とある節税商品を考察する

その商品は広義の保険商品であり、平成23年10月に商品改良がされました。
掛け金は全額損金になり、最高月額20万円、年額で240万円まで払い込むことができます。一年分を前納することもできるため、決算対策としても有効です。
ただし、一事業者につき限度額は800万円までであるため、トータル掛け金が800万円に達した場合には、それ以上積み増しすることができません。
一定期間経過後に解約をすることで、相応の解約返戻金を受け取ることができ、その解約返戻率の推移は以下の通りとなります。

特筆すべきは、(たった)40ヶ月以上掛けることで解約返礼率が100%に達するという、立ち上がりの速さです。(既存の保険商品ではなかなかありません。)
払い込み時に全額損金になっていたわけですから、解約返戻金は全て収入となり、その儲けに対して税金を支払わなければなりません。
取引全体でみれば税金の納付額は同じになる、つまりは“課税の繰り延べ”であり、図示すると以下のようになります。

「なんだ、単なる課税の繰り延べか・・・」と思わないでください。
本当の節税効果をこれからご説明します。
この商品は、先ほども説明しましたが、40ヶ月掛けることで返礼率が100%に達し、その後はいつ解約しても100%の返礼率をキープします。
つまり、最適なタイミングを見計らって解約することができるため、よくある節税保険のように、“解約のピークを過ぎたら大損してしまう”ということはありません。
この性質と、法人税の税率構造をうまく利用することで、単なる課税の繰り延べではない、純粋な節税効果を得ることができます。
現行の法人税は利益(所得)が800万円までは18%の軽減税率であり、800万円を超えると30%の税率となっています。
利益が800万円以上出ている年度に、この商品の掛け金を払うことで30%の節税効果を享受し、かたや、大規模な修繕や、退職慰労金の支出などで利益があまり出ない、もしくは赤字の年度に解約をぶつけることで、18%の課税で済ませることができます。

つまり、入口は30%の節税、出口は18%の課税とすることで、差引12%の税率差額分のキャッシュを蓄えることができるのです。(最大96万円)
以上のように、うまく活用することで、約100万円の節税効果を図ることができます。
決算時には是非ともご検討ください。
 
PS:
大事な保険機能の説明を忘れていました・・・。一応保険商品の一種ですから。
『取引先が倒産等にあった場合、連鎖倒産を防ぐために、貸付を受けることができる』
PS2:
度々申し訳ありません・・・。うっかり、一番大事なことを伝え忘れていました(汗)。
商品名と、販売元をご紹介いたします。
『商品名:経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)』
『販売元:日本国(JAPAN)』

