富裕層への課税包囲網!?

「出国税」創設!!
有価証券やデリバティブ取引など、一定の金融資産を持つ人が海外へ出国する場合には、その金融資産を時価で譲渡等したとみなして課税します!!
なんと、国家は富裕層へのさらなる外堀を埋める改正案を出してきました。
その背景には、富裕層がその所有する資産とともに海外移転をはかり、国内での課税を逃れる傾向が多くなっていることが挙げられます。
たとえばシンガポールや香港では、一定の金融資産の譲渡益には課税しないなど、その課税方法が国によって違うことも大きな要因です。
なお、この改正案ですが、実はすでにアメリカやオーストラリアなど先進諸外国でもすでに導入されている課税方式で、いずれは日本でも採用されるであろうといわれていたものでした。しかし先日の税制改正大綱に盛り込まれたのは想定外の早さだといわれています。
それだけ国家にとって、富裕層への対策は急務であることがうかがえます。
さて、この出国税の内容ですが、簡単にご説明いたします。
●対象者
国外転出(日本に住所等を有しないこととなる場合)をする者
●要件
(1)有価証券やデリバティブ取引などの金融資産を1億円以上有する
(2)国外転出する日前10年以内に、日本に住所等を有していた期間が5年以上である
●課税方法
国外転出時に有価証券等の譲渡やデリバティブの決済があったものとみなして、その含み益に対して所得税を課税する
というものです。
ただし、次のような規定も予定されています。
●その後帰国した場合
国外転出後5年以内に帰国した場合において、上記の国外転出のときに課税された有価証券等を引き続き所有していた場合には、その課税を取り消すことができる。
●納税猶予
国外転出をするときに譲渡等があったものとみなして課税される場合に、納税猶予を受ける旨の記載をした確定申告書を提出し、相当する担保を提供した場合には、国外転出の日から5年間はその納税を猶予する。(さらに申請により10年間の納税猶予とすることもできる⇒そして10年以内に帰国した場合で有価証券等を引き続き所有している場合には、5年と同様に課税を取り消すことができる)
上記のように「国外移転をするときに課税する」といっても、最長で10年間の納税の猶予や、課税の取り消しを規定しています。
言い換えれば、何が何でも出国時に課税する!!ということではなく、課税逃れだけはさせないぞ!という国家の意思がうかがえる法案といえます。
そのほかにも、次のように富裕層への包囲網は厳しくなっています。

  • 既に始まっている国外財産調書の提出にも、未提出者への罰則規定が適用される
  • 金融資産を1億円以上有する場合等、一定の要件を満たす場合には、確定申告時に所有するすべての資産を詳細に記載した財産債務調書の提出が義務化される
  • 所有する有価証券を国外証券口座へ移動した場合には、その金融機関がその情報を税務署へ通知する
  • マイナンバーが付された預貯金口座の情報を個人番号等で検索できるような体制構築を、金融機関に義務付ける

既にH27年より、所得税や相続税の最高税率も引き上げられており、今後も、一般のサラリーマンを含めた広い層への個人課税の強化を図りつつ、富裕層への課税ベースは今後もますます強化されるのは間違いありません。
富裕層への課税強化が、結果として経済格差の是正と富の再分配機能を促進させることとなるのかどうかはわかりませんが、自分を守れるのは自分だけという意識のもと、今後の動向は注視しておきたいものです。

スカイマーク、民事再生法

皆さまご存じのとおり、1月28日に国内航空第3位のスカイマークが民事再生法の適用を申請しました。最高益更新から3年も経たないうちに…ということが強調されています。
JALのケースもそうでしたが、航空業界は政治も影響するので破綻の原因を業績だけに限定することができません。
とはいえ、業績を見ずには始まらないので、今回はスカイマークをケーススタディに過去最高益の更新という点と、勝負をかけた大型投資という点から考えてみたいと思います。
まずは、以下のスカイマークの業績推移をご覧ください。
(スカイマーク公表決算資料より)

【スカイマーク・実績】

スカイマークがエアバスと大型旅客機購入で契約を結んだのが2011年2月。
当時のIR情報では、カタログ価格で約1,150億円と記載があります(為替レートは83円換算)。
業績が大きく上昇を始めた年度で、その翌年である2012年に最高益を計上しています。つまり、この頃までは十分に支払いが可能であると踏んでいたということになります。
なお、エアバス購入のための前払金が建設仮勘定に計上されています。
契約後から毎年積み上がり、2014年の3月期には建設仮勘定の額が手持ちの現預金の額を超えてしまいました。
前払金の支払いは当初から予定されていたことですので、問題は現預金の急減です。当然、2014年3月期の赤字転落も大きな要因です。
そして、前払金の支払いが2014年4月から滞り始めました。
初回の納品予定は2014年10月。そして、2014年7月にエアバスから解約通知が届き…。後は報道されてきたとおりですが、解約通知から半年後に民事再生法の適用を申請しています。
ちなみに、2014年6月に発表した2015年3月期の業績予想は以下のとおり。

