税理士、あるいは担当者の見極め方 ~ある視点~

自社の税理士を見極める基準につき、何よりも優先されるべきはコミュニケーションが円滑に取れるかどうかという点であることは、皆さまもお気付きのことと思います。
ただし、これは、あくまでも税理士を自社の又は経営者のパートナーとして考える場合に限られてきます。
「税理士にそこまで求めていない。申告を正確にやってもらえれば十分」
という場合には、実務能力を重視すべきであり、無理に税理士とのコミュニケーションの円滑さを求める必要はありません。
ここで、税理士であれば実務能力に差は生じないだろうとお考えの方がいたら、それは大きな間違いです。それこそ、例えればレベル1から10まで差がありますし、税理士という有資格者よりも、無資格者の担当者の方が実務能力が高いことも一般的にあり得ます。
コミュニケーションが円滑に取れるか否かは、皆さま自身がすぐにお気づきのことでしょう。しかし、実務能力については、よほどひどい仕事をする税理士を除き、“何か”問題が起こるまでは気付かないことの方が多いと言えます。
この、“何か”として一番頻度の高いのは税務調査ですが、税理士も税務調査がきっかけで解約にまで発展するケースが多いという事実を知っています。従って、近年は税理士自身が“税務調査対策”に力を入れるという変わった現象も起きています。
このように“何か”が起きない限り、皆さまには税理士の実務能力を見極めることが困難であるというのが現実でしょう(これを簡単にお伝えすることもできないのでご容赦を…)。
私は、税理士を替えたいとご連絡をいただいた際など、決算書や確定申告書のみならず、帳簿書類一式を確認させていただくこともありますが、顧問税理士が正確な書類を作成している場合は、その旨をお客様にお伝えするようにしております。
「書類を確認させていただくと、今の税理士様は、誠実なお仕事をされていると考えられます。どこにご不満がございますか?」
と来れば、当然ながら、パートナーとして物足りないというお話が出てきます。
もちろん、パートナーとしての資質(あえて能力とは言いません)、かつ、実務能力の両方を兼ね備えているのが理想ですが、現実的にそのような税理士は滅多におりません。
また、仮にパートナーとしての資質を兼ね備えていたとしても、相性の問題もあります。どんなに優秀な税理士でも、あらゆるタイプの経営者と“馬が合う”などあり得ません。
この点、一人で仕事をしている税理士は別として、ある程度のスタッフがいる税理士事務所では、お客様の担当を誰にするかを検討する際、その難易度や規模を基準に決めるのが一般的です。相性という視点で担当を決められることは数少ないと言えます。
当然ですが、難易度が高く、規模が大きいお客様には、ベテラン・中堅スタッフを中心に担当者を据え、難易度が低く、規模が小さいお客様には、そこそこのスタッフ又は新人スタッフを担当に据えることが多くなります。
これは、どんなに優秀な担当者でも、担当できるお客様の数に限度があるため、税理士事務所の経営を考えると、致し方ない面もある…とここでは言っておきます。
しかし、お客様からすると、この基準こそが「新人スタッフなんかを担当につけて、ふざけるな!」と言いたくなる元凶となっております。
とはいえ、優秀と言われる担当者と全てのお客様の相性が良いかどうかは別問題です。いきなり、新人のスタッフが、手強い経営者に気に入られることなども実際にありますので。
さらに、こうなってきたときによく起こるのが、優秀な(あるいは相性が合う)担当者が独立又は移籍する際に、お客様もその担当者に付いていってしまうことです。
これは事務所側からすると、非常に頭が痛い問題であり、税理士業界の永遠の課題と言っても過言ではありません。
お客様からすると、今まで問題がなかった担当者が辞めて、能力的に疑わしい担当者が付いてしまうくらいなら、辞める担当者に付いて行ってしまおうというのは当然のことです。
このような場合、お客様を奪っていった担当者が責められがちですが、本質的には事務所側の管理運営の問題です。
ただし、辞める担当者に付いて行く企業側には注意しなければならない点があります。
まず、担当者が独立した場合ですが、この税理士が勤め人であるときと、自ら事務所を構えたときでは“言うこと”、“対応方法”が変わる場合も見受けられるということです。
例えば、勤め人であったときにはそれほどうるさいことを言わなかったにもかかわらず、独立してからは、やたら専門用語を使うようになったり、慎重姿勢を取るようになったりするケースが増えるということです。
ある意味これは当然で、勤め人であったときは自ら最終責任を負う立場ではなかったため、積極的な提案が可能であったが、自分が最終責任を負う立場になると、無意識にリスク回避傾向が生じてくるため、以前よりも消極的な提案が増えるケースが見受けられます。
「そのようなことはない!」
と、独立したての税理士に怒られそうですが、あくまで私の経験則に基づいたお話です。そもそも、独立したら専門用語が増えるのは、自己防衛の現れですから、企業側はその税理士の対応の変化に注意しておく必要があります。
また、税理士事務所の移籍に伴って、その担当者に付いて行く場合は、さらに注意が必要です。そもそも税理士事務所ごとにやり方も異なりますし、報酬基準もバラバラです。最初は今までどおりが認められていても、徐々に移籍先の事務所方針に従うよう求められるケースがあります。
もちろん、せっかく馬が合う担当に付いて行ったのに、担当自体が変更することもありますので、注意が必要です。
このような問題は、税理士事務所側が、担当者に任せきりではなく、事務所全体でお客様をフォローする体制を採り、お客様に安心感を与えることが必要なのは言うまでもありません。
そして、企業側も担当者だけではなく、所長税理士又は幹部クラスともコミュニケーションを取り、「今の担当者が辞めたとしても、よろしくお願いしますよ」程度は牽制しておくというのも方法の一つです。
最後になりますが、近年は税理士も相見積もりが当然となってきましたので、コストを基準に税理士を選ぶ企業も増えてきました。
当然、コストで選ぶのは悪くありません。税理士だけが例外ではないのですから。ただし、
良い専門家に頼むには、相応のコストを覚悟しなければならないというのは、税理士に限らず、何事に対しても共通です。
以上、今までにもお伝えしてきたものもありますが、少し角度を変えて、税理士の見極め方をお伝えしてきました。
普段は頼りない税理士も、“何か”があったときには、最優先で自社の味方になってくれるのであれば、それは頼りがいがある税理士と言ってもよいでしょう。
自分を守らず、お客様を守ってくれる税理士…。
このような税理士に出会えたら、皆さまも一安心ですね。