大節税時代

が、到来するかもしれません。
ご存じのように、「節税」とは税率の差を活かして、納める税金を“最終的に”
少なくする手法です。
税率の差は所得区分にあるので、例えば“法人税から所得税”のように、税率が
高い所得から税率が低い所得へ移転することによって、税金が少なくなります。
もちろん、会社や個人によって状況が異なるので、節税額は個体差があります。
また、法人でよく使われる生命保険のように、法人税という同一所得区分内で
行われるのは“なんちゃって節税”であり、一時的に納税を繰り延べているだけ。
では、大節税時代が到来するとはどういうことでしょう?
それは、法人税という同一所得区分内で税率が下がる事がほぼ確定している
からです!
平成23年度の税制改正において、法人税実効税率が5%下がる予定でした。
法人税が下がれば、無理に節税する必要がないため、“なんちゃって節税商品”
は販売不振に陥ってもおかしくない・・・。
しかし、現在、法人税実効税率5%の引き下げとセットで、震災復興のため3年間
の臨時増税が検討されています。
これは、恒久的な減税と臨時的な増税を組み合わせたものです。
つまり、将来的には法人税は下がるけれども、当面は増税される・・・。
勘の良い方はお気付きだと思いますが、ここで“なんちゃって節税商品”が大活躍!
税率が高いうちに“なんちゃって節税商品”で納税を繰り延べ、臨時増税が終了
したら“なんちゃって節税商品”を解約。
そうすることにより、現在予定されている法人実効税率5%の差を、法人税という
同一所得区分で節税出来るのです。
臨時増税があるので、期間は更に延びました。
なんと、今ならもれなく“なんちゃって”が取れてしまう!
そして、これを売り文句に“なんちゃって節税商品”のベンダーは大攻勢を仕掛けて
くるかもしれません。
もちろん、臨時増税が終了すれば、“なんちゃって節税商品”は解約するのが自然
な流れであり、その結果、解約年度においてまとめて税金を支払う事になります。
ここで気を付けなければならないのが、経営者の心理・・・。
「そんなにたくさんの税金は払いたくない!」
納税時には税率が下がっているので節税効果は受けていますが、数年間繰り延べ
ていた分をまとめて払う事になるので、税額としては大きくなります。
ここで、ベンダーは囁きます。
「それなら、解約資金を使ってこの商品に・・・」
あるいは、
「解約は止めて、もう何年か様子をみましょうか? 例えば赤字になったときに解約
すれば、納税額が少なくなったり、赤字の補てんが出来て助かりますよ・・・」
結局はキリがない!
と、この大節税時代の流れを、今のうちにお伝えしておいた方が良いかなーと考え、
このメールマガジンの内容となりました。
売るのが上手なベンダーは、最近このような売り文句を武器に営業を仕掛け始めて
いますのでご注意を(笑)
タックス・プランニングなんて響きの良い言葉を使うベンダーもいますが、言葉に踊ら
されず、出来る範囲内で節税を行いましょう。
中には、節税するために借入れを行ってしまう中小企業もありますので・・・。
結果としてリターンが上回っても、こういうのって何か違いますよね。

法人成りブーム再来か!?

長らく滞っていた平成23年度税制改正ですが、民主、自公3党で合意の
とれた部分だけを抜き出し法案化したことでようやく可決にこぎつけました。
実は、今回成立した項目の中には『消費税の免税事業者要件の見直し』が
含まれていることから、これを機に個人事業者が法人となる、
『法人成り』の検討を始めた事業者も少なくありません。
私も、この2,3ヶ月の間に数人の方々からご相談を受けました。
平成23年度中に法人を設立することにより、現在、新設法人に認め
られている、設立から2年間の消費税の『免税』を受けることが狙いです。
これについては以前にお話していますのでそちらをご覧ください。
その法人成りの質問をいただく際に、よくいただく質問が
『社会保険に加入するとどうなるのか?』というものです。
社会保険に加入した場合、従業員と会社で保険料を折半することと
なっていることから、その経費増が気になるというものです。
個人事業者については、適用業種であって常時5名以上の従業員を
使用する場合には社会保険の加入が強制となっています。
従業員が5名未満の場合や、農林業、美容業、飲食店などの一部の
業種については、社会保険の加入が『任意』となっており、負担増となる
ことから加入するケースは少ないと思われます。
しかし、法人の場合には、従業員数に関係なく社会保険への加入が『強制』
されており、たとえ一人オーナー会社であっても、社会保険への加入が強制
されることとなります。
その他にも社会保険への加入が注目されている理由があります。
それは、ハローワークが行っている『求人』の取り扱いです。
多くの中小企業はハローワークを利用し求人を行っていますが、
近年、社会保険に加入していない事業所について、ハローワークでの
求人を受け付けない動きが強まってきています。
社会保険に加入していない会社は求人を出しませんということです。
この件に関して随分前に厚生労働省から報道発表されています。
『ハローワークにおける厚生年金への加入が明示されていない求人への
社会保険事務所と連携した対応等について』
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/04/h0419-5.html
これにより、社会保険加入への関心が高まっています。
それでは、社会保険に加入した場合に会社が社員一人当たりに支払う
保険料がいくらになるかご存知でしょうか?
会社が支払うこととなる保険料の計算は次のとおりです。
(注)
(年収×25.538%)÷2
(注)
健康保険料(東京) 9.48 %
厚生年金保険料 16.058%
以下のケースで負担することとなる保険料を計算してみます。
≪設例≫
年収平均500万 従業員数 10名
(500万円×10名25.538%)÷2=6,384,500円
いかがでしょう、社会保険に加入した年から、これだけの利益が吹っ飛ぶ
計算になります。
利益率が50%の会社なら、売上高にして約1280万円に相当する利益です。
それだけではありません。
厚生年金の保険料はこれから毎年アップすることが
すでに決まっています。
それ以外にも『昇給』による社会保険料の増加も考えなければいけません。
たとえ会社は成長しなくても、ある程度のレベルの社員を雇っていたい場合には、
一定の昇給は、その社員の生活最低保障として必ず必要になってきます。
その場合、社会保険負担も昇給に比例して必ず増加していきます。
みなさんは、この負担を無視できるでしょうか?
税務上の有利不利は、経営上における重要な判断ポイントとなります。
しかし、それだけを基準として法人成りを考えることは明らかに間違っています。
目先の利益にとらわれ、将来にわたる重要な判断を誤らないように
していただきたいと思います。
そこで、今回、社会保険に加入する場合のメリット・デメリットと
法人成り・経営上の判断ポイントについての解説音声を作成いたしました。
詳しくは、こちらをご覧ください。
この音声に収録されている内容は、その辺の書籍には書いていない
『経営者のための社会保険の知識』です。
この音声をお聞きいただければ、経営者に必要な社会保険の知識は十分
に修得いただける内容となっています。
社会保険の加入時の参考にしていただければ幸いです。
詳しくは、こちらをご覧ください。