【スカイマーク・業績予想】

この業績でエアバスの前払金をまかなえるはずがなく、キャッシュの破綻は目に見えていました。
また、やはり注目すべきは円安という要因です。
エアバス購入当時の換算為替レートが83円で、2014年の年間平均レートは106円近くまで上昇しています。
ドル建てでの前払金の支払いのたびに購入価格が上がっているようなもので、当初の見込み額を大きく超えたはず。 購入当時に為替レートが現在のようなものだったら、ここまでの大型契約を結んだかどうかは疑問です。
さらに気になるのはスカイマークの有利子負債です。 借入れがありません。
航空機材などはリースでまかない、運転資金すらも借りておりませんでした。
これはいざというときに素早く支援してくれるメインバンクがないことと同じです。
仮に、スカイマークにメインバンクがあり、素早い資金調達が可能であれば、違った結果になったかもしれません。
LCCとの激しい競争がなければ…、赤字に転落しなければ…、急激な円安がなければ…、エアバスが契約変更に応じてくれれば…。メインバンクがあれば…、国交省がJALとの共同運航を認めてくれれば…。
エアバスからの大型旅客機購入は、将来を見据えての投資だったことでしょう。
しかし、あまりにも長期にわたる航空機の調達計画は、経営環境の激変により納品にすら至りませんでした。
最悪の事態に対応するための備えも不十分だったと言わざるを得ません。
徹底した効率化と剛腕で鳴らした西久保前社長でしたが、その剛腕ゆえに最後は柔軟な対応に徹しきれなかったのでしょうか…。もともと西久保前社長は自ら上場させたベンチャー企業の創業者でした。その後にスカイマークの社長に転身しています。従って、スカイマークはベンチャー企業特有の、極端な行動を取り続けてきました。
これが成功の要因でもありましたが、諸刃の剣でもあります。
また、大きな勝負に出なければ問題はなかったのかもしれません。
スカイマークの業績の推移や採用した方針は、中小企業でもよくみられるパターンです。ですから、中小企業の経営者の判断にとっても十分参考になります。

  • 自社の業績を左右する要因が何か分かっているか?
  • その要因が悪化したときの業績を想定しているか?
  • 身の丈に合った投資であるか?
  • 投資と回収の期間が長期に渡るとき、回収に至るまで耐えうる体力はあるか?
  • いざというときに支援してくれるメインバンクはあるか?
  • 最後まで意固地にならずに柔軟に対応できるか?

仮に、スカイマークがこの難局を乗り切り、エアバスの大型旅客機を手に入れ、国際線に参入すれば…逆転ホームランを打てたのかもしれません。
しかし、逆転勝ちの勝率は、先行逃げ切りの勝率を著しく下回ります。
中小企業が逆転勝ちを狙いに行くということは身の丈にあった勝負とは思えません。
以上、スカイマークの業績推移に、為替レートを付け加えるだけで、見え方が変わるはずです。
皆さまの会社も、業績推移に影響を与えているであろう要因をいくつか探してみてください。
その推移によって、計画の見直しが必要かもしれません。計画が動き始めてから逆転ホームランを狙うような事態にならないように…。

「マイナンバー制度」の憂鬱

いよいよ私たち一人ひとりに番号がつけられる日が近づいてきました。
これに伴い、私たちの全ての預金が税務当局に把握される日も遠くないようです。
「マイナンバー制度」は、ご存知のように国民一人ひとりに番号を割り振って、所得や納税実績、社会保障に関して一元的に管理するというものです。この制度は個人だけでなく法人も対象としています。今年の10月から個人番号・法人番号の通知が行われ、来年、平成28年1月から順次、社会保障、税、災害対策分野で利用開始することが予定されています。
そして1月14日に閣議決定された税制改正大綱では、平成30年1月からマイナンバーを銀行の預金口座に適用することが盛り込まれ、銀行はマイナンバーによって検索できる状態で預金情報を管理する義務が課せられます。私たち預金者は法律上、銀行等に対してマイナンバーの告知義務は課せられませんが、銀行等からはマイナンバーの告知を求められるようになります。つまり、とりあえずは任意でスタートしておいて、義務化の是非については平成31年以降に検討するという見通しになります。
この「マイナンバー制度」導入によって、数年後には私たち個人・法人の資産情報が詳細に国に把握されることが想定されますが、中小企業経営においては、間もなく影響があるであろうことが容易に想像できます。
それは、昨年お伝えした「社会保険の強制加入」です。
マイナンバー制度が始まれば、「もう社会保険加入からは絶対に逃れられない」。
そう思った方がよいでしょう。
「政府は、今年度から国税庁が保有する企業情報をもとに厚生年金に加入していない企業を調べ、加入を求め、応じない場合は法的措置で強制加入させる」と昨年発表しています。
このことは、社会保険未加入の中小企業経営者にかなりの衝撃を与えました。
しかし、「マイナンバー制度」が始まれば、国税庁が情報を提供するまでもありません。簡単に未加入事業者が炙り出されてしまいます。
こうなると、「国税庁が情報を提供するのは、きっと大きい会社からで、うちみたいな小さい会社は、まだしばらくは大丈夫だろう・・・」などという淡い期待を抱く事すら、マイナンバー制度が始まれば意味がないことが分かります。
しつこいようですが、「マイナンバー制度」が始まれば、社会保険未加入事業者を社会保険庁が捕捉することが、間違いなく容易になります。残念ながら、もう逃げられないのです。であれば、社会保険に加入することを前提とした経営に切り替えるか、社会保険の適用事業所に該当しないように従業員5人未満の個人事業所になるしかありません。
しかし、現実には個人事業所になるという選択肢を選べる会社は、ほとんどないはずです。
であれば、一刻も早く現実に目を向けて、社会保険に加入しても利益が残せる経営を実行していくしかありません。現実に目を向けていけば、自ずとやるべきこと、やらなければいけないことは見えてくるはずです。
社会保険財政の悪化を背景に社会問題化している社会保険の問題。元はと言えば法律に従って強制加入を徹底してこなかった行政の怠慢が引き起こした問題です。それを制度自体が崩壊寸前であるにも関わらず、決して景気が良いとは言えない今この時になって「強制加入の徹底」など、本当に勝手な話で腹が立ちます。
しかし、だからこそ、この「社会保険の強制加入」をきっかけとして、皆さんの会社が万が一にも倒産するようなことがあっては絶対にならないのです!
「マイナンバー制度」が始まれば、預貯金を含む資産の状況や社会保険の加入状況などの様々な情報が税務当局に筒抜けになる時代に入ります。全てを監視されているようで、気分がいいものではありませんが仕方ありません。これからは、“全てを把握されている”ことを前提として、法律の範囲内で知恵を絞り税務対策を行っていくという意識を、今までにも増して強く持つ必要があります。ということはつまり、本当の意味で頼れる専門家を味方につけることが、今まで以上に重要になるでしょう。

