書面添付のキキメ

【3.3423%】。

100件に対して、3件ちょっと。
平成26事務年度の東京国税局管内での法人税の申告書提出数に対して、実地の税務調査が行われた割合です。

【0.0426%】。

10,000件に対して、僅か4件ちょっと。
こちらは同じく平成26事務年度の東京国税局管内での法人税の申告書提出数のうち、【書面添付】を実施した企業に対して、実地の税務調査が行われた割合です。

これは税理士会と東京国税局との定例協議会において東京国税局が発表した数字です。
税理士が書面添付をして提出した申告書に税務調査があったのは、申告書全体の0.0426%という極めて低い数字に改めて驚きました。

このメルマガでも何度かご紹介させていただいていますが【書面添付制度】とは、税理士による申告書の、言わば「品質保証書」です。「この項目について、この資料を、この程度確認していますので、この申告書に間違いはありませんよ。」という内容の書類を申告書に添付し、太鼓判を押して税務署に提出するものです。

何度かお伝えしているように、この「書面添付制度」には大きなメリットがあります。
書面添付を実施している会社への税務調査は、事前に顧問税理士に対して「意見聴取」を行ってからでなければできません。
ちなみに東京国税局の平成26年事務年度における意見聴取件数は約1,500件で、書面添付した申告書の3.2%ほどです。

そして、この事前の意見聴取で税務署が納得すれば実地の税務調査は行われません。もちろん意見聴取をしてもなお、実地調査を行わせて欲しいということもありますが、書面添付を実施することにより、実地での税務調査が省略される可能性が生じます。

東京国税局の平成26年事務年度において意見聴取の結果、実地調査が省略となった件数は意見聴取1,500件のうち1089件、調査省略割合は74.6%です。書面添付の結果、意見徴収の対象となったとしても、実地調査が省略される可能性が高いことがわかります。

しかし、納税者にメリットがあると同時に税理士にはリスクも生じます。書面添付をし、確認したはずの範囲に虚偽記載があれば税理士は懲戒処分の対象となります。
つまり税理士は、自身の資格を懸けて書面添付を行っているのです。
その為、書面添付をしたがらない税理士が多いのが実情です。それはそうです、自身の資格が懸かっているのですから、そう簡単にはできません。

書面添付を積極的に行わない税理士がほとんであることは、東京国税局において平成26年事務年度の法人税の書面添付割合6%いう数字が物語っています。

とはいえ税務調査に入られる確率がこれだけ下がるのであれば、顧問税理士に書面添付してもらいたいと考えるのが普通でしょう。

私は「書面添付」を行う大前提として、納税者が自社で記帳を行っていることや、月次決算をきちんと行っていること等、会計帳簿に信頼性があることが必須であると考えています。
そのうえで、当たり前ですが法律に沿った税務処理を施します。
少なくとも弊社では、これらがきちんと出来ていないお客様への書面添付はさせていただいておりません。

また、私は帳簿だけでなく、私たちと経営者様との間にきちんとした信頼関係が築けていることも、書面添付をさせていただくうえで、とても重要だと考えています。

このように、他にもいくつかある弊社の基準を満たしている顧問先様の申告書に関しては、私たちは基本的に書面添付をさせていただいています。なぜならば、やはりお客様が享受できるメリットが大きいと考えているからです。

税務調査は3年に1回来るのが当たり前。来たら、いくばくかの追徴課税が発生するのが当たり前だと誤解している経営者が少なくありません。きちんとした申告をしていれば税務調査は減らせます。税務調査を減らす第一歩は、もしかしたら“税理士選び”なのかもしれません。

 

信用保証制度の改正がやって来る…

「ゾンビ企業は市場から撤退しろ!」

このようなことが検討されていることをご存知でしょうか?