路線変更

ビックリするくらいニコリともしませんでした。
早朝からビラ配りを行っていたその政治家は・・・。
それは新首相に就任した野田さんのこと。
私が野田首相の選挙区地域に住んでいたため、朝の通勤時に駅前でよく見かけました。
鳩山さん、管さんと続いた後の首相としては、逆にあの落ち着きすぎる雰囲気が功を奏するかもしれません。
そして、野田首相の誕生で、増税路線が明確になりました。
この増税路線が今後の日本にどのような影響を与えるのか?
今はただ見守るしかありません。
ところで、首相交代の度に行われる路線変更。
企業経営とも共通していると思いませんか?
これを企業に例えると、社長交代による路線変更です。
特に中小企業の社長交代では、必ずと言ってよいほど路線変更が行われます。
まるで、前社長(大抵は親ですが)の影響を振り払うかのように・・・。
結果をいち早く出したいがために、急激な改革を推し進めようとするケースが多いですが、中々上手くいかないのが現実のところ。
当然、単なる前社長の路線否定では上手くいきません。
あるいは、会長にとどまっている前社長に遠慮して、中途半端な改革で挫折する例も少なくない・・・。
例えば、管さんのように脱原発の方向性を“バチンッ!”と決める事自体はそれほど難しくはありません。
問題は、実際に線路を敷く作業です。
仮に方向性が理想的であったとしても、実際に線路を敷く閣僚や官僚が付いていけなければ、画にかいた餅になってしまいます。
そして、行き詰った状態で途中交代・・・。
しかし、中小企業の社長に途中交代は許されません。
方向性を決め、線路も敷き、さらに結果の責任も負わなければならないのです。
方向性(=戦略)を決めていない中小企業は稀ですが、線路(=戦術)を上手く敷けている中小企業は同じくらい稀です。
方向性が正しいか否かは別問題で、進んでから間違いと気付いたら修正すればよいだけの話。
政治を見ていてもお分かりのように、企業経営も結局は実行レベルで先に進まず破綻しています。
この点、線路敷きを上手く進めている中小企業を見てみると、社長自ら先頭に立って幹部やスタッフに十分な説明を行い、信頼出来る外部の専門家からの協力も得ています。
社長自ら何から何まで行う必要はありませんが、その段取りは必要です。
しかも、企業の場合は自社の路線変更のみならず、国の路線変更にまで左右されます。
ここで話は戻りますが、今回の増税路線。
増税で一番問題となるのは、税金が増える事自体ではなく、資金繰りに大きな影響を与える事です。
税金にばかり焦点を当てていると、気付かない間に資金繰りが悪化しています。
増税後には生命保険を代表とした節税商品がブームを迎えるかもしれませんが、色んなところで節税をしているがために、回り回って借入金が増え、そのために多額の利息と信用保証料を支払っているなんて企業は腐るほどあるのです。
役員報酬の決め方一つにしても、再検討を何度繰り返さなければならない事か。
増税路線となれば税理士の判断による影響も少なくありません。
新規で契約するお客様の前の税理士の処理を見ると、ときどき怖くなる時があります。
税理士の判断一つで企業が破綻しかねないと・・・。
時の首相の一声で経営に大きな影響が出てしまうのは残念ですが、これが現実です。
改めて自社の方向性を見つめ直す良い機会かもしれませんね。
戦略なくして変化はあり得ないのですから。