Youtuberはあんなモノまで経費にできるのか!?

前回に引き続きYoutubeやアフェリエイトの確定申告をネタにして『必要経費』の話をいたします。

確定申告にあたっての最大の関心事は、何が必要経費となるのかということです。

例えばYoutubeのある番組では、大食漢の女性が毎回山盛りの料理を食べ食レポを行っていたり、またある番組では、人気キャラクターのおもちゃだけを次々とレビューしているものがあります。

番組登録者数、再生回数から推定すると年収で数百万はあると思われますが、この番組を作成するためにかかった飲食代や、人気キャラクターのおもちゃの購入費用は必要経費となるのでしょうか?

これらが必要経費となるのであれば、食べることが何よりも好きな人や、小さなお子さんがいらっしゃる親にとって、Youtubeは究極の『公私混同節税法』となり得ることになります。

Youtuberの中にはメインのチャンネルのほかに”サブチャンネル”を作っている方がいらっしゃいます。

表向きの理由は、動画作成の裏側やボツ集を公開したり、メインのチャンネルとは違うジャンルからの視聴者の獲得をすることにあるようですが、私は穿った見方をしてみました。(悪いクセです。汗)

メインチャンネルで商品のレビューを行っている人が、何故サブチャンネルでゲーム実況チャンネルやグルメチャンネル、果てには旅チャンネルや鉄道チャンネルを持っているのか?

前もって断っておきますが、ここからはすべて私の妄想の世界です。

Youtubeをやる方々は多かれ少なかれデジタルデバイスが好きで、もちろんプライベートで普段からゲームを楽しんでいると思われます。

ゲーム実況が再生回数を稼ぎやすいということもあるとは思いますが、もしかしたら、ゲーム実況やグルメリポートをすることで、購入したゲーム機やゲームソフト、外食費やお菓子の購入代を『合法的に必要経費化』させているのではないでしょうか?

購入したものや食べたもの、旅先での様子をYoutubeにアップすることでその動画から収入が発生します。

その収入を得るために、『直接』にかかった費用は『必要経費』という構図です。

もう一度断っておきますが、これは全て私の妄想の世界です。

Youtubeに動画をアップし収入を得ることで、あらゆる支出が必要経費となるというのであれば、やはりこれは究極の公私混同節税が実現してしまう可能性があります。

ここまでお読みいただいて「これはいいぞ!」と思われた方がいらっしゃるかも知れませんが、世の中、そんなに甘くはありません。

昨年にインターネットの"ライブチャット"によって得た収入に係る『必要経費』について争われた裁決について、その内容の一部が国税不服審判所で公表裁決事例として紹介されています。

ライブチャットサービス業務を行う請求人が主張する各費用のうち、少なくともパソコン等の購入費及びインターネット接続料金については必要経費に算入するのが相当であるとした事例(平成19年分~平成23年分の所得税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分・一部取消し・平26-05-22公表裁決)

事案では、ウェブサイト上でライブチャットサービス業務を行って収入を得ていた納税者が、平成19年~平成23年分の所得税についてまったく確定申告をしていなかったところ、税務署から本税と無申告による加算税の決定処分を受けたものです。
それに対して納税者が、業務の遂行上支出した『衣服費』、『化粧品』、『ダイエット用品』『室内装飾品』及び『食料品』等を必要経費に算入すべきであるとし争ったものです。

この裁決事例の興味深いところは、YouTubeやアフェリエイト等のインターネット関連から収入を得ることを前提とした場合に、納税者が会話レベルで「これって経費にならないの?」と考える、ありとあらゆる支出が否認されていることです。

一例をご紹介いたします。

  1. コートやジャケット、スカート等の洋服類
  2. バックや時計等の装飾品
  3. スーツケースやタンス、ミシン等の洋服関連品
  4. 登山靴、スキーウエア、カーキャリア等屋外撮影のための用具購入
  5. SDカードやデジタルカメラ、webカメラなどの写真撮影機材
  6. 健康食品、ダイエット用品、化粧品等の容姿をよく見せるための費用

