法人税引き下げの意味するところ…

法人実効税率の引き下げの議論が加速してまいりました。
これは、中小企業にとっても喜ばしいことであるのは間違いありません。
ただし、単純に税率の引き下げで終わるという話ではないので注意が必要です。
ご存じのとおり、税制の変更は税収にも大きな影響を与えるため、“どこかで上げるなら、どこかで下げる”、“どこかで下げるなら、どこかで上げる”という構造にあります。
例えば、消費税の話を単純化すると、消費税率の引き上げは税収不足から決定されたものですが、「消費税率の引き上げにより経済が落ち込めば他の税収が下がるため意味がない」という反論がありました。
これは理屈としては一理ありますが、その場合でも税収が足りない以上“どこかで”上げなければならないのは間違いありません。
そもそも怪しかった将来の高速道路の無償化の話も、笹子トンネル崩落事故をきっかけにほぼ絶望的となっています。
これも税金が関係する話であり、税金とは直接関係なさそうなものであっても、過去の清算のために将来も税金が投入されるケースは、今後も噴き出してくることでしょう。
そうであるならば、法人実効税率の引き下げは、何かの犠牲の上に成り立つと考えるのが常識的な判断です。
現時点では、法人課税の中で“犠牲”が検討されているものとして、いわゆる法人税の『特典』として取り扱われている、30万円未満の少額減価償却資産の即時償却・試験研究費税制・雇用促進税制・所得拡大促進税制などのお得な税制の廃止や縮小があります。
これらはもともと時限的な措置なのですが、経済状況に応じて、年々拡大している傾向にあり、それらをこの際止めてしまおうという趣旨です。
つまり、法人実効税率の引き下げは、表面的には歓迎されるべきものであったとしても、実際には納税額が増える企業もあるということです。
さらに、法人実効税率の引き下げについては、下記のような二つ考え方の議論があります。
(1)法人実効税率の引き下げは、日本企業の競争力向上と海外からの
投資を呼び込むことにつながり、長期的にはむしろ税収が増える
可能性があるため、短期的な税収不足は気にすべきではない。
(2)法人実効税率の引き下げは、税収不足を招くため、法人課税の中で、
あるいは他の税目での補てんも踏まえて代替財源を確保すべきである。
(1)については、税制というよりも経済政策に近いと、皆さまはお考えではないでしょうか。安倍首相が好みそうな積極策といえるかもしれません。
これに対して、(2)については、“下げた分を他でまかなう”という保守的な考え方です。当然と言えば当然なのですが、「法人税を下げたのだから、所得税は上げるよ」という、どちらが得なのか分からなくなるという側面も有します。
皆さまは、どちらの考え方に賛成でしょうか?
それでは次に、これを会社経営の考え方に当てはめてみます。
(A)商品の値下げは、ライバル企業との競争力向上と新規受注を
呼び込むことにつながり、長期的にはむしろ売上高が増える
可能性があるため、値下げによる短期的な売上高減少は気に
すべきではない。
(B)商品の値下げは、利益減少を招くため、収益構造の中で、
あるいは原価構造見直しや固定費削減での補てんも踏まえて
利益を確保すべきである。
いかがでしょう?
中には、法人実効税率の引き下げの考え方と、会社経営の考え方で、逆の判断をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
法人実効税率の引き下げも、値下げも、一概にダメだという訳ではありません。必要に応じて実行すればよいだけです。
ただし、『日本企業の競争力向上と海外からの投資を呼び込む』、『ライバル企業との競争力向上と新規受注を呼び込む』ことにより税収や売上高が増加したとしても、あくまで“上乗せ”部分として考えるべきであり、国や会社の運営上は代替財源や利益の補てんが大原則です。
従って、これらの考え方は相反するものではなく、一体性を有するということになります。
税制の変更は、会社経営に大きな影響を与える以上、予測される税制の変更に応じて先手を打つのが王道です。
法人実効税率の引き下げ積極論者が主張することが当てはまるのであれば、競争が激化するということであり、勝者と敗者がより明確になるということにつながるのですから…。