カツラを買うなら今でしょ!

お客様「先生、カツラって経費になるんですか!?」
笹 川「えっ!なんですか唐突に?」
お客様「昨日、記者会見でアノ人が言ってましたよ。」
元プロ野球選手でタレントの板東英二さんが、国税局の調査を受け、脱税疑惑をかけられたことについての謝罪会見において述べたことが、皮肉まじりに、ちょっとした話題になっていました。
それが『カツラは経費だけど、植毛は経費にはならない!?』というものです。
この瞬間、税の世界に新たな都市伝説が誕生しました(笑)
ちなみに、今までに誕生した税金の都市伝説にはこんなものがあります。
・会議費は3000円までなら経費になる!
・ポルシェはいいけど、フェラーリはダメ!
・4ドアはいいけど、2ドアはダメ!
・スーツは経費にはならない!
・赤字の会社に税務調査は来ない!
・生前贈与を受けたら申告して税金を少し払ったほうがいい! など
坂東さんは、記者会見において「カツラは必要経費で落ちると聞いていたので、当然、植毛も(経費で)落ちると思っておりました。」と説明。それに対し、国税から「植毛は美容整形と同じだ(から経費にはならない)と言われました。」と言われたとか。
このまま続けていると、下世話な話になってしまいますので、ここで話を戻します。
この話をワイドショーネタで終わらせないで、これを機会に『経費の判断基準』について真剣に議論してみたいと思います。
まず、今回の税務調査が個人 坂東英二さんを対象とした『所得税』なのか、プロダクションを対象とした『法人税』なのかによっても議論はかわってきます。
というのも、個人には『必要経費』という概念があり、法人には『損金』という概念があります。
必要経費とは、『収入を得るために直接必要な売上原価や販売費、一般管理費その他の費用』のことを言いますが、たとえば、業務について生じた支出であっても、それが客観的に見てその事業の業務と直接関係があり、かつ業務遂行上『通常必要な支出』であることが必要となります。
一方で、損金とは、改正前の規定では『特別なもののほか資産減少の原因となる一切の事実をいう。』と決められていたことから、基本的には法人の経済活動によって発生する、費用や損失のすべてを損金と認め、特別なものについて、除外するようにしています。
つまり、法人の『損金』に対して個人の『必要経費』は範囲が狭いのです。
その視点から、今回のカツラについて考えてみます。
必要経費(個人)としての視点から見た場合、カツラが観的に見てその事業の業務と直接関係があり、かつ業務遂行上、通常必要な支出であったでしょうか?
一見すると個人的支出のようにも思えるカツラの費用ですが、タレントや芸能人など「顔」で商売している人については話は別の場合があります。
ところで、坂東英二さんは「顔」で商売していたのでしょうか?ここは意見が分かれるところです。(笑)
仮に、坂東英二さんではなく、綾小路きみまろさんであったならどうでしょうか?
坂東英二さんにとって、カツラは業務遂行上、通常必要な支出ではないとする可能性がありますが、綾小路きみまろさんにとってカツラは大切な“ステージ小道具”の一部です。
それでは、営業マンやコンサルタント等、見た目が重要な職業の人もカツラが経費になる余地があるでしょうか?
全くに予知がないとは言いませんが、国税から否認される可能性は大でしょう。
次に、プロダクション(法人)としての視点からみた場合、法人の現預金は減少していますので、このカツラは損金であると言えます。
しかし、その支出は、法人の業務遂行上、通常必要な支出ではなく、坂東英二さんが個人的に負担すべき支出を法人が負担していることから、『役員に対して経済的利益の供与』をしたものとして、給与として課税の対象にする必要があります。
そして、カツラの購入費用は臨時的なものであることから、通常、『役員賞与』として損金不算入という結果になるでしょう。
坂東さんは、会見で『カツラは経費になると聞いていた。』と話していましたが、それは画一的な取り扱いではなく、そこにはいつでも『個別性』があるということを覚えておく必要があります。
さらに、今回問題となった『植毛』は全く経費(損金)となる余地がないのでしょうか?
タレントや俳優、歌手の中には、その美貌やルックスを『商品』としている人がいらっしゃいます。
その方々が薄毛になってきたとき、その人気(売上)を維持するために、所属のプロダクションの主導によって『植毛』を行ったとしたときでも、これは経費とはならないのでしょうか?
カツラでは、激しい動きをしたときに落ちてしまう可能性があるため、やむなく植毛を選択した。
いかがでしょう?それなりにもっともらしい理由になりませんか?
つまり、税金の世界はすべて個別の事案ごとに『事実認定』が不可欠となるのです。
今回の騒動の原因について坂東さんは、「一番大きな原因は私が税について無知であった。」と謝罪していましたが、世の中には便利な言葉もあったものだと思います。
この記者会見から数日後、ホームページ上の植毛会社の広告には「経費ではなく実費でお支払いください。」と書いてありました。(苦笑)
さて、カツラを経費にするなら今でしょうか?