まだまだ挙げれば切りが無い程に、沢山の支出を必要経費とすべく争っているのですが、その多くが「よくこんなものまで出したなぁ!」と驚かされるものばかりです。

今回の裁決の中で必要経費の解釈について、次のように述べられていますので引用します。

『(必要経費とは、)業務の遂行上生じた費用、すなわち業務と関連のある費用をいうが、ある費用が必要経費に当たるといえるためには、単に業務と関連があるというだけでなく、客観的にみてその費用が業務と直接の関係を有し、かつ、業務の遂行上必要なものに限られ、また、業務の遂行上必要なものというためには、その者の主観的な判断のみによるべきではなく、通常必要なものとして客観的に認識できるものでなければならないと解すのが相当である。』

上記の解釈を踏まえ、今回の結論は、若干の備品費とパソコンとインターネット接続料金の一部が必要経費として認められただけで、それ以外はすべて必要経費として認められませんでした。

それ以外の支出について一切の事業関連性が認められなかったかと言うと、中にはそのように判断されたものもありますが、その大部分が準備不足による証拠、証言能力の欠落によるものでした。

(納税者の)主張が総じて終始場当たり的で一貫性がなく、不自然かつ不合理な内容であり、証拠書類によって確認できない内容を無理に関連付けて述べるものと認められることから、全体として『到底信用することができない。』と記述されています。

つまり、税務署から過去5年分の税金を払うように処分が出たので、慌ててインターネット等から確認できる買い物のの履歴を検索し、いかにも事業と関係ありそうな、それらしい理由を並べて出せるだけ出したという状況です。

今回は税務調査ではなく無申告による決定処分を受けたことに対して、納税者が後出しで必要経費の算入を求めた事案ですが、これが税務調査であったならば、調査官が事業との関連性がない、ウソじゃないかと否認指摘をしてきた場合には、合理性のある証拠資料をもって反証できる準備をしておかなければ、ただ吠えているだけで何の意味もありません。

この事例を踏まえ、最低限、次のことを実行する必要があります。

  1. 業務との直接の関連性を裏付ける証拠を残す。(いつ、どこで、何故それが必要だったのか、金額 等)
  2. 一貫性のある説明が出来る用意をする。(そこにウソがなければ何も気にする必要はありません。)
  3. その支出が日常的に使用できるものである場合には、『事業割合』を考慮する。
  4. 記帳、記録は日頃からの記帳、記録でなければ、資料の証拠能力は認められない。

個人の確定申告では、必要経費の範囲を巡って税務署と争いになることが珍しくありません。

インターネットビジネスに関連する支出は、年配の調査官にとって理解に苦しむものが多くあります。

それだけに、自分の価値観に基づく主観的な意見を述べるだけでなく、通常必要なものとして、事業関連性を客観的に示す証拠づくりを日常的に心がけてください。

有給休暇の改正は、果たして「敵」か「味方」か・・!?

あなたの会社では、「有給休暇」を取得できますか?
労働基準法改正案が国会に提出されたようです。
昨年から報道はされていましたが、有給休暇の取得を従業員の希望を踏まえ、企業側からいつ取得するかを決定させることを義務付けるというものです。
簡単に言えば、企業側から有給休暇を取得することを義務付けるもので、これにより、従業員に有給休暇を確実に取得させることが狙いのようです。
当然ですが、現行の法律でも企業は従業員に有給休暇を取得させなければならないと定めています。しかし、実体としては従業員の自らが、いつ休むのかの時期を申請することが前提となっているので、その請求がなければ企業側は有給休暇を与えなくても違法ではない、ということになっています。
では、あなたの会社では、「有給休暇」を取得させていますか?
この改正により有給休暇を取得させることが義務化された場合、あなたの会社ではどのような影響があるでしょうか。
まず想定できるのが、
⇒有給休暇を取得したことにより出来なかった仕事を、他の日に残業してもらう必要がある
⇒残業による割増賃金の支払いが生じる
ということではないでしょうか。
そうすると、これまでより少ない勤務時間で同じだけの仕事をこなしてもらうには、今の仕事のやり方を変え、作業効率を改善させることが必要になります。
また、そもそもの日々の勤怠管理も見直さないといけないかもしれません。
長引く不況のさなか、すぐに効果が出るような「物を買わない・使わない」などの節約による方法は尽くしてきたかと思います。
しかし、長年続けてきた「社内のオペレーションの見直し」など、既存の業務フローや作業方法、あるいはその業務自体の要否など、見て見ぬフリをして手をつけてこなかった企業も多いのではないでしょうか。
細かい見直しレベルでも、例えば・・・

  • 今までは営業担当が行っていた(行うものと思いこんでいた)作業の分業化
  • パートさんには出来ないと思い込んでいた業務の分担化
  • 個々に任せていた業務の均一・同質化、マニュアル化
  • ネットバンキングの導入による振り込み・記帳等の作業効率化
  • 同、ネットバンキングからの仕訳取込みによる経理作業の軽減化

