内部留保を促す日本の税制

昨年末、平成28年の税制改正大綱が発表されましたが、

「特に何もありません!」

と言いたくなるほど、お伝えすることがありません。

大きな目玉が法人実効税率「20%台」の実現だったということもあり、そして、消費税の軽減税率の議論が長引いたため、他の部分は細部の改正に止まりました。細部なので無関係の方が多すぎて、お伝えは控えさせていただきます。

法人の税制については税率を下げていく方向にあるため、特例的な制度は順次縮小又は廃止を行い、比較的シンプルなものになっていくことでしょう。また、赤字企業については税金が上がる方向にありますが、通常の中小企業については現時点では関係がないため、特に気にしていただく必要はないかと考えます。

ただ、法人実効税率の引き下げについては、利益が出ている企業にとってのみ恩恵があるため、国としても支援するのは「納税している企業だよ」ということを明確にしております。

法人の内部留保は、原則として納税によって積み上げられるため、利益に対する納税後の内部留保の割合が増えるということは、中小企業においても更に勝ち組・負け組(懐かしい表現ですが…)が明確になるでしょう。

個人については、支援するのは「低所得者」、富裕層は「もっと税金を払いなさい、その代わり、ふるさと納税で得させてあげるから(?)」という流れなので、法人と個人では真逆の税制が敷かれています。

税制ではありませんが、ひと頃の金融モラトリアム法(中小企業金融円滑化法)により、資金繰りに苦しんでいる中小企業を重視していた頃とは時代は変わったものです。とはいっても、平成21年とまだまだ最近の事なのですが…。

そして、国としては「その増えた内部留保を人件費や設備投資に使いなさい」ということを強く要望しています。そうでなければ法人実効税率を下げる意味がないと。

それでは、大企業は安倍政権に対するお礼とばかりに、人件費や設備投資に内部留保を振り向けるのでしょうか?

結論としては、そう簡単に行くものではないでしょう。報道を見聞きする限り、海外のM&Aや研究開発に資金が回っているのはご存じのとおり。当然、人件費は多少引き上げるでしょうが、パフォーマンス以上のレベルが実現するとは思えません。

これに対し、中小企業はどうでしょう。確かに、当社のお客様を見ていても、より多くの利益を出されるようになってきています。しかし、稼いだお金を人件費や設備投資に使えるかというと、決してそのような状況ではありません。

なぜならば、中小企業は“人がいない”、“人が採れない”、“既存社員の給与を意味なく上げることはない”、“人がいなければ設備投資もできない”、“採用のことばかり考えていると既存社員が辞めていく”と、人の問題については、無い無いづくし…。

お金は貯まり始めているのに、使いたくても使えないというのが、現状の中小企業の悩みではないでしょうか。こういう意味では、大企業とは問題が異なりますが、今は良いけど将来が心配ということになります。

大企業に正社員を増やせ、待遇を良くしろと国が言えば言うほど、中小企業に人材は回ってきません。従業員にしたって大企業、又はそのグループ会社で働けるのであれば、あえて中小企業で働く必要はないはず。

そうなってくると、中小企業も大企業を見習えとばかりにM&Aという選択肢も視野に入れる必要があるかもしれません。M&Aという表現をするので仰々しくなりますが、現実的には会社や事業を買うというよりも、人材を確保するという方が正しい表現かもしれません。

もちろん、M&Aにより会社を買ったからと言って、既存の問題が解決する訳でもなく、新しい会社が新たな問題を持ち込む可能性もあります。

ただし幻想と言えども、皆さまには右腕となり得る幹部、又は幹部候補が欲しいというニーズが強くあるはず。

皆さまの会社にも、少なくとも一人はそのような方がいるように、どの会社にもそのような方がいらっしゃいます。M&Aによって人材を確保することは、幹部候補も手に入れるということにもつながる可能性があります。

今は中小企業にとっても空前のM&Aブームであり、中堅企業や中小企業が、中小企業を買い漁っています。しかも、中小企業のM&Aによる買収価格は売却企業の現状を反映しているため、変なプレミアムは含まれておりません。概ね適正という価格です。そういう意味では、将来的な価値を見込んだアメリカのベンチャー企業の買収のような夢のある話とは異なります。

現在の税制では個人での内部留保が難しい以上、法人での内部留保に頼らざるを得ず、必要以上に法人で内部留保を行うと、自社株評価額の高騰につながります。そうであるならば、ムダに内部留保するくらいなら、M&Aによる投資もアリということです。

皆さま、内部留保の重要性を口にされますが、内部留保は税制的に爆弾にもなり得ますので、内部留保の使い道ということもそろそろ考える時期です。貯めるのは得意でも、運用するのが苦手という方も多いので。

そして、「買っている企業は買っている…」、これだけは皆さまも頭に入れておいてください。
内部留保が爆弾にならないうちに…。