最高の“棚ぼた”税制ができました

“棚ぼた”税制の名前は、『雇用促進税制』。
(以前からある制度ですが、マイナーチェンジを繰り返し、平成23年6月の改正で
今に至ります。)
最初に結論をいいます。
『人を採用すれば、一人当たり20万円の税額控除をうけること
ができます』
2人採用で40万円、4人採用で80万円、10人採用で200万円!!
残念ながら無条件ではありません・・・(当然ですが)、要件の確認に入りましょう。
まずは大雑把に確認したい方のために、大雑把な要件から。
 
【大雑把な要件】
(1) 1年間に増やす人数は、“2人以上”です。
(2) 前期末の社員数に対して、増やす割合は“10%以上”です。
(例:前期末30人、今回増やしたのが3人であれば、3人÷30人=10%でOK)
(3) 適用事業年度は、平成23年4月1日~平成26年3月31日までに開始する
事業年度です。
「おっ!? 要件に当てはまりそうだ!」
と思われた方は、さらに細かい要件の確認に移りましょう。
 
【細かな要件】
事前に断っておきますが、ここからは専門用語が飛び交います。
(1) 青色申告書を提出していること(通常は当てはまります。)
(2) その年度と、前年度に、会社都合による退職者がいないこと(つまりクビ・・・)
(3) 採用する従業員は、雇用保険の一般被保険者であること。
(4) 適用年度の給与等の支給額が、比較給与等支給額以上であること。
(専門家へ確認を。通常は当てはまります。)
(5) 事業年度開始後2月以内に、雇用促進計画を作成し、ハローワークへ
提出すること。
(そもそも施行されたのが6月ですので、平成23年4月1日から8月31日までの
間に開始する事業主の方の提出期限は、10月31日までです。)
 
以上の要件を全て満たすことで、冒頭の税額控除を受けることができます。
この制度は、その名称通り、雇用を促進させるための制度です。
国の思惑では・・・。
実際はどうでしょうか、一人当たり20万円の税額控除を受けられるからといって、
そのために人を採用する会社はありません。
(0.1%くらいの気持ちの後押しにはなるかもしれませんが・・・)
結局は“棚ぼた”税制でしかない、つまり、この制度があろうとなかろうと、知って
いようといまいと、普段通り人を採用した会社が、偶然、要件に適合すれば、
結果的に優遇を受ける制度でしかないのです。
しかしながら、あくまでも申告制度です。こういった制度にはよくある話ですが、
知らなければ、それまでです。
(テレビCMでもやってもらわなければ、なかなか周知されません。)
優秀な会社は、税制等に対し、常にアンテナを張り続け、自社に有益な情報を
キャッチします。
だからこそ、このような恩恵にあずかることができ、また、そういった姿勢があるか
らこそ優秀な会社であり続けることができるのです。
要件に当てはまるのであれば、忘れずに適用を受けましょう。

消費税増税で値下げ?