など、固定概念化されているものの見直しや、マニュアル化、IT化などは、大きな効果が期待できる可能性があります。また顧客の見直しにおいては、時間と手間ばかりがかかり収益に貢献しないような「招かざる客」というのも存在しているかもしれません。。。
今回お伝えしたかったのは、この改正により「残業代をどうやって減らすか」ではなく、 すべきことは「会社の根本的な合理化への見直し」にあるのではないか、ということです。
実際に有給休暇を取得させること、それ自体は、労働環境の改善につながることは間違いありません。また、見方を変えれば適切な休暇をとることで労働生産性が上がるなど企業側にもメリットは考えられます。
戦後直後に作られた労働基準法ですが、そもそもブルーカラーである労働者向けに作られた法律ともいわれており、ホワイトカラーへの適用自体がナンセンスであるという見方も存在しています。とはいえ、今後もこの「労働者寄り」の法律は、経営者には厳しい改正が繰り返されるのは間違いありません。
今回の改正をきっかけに、是非、企業内部の根本的な見直しをされてみてはいかがでしょうか。この改正を「味方」にするか、「敵」にするかは、経営者自身にかかっているのではないでしょうか。
◆追記
有給休暇の消化方法に、「時間単位付与」という制度もあります。これは有給休暇を時間単位で取得できるというものです。効率化の一つの方法になるかもしれませんね。
【年次有給休暇の時間単位付与】
【厚労省リーフレット】

平成27年度税制改正 ~中小企業の行く末~

昨年末に平成27年度の税制改正大綱が発表されました。政府がアピールしたかった点は事前に報道されていたとおりであり、それ以外は大綱に地味に記載されていたという感じでしょうか。
つまり、今回の税制改正大綱は特に目を見張るようなものはありませんでした。
もちろん、法人実効税率の引き下げは、多額の利益を計上している企業にとっては追い風となりますが、ある意味ではそれだけだったということになります。

法人税率の表

中小企業については、年800万円以下の所得に対して法人税率が15%に軽減されることが延長(平成29年3月31日まで)されたので、さらに実効税率が低くなります。
税率の引き下げは1年以上前からの話なのですが、法人税改革が具体的になってくると、税率以外のことも気にしていただく必要があります。
その基本的な方向性は、税率を引き下げて、課税ベースを拡大するという点です。一般の方は税率の増減に目が向きがちですが、実はそれよりも影響が大きいのが課税ベースの論点です。
例えば、「税率を1%下げるから、30万円未満の資産の即時償却は廃止ね!」と言われたら、皆さんどう思われますか?
今まではなるべく単価30万円未満になるように購入額を調整し、どんどん経費として落とすということをされていた中小企業が多いと思いますが、これができなくなると、そもそも利益が増えてしまうということになります。
これがいわゆる課税ベースの拡大です。税率が下がること、課税ベースが拡大すること、どちらの方が納税額が少なくなるかは計算してみないと分からないということになります。
ちなみに、30万円未満の即時償却というものも消費活動の後押しという側面から継続されている制度ですので、これがいつまでも続くということではありません。
そして、今回、数年後を見据えた課税ベース拡大の方向性がいくつか打ち出されました。その中でもインパクトが大きいのが、減価償却の償却方法を定額法へ一本化する検討です。
現在、建物などを除き、ほとんどの資産は定率法という減価償却方法が採用されています。定率法は定額法に比べて減価償却が早い(つまり、早期に費用化できる)ため、企業にとって有利な方法ですが、これを定額法に一本化するというのです。
例えば、200万円の普通自動車を購入すると、今までは最初の1年間で66万円費用化できていたものが、定額法になると33万円になってしまいます。
これだけで購入意欲が減退してしまうのが中小企業なのですが、「中小事業者等における設備投資への影響に留意しつつ、経済の好循環の定着状況等を見極めながら」検討すると政府は言っているので、もしかしたら中小企業は特例が設けられるかもしれません。
繰り返しますが、今後の法人税改革の方向性は、「税率は下げるけど、利益は大きくなる(これが課税ベースの拡大)ようにするね!」というのがポイントですので、これだけは頭に入れておいていただくのがよろしいかと考えます。
「おっ! 最近、経常利益率が高くなってきたな!」
と思っていたら、それは単に税制が変わっただけという勘違いも起こり得ます。
ただ、大きな流れで見ると、法人税制改革自体も大企業への影響を中心としているので、中小企業にはそれほど大きな影響を与えるものではありません。
「中小企業は大変だろうから、税制もとりあえず現状維持程度でいいよね?」
「大企業が良くならないと中小企業も良くならないでしょ? 中小企業は元々それほど税金を払っていないのだから、税制を大きく変えたって仕方ないじゃない。」
「まずはアベノミクスで大企業中心の成長戦略を進めるから、中小企業はその恩恵が回ってくるのを待ってね!」
と、安倍首相が暗に言っているのが今回の税制改正と、私は感じます。
こういう税制改正大綱を見ていると何とも悲しくなりますが、中小企業が疲弊してきているのも事実…。
中小企業が疲弊してくると、所得拡大促進税制などのような法人税減税措置も受けられず、そうなってくると、労働力不足に伴って従業員がさらに疲弊してくるということになります。皆さんが懸命に働いても賃金は増えず、社会保険料や消費税負担は増える…。
悲しいかな、目先の税金を気にしすぎて、従業員の生産性に目が向かない中小企業がどれほど多いことか…。
稼ぐ力がない中小企業は、税制でも取り残されます。稼ぐ力がある中小企業は、税金よりも従業員の生産性を重視しています。生産性を重視している中小企業の人件費は相対的に高くなるのも事実。人件費は高めでも十分に利益が出るのです。そのような中小企業には人材も集まるのもまた事実。
今年から契約書・領収書などの電子保存の要件が緩和されます。今までは紙で保存する以外、実質的に選択肢がなかったところに、電子保存の選択肢が加わります。これに応じて会計ソフト業界は開発を急速に進めていますし、このようなこと一つとってもバックオフィスの効率化を徹底していかないと、生産性の改善など永遠に進みません。
高所得者と低所得者の二極化が進んでいる日本の状況は、高収益中小企業と低収益中小企業の二極化が進んでいることと同じです。
安倍首相の成長志向に重点を置いた法人税改革は、結果として低収益中小企業の退場を促進することになる可能性が大いにあります。
稼ぐ力があってこその中小企業です。稼いでこそ色々と自由にできるのが中小企業の経営の醍醐味です。
まずは目先の税制になど捉われず、稼ぐ力をつけていくことが、中小企業の税金の最適化につながるということを理解していただいた上で、2015年も突っ走っていただければと考えます。