それは、信用保証制度の改正です。

中小企業にはお馴染の信用保証制度は、金融機関から融資を受ける際、国が返済を保証する制度です。現在は原則として80%が国によって保証されています(2007年までは100%保証されていました)。

仮に中小企業が返済できなくなった場合、金融機関は20%だけ泣けばよく、残りの80%は国が肩代わりしてくれます。これにより、金融機関は融資を実行しやすくなり、結果として中小企業は融資を受けやすくなっております。

ところが、この制度につき保証率を50%~80%に引き下げることが検討されています。現時点では2017年度以降とのこと。

意図は、中小企業に一律同じ保証率を適用するのではなく、創業間もない企業には高い保証率を、創業から一定期間を経過した企業には低い保証率という様に、メリハリをつけることのようです。

信用保証を受ける際、中小企業は信用保証料を支払い、信用保証協会はこの信用保証料を原資に返済できなくなった中小企業に代わって金融機関に弁済します。しかし、現状では信用保証料ではまかないきれないくらいの弁済額があるのです。

このまま現状を放置すれば、国の財政負担が膨らむということになります。

そのため、国は保証率を引き下げるとともに、金融機関の負担リスクを引き上げ、より厳密な審査により融資するよう金融機関に求めます。また、同時に保証制度の対象事業の絞り込みにも着手するようです。

この信用保証制度の改正によりどのようなことが起こるかは、皆さまもご想像ができるはず…。

金融機関からプロパーのみで融資を受けられる中小企業というのは財務状態が良い会社であり、信用保証制度に頼らざるを得ない中小企業の方がずっと多いのは間違いありません。

結果として、プロパーのみで融資を受けられない中小企業は融資枠が少なくなりますし、融資を受けられても借入の際の利率が引き上げられていくことになります。

金融機関の負担も増えれば、中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)により返済を猶予し続けてもらっている企業も、大目に見てもらえなくなります。おそらく、2016年度中には再建の目途を付けなければなりません。

つまりは、借入について精算を迫られ、再建できない限り…

「ゾンビ企業は市場から撤退しろ!」

ということにつながります。

深い意味では、ゾンビ企業への国の支援を少なくし、成長企業に手厚く支援するという意図も隠されていることでしょう。それは近年の税制改正の流れでも明確です。

国がゾンビ企業を市場から撤退させたいのは間違いありません。限りある税金、労働力をどこに使うべきか?答えは明白です。そして、実際に撤退に追い込むことも簡単です。

しかし、現実問題として、市場からの撤退に追い込みきれない最後の砦となっているのが「雇用」です。ゾンビ企業も従業員を雇用しているからです。

もし、ゾンビ企業の従業員が他の健全な企業に円滑に雇用されるのであれば、国はゾンビ企業を簡単に潰しにかかります。

そういう意味では、国が大企業に賃上げを求め、人材難でもある大企業グループが雇用を積極的に増やしている現状を考えると、人材の流動化の環境が整いつつあるようにも思われます。

もちろん、いくら何でも簡単に中小企業を潰せないだろうという意見も根強いですが、外堀が徐々に埋まっている以上、このような流れを無視するわけには行きません。

2016年…。金融機関対策を含め、資金をかき集めるために重要な1年になるのは間違いありません。現状で資金繰りが大変な中小企業のみならず、安定している中小企業も中長期的な視点の下に資金計画をご検討ください。

金融機関との付き合い方も、少し深くせざるを得ないかもしれませんね。

 

“マイナンバーで脱税者を一網打尽”はホントか?<活用編>

三回にわたってマイナンバーによって変わる税金の話をさせていただきましたが、今回が最終回です。

前回までは、いろいろと細かな話をさせていただきました。
自分で言うのも何ですが、専門家が重箱の隅をつついて、面白おかしく話をしたに過ぎません。

私も仕事柄マイナンバーの講演依頼をいただきますが、「何も変わりませんよ」と言ってしまったら依頼者のご迷惑になりますので、話はしますがその程度のものです。

新しい制度がはじまるのですから、今までと何も変わらないということはありません。
ですが、日の当たる場所で普通に仕事をしている中小企業に対して、私は「何も変わることはありません!」と言わせていただきます。

こういった機会を後ろ向きにばかりとらえていても、何もプラスになることはありません。

そこで最終回として、マイナンバーの活用法をご紹介させていただきます。

マイナンバー(個人番号)制度が大きく取り上げられたために陰に隠れてしまいましたが、すべての株式会社などの法人や団体に対しても、新たに企業版マイナンバーとでも呼ぶべき『法人番号』が決められました。

この法人番号の特徴は、

  1. 利用範囲に制限がない
  2. 専用サイトで全面公開される

というものです。

つまり、はじめから民間で利用してもらうことを前提に用意されたものだということです。

具体的な利用方法をひとつご紹介いたします。

それは『法人番号公表サイトを利用した新規設立法人の把握』です。

現状、民間企業では、新規営業先の開拓や会員勧誘先の把握に当たり、インターネットや登記所の商業登記、信用調査会社などの様々な情報源から『有料』で情報を入手しており、人件費や手数料などの手間・コストがかかっています。

