皆様は何にお金を使い、何にお金を使わないのか…。
利益獲得のために使っているのか、それとも冗費なのか…。
ズレが生じた場合に是正できるのか…。

オーナーとして誘惑は多いと思われますが、経営者として客観的な判断を行える環境に身を置いてください。

それが継続企業として成功する近道だと考えます。

 

山田 拓巳

「そういうこと言っているんじゃないんだよな・・・」

顧問税理士が言っていることに納得がいかないので、教えて欲しい。

先日、25年来の友人である経営者から久しぶりに電話をもらいました。

聞けば、工場の新設を計画していたもののコロナ禍による建築資材不足の影響で工期が遅れたことで、今期に見込んでいた経費が立たず、想定よりも多くの利益と納税が出てしまう状況とのことでした。

この局面に対しての顧問税理士のアドバイスが、「税率が上がる800万円を超える利益は出すべきではない」「退職金の備えにもなる生命保険を使って利益を800万円までに抑えるべき」というものだったそうです。

しかし、解約返戻金が最大になる時期に本当に退職するかなんて分からないし、億を超える投資を控えている状況で、長年に渡りキャッシュの流出を固定する生命保険には入りたくないと、この経営者は言います。

税金は痛いですがコストです。優遇税制などを使い削減できるところをきちんと削減すれば、あとは割り切って支払うだけ。過度に節税に囚われては経営の舵取りを誤ります。節税は経営の一部ではありますが、全てではありません。

この税理士の言うことが全て間違いだとは言いませんが、経営者は経営の問題として相談しているにも関わらず、税理士は税金の問題として考えているのですから、かみ合うわけがありません。

しかも残念なことに、この税理士、設備投資減税を受けるために必要な事前申請の案内を漏らしてしまっていました。

5年ほど前から設備投資に関する減税特例は購入前に計画書を提出し、事前に認定を受けておく必要があるものが増えています。申告期限に間に合っても、事前に認定を受けていなければダメなのです。

もちろん、設備投資を事前に知りながら申請の案内をしなかった税理士に責任があることは間違いありませんが、現在どんな税制がトレンドで、今後どういう方向に進んでいくのか、そのことが自社の経営にどういった影響を与えるのかは経営者として知っておかなければなりません。

しかし、小難しく専門的な説明をする情報があふれる一方で、経営者が本当に知りたい、本質をついたものはなかなか見当たりません。

今年も税制改正解説音声と言いながら、税制改正の話しをあまりしない音声『中小企業経営2022』の販売を開始しました。

私たちは音声で税制の細かい話しはしていません。
そうしたものは世の中にたくさんありますし、税制の大枠をとらえることで時代の流れをつかみ、本質を知ったうえで、自社の課題に経営者としてどう向き合っていくのかが重要だと考えているからです。

コロナ過もついに3年目、変化の速度は増しています。
課題に目をつぶり先送りにすれば、山積みになり、後は崩れ落ちるだけです。

興味がある方はぜひお聞きください。

改めて、今後の税理士の役割とは

気が付けば、私が税理士業務に携わってから20年以上たちました。

この間、法律や使用するソフトウェアなどにさまざまな変化がありましたが、基本的な仕事の仕方は驚くほど変わっていません。

思い起こせば、私が新人のとき、はじめて担当したお客様の帳簿にだらしなさを感じ、社長夫婦にお説教をしたことがあります(自分の親と同世代でした)。

今では「生意気を言って、大変申し訳ありませんでした」という気持ちでいっぱいですが、その後、そのお客様とはより深くお話しができるようになり、頼ってもいただけました。

そして、いまでも、お客様との最初の仕事は「正確な帳簿付け」の指導から始まります。

特に現在は、各システムを連携させながら帳簿を改善していく必要があるので、落ち着くまで数年かかる場合も少なくありません。便利な反面、うまく連携させないと泥沼です。

従って、どんなに便利なツールが出てきても、私ども業界人が、中小企業のお客様と継続的に良い関係、良いお仕事をさせていただくには、以下しかないと考えております。

  • まずは正確な帳簿を付けていただく
  • 正確な帳簿から分析を行い、改善点を検討する
  • 帳簿から確認できない情報は、お客様との会話、お客様の現場を回って把握する
  • お客様に改善点を伝え、行動していただく
  • その結果を、税金として計算する
  • これらを繰り返す

ただし、作業時間自体はどんどん少なくなってきました。

正確な帳簿付けは既に会計ソフトの機能で実現し始めていますし、分析および改善点の抽出も実現可能です。電子データから帳簿を作成するようになれば、税理士が確認するよりも正確、かつ迅速です。

また、税理士しかできないと思われがちな申告書の作成(=税金の計算)は、ほとんどの中小企業のレベルでは自動作成が可能な時代が近づいています。今でも十分できると思いますが、まだそのようなシステムはリリースされていません。

自動車でいえば、「自動運転はある程度可能だけど、まだ法整備がされていないし、責任の所在があいまいなので、提供しておりません」というレベルと同じかと思われます。

仮に、申告書の作成が自動化されれば、税理士不要論が台頭してもおかしくはありません。自動作成された申告書が間違った場合には、自動車保険のように損害保険で担保できるはずです。