優先すべきは“生きること”

平成27年。いよいよ相続税改正による増税が幕を開けました。しかし増税とはいっても、相続税がかかる人は改正後も7%程度で、ほとんどの人に必要なのは、相続“税”対策ではなく、相続“争い”対策であることを先月のメールマガジンでお伝えしました。
このこと自体は事実です。しかし、相続において必要な対策は、相続“争い”対策であるということも、今や既に時代遅れになりつつあります。では、相続において、今この時代に本当に必要な対策とはどのような対策なのでしょうか?
繰り返しになりますが、以前からお伝えしているように、相続“税”対策が必要なのは、ほんの一部の富裕層といわれる人達です。そして、相続人間の争いを避けるための相続“争い”対策は全ての人達に必須です。しかし、現代において相続争いよりも、まず優先して対策すべきことがあります。それは“生きること”への対策なのです。このことは、私達人類の「寿命」が大きく関係しています。
日本人の平均寿命は1960年代が65歳前後、1970年代が70歳前後、1980年代に入ると75歳前後になり、ご存知のように、今や80歳を超えています。つまり、一昔前は60歳の定年を迎えると、多くの方は早ければ数年から10年ほどで相続を迎えるという事実に直面してきたわけです。そうすると当然に、定年後若しくは定年前から早めに「相続税対策」「相続争い」対策が必要になったわけです。
しかし、日本人の平均寿命が80歳を超えた現在、多くの方には定年を迎えた後、20年近い、いわゆる第2の人生が待っているのです。つまりこのことは、私達は定年後20年もの「働かない」、「収入が無い」時間を生きていかなければならないことを意味しています。
つまり、生きていくための対策、“生存対策”が必要なのです。
相続対策は財産を次の代に移転することを基本に考えていきますが、“生きること”の対策は財産を手放さないことを基本に考えなければなりません。
孫や子に贈る1人当たり1,500万円までの教育資金について贈与税が期間限定で非課税になる制度など、生前贈与を活用して相続財産を減らす対策を取る方が増えています。しかし、相続税対策を目論んで生前贈与をした結果、自分自身の老後資金が不足気味になってしまうといったケースも散見されるようになってきました。“相続税対策”を急ぐあまり、“生きることへの対策”が疎かになってしまうケースです。
“生きること”への対策の必要性が意味するところは、なにも「生きていくために必要な生活費を残しておくこと」に限りません。子供や孫に大切にされるには、それなりの財産が必要です。
なんとも嫌な言いかたかもしれませんが、これは事実です。必ずしもそうとは言えないかもしれませんが、貧しくて子供に生活費を頼ってくる親と、ある程度裕福で子供に生活費などを援助してくれる親のどちらが大切にされるか、考えてみてください。
今年もきっと世間には様々な相続“税”対策が流布されることでしょう。その中身は必ずしも皆さんの相続に有用な内容とは限らないどころか、手を出すべきではない策まで含まれています。人生80年~90年の時代です。相続“税”対策よりも、優先すべきは相続“争い”対策、さらに最も優先すべきは、ご自身が“生きること”への対策なのです。

YouTuberよ!確定申告に備えているか!