「消費税がいつ増税されるか?」
という議論は、既に無意味な時期に突入しているのはご存じの通り。
今は2011年8月。
当初、政府は2015年までに10%への段階的引き上げを検討中でした。
その後右往左往しているで、どうなるかは分かりませんが・・・。
しかし、当初の議論の流れを前提にすると、来年は無理でも2013年には
増税されてもおかしくはありません。
過去、消費税3%の導入と5%への税率引き上げは4月に実施されています。
仮に、2013年4月に1回目の増税が行われるとすると、残り2年を切っている・・・。
今日から3回目の決算を迎えるときには、既に増税されているかもしれません!
従って、そろそろ“消費税の増税までに何の準備をしておくか?”という議論に
移らなければなりません。
これを怠ると、業績が“ガクン”と下がってしまう可能性もあります。
そこで、今回は消費税増税に合わせて“ガクン”と業績が下がってしまう
企業の1パターンをご紹介します。
それはどんな企業かと言うと、
「消費税を上げると物が売れなくなり、企業の利益が下がり、法人税も
下がる! だから、経済や税収の事を考えると、消費税の増税は悪影響
でしかない!!」
という議論に乗ってしまう企業です。
当然、消費税が上がると商品及びサービスの販売価格も上がります。
仮に5%から10%に上がると・・・
105円(税込み) → 110円(税込み)
税金とはいえ、消費者にとっては値上げと一緒ですから、購入意欲が減少して
しまうのは仕方がないことです。
しかし、この議論に乗ってしまう企業の消費税増税後の販売価格は以下の
ようになります。
105円(税込み) or 108円(税込み)
つまり、販売価格が上がる事によって売れなくなる事を恐れ、増税後も元の
販売価格を維持するか、その真ん中の販売価格を採用します。
消費税率10%での105円(税込み)の本体価格は95円、108円(税込み)の
本体価格は98円。
元々の本体価格は100円ですから、それぞれ5%、2%の値下げとなります。
これを年商1億円の企業の例で当てはめると以下の通り。

この例を見るといかがでしょう?
先程の議論、物が売れなくなったから経済や税収が悪化したと言いきれない
のではないでしょうか。
つまり、企業が元々の消費税抜きの販売価格を維持出来なかった事に原因が
あるという見方も出来ます。
仮に、105円(税込み)を維持した事により販売量が増え、値下げ前の売上高を
維持できたとしても、それは瞬間風速です。
販売量が元に戻れば企業体力が持つはずもなく、いずれ110円(税込み)に
しなければなりません。
そして、次に110円(税込み)に引き上げた段階では、それは消費税の増税
ではなく、“値上げ”です。
タイミングを逸して“値上げ”をすれば、販売量の減少に拍車がかかります。
それでも販売量を維持出来るのは、きちんとブランディング出来ている一部の
企業だけ。
消費税の増税は、これが最後ではありません。
皆さんは、素直に消費税を価格に転嫁するのと、しないのと、どちらを選択
しますか?
するのであれば、販売量減少に耐えられるように、値上げや原価率の低減を。
しないのであれば、抜本的に収益構造を変えておかなければなりません。
そして、これらは今から行っておかなければ間に合いません・・・。