そのため、最終的には税理士が担ってきた大半の仕事は会計ソフトベンダーが提供できるという世界が待っています。

現在、会計ソフトベンダーは「形式上」税理士を立てて付き合っていますが、この力関係が遠からず逆転するでしょう。

あとは時間軸の問題です。

電子保存やインボイス制度、各種申請の自動化および電子化など、法律とITの親和性がさらに高まってくれば、ゲーム・チェンジです。

税理士よりも会計ソフトベンダーの力が強まってくれば、スマートフォンの機種変更のように税理士を変える時代が到来してもおかしくはありません。

税理士は、会計ソフトベンダーから紹介される業者という位置付けになるでしょう。
(実は既に始まっています)

それでも…

オーナー経営者が考えることは、会計ソフトベンダーの担当者には理解できません。AIがオーナー経営者を理解する時代がくるとも思えません。

つまり、税理士しかできない役割は、必ず残ります。

税理士は、システムもAIもアクセスできない、中小企業の核であるオーナー経営者にダイレクトにアクセスできるのが最大の強みです。

これは私が税理士であるからではなく、これまでの経験上、税理士が時代について行ける限り、相談相手として適任であるのは間違いないと確信しているからです。

ただし、皆さまは税理士に対して、貪欲に相談をぶん投げる必要があります。
淡泊な関係では何も生まれません。

皆さまも、ぜひ税理士を良き相談相手としてお使いください。

皆さまの経営が変わるはずです。

変わらないもの

皆さまご認識のとおり、銀行融資は超がつく低金利時代。
多くの銀行が業績不振に苦しむなか、業績をあげているのが広島市信用組合です。

1月19日の日本経済新聞によれば、2021年3月期の税引き後利益は41億円と6期連続で最高益を更新し、その利益水準が他県の第二地銀にも匹敵するそうです。

記事から読み取れる、成長のキーワードは3つ。

「対面」と「スピード」、「やらない仕事を決めること」です。

広島市信用組合では1人あたりが担当する法人150社、個人150人の計300顧客ほどに、預金の集金などでアポイントを入れて、最低でもそれぞれ毎月1回は会うようにしているそうです。

顔を合わせて信頼を高め、雑談の中から事業環境の変化を探り、新規融資につながる話題にアンテナを張ります。

金利は他の金融機関より0.7~0.8%ほど高いものの、融資の稟議を本部にあげたあと、3日以内に可否を判断するスピード決済を強みとしています。

投資信託や生命保険を売ることをやめ、複雑な商品説明に時間を費やさないことで、多くの訪問を可能にし、金融機関の本業である預金・貸出に特化しているのです。

記事では顧客である経営者の声も紹介しています。

「広島市信用組合の担当者は度重なる面談で「社長を見る目」を鍛えている」

コロナ過で対面での面談が難しいケースが増えていることは事実ですが、私たちは今回の経験を経て、バーチャルやリモートで十分な場面がある一方で、それらが決してリアルに取って代わるものではないことを知りました。

「仕入は他社と取り合いになるため、まとまった資金がすぐに欲しいときが多い。低い金利よりもスピードを求めている」

仕事において速さはそれだけで大きな武器になり得ます。
進化し続けるツールの登場により、たくさんの仕事を格段に早くできるようになったにも関わらず付加価値を上げられずに単価が下がり、それを補おうと量を求めることで、皮肉にも仕事の速度が奪われていく。そんな景色をあちこちで目にします。

「他の金融機関は用事がないと来ないが、広島市信用組合は用事をわざと作って会いに来る」

低金利時代で利ザヤを稼ぐことが難しいなか、金融商品を売って手に入れる手数料収入は、喉から手が出るほど欲しかったはずです。
しかし、当たり前のことですが、時間には限りがあります。「やらない仕事」を決めることで一時的に売上が下がったとしても、本来欲しい売上獲得に力を注ぐ時間が必ず確保できます。

今、世の中はこれまでにないスピードで変化を続けています。
もちろん、私たち中小企業はこうした変化に対応し続けていかなければなりません。

しかし、経営において大事なことの根底は、そう変わるものじゃない。

広島市信用組合の経営は、そんなことを教えてくれているような気がしてなりません。

固定か、変動か

費用の性質に、固定・変動があることはご存じのとおり。
いわゆる、固定費と変動費です。

同じように、売上高を分けて考えることができます。

私どものような税理士業界は典型的な固定性売上のビジネス。拡大に意欲的、または創業間もないというケースは別ですが、基本的に8~9割の売上高は固定しており、顧客の増減、およびスポットの仕事で変わる程度。増減が極めて緩やかということです。

「税理士は固定収入だからいいよね…」と、よく言われてはきましたが、コロナ禍の影響を受けにくい代わりに、何かをきっかけとして大きく減少すると簡単に戻すことができません。

もし、コロナ禍で税理士事務所の売上高が半減したら、最後は人員整理に踏み切らざるを得ないでしょう。雇用調整助成金でその場をしのいでも、コロナが収まればお客様が戻ってくる…というビジネスではないからです。

