「マイナンバー制度」の憂鬱

いよいよ私たち一人ひとりに番号がつけられる日が近づいてきました。
これに伴い、私たちの全ての預金が税務当局に把握される日も遠くないようです。
「マイナンバー制度」は、ご存知のように国民一人ひとりに番号を割り振って、所得や納税実績、社会保障に関して一元的に管理するというものです。この制度は個人だけでなく法人も対象としています。今年の10月から個人番号・法人番号の通知が行われ、来年、平成28年1月から順次、社会保障、税、災害対策分野で利用開始することが予定されています。
そして1月14日に閣議決定された税制改正大綱では、平成30年1月からマイナンバーを銀行の預金口座に適用することが盛り込まれ、銀行はマイナンバーによって検索できる状態で預金情報を管理する義務が課せられます。私たち預金者は法律上、銀行等に対してマイナンバーの告知義務は課せられませんが、銀行等からはマイナンバーの告知を求められるようになります。つまり、とりあえずは任意でスタートしておいて、義務化の是非については平成31年以降に検討するという見通しになります。
この「マイナンバー制度」導入によって、数年後には私たち個人・法人の資産情報が詳細に国に把握されることが想定されますが、中小企業経営においては、間もなく影響があるであろうことが容易に想像できます。
それは、昨年お伝えした「社会保険の強制加入」です。
マイナンバー制度が始まれば、「もう社会保険加入からは絶対に逃れられない」。
そう思った方がよいでしょう。
「政府は、今年度から国税庁が保有する企業情報をもとに厚生年金に加入していない企業を調べ、加入を求め、応じない場合は法的措置で強制加入させる」と昨年発表しています。
このことは、社会保険未加入の中小企業経営者にかなりの衝撃を与えました。
しかし、「マイナンバー制度」が始まれば、国税庁が情報を提供するまでもありません。簡単に未加入事業者が炙り出されてしまいます。
こうなると、「国税庁が情報を提供するのは、きっと大きい会社からで、うちみたいな小さい会社は、まだしばらくは大丈夫だろう・・・」などという淡い期待を抱く事すら、マイナンバー制度が始まれば意味がないことが分かります。
しつこいようですが、「マイナンバー制度」が始まれば、社会保険未加入事業者を社会保険庁が捕捉することが、間違いなく容易になります。残念ながら、もう逃げられないのです。であれば、社会保険に加入することを前提とした経営に切り替えるか、社会保険の適用事業所に該当しないように従業員5人未満の個人事業所になるしかありません。
しかし、現実には個人事業所になるという選択肢を選べる会社は、ほとんどないはずです。
であれば、一刻も早く現実に目を向けて、社会保険に加入しても利益が残せる経営を実行していくしかありません。現実に目を向けていけば、自ずとやるべきこと、やらなければいけないことは見えてくるはずです。
社会保険財政の悪化を背景に社会問題化している社会保険の問題。元はと言えば法律に従って強制加入を徹底してこなかった行政の怠慢が引き起こした問題です。それを制度自体が崩壊寸前であるにも関わらず、決して景気が良いとは言えない今この時になって「強制加入の徹底」など、本当に勝手な話で腹が立ちます。
しかし、だからこそ、この「社会保険の強制加入」をきっかけとして、皆さんの会社が万が一にも倒産するようなことがあっては絶対にならないのです!
「マイナンバー制度」が始まれば、預貯金を含む資産の状況や社会保険の加入状況などの様々な情報が税務当局に筒抜けになる時代に入ります。全てを監視されているようで、気分がいいものではありませんが仕方ありません。これからは、“全てを把握されている”ことを前提として、法律の範囲内で知恵を絞り税務対策を行っていくという意識を、今までにも増して強く持つ必要があります。ということはつまり、本当の意味で頼れる専門家を味方につけることが、今まで以上に重要になるでしょう。