感情はいらない

昨日、テレビを見ていると変なことを言っている人がいました。
「銀行はけしからん。機械を入れて、私たち預金者に振り込みの作業などをさせておきながら、何もしないで手数料を取っている。人件費がかかっていないのだから無料にすべきだ」
こんな内容だったと思います。
テレビでこうした感情論を言う人は別に経営者ではありません。ですからどうでも良いことですが、こうしたズレた意見は世の中にたくさんあります。
特に、数字に関するものに単なる感情だけのズレた意見を言う人を多く見かけます。
ちなみに、この発言者のどこがズレているかと言うと。
機械の導入コストを無視して、単に人件費がかからなくなるという部分だけにフォーカスしているところに無理があります。
確かに、預金者本人がATMやインターネットで振り込み作業をすることで、パンチャーとチェック者の人件費は浮きますが、そのために行った先行投資を無視した話は幼稚な意見でしかありません。
むしろ、低レベルの仕事を機械化することで、銀行の業務は高レベルなものにシフトし、今まで以上に手数料を取る方向に向かっていると考えるべきでしょう(投資信託の販売手数料を稼ぐレベルは当然低レベルですが・・)。
同じ番組で、こんな意見も出ていました。
「法人税が30%なのはおかしすぎる。私たちは定率減税がなくなったのに、どうして法人税だけ優遇するのか!」
こういう意見を言う人には、「もう少し税金の全体像を把握してから責任のある発言をしなさい!」と言ってあげたいところですが、目先で見えるレベルでこうした発言をするのは問題が多いと思います。
なお、この発言のどこがおかしいかは、法人税率を30%と言っていることを含めあまりにも指摘部分が多すぎるので控えますが、その指摘部分のひとつについては、以前、書かせていただいたことがありますので、そちら参照いただけたらと思います。
テレビの発言者は、所詮、感情でものを言っているだけですからいいとして、経営者が同様に表面的なとらえ方をするのは大変まずいことです。
ところが、数字を重視しない経営者には、こうした発言がよく見られます。
先般も、事務所の移転が必要になった経営者が、どこに引っ越すかで議論になりました。
家賃は高いけれど新しく広い事務所。
家賃は安いけれど古い事務所。広さも中途半端。
経営者は、家賃を重視して、家賃の安い事務所の選択をしかけていました。
この経営者の気持ちはよくわかります。
家賃は固定費ですから、なるべく安くしたい。当然のことです。
しかし、この経営者が家賃を「家賃」としか捉えていないのには驚きました。
そして、私は言いました。
「今回の上昇分の家賃は、広告宣伝費と人件費ですよ」
仮に、毎月の家賃の上昇分が広告宣伝費と考えたら?
仮に、毎月の家賃の上昇分が人件費の上昇分と考えたら?
こうして、上昇分の家賃の分析がはじまりました。
少しいろいろな計算が必要でしたが、結論ははっきり出てきました。
毎月の家賃の上昇分は、広告宣伝の媒体費+人件費として有効である。むしろ、見込める売上アップを考えると安すぎるくらいである・・・・・。
こういう結論になりました。
話をカンタンにしていますから、「どうして人件費?」という疑問をもたれるかもしれませんが、ここで言いたいことは、支払うお金の意味を表面的にとらえていると戦略的な支出ができなくなりじり貧になるということです。
表面的なことからだけで数字を考えない。感情論は禁物です。
そして、経営が面白いのは、こうした数字の遊びの部分にもあると思います。