つまり、固定性という安定と引き換えに “復元力”がとても低い。復元力が低いにもかかわらず固定費を維持することは危険ですが、実際に固定費を半減させたら復元力は完全に失われます。固定制売上と固定費比率の高さは基本的にセットです。

ただし、例外もあり、「飲食業特化型」税理士事務所が挙げられます。
(税理士業界も特化型が流行りです)

「飲食業特化型」には明確な理由があり、それは仕事をパターン化できる楽な業種だからです。比較的規模も小さいし、複雑な税制を使う必要もありません。パートスタッフ・外注だけで回すこともできる薄利多売モデル。仕組みがあれば、雪だるま式に顧客を増やすこともできます。

そのような事務所がコロナ禍でどのようになっているのかは分かりませんが、売上高が急減していてもおかしくはありません。ただし、労働力も変動費化できているはずなので潰れることもないはず。そして、コロナが収まれば、また顧客を増やしていくでしょう。復元力は非常に高いと言えます。

つまり、固定性売上と思われるビジネスでも、得意先次第で変動性売上と化す可能性があります。当然、費用も変動費化しておくことが必要です。

売上高の変動幅が大きいということは、それだけ顧客が離れやすく、戻りやすいビジネスを行っているということが分かります。

この困難な時期、固定性売上に憧れる企業も多いとは思われますが、税理士のような独占業務を扱う専門職を除けば、固定性売上(=離れにくい顧客)は企業としての地力が求められます。地力が求められるということは簡単に売上高を増やすことが難しく、固定費比率も高くなる傾向があります。また、固定性売上の方向に舵を切ったら、簡単に止めることもできません。

結局、問題となるのは、売上高が変動することではなく、コロナ禍のような外的環境が改善しても売上高が戻らない、つまり「得意先を持っていない企業」という現実です。

この2年…。自社の売上高の源泉が、どのような顧客属性に応じているのかを気づかせてくれました。従って、この事実を踏まえず、次に向かうことは危険です。

次に日本を揺るがす外的環境の変化が起こったとき、頼みの綱が得意先ではなく、公的なセーフティーネットということであれば、コロナ禍から何も学ばなかったということになるからです。

事業承継について考える

先月公表された令和3年度税制改正大綱で、事業承継税制の特例措置が令和9年12月末までの適用期限をもって延長しないことが明記されました。

ご存じのように、これは中小企業の株式を贈与又は相続等で取得した場合の贈与税・相続税について100%の納税猶予が受けられる制度です。適用を受けるためには令和6年3月31日までに特例承継計画を提出しておく必要があります。

ここで制度の詳細と適用の是非について論じることはしませんが、年齢的にも事業承継は、まだまだ先のことだと思っている方にこそ考えるきっかけにしていただきたいのです。

この税制を実際に使うかどうかは別として、とりあえず納税猶予の権利を得ておくために特例承継計画を提出していただくケースには共通点があります。

お子さんがいらっしゃるものの、後継者が決まっていないことです。

時代と言っていいのだと思います。昔と違い、多くの経営者が「子供には子供の人生がある」と考え、子供には自分の好きな道を進むようにと育ててきています。

ましてや世の中の変化のスピードが信じられないほど早くなり、3年後どころか来年すら見通しづらい経営環境です。子供に事業を継がせていいのか迷う気持ちも分かります。

しかし、経営者が50代半ばほどに差し掛かり本気で事業承継について考え出すころ、事業が比較的順調であればなお、その想いには変化が現れます。

株式の問題などを含めて社員への内部承継が実現困難であることを悟り、M&Aという選択肢も視野に入れ始めるも、「できれば我が子に継いでもらいたい」そう考え始める経営者が多いのです。

とはいえ昔と違い、この時点で子供への「洗脳」は全くできていません。
急に跡継ぎの話しをされても、子供の方は心の準備も何もできていないため、ことは簡単には進みません。無理もないことです。

もう1つの選択肢であるM&A市場はコロナ過を受けて活況です。しかし、コロナの影響を受けて業績を落としたことをきっかきに売却へと舵を切る「売り時を見誤った」企業が多く存在することもあり、市場は完全なる「買い手市場」です。

こちらが急に売りたいと思ったからと言って、その時には売れるとは限りません。
当たり前のことですが買い手にとって魅力に感じる事業・財務・タイミングでなければ買い手の手が上がることはないのです。

我が子への承継も、M&Aも決して一朝一夕にはいきません。
必要なのは経営者の覚悟と、それを受けての明確な行動による入念な準備です。

前回の税制改正大綱で見直しが明言された相続税・贈与税の一体課税については「今後、本格的な検討を進める」との記述にとどまりましたが、ここにメスが入れば事業承継計画にも少なくない影響があることは間違いありません。

思い通りに進まないことが起きるからこそ入念な準備が必要であり、それに要する期間を考えれば、事業承継は誰にとってもそれほど先のことではないはずです。

もし、本心が我が子への承継を望み覚悟を決めたなら、時代に逆らったっていいのです。