草は濡れてしまっているけれど・・・

この国が溶けている・・というタイトルの本もあるようですが、
本当に、この国は溶けています。
ついに、昨年12月に発表された税制改正大綱にもとづく税制改正案は、
そのほとんどが通らないという前代未聞の事件が起きてしまいました。
国の基盤の中でも、最重要の税制が、法案が通されないまま放って
おかれているという事実は、異常です。
このことは、震災発生とは何ら関係はありません。
・・・というか、現在、日本で起きている多くのことは、震災前から、起きて
いたことや兆候が現れていたことです。
震災後の景色は、震災前の景色でもあるのです。
そして、震災前の景色の一つとして、税制改正案も通らなかったというのです。
例年通り、当社では、改正案が通る前提で、お客様へのアドバイスを行い、
準備を進めてきました。
幸い、改正案に基づいた準備は、すぐに実行されるものではありません
でしたから、事なきを得ていますが、こうしたことが続くようでは、安心した
対策も取れません。
この国は、本当に、異常事態になってしまっているのだと思います。
この国が、このまま溶けてしまうのかはわかりません。
ただ、さらに、経済の乗数効果が失われていくのは見えています。
当初出されていた改正案の法人税5%減税は、乗数効果が落ちてしまって
いる日本の経済にいくらかの好影響が期待されました。
ところが、震災復興が理由とは言え、法人税と所得税の増税が方向的に
避けることは不可能のようです。
すると、当初とは、逆に、日本経済の乗数効果は、さらに落ちることでしょう。
昔の日本経済は、良く干した草のように、マッチで小さく火を付けるだけで、
火はみるみる大きくなっていきました。
しかし、今の日本経済は、草がどんどん湿っていっています。
一生懸命火を付けても、火は広がらないわけです。
そして、溶けていく政治体制は、増税や不信といった湿り気を、日本経済に振り
まいて、その潜在力をどんどんダメなものにしています。
さて、こういう状況下で、私たちは何をすべきでしょうか?
残念ながら、前向きな答えはありません。
草が湿っているのですから、じっと待っているしかないのです。
もちろん、じっと待つ者が増えれば、さらに草は湿ります。
しかし、慌てて、湿った草に火を付けようとすれば、自分が損をするだけです
から、誰もが、他者を先頭に立てようとするでしょう。
気づいてみたら、経済環境は、ババ抜きの環境になってしまったのです。
もちろん、震災復興関連や住宅業界のように、現在、好調の業界もあります。
昔のように、一緒くたに全体を語ることができる時代ではありません。
しかし、あえて全体で見れば、昔は早い者勝ちの経済であり、今は、ババ抜きの
経済といえるでしょう。
ただし、ありがたいことに、このことがわかっていれば、草が湿った状況でも
ビジネスチャンスがちゃんとあるのも日本です。
人口1億人以上の国には、私たちが思う以上に、市場チャンスがあるのも
事実です。
全体としては、草は湿っていますが、その湿った草の固まりの片隅には、
まだまだよく燃える草があるのです。
国は、溶けてしまっていますが、溶けた環境の中からチャンスを探していくのは、
ある面で、仕事師としてやり甲斐のある環境ともいえると思います。

新聞記事の私のコメントを補足しておきます

日経新聞電子版に、私のコメントが掲載されました。
コメントはこちら
(日経新聞電子版の会員でない方は会員登録をしてからご覧ください)
武富士事件とは、武富士創業者が長男に多額の生前贈与により節税を
行ったことについて、国税と争っていた事件で、2月の最高裁の判決で、
国税側が敗訴し、長男に対する課税処分が取り消しになった事件のことです。
長男は課税処分後に延滞税を含めた約1600億円をいったん納付して
いたため、判決確定後に納付していた税金の還付を受けましたが、この時に、
税金と一緒に還付加算金(400億円)も受け取っています。
還付加算金とは、納め過ぎた税金の利子にあたるもので、現在は年利4.3%です。
この利率は、現在の低金利を考えると、大変高い金利のため、このような制度で
よいのかが問題視されています。
この記事に対して、日経新聞電子版では、私のコメントは次のように扱われて
います。


銀行の預金利子が1%にも満たない超低金利時代に、
4%を超える還付加算金の高利率は妥当といえるのだろうか。
専門家の間でも意見は様々だ。
エー・アンド・パートナーズ税理士法人(東京・千代田)代表の岡本吏郎税理士は
「納税者の税金滞納を防ぐため、延滞税の利率は一定程度高くあるべきだ。
それと同様に、還付加算金の利率が高ければ、今度は国に対するペナルティーに
なり、武富士の訴訟のような国税当局による行き過ぎた課税処分の抑止にも
つながる」との見方を示す。