今後は、株式会社など新たに設立されると、法務省から国税庁に登記情報が連絡され、それによって法人番号を指定し情報が公開されることから、新たに法人番号を指定された法人は、新規設立会社として把握することが可能になります。

ただし、マイナンバー開始時に既に存在している法人の法人番号については、平成27年10月に一斉に通知・公表されていますので、新規設立会社の把握に法人番号が活用できるのは、平成27年11月以降に新たに設立された法人からとなります。

それでは具体的は方法をご紹介いたします。

まず、専用サイトで公表されている情報は『基本3情報』と呼ばれる次の3項目です。

▼[国税庁]法人番号公表サイト
http://www.houjin-bangou.nta.go.jp/

  1. 法人番号
  2. 商号又は名称
  3. 本店又は主たる事務所の所在地

ファックスやメールアドレスまでは記載されていませんが会社名と住所が分かれば、DMの発送が可能です。

検索条件の設定で『変更年月日』を平成27年11月以降の日付で絞り込むことで新規設立会社だけの抽出を行うことが可能となります。

(図 公表サイト詳細検索)

ただし、変更項目の中には新設だけでなく、住所や商号の変更・合併等も含まれてきますので、さらに絞り込んだ抽出を行うために『基本3情報ダウンロード』を利用します。

データはCSV形式等でのダウンロードが可能となっており、サイト上では絞り切れない情報を抽出することができます。

ダウンロードできるデータには『全件データ(各都道府県別)』と『差分データ(全国)』の二種類があります。

差分データは文字通り日々更新された全国のデータを一覧にしたものです。

(図 差分データ)

一ヶ月分の差分データをもとに毎月月末に都道府県別の全件データファイルを作成し、毎月1日の午前0時までに公開されることとなっています。

データの形式は、『CSV形式・Shift-JIS』、『CSV形式・Unicode』、『XML形式・Unicode』の三種類がありますが、エクセルで簡単に編集できる『CSV形式・Shift-JIS』を使ってください。

ダウンロードしたファイルを開くと無造作にデータが羅列されているため、どこに何が書いてあるのかがさっぱりわからない状態となっています。

そこでまず最上部に行を一行挿入し、それぞれ該当する列に次のとおり項目名を入力してください。

(図 リソース定義)

項目の入力が終了したら次にエクセルの『フィルタ』を設定します。

 

(図 フィルタ設定)

フィルタの準備ができましたら項目の絞り込みを行っていきます。

先ほど項目名の設定でご覧いただいた図をもう一度ご覧ください。

黄色くなっている項目が絞り込みを行う項目です。

  1. 処理区分は『1』のみチェックを入れてください
  2. 訂正区分は『0』のみチェックを入れてください
  3. 変更年月日は平成27年11月以降で抽出したい該当月にチェックを入れてください
  4. 法人種別は『301』が株式会社、『305』が合同会社となっています

以上の作業によって新規設立会社の絞り込みを行うことが可能となります。

私が実際に作業をしたデータを検証したところ、かなりの精度で新規設立会社が抽出されていることを確認することができました。

しかし、データの中には法務局に設立登記のない法人など、一斉に法人番号をふることができなかったと思われるものが、法人で後から法人番号が付番されたものが、散見していました。

そのようなデータは今後少なくなっていくものと思われます。

マイナンバー制度『法人番号』は、まだはじまったばかりの制度で、ほとんどの企業がこの法人番号をどのように活用していのか見当もついていない状況です。

今回ご紹介した以外にも、法人番号公表サイトでは法人番号の活用法が紹介されています。

この新制度をうまく活用し、ビジネスチャンスにつなげてください。

 

内部留保を促す日本の税制

昨年末、平成28年の税制改正大綱が発表されましたが、

「特に何もありません!」

と言いたくなるほど、お伝えすることがありません。

大きな目玉が法人実効税率「20%台」の実現だったということもあり、そして、消費税の軽減税率の議論が長引いたため、他の部分は細部の改正に止まりました。細部なので無関係の方が多すぎて、お伝えは控えさせていただきます。