動画投稿サイトYouTubeに「Hello YouTube!!」のフレーズで始まる人気チャンネルがあります。
子供と一緒にいつも何気なく見ていたのですが、あるときにその方が私の地元出身者ということで一方的に片想いしています。(笑)
近頃、YouTubeにユニークな動画をアップすることで視聴者を増やしその広告収入で生計を立てている『YouTuber(ユーチューバー)』といわれる方々が注目を集めています。
有名なチャンネルの多くが商品のレビューやゲームの動画を配信していますが、中には幼稚園児と小学生と思われる三人姉妹がおもちゃのレビューをしているものや、旅先での観光情報や外食の様子をアップしているものもあります。
そんなYouTubeですが、どれだけ稼げるのかが気になります。
諸説あるのですが、お客様や知人の話を総括すると『動画再生回数×0.1円』というのが有力な線だと思われます。
つまり月に10,000回再生されたとしてもわずか1,000円。
これだけ聞いてもYouTubeだけで生計を立てるというのは誰にでもできることではないことがわかります。
それでもインターネットを使うことで手軽に小遣い稼ぎができるため、私たちの周りにもYouTubeだけでなく、アフィリエイトやオークションをやっている人は大勢いて、毎年この時期になると確定申告についての相談を受けます。
今回はそんなインターネットで収入を得ている人達の確定申告について話をしてみたいと思います。
質問が多い事項は次のとおりです。
(1) 申告をする必要があるか?
(2) 税務署にバレないか?
(3) どんなものが必要経費として認めれるのか?
(4) 自分の手間賃は経費としてみてもらえるのか?
(5) 何をどのように申告をしたらいいのか?
(6) 雑所得と事業所得のどちらで申告したらいいのか?
今回は質問の中でもっとも多い『申告をする必要があるか?』と『税務署にバレないか?』についてお話いたします。
この質問に答えるためにはまず『所得』と『収入』の違いを説明させていただく必要があります。
収入とは、通帳に入金された金額そのものの合計額をいいます。
所得とは、収入からその収入を得るためにかかった『必要経費』を差し引いた『儲け』のことです。
つまり収入が100万円あっても、必要経費が100万円かかっていれば儲けはゼロとなり申告の必要はありません。
そのため、家庭で不要になったものをインターネットオークションに出品するような場合には、通常、購入価格よりも高い価格で落札されることはありませんので申告の必要がないことがわかります。
もし仮に購入時よりも高く売れることがあったとしても『生活に通常必要な資産』の売却による儲けは税法上課税しない取り扱いとなっています。
申告が必要となる儲けは年間の合計額で判断され、インターネットによる儲け以外に給与収入が有るかどうかによって判断する必要があります。
確定申告が必要な儲けは次のとおりです。
(1) 給与収入がある場合・・・インターネットによる所得が20万円超の場合
(2) 専業主婦など他に収入がない場合・・・インターネットによる所得が38万円超の場合
基本的にはこの2パターンで判断していいのですが、例外があります。
所得が20万円以下で上記にあてはまらない場合でも、2ヶ所以上から給与をもらっていて確定申告をしなければいけない場合や住宅ローン控除、医療費控除などの適用を受けるために確定申告を行う場合には、インターネットによる儲けが1円であっても申告をしなければいけません。
つまり、何らかの理由で申告をする場合には自分に都合のいいものだけを“つまみ食い”できず、インターネットによる儲けを含むすべてを申告しなければならないと理解しておいてください。
詳細については、以下のフローチャートを参考にしてください。
《YouTubeやアフィリエイトの収入がある場合》

《オークションの収入がある場合》

次に『税務署にバレないか?』についてお話いたします。
正直にお答えします。
「私にもわかりません。」
ただ、そんなことを考えるくらいならちゃんと帳簿を付けて申告の有無を判断してください。
質問に対しての直接の回答にはなりませんが、税務署にはインターネット上の取引を専門に監視している『電子商取引専門調査チーム』の存在があることに触れておきます。
この部署ではインターネット上の取引を監視している『情報技術専門官』がおり、YouTubeやアフィリエイト、ネット販売などの動向をチェックし申告漏れの可能性を判断しています。
例えばYouTubeの場合には、再生回数からおおよその収入金額を把握することが可能です。
さらに、税務署では過去の申告から業種ごとの経費率を把握しており、それによって所得が生じているか否かを容易に判断することが可能となります。
その模様が紹介された国税庁の動画がありますのでご覧ください。
『(Web-TAX-TV)その収入、申告の義務があります!~情報技術専門官の仕事~』
YouTubeやアフィリエイトで収入を得るためのノウハウを公開している書籍やセミナーもあり、誰でも手軽に収入を得られるようになっていますが、申告を失念すると『無申告』として加算税を含めて追徴課税が行われます。
バレるかバレないかを考えるのではなく、必要以上の納税が出ないように事前に準備をしておくようにしてください。

ご存知でした?こんな場合の消費税の取り扱い!?

最近では、「カタログギフト」による贈答が随分と増えているようです。
あなたは、この「カタログギフト」を贈った場合の消費税、どのような処理が正しいと思われますか?
『商品券のようなものだから、非課税!!』
と、こう言われれば違和感はないように感じますが・・・正解はこうです。
『課税仕入れ』
消費税法では、国内において事業として対価を得て行われる資産の譲渡等を課税対象としていますが、一定のものは非課税と規定しています。
この一定の中には、「物品切手等」というものがあり、その中には「商品券」が含まれています。要は「商品券」の売買は非課税である、と法律が決めている訳です。
(非課税となる取引/国税庁HP)
従って、非課税である「商品券」を購入して贈ってもその行為は非課税としかならない訳です。
では、「カタログギフト」ではどうでしょうか。
先の一定のものの中には規定されていません。だから非課税にはならないということになります。
それにこの商品の実態を考えても、「カタログギフト」は、そのカタログに掲載された商品のカタログを贈った相手方が選択し受取ることを前提に、その対価として支払いをするものであり、言い換えれば、「一定の商品の販売とその送付」をパッケージした商品の購入ということになります。
従って、その購入時点で、仕入れ控除できる『課税仕入れ』となるのです。
これに似たもので、すこしケースが違いますが、同じ商品の購入なのに、購入場所で消費税の区分が変るものがあります。
印紙や証紙です。
先のリンクの国税庁HPの非課税の中の(5)には、郵便局等で譲渡した印紙や証紙は非課税になる旨の記載があります。
誰もがご存じでしょうが、印紙や証紙の購入が非課税であるのは、実はここの記載が根拠になっています。
しかし、この印紙等を購入しても非課税とはならず、課税仕入れにできる場合があります。
いわゆる『金券ショップ』です。
なぜでしょうか。
それは、先の国税庁HPに記載の「郵便局等の売渡し場所」というところにポイントがあります。
この売渡し場所とは、法令で定められた郵便局や法務局、あるいは正式に販売委託を受けたコンビニなどが該当しますが、実は、先の(5)では、この売渡し場所で販売された印紙や証紙は非課税という旨の記載になっているのです。
言い換えれば、それ以外の場所(金券ショップなど)で販売された印紙等は非課税にはならない、ということになるのです。
そこで、印紙等は金券ショップで購入することで、正規の『売渡し場所』で購入するより多少安く購入することができ、さらには消費税の計算上も仕入れ控除できることとなり、事業者からみれば経費節減と消費税の節税が図れる可能性があります。
これらの消費税、あなたの会社では、どのような処理をしていたでしょうか。
一度確認するとともに、処理方法と購入ルートの見直しをされてみてはいかがでしょうか。