そして、私のこのコメントの後に、現在の制度では金利が高すぎだとする青山学院
大学大学院の佐藤正勝教授(租税法)のコメントが掲載されています。
私のコメントは、この記事の内容で間違いありませんが、
私が、コメントで最も言いたかったことは、こういうことではありませんので、この
メールマガジンで補足をしておこうと思います。
今も説明したように、税金は、少なく払うとペナルティーがあります。その代表的な
ものが、罰則的金利に当たる延滞税です。
そして、国が、私たちから税金を取りすぎた場合も、同様の罰則があり、それが
還付加算金です。
これらの金利には、罰則的意味合いがあるため、市場金利よりも高くなっており、
いわゆる公定歩合にあたる金利に4%を加えたものとなっています。
そして、納税者側にも国側にも、こうした懲罰的金利を用意することで、脱税や
無理な取り立てを抑制するようになっているわけですが、実は、納税者側と国側が
平等なわけではありません。
私たち納税者側が払う延滞税などは、いわゆる経費にすることが
できないのです。
しかし、国から取得した還付加算金には、税金がかかります。
したがって、今回の武富士事件でも、国から取得した400億円の半分は税金で
納めることになります。
また、納税者側がかかる延滞税は、二ヶ月を超えると14.6%という懲罰的な
金利になります。
つまり、納税者と国は、平等な制度の元にあるわけではないのです。
今回の日経新聞の記事は、趣旨が違うところにありますから、この私の指摘が記事
になることはありませんでしたが、最も重要なことは、この削除された部分にこそ
あると思っています。

法人税の減税見直しで起こること

税制改正で決まった法人税減税がなくなりそうです。
しかし、今回の政府の決定は、
各種特例を廃止して、税率下げを図りました。
税率下げはなくなりましたが、廃止した特例の復活はありません。
さらに、役員報酬に対する所得税の増税も、そのままです。
震災復興という国家目標がありますから、
致し方ないところもあります。
今は、国民全員が耐えるという時期なのでしょう。
しかし、意外に思うかもしれませんが、この決定を喜んでいる業種もあります。
・保険代理店
・銀行
この2つの業種は大喜びです。
まずは、保険代理店。
もし、法人税減税が決まっていたら、
保険代理店が売っていた保険商品を使った節税ができなくなるところでした。
保険商品に限りませんが、業者が推奨する節税策とは、
節税商品の手数料を払っても、支払う税金よりも少ないことで成り立っています。
そこで、保険代理店の中には、
節税の設計書で、所得が800万円以下の中小企業を相手に約40%の税率を適用して
節税になることを売り込むところも少なくありませんでした(それ以外にも、騙しは隠されています)。
ところが、その税率そのものが下がってしまう。これで、手数料を払ってまで節税保険商品を買う意味がなくなります。
一部の商品を除くと、保険商品による節税策はシャットアウトされるところでした(意図的ではありませんが・・)。
また、現在、行っている節税保険の対策も必要になり、
解約も増えるところでしたが、それが回避されることになりました。
もう一つは喜んでいるのは銀行。
今回の税率下げで、
銀行がたくさん積んでいる繰延税金資産の取り崩しの必要が生じるはずでした。
元々、繰延税金資産は、銀行の救済のために前倒しで導入された経緯がありました。
それが、法人税率の下げで、繰延税金資産の取り崩しの必要になるということで、
業界では大騒ぎになっていました。
なぜならば、
繰延税金資産とは、税務会計と企業会計の差によって、前払いされている税金を
前払い資産として計上するものですから、
その前払い税金とされるものが、税率の下げ分だけ資産から取り崩さなくてはならなくなるからです。
そして、これにより最終赤字に陥るとされた銀行もあったのです。
こうした話は、単なる数字の遊びみたいな所があります。
繰延税金資産を崩そうが崩さなかろうが、経営の実質は変わりません。
しかし、その表面の見た目が変わると言うことで問題になっていました。
この2つの業界は、
今回の税率下げ中止で、かなりほっとしていることと思います。
増税色一色の中で、
こんな景色もあるのです。