法人の税制については税率を下げていく方向にあるため、特例的な制度は順次縮小又は廃止を行い、比較的シンプルなものになっていくことでしょう。また、赤字企業については税金が上がる方向にありますが、通常の中小企業については現時点では関係がないため、特に気にしていただく必要はないかと考えます。

ただ、法人実効税率の引き下げについては、利益が出ている企業にとってのみ恩恵があるため、国としても支援するのは「納税している企業だよ」ということを明確にしております。

法人の内部留保は、原則として納税によって積み上げられるため、利益に対する納税後の内部留保の割合が増えるということは、中小企業においても更に勝ち組・負け組(懐かしい表現ですが…)が明確になるでしょう。

個人については、支援するのは「低所得者」、富裕層は「もっと税金を払いなさい、その代わり、ふるさと納税で得させてあげるから(?)」という流れなので、法人と個人では真逆の税制が敷かれています。

税制ではありませんが、ひと頃の金融モラトリアム法(中小企業金融円滑化法)により、資金繰りに苦しんでいる中小企業を重視していた頃とは時代は変わったものです。とはいっても、平成21年とまだまだ最近の事なのですが…。

そして、国としては「その増えた内部留保を人件費や設備投資に使いなさい」ということを強く要望しています。そうでなければ法人実効税率を下げる意味がないと。

それでは、大企業は安倍政権に対するお礼とばかりに、人件費や設備投資に内部留保を振り向けるのでしょうか?

結論としては、そう簡単に行くものではないでしょう。報道を見聞きする限り、海外のM&Aや研究開発に資金が回っているのはご存じのとおり。当然、人件費は多少引き上げるでしょうが、パフォーマンス以上のレベルが実現するとは思えません。

これに対し、中小企業はどうでしょう。確かに、当社のお客様を見ていても、より多くの利益を出されるようになってきています。しかし、稼いだお金を人件費や設備投資に使えるかというと、決してそのような状況ではありません。

なぜならば、中小企業は“人がいない”、“人が採れない”、“既存社員の給与を意味なく上げることはない”、“人がいなければ設備投資もできない”、“採用のことばかり考えていると既存社員が辞めていく”と、人の問題については、無い無いづくし…。

お金は貯まり始めているのに、使いたくても使えないというのが、現状の中小企業の悩みではないでしょうか。こういう意味では、大企業とは問題が異なりますが、今は良いけど将来が心配ということになります。

大企業に正社員を増やせ、待遇を良くしろと国が言えば言うほど、中小企業に人材は回ってきません。従業員にしたって大企業、又はそのグループ会社で働けるのであれば、あえて中小企業で働く必要はないはず。

そうなってくると、中小企業も大企業を見習えとばかりにM&Aという選択肢も視野に入れる必要があるかもしれません。M&Aという表現をするので仰々しくなりますが、現実的には会社や事業を買うというよりも、人材を確保するという方が正しい表現かもしれません。

もちろん、M&Aにより会社を買ったからと言って、既存の問題が解決する訳でもなく、新しい会社が新たな問題を持ち込む可能性もあります。

ただし幻想と言えども、皆さまには右腕となり得る幹部、又は幹部候補が欲しいというニーズが強くあるはず。

皆さまの会社にも、少なくとも一人はそのような方がいるように、どの会社にもそのような方がいらっしゃいます。M&Aによって人材を確保することは、幹部候補も手に入れるということにもつながる可能性があります。

今は中小企業にとっても空前のM&Aブームであり、中堅企業や中小企業が、中小企業を買い漁っています。しかも、中小企業のM&Aによる買収価格は売却企業の現状を反映しているため、変なプレミアムは含まれておりません。概ね適正という価格です。そういう意味では、将来的な価値を見込んだアメリカのベンチャー企業の買収のような夢のある話とは異なります。

現在の税制では個人での内部留保が難しい以上、法人での内部留保に頼らざるを得ず、必要以上に法人で内部留保を行うと、自社株評価額の高騰につながります。そうであるならば、ムダに内部留保するくらいなら、M&Aによる投資もアリということです。

皆さま、内部留保の重要性を口にされますが、内部留保は税制的に爆弾にもなり得ますので、内部留保の使い道ということもそろそろ考える時期です。貯めるのは得意でも、運用するのが苦手という方も多いので。

そして、「買っている企業は買っている…」、これだけは皆さまも頭に入れておいてください。
内部留保が爆弾にならないうちに…。