必ずやってくる相続

相続税増税が始まりました。書店には相続税関連の書籍が並び、新聞や雑誌でも頻繁に特集が組まれています。そこに書かれている内容のほとんどは相続“税”対策。しかし、ほとんどの方に本当に必要になるのは相続税対策ではありません。“相続争い対策”です。
相続争いというと、財産がたくさんある家庭に起こるものと思われがちですが、ある程度の資産を保有している、いわゆる資産家と呼ばれるような人達は比較的早い段階から相続“税”を意識し、対策を練っているケースがほとんどです。その結果、相続が争いに発展するケースはごく稀なのです。
『うちには、争いになるほどの財産はないから大丈夫だよ!』
こんな家庭が一番危険です。実は相続争いの約8割を遺産5千万円以下のケースが占めており、昨年については10年前と比べて50%以上も争いの件数が増加していることが統計から分かっています。遺産5千万円以下ということは現時点の税制では、相続“税”がかからないことを意味しています。
つまり、相続税がかからない、少ない遺産をめぐる争いが増えているのです。
相続“税”が発生しなくても、どの家庭にも必ず“相続”は発生します。相続税増税を目前に控え、今一度ご自身の周りの“相続”について考えてみましょう。
では、なぜ遺産5千万円以下のケースでの争いが増えているのでしょうか。これこそが相続税増税をきっかけとした、書籍等により巷に溢れる相続に関する“中途半端な情報・知識”の弊害といえるのです。今まで相続のことなど考えたことがなかった人でも、“相続税増税”“終活”などのキーワードを耳にすることが増え、『もしや、我が家にも関連するのでは・・・』と書籍等で相続について調べます。相続について関心を持ち、知識を得ること自体はとても良いことです。しかし、その結果、肝心の相続対策を十分にとっていないにも関わらず、遺留分など、相続する側の人間の“権利意識”ばかりが高まってしまっているのです。
対策が不十分にも関わらず権利意識だけが高まれば、争いにならないほうが難しいといえるでしょう。
相続争いとなりやすいのは、例えば遺産が自宅土地と自宅建物しかないといった場合です。仮に長男夫婦が、亡くなった父親と自宅建物に同居していた場合、長男は、自宅土地建物を相続し、そのまま住み続けたいと考えるでしょう。しかし、そうすると同居していなかった次男には何も相続する財産がないことになってしまいます。そうなれば、次男は土地建物を売却して金銭を分けようと言いだします。しかし、売却すれば長男は住処を失ってしまいますので反対をします。こうなると、もはや争いは避けられません。
また、子供がいない夫婦の場合、『全ての財産を妻のA子に相続させる』との遺言を残しておくだけで、何の問題も生じませんが、遺言がなかった場合、夫の兄弟に相続権が発生してしまいます。このケースで、仮に遺産が自宅しかなく、夫の兄弟が相続権を主張してきた場合には、結果として自宅を売却せざるを得なくなるなど、争いは避けられなくなってしまいます。
上記のような場合でも、生命保険や遺言書を活用するなどして争いを避ける手立ては必ず存在します。相続税増税といっても課税の対象となる方は全国平均で7%程度です。そういった意味では引き続き相続“税”対策が必要なのは、ごく限られた人達といえます。
しかし、相続争い対策は全ての家庭に必要です。権利に対する知識を得るだけでなく、親族全員が幸せになれる遺産相続を実現するためには各家庭に合わせた相続対策が必要であることを認識し、必要に応じて専門家に相談してください。
相続の話は家族が死を迎えた時の話であり、当たり前ですが楽しい話ではありません。しかし、誰もがやがて死を迎えることは間違いありません。また、自分が亡きあと、家族が争うことを望む人など1人もいないはずです。家族が病気になり、相続が間近に迫ってからでは、対策が間に合わないばかりか、あまりに露骨に感じてしまい、誰もが相続の話をしづらくなってしまいます。相続の話は、『まだまだ先の話』と思っているうちにしておくべきなのです。
今年も残すところあと僅か。普段、親族皆が顔を合わせる機会は、そう多くはないはずです。今年の年末年始は、親族皆さんで相続について考えて話しあってみてはいかがでしょうか。それが、円満な相続の第1歩になるかもしれません。