法人税率が変わる端境期だからこそ、当たり前すぎる節税対策を

もう、今さらすぎる話ではありますが、4月から法人税率が5%下がります。
(法案が通過すれば、との前提はつきますが)
新しい税率は、平成23年4月1日以後開始の事業年度から適用となりますので、この3月に決算をむかえる法人から、随時、旧税率での決算が終了していきます。
端境期となる、この決算における節税対策のポイントは、なんとも当たり前ですが、“所得を減らす(収入を先送り、費用を早期計上)”ということに尽きます。
ご存知の方も多いかと思いますが、世の中にある節税対策のほとんどは、納税の先送りにすぎません。
(例:生命保険を活用した節税・・・保険料を払うことで節税となるが、解約したときに解約返戻金が収入となり、その時に課税される。)
しかしながら、今回のタイミングにおける節税対策は、単純な納税の先送りとはなりません。なぜならば、“税率差5%分の旨味”を得ることができるからです。
それを踏まえ、今まで当たり前すぎてお伝えしてこなかったような節税対策を、いくつかご紹介しますので、実行できそうなものは“税率の高い”当期において実行してください。


■短期前払費用 例えば、法人が1年分の家賃を前払いしたとします。
費用とは、当期に対応するものだけが費用として認められるため、翌期以降の期間に対応する部分は、実際に払ったからといっても当期の費用とはなりません。
ただし税務上は『短期前払費用』として、“支払った日から1年以内にサービスを受けるもの”については、支払った事業年度での費用処理を認めています。
つまり、翌期1年分の費用を先取りすることで、節税が図れるのです。
この制度を活用する際の留意点は次の通りとなります。
継続的に、毎月均等なサービスを受けるものであること
(※賃貸契約や保険契約が適しており、月によってサービスにバラつきがある顧問契約等は認められません。)
当期末までに実際に支払っていること
契約に沿った払いであること
(※例えば、月払い契約の家賃を、1年分支払ったとしても適用されません。年払い契約に切り替える必要があります。)
今後、この処理を継続していくこと
■〆後給料の未払計上
前項でもあったように、費用とは、当期に対応するものだけが費用として認められます。
裏返せば、実際に支払っていなくても、当期に対応する費用は、未払計上をすることで当期の費用になる、ということです。
当然のことながら、一般的な経費については誰しもが未払費用に計上することで、当期に費用処理しているはずです。
しかし意外と漏れているのが、〆後給料の未払計上です。
例えば15日締め25日支給の給料であれば、“16日~31日分の給料を日割り計算”し、『〆後給料』として未払計上することが可能です。
半月分の給料となると、金額としても結構なものになり、節税効果も大いに期待できます。
この制度を活用する際の留意点は次の通りとなります。
役員は会社との委任契約のため、役員報酬については日割り計算による未払計上不可。
■決算賞与
賞与は基本的には支払った期の費用となりますが、一定の要件を満たすことで、未払いであっても当期の費用とすることができます。
ES(従業員満足)と節税が同時に図れるため、法人にとって大きな効果があります。
この制度を活用する際の留意点は次の通りとなります。
決算日までに賞与支給額を、従業員別に、かつ、すべての従業員に通知していること
(日付入りの通知書に、従業員からハンコをもらう等して、証明書類を備えることが望ましい)
当期の決算で未払計上していること
決算日後1月以内に、通知をした従業員全員に支払っていること


上記の節税対策は、冒頭でも述べましたが、当たり前すぎる節税対策です。
それでも、現場レベルでの感想として、新規にお付き合いをさせていただくお客様を見渡したときに、このような対策のすべてを当たり前のように実行されているお客様は少ない、という実感があるため、紹介させていただきました。
また、
“単純に経費の前倒しになるだけ、長い目でみれば納税額は変わらない”
ということでこれらの対策を実行されてこなかった方々も、前述した“税率差5%分の旨味”があるため、今回の決算対策における効果は、今までとは異なります。
3月の決算日を迎えるまで残りわずかですが、検